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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
聖王国編

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その173

~ハルが異世界召喚されてから6日目~


「おー!これは実に聡明なお嬢さんですね」


 グレアム・ロックがハル達の輪に入ってきた。


「えっと...あなたは?」


「バカ!この遺跡を管理、保護してる方だ!」


 スタンが急いで指摘する。


「いえいえ、急に話し掛けてしまった私が悪いのですよ。紹介が遅れましたね。私はここの管理者のグレアム・ロックと申します」


「私はリコス・シーカーです。この度はここでレベル上げをさせて頂いております」


「おぉ素晴らしい。貴方のようなお嬢さんがいれば王国も安泰ですなぁ。それよりも先程のお話...」


 グレアムの表情が一瞬暗くなった。この老人は多くのことを知っていると同時に危うさを内包しているのが今のハルなら理解できた。


「何かを祀る大切な場所の割には障害となる魔物のレベルが低すぎると思いまして...」


 リコスが言葉を選びながら言った。


「成る程...あなたも気付きましたか。実は最近の研究でここは何かを祀ると同時に幽閉を目的に建てられた塔だと考えられているのです」


「幽閉?」

「幽閉...」


「幽閉ってどういう意味ですかー!」


 アレックスがなんの恥じらいもなく聞く。スタンは少し頭を抱えていたように見えた。


「監禁するってことだ!」


 スタンはアレックスにそう伝える。


「ちょっと待ってください!祀られている者って妖精族の誰かってことですか?」


「はい、現在ではそのように考えられております」


「それは知らなかった…」


 リコスが感心しながら頷く。


「何のために?しかも閉じ込めるって...」


「妖精族にまつわる文献にこう記されています。妖精族は涙を流すことにより傷を癒したと」


「涙?」


「そうです。その妖精の涙には、全てを癒す効果をもたらすと言われているのです」


「それって強すぎじゃない?」


 アレックスが人族と妖精族の圧倒的な差を指摘する。


「はい、第一次妖魔戦争の際にこの効果が発揮され魔族の領土を広範囲に奪ったそうです。」


「やっぱりズルい!」


「しかし、魔族の涙にも同じような特殊能力があるのです。それが魔族の涙はあらゆるものに死を与えると言われています。」


「妖精族と真逆じゃん」


「お前そろそろタメ口やめろ」


 スタンがアレックスに注意する。

 

「構いませんよ先生」


「それでそれで!?」


 リコスが先を促す。


「次の第二次妖魔戦争は、その涙のお陰で魔族は盛り返しました」


 それが何故か、ユリの涙には魔族の涙と同じ効果をもたらしている。もしかすると魔族の涙は全ての傷を癒す効果になっているのでは、とハルは予想している。


 以前、ハルはこの場でグレアムにけしかけたことがある。


◆ ◆ ◆ ◆


「そういえば、この塔でこういうのを見つけたんですけど」


 ハルはランスロットの置き手紙をグレアムに差し出した。


 グレアムは張り付いた笑顔を向けながらハルからそれを受けとる。すると、みるみる内に顔面が凍りつく。


「こ、これをどこで……」


「あの塔の3階層にありました」


 グレアムはフルフル震えながら言った。


「あ、ありえない……」


 グレアムの様子を見たスタンは痺れを切らしてハルが渡したものをグレアムから受け取った。


【英雄よ!よくここまで来れたな?しかし、ここの宝はもう私達のパーティーが殆ど頂いてしまった!ガハハハ!どう?今の気持ちどう?……とまぁ折角来れたんだし流石に何にもないんじゃ可哀想だからお土産を置いておくよ…でもタダじゃ面白くないから…コイツ…倒してみなよ?そんな難易度高いわけじゃないからさ?頑張って?君ならできる ランスロットより】


「ハル、お前とアレックスが消えたことと関係してるのか?」


 スタンがハルに訊いたが、グレアムがその質問に反応した。


「消えた……?まさか扉を開いたのか!?だったらどうやって!?そこに何があった!!?」


 鬼気迫る面持ちでハルに言い寄るグレアム。


「いや……デュラハンぐらいしかいなかったですよ!」


 ハルは鑑定Ⅱのことは言わないでおいたが直ぐにミスをしたことに気づかされた。


「デュラハンって……お前、伝説上の化け物だぞ?倒したのか!?」


 ──あっ……


 ミスに気付いたがもう遅かった。


「あの首のない魔物ならハルが一瞬で倒しちゃったよ!」


 アレックスが無邪気にハルの活躍を口にする。時が止まった。スタンは戸惑いながらハルに問い質す。


「お前……本当にレベル13か?」


 グレアムはこの塔のことを知り尽くしている。レッサーデーモンがいるのならばデュラハンがいてもおかしくない。ランスロットの手紙もおそらく本物だ。


「それより!!デュラハンを倒してそこに何があった!?」


 ハルは両肩をグレアムにぐいと掴まれて前後に振られる。

 

◆ ◆ ◆ ◆


 グレアムのあの感じからすると、あの塔の転移した先に奴の目的がある。ユリを捕らえているのもその一貫なのだろう。しかし、ハルにはわからないことがあった。


(どうして僕が転移したのだろうか……異世界人だから?)


 そしてグレアムのあの表情。ハルは同じ轍を踏まないように影を薄めた。ハルは黙ってグレアムとAクラスの生徒達が話しているのを聞いている。


「でもさ...神様も意地悪だよね...涙を止めるんじゃなくて戦争を止めてくれれば良かったのに」


 アレックスが呟くと周囲が静まる。


「バカ野郎!そんなこと言うんじゃない!」

 

 スタンが慌てて止めにはいる。


「だって...」


「いえいえ、良いのですよ。」


 グレアムは穏やかな声でスタンを宥めた。


「し!しかし!」


「少し長く話してしまいましたね。皆さんどうかお気を付けて」


 グレアムは去っていった。姿が見えなくなったのを確認してからスタンは注意をする。


「アレックス、気を付けろよ。ロック様は司祭様でもあるんだからな」


「気を付けます...…」


 アレックスが珍しくシュンとしている。


──────────


 ビーチバレーをしているAクラスの生徒達を尻目にハルはユリが気を失っている所にやって来た。


 白いボロボロのワンピースは長い銀髪がよく映える。ハルはユリの顔にはりついた銀髪を整え、風属性魔法で服と身体を乾かした。


 横抱きにしてビーチバレーをしているAクラスの生徒達のところまで運んだ。

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