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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
聖王国編

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その180

~ハルが異世界召喚されてから9日目~


 ユリは今、教会の清掃と雑務をしている。今まで薄暗い地下室での生活とは違い、明るく荘厳な建築物を磨きあげ、孤児院での食事の下準備をしていた。自然と笑みがこぼれる。それはこれからハルが会いに来るというのもあるが、何より誰かの為に働くことが嬉しかった。


 昨日、ハルに連れられ教会と孤児院での仕事を貰えないかルナに頼んだのだ。ハルは教会の人手が足りないことを知っていたかのような振る舞いだった。


 ルナもシスターグレイシスもウィリアム司祭も孤児院の子供達も皆ユリを優しく迎え入れてくれた。そんな人達の為にユリは一生懸命働いた。


 ユリは仕事が一段落つき、額にうっすらかいた汗を拭うと窓の外を見た。日が傾きかけ自分がいかに仕事に集中していたのかを悟る。


 丁度そのとき、教会の扉が開く音を耳にした。


 ユリは来訪者を柱の後ろから隠れるように覗き見た。もし教会関係者が来たのならまだ応対の仕方がわからない。その来訪者を待たせ、シスターグレイシスを呼ぼうと考えたが、その心配は杞憂に終わる。


「ハルくん!」


「やぁ、ユリ!仕事はどう?やってけそう?」


「うん!皆優しいし、私ここ好き!」


 ハルは安堵の表情をうかべる。


「今日の仕事はまだ残ってる?」


「あとは夕食の準備だけ」


「まだ時間あるね?じゃあ少し話そうよ」


 ユリは元気な返事をした。2人が食堂へ向かおうとすると、教会の扉がまたも開いた。2人は同時に後ろを振り向くと、学校を終えたルナが立っていた。


 3人はテーブルについた。ルナがお茶を淹れようと席をたつが、ユリがそれを制し台所に向かった。


「初日なのにもうどこに何があるか覚えてるんですか?」

 

 ハルがルナに尋ねる。


「そうみたい」


 ユリが3人分のお茶を淹れて席についた。


「凄いね?ここの仕事を始めて1年たったぐらいの仕事ぶりだよ」


「そんな……」


 照れるユリに今度はルナが誉める。


「本当に覚えが早いのね」


「僕なんか1週間でようやく箒の場所を覚えたぐらいだよ?」


 ハルが自虐的な言葉を残したのでユリが疑問を口にした。


「ハルくんもここで働いたことあるの?」


 ヤバい、という表情をするハル。


 ──この世界線では働いてないんだ!


「が、学校の掃除用具の話だよ!」


 なんとかその場を濁した。


「あー!」

「ハルだ!!」


 孤児院の子供達、グラスとマキノが3人の輪に入ってきた。


「二人とも久しぶりだね。会いたかったよ」


「ハルは俺の子分だからな!いつでも会いに来ていいんだぜ!!」


 グラスが腕を組みながら偉そうに言った。


「フィルビーは元気~?」


 マキノが同じ絵本仲間のフィルビーについて訊いてきた。


「元気だよ!今はお兄さんと一緒に暮らしてるんだ」


「そっか、獣人国も色々あったからフィルビーちゃんも大変だったね」


 ルナが呟いた。後6日後には帝国との戦争があるためルナはあまり元気がない。


ギィィィ


 食堂の建て付けの悪い扉の開く音が聞こえた。シスターグレイシスが扉を半分開いてルナに合図を送っている。ルナは席を立った。


「ごめん。ちょっと行ってくるね」


 ハルは扉の奥にいるシスターグレイシスに視線を送ると、彼女はどこか落ち着かない面持ちだった。


 ──なんだか嫌な予感がする。


 窓の外から何やら騒がしい声が聞こえた。ハルはその声に誘われるように席を立つ。不安そうな顔をしているユリとグラスとマキノがハルの後をついて来る。


 ハルは教会から出ると、夕焼けの強烈な光に襲われた。その激しい光と伴に激しい声が加わる。いつも快活な王都の人々はとある新聞に目を奪われている。


「号外!号外!」


 新聞配達の少年がハル達の前を横切った。ハルはその少年を呼び止め、彼が配っている記事を受け取った。


 その記事には大きく、こう記させていた。


『聖王国、ロドリーゴ枢機卿が暗殺され死亡』



 ──え!?…………誰だっけ?

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