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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
聖王国編

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その199

~ハルが異世界召喚されてから11日目の夜~


 暖かな光が照らす芸術作品の美しさが際立つ昼間とは違い、真夜中の宮殿は闇が映し出す恐怖を滲ませる。ルナとエリンがあてがわれた部屋には外側から鍵がかけられている筈だったが、魔法のように扉がひらいた。


「本当だった……」


 昼間、チェルザーレの妹ルクレツィアの提案により2人はこの宮殿から脱出しようとしている。


「あのガキんちょやるっすね!」


 エリンが笑顔を向ける。


◆ ◆ ◆ ◆


「良い?」


 ルクレツィアは窓から見える塔の一番上の窓を指差しながら言った。


「今日の夜中あそこにある部屋の灯りが消えたら、貴方達はこの扉から外へ出るの」


「でも鍵が……」


「開けておくわ」


 ルクレツィアのあまりの自信にルナが困惑気味に訊いた。


「どうして私達を逃がしてくれるのですか?」


「勘違いしないで。条件があるに決まってるじゃない」


 2人はどんな要求がこの小さな少女の口から発せられるのだろうと固唾をのむ。


「ある男の子を探してほしいの……」


 ルクレツィアはようやく年相応の態度をとり始める。


「初めは彼を……レッドを利用して外部に情報を渡してもらおうと考えたの……だけどレッドと接触していくにつれて……だんだん」


「好きになっちゃんたんすか?」


 エリンが先回りして言った。


「ち、違う!じ、情がわいたのよ!!情報を外へやるのは危険なことだから!!悩んでいたのだけど……お兄様が密談をしていた時……とんでもないことを聞いてしまったの。それについて詳しく記した手紙をあるところに隠したわ……レッドしかその場所がわからないようにしてる」


 ルクレツィアが真剣な表情で言う。そこでルナが疑問に思ったことを口にした。


「そもそもどうして情報を外部に流そうと?」


「…お兄様を守りたいの……今とても危ない橋を渡っているから……世界を救うとか、そんなの私はどうでもいいの!ただお兄様と一緒に、普通に暮らしていたい!!」


 ルクレツィアの興奮を宥め、ルナはこれ以上聞かない方がいいと判断し、レッドという人物を探すことを了承した。


「探して、その後どうすればいいのですか?」


「保護して、貴方達の国に住まわして。私が書いた手紙には、貴方たちがほしい筈の聖王国と帝国の繋がりについても書いたから……まぁそれよりももっと危ないことが書いてある」


「危ないことってなんすか?」


 エリンが訊いた。


「こんなとこで言えるわけないじゃない!命狙われるわよ。あんた、ばかぁ?」


「ルクレツィア様は狙われていないのですか?」


「お兄様はその情報を私が知らないと思っている筈よ……それに私が外部に情報を漏らしていることに勘づいたのか、お兄様は私を屋敷に監禁していた時期があるの。ロドリーゴ枢機卿が暗殺されてからは監禁場所がこの宮殿内になったけど」


 ルナはルクレツィアの心情を察した。そして躊躇いがちに訊いた。


「……もし、私達がそのレッド君を探さないで逃げおおせたら?」


「貴方はまだそんなことしない」


 ルナはルクレツィアの言い方に多少違和感を覚えたが、それ以上追求しなかった。



◆ ◆ ◆ ◆


 ルクレツィアの言うとおりに宮殿内を音をたてないようにして走る2人。


 もう少しで宮殿の外に出れる。宮殿の外には壁が設けてある。それを越えられるよう、足場が造られていた。


「これをのぼれば……だけど……エリンさん?」


 壁を見上げてからエリンを見やるルナ。エリンは下を向いて考え事をしている。


「…ごめん……ルナっち。あーし、レオナルド様を……助けにいかなきゃ……だから」


「私も同じことを考えていたわ」


 ルナの口から予想していなかった言葉が発せられ、エリンは困惑したあとに喜びの笑顔を向け、そして覚悟を決めた。


「レオナルド様は、地下牢にいる筈……」


 再び宮殿内へと戻る2人の影を見るシーモア。いつもは無表情を貫く彼は少しだけ微笑んでいたように見えた。


 レオナルドのいる地下牢へ続く階段には見張りがいた。エリンは部屋から持ち出した焼き菓子を大きな放物線を描くようにして投げた。


────────────


 地下牢の見張りの兵ゴウガンはいつもの警備に飽き飽きしている。ここへ来る訪問者は限られ、脱走する囚人など今まで一度も見たことがないからだ。


 それよりも夜の宮殿、とりわけ人が描かれた絵画や人をかたどった彫刻の不気味さに毎回怯えていた。すべての作品に対してゴウガンは怯えていたわけではない。ミケランジェルという芸術家が描いた絵画と彫刻がゴウガンを恐怖させるのだ。彼の作品はとりわけ精巧に造られ、今にも動き出しそうだった。彼の有名な作品には、セリニがひざまずきながら指を組んで祈りを捧げ、空に浮かぶクレセント、三日月型になった衛星ヘレネの一筋の光がセリニを照らしている絵画『神託』や宙に浮かぶ神ディータが1人の人族に命を吹き込む『人族の創造』等が有名だ。


 その2つの作品は初めこそゴウガンを恐怖させたが、徐々に好奇心へと変化した。ゴウガンは美術品にさして興味をもたなかったがしかし、地下牢の当番の日に暇潰しに飾られている絵画を見ていると少しずつ興味を持った。特に『人族の創造』に描かれている1人の人族は筋骨隆々で一般的な人族としては些かたくましすぎた。これは興味というよりは違和感と言った方が正しいのかもしれない。


 何かに興味を持つと、いてもたってもいられなくなるゴウガンは図書館に行ってミケランジェルの画集や資料、『人族の創造』に関する書物を読みふけった。


 すると、レガリアという女性に行き着いた。彼女は神や世界に対して様々な研究をしている聖王国の学者だった。だった、という表現は彼女がもうこの世にいないことを示している。ゴウガンはレガリアを初めは美術評論家だと思っていた。それだけ事細かにミケランジェルのことが記されているからだ。ゴウガンの抱いた『人族の創造』に関する疑問をレガリアはこう、考察していた。描かれている人族の男はランスロットのパーティーメンバーであり彼を最後に裏切る戦士モーントだと結論づけていた。


 何故、ミケランジェルは神ディータとモーントを描いたのか、レガリアはそのことについては言葉を濁していたが、ゴウガンは彼女の意見を支持している。


 そんなことを考えていると、ゴウガンは此方に向かって何かが飛んでくる気配を感じた。それは高い宮殿の天井から落ちてきた。床と激突し砕け散ったそれの正体は焼き菓子だ。


「どうして天井から?」


 ゴウガンは天井を見上げたが腹に瞬間的な衝撃が加わり、気絶する。


「よし!レオナルド様を助けるっすよ!」


「はい!」


 2人は地下牢に続く階段を下りた。


 薄暗く、狭い通路が拡がっている。


 気配を感じたエリンはルナを庇うように前に立つ。


 薄暗い通路の奥からいつもの無表情を張り付けたシーモアが現れた。エリンは隠れもせずにシーモアの前に立つ。


「ごめんね……ルナっち」


 エリンが謝る。そして立ちはだかるシーモアに告げた。


「そこをどけなんて言わない……おし通る!!」

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