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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
聖王国編

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その194

 ルナの後ろ姿を見送ったチェルザーレは先程まで座っていた椅子に再び腰掛けた。この部屋に潜んでいた者に質問を投げ掛ける。


「何か不満でも?」


 部屋にある本棚の裏からマキャベリーが現れた。


「いえいえ、何もありませんよ。それにしても素晴らしいお話でしたね」


「やはり不満があるのではないか?お前達を悪人にしたてたのだぞ?」


「必要なことをしたまでと……」


 扉を叩く音がまたしても聞こえる。ポドリックに命じて、訪問者の確認をさせた。


「あ、あの……ご老公が……」


「通せ」


「は、はい……」


 ポドリックは扉まで早歩きで向かった。その様子を見ていたマキャベリーは問う。


「何故あのような者を?」


「ポドリックか?」


「ええ……」


「奴は前教皇がいた時からここに勤めていた。ただ私が来る以前まで、奴は厠の掃除や家畜達の世話をしていた。そしてあの性格だ。嘲笑の的とされ、随分心を磨り減らしていたのでね」


「なるほど、確かに彼の周りには今の彼の境遇は勿論この国の情勢をよしとしない者達の情報がたくさん転がってそうですね」


「あぁ、更にポドリックはここのことをよく知っている、また邪な考えを持ちにくい者だ。適任であろう?」


 2人の会話の切れ目を狙ってか1人の老人が杖をつきながらやって来た。その杖には赤黒い木で出来ており、取っ手の部分には深い海の色をした宝石が埋め込まれていた。チェルザーレがその老人に話しかける。


「双子はどうした?」


「はい……2人とも存命です…しばし休息をとらせ、また新たな仕事を与えるつもりです」


「フフフ……優しい男だな、ブラッドベルは」


 暗殺者は捕らえて情報を吐かせるのが最適解だ。子供であれば尚更殺したくないと考えるだろう。それがストレスを与えることもある。


 マキャベリーはチェルザーレの一言に解説を加えるようにして述べた。


「ブラッドベルの目にはゲーガン司祭が護衛対象の女性に性的暴行を加え、尚且つ子供を殺しの道具に使った外道に見えたようですね」


「あぁ……もともと死んで当然の外道に違いないがな……それよりも例の新聞記者はどうした?」


「個人的な怨恨に見せかけ殺しました」


「わかった……メルの遺体は?」


「火葬を施しました」


「そうか……」


 チェルザーレはいつもの自信に満ちた顔を残念そうな表情に変えた。


「例の逸材でしたね…私も残念に思います」


 マキャベリーが弔いの言葉を据える。


「メルは素晴らしい才能の持ち主だった。音も無く対象を殺害していた……あのナイフ捌きは見事なものだった。そして何より自分の内に秘めた無意識の優しさを持っていた」


「えぇ……とても優しい子じゃった」


 訪問者の老人も悲しげに言った。


「その大きな優しさを手放した時、絶大な力が解放されると読んでいたのだがな……大きな優しさを持つとこれもまた無意識に自ら死を選んでしまうようだ」 


 それを聞いたマキャベリーは質問する。


「過去のエッグの中にも自殺した者はいるのですか?」


「いや……初めてだ。脱走した者はいるが……あぁ、確かその者は今帝国の監獄にいるのではないか?」


 マキャベリーがチェルザーレの問いに答えた。


「はい。同じ檻の囚人を殺してしまったので、今は特別な牢屋にいれております」


 再び老人がチェルザーレに報告する。


「フルートベールからやってきた商人とその護衛に十名ほどの冒険者と名乗る者達が聖王国へ入国してきたようですが……」


「下手だな……おそらくブラッドベル救出の特別部隊だ。捕らえろ。明日の処刑に合わせて聖都に連行するのも面白い」


「それと、仰られたフルートベールからやってきた少年3人について、先程ここ聖都に到着したようです」


「そうか……その者達は……」



──────────


「あれがシスティーナ宮殿か!」


「その前に見えるのがサンピエルト広場……父上が処刑される場所」


 レナードとレイは今にも宮殿に乗り込もうとするがハルが止める。


「まずは!腰を据える場所を確保しなきゃ!」


「そんな時間はない」

「そういうこった」

 

 レイとレナードが反論する。


「待ってよ!君らのお父さんが宮殿の何処にいるかわかってんの?」


「そりゃあ地下牢だろ?」


「適当じゃん!もし見付かったら君らのお父さんは即刻斬首ってこともあり得るよ?それにルナさんも捕まってる。下手に動くと危ない」


 レイが斬首と聞いて冷たい空気をまとい、引き結んだ口をゆっくりひらいた。


「じゃあどうしろと?」


「僕に考えがある。だからとりあえずは宿屋を探そう」


「宿屋?それは尚更無理な相談だ!」


 レナードが珍しくことをせく。


「どうして?」


「金がない!」


「いや!君達貴族でしょ?」


 ハルの問い掛けにレイが答える。


「急いで家を出たから持っていない」

「そういうことだ!ガッハッハッ」


 はぁと溜め息をつくハル。


「じゃあ僕がだすから……レイ、君も案外抜けてるね。マリアが苦労しそうだ」


「なっ!」

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