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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
現代編

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その159 目に見えない力

 もともと紅かったのではないかと疑うほど血に染まった白衣をめして、倒れているこの部屋の住人。それと生前は余程腕っぷしが強かったであろう体格の良い男が倒れている。


 部屋に電気は点っていない。代わりにパソコンのスクリーンが怪しげにその部屋を彩っていた。


「こりゃあ痴情のもつれか?」


「部屋の中でサングラスするか普通?」


「外国人ならするんじゃねぇの?」


 気だるそうに現場検証をする刑事達。しかし彼等の目は、この事件が只の事件でないことを確信している。


「FNX45なんて持ってっか普通?」


 さっきから語尾に普通という言葉を連呼している刑事は、サングラスをしている男性の遺体の側にしゃがみこんで呟いた。勿論、現場を荒らさないようにそっとだ。


「痴情のもつれでもなければ、物取りの犯行でもない……」


 もう一人の刑事は室内を見渡して言った。室内が荒らされていないが部屋には争った跡がある。


「それに見てみろよ」


 しゃがみこんだ刑事に向かって言った。廊下と遺体のある部屋を隔てている扉付近を見るよう顎で促す。


「弾痕だ。それもかなりの数ある。そのうちの1つがどういうわけか向こうの窓ガラスを突き破った」


「もう一人いたか……」


「そう…ソイツはどっかに逃走中だ」


 二人の刑事はその場で少し考え込んだ。そして──


「菊池さん!エレベーターの防犯カメラに妙な人物が…動画をそちらに転送します」


 二人の刑事は持っているスマートフォンでその動画を確認した。


「子供……女子高生?」

「それも血まみれの……」


 動画に釘付けになっている二人に忍び寄る男。二人の刑事は顔をあげ、やって来た男の顔を見た。その男は身分証を掲示しながら口を開く


「内務省公安9課の戸草です。あとは我々が現場を引き継ぎます」


「「はぁ?」」


 二人は声を揃えた。


「引き継ぐも何も、この女子高生取っ捕まえて話聞けば終わりですよ?」


「あぁ。それも我々がやる」


 二人の刑事はお互い顔を見合せ、再び公安9課を名乗る男を見た。目付きと頬がこけている、顔付きから察するに相当な修羅場を潜り抜けた者が出す圧力を纏っていた。2人の刑事は同時に結論を導き出した。


「へいへい、わかりましたよ」


 現場を荒らさないよう自分達が通った足跡の上を歩いて、外へ出た。


──────────


 ユミコはパトカーから降りて、高層マンションの最上階に案内された。エレベーターの扉が開くと人相の悪い二人の刑事とすれ違った。


 ユミコは玄関まで案内されると戸草という担当刑事が挨拶してきた。


 キミコの遺体と対面するユミコ。


「…キミコ……」


「内藤キミコさんで間違いないでしょうか?」


「はぃ……」


 戸草は間をあけて、毅然とした声でユミコに尋ねる。


「心中お察し致しますが、少し質問しても宜しいでしょうか?」


「……」


 ユミコは涙を拭いながら頷いた。


「キミコさんが息を引き取る直前まで通話をなさっていたそうで……」


「はい……」


「どのような会話を最後になさったのかお訊きしても?」


 ユミコは拭いきった筈の涙がまたも込み上げてきた。


「私に……謝罪と……そして謝意を……っう」


「それだけですか?」


 ユミコはスマートフォン越しから聞こえる声を思い出した。


『ナツキなら心配しないで……』

『あの子……今とても頑張っているから……』


「……それだけです」


 ユミコは何故だかナツキのことを隠した。戸草の表情が少し陰るのがわかった。


「……外の空気を吸わせて貰っても良いですか?」


「構いません……おい!誰か下まで一緒に──」


「あ、あの……一人になりたいので」


 戸草はやむなくユミコを一人で下まで向かわせた。


 一人になったユミコはスマートフォンをタップした。



────────────



 遠ざかるミライの背中はもう見えない。今頃彼女はあの施設で戦っているのだろう。懸命に足を動かしても前へ進まない。まるでいつも見る悪夢のようだ。


 ──ダメだったよ……叔母さん……


 ミライが唱えた魔法のせいもあるが体力も魔力も限界だ。ナツキは足を止めた。涙が頬を伝う。


 動悸と息切れ、不甲斐なさがナツキを襲う。


ピコン

『ユミコさんからメッセージを受信しました。読み上げます』


 ──こんなタイミングで……


 ナツキはスマートフォンの電源を落とす気力すらなかった。どうせ、また怒鳴られるだけ。


 ──もうどうでもいい……


 母の声が聞こえる。思ったよりも優しげな声だった。AIによる文章認証による感情表現にすぎないが、ナツキはなんだか懐かしさを思い出した。


『ナツキ。この前は叩いたりしてごめんなさい。……貴方の言う通り。ナツキがお母さんの思うように行動してくれなくてイライラしていたんだと思う。でもね?ナツキのことが心配なのは本当なの。でも、どうしていいかわからなくて……ナツキが今何に悩んでいるのか、何をしているのか、お母さんにはわからないわ。だけど貴方ならきっとどんなことでも乗り越えることができると思うの。ナツキの決めた道ならどんなことでも応援する。だって貴方は私とキミコの娘なんだから。だからナツキ──』


 母ユミコの優しげな顔がちらついた。


『だからナツキ、頑張って』


 ナツキは止めていた足を再び動かした。


 ミライの言っていたこと。目に見えない魔力をナツキは今まさに感じている。ナツキはミライがかけた魔法、スロウを解いた。


 ナツキは全速力で走った。体力と魔力が沸き上がる。涙は頬ではなく、目尻からこめかみにかけて流れた。風圧により雫となった涙は煌めき、アスファルトへ置き去りにする。


 電灯、車のブレーキランプ、夜の街を彩る光は涙によりにじみ、綺麗にカットを施された宝石のように輝いて見えた。ナツキの前を走る者は誰もいない。


ピコン

限界を突破しました。


───────


 物凄いスピードで走り抜けるコスプレをした女子高生を数奇な目で眺める街の人々は嘲笑した。


「なにあれ?アイドル?」

「今日ハロウィンじゃねぇぞ!?」

「アハハハハ!うけるー」


 ナツキを笑う人々を尻目にナツキと同じ学校に通ってる南野ハルはそんな彼女を見て笑みを浮かべた。そして手を、走っているナツキに向けてかざす。それに呼応するかのようにナツキの持っているステッキが僅かに光りだした。

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