表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
奴隷編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/395

その128 自己否定の代償

~ハルが異世界召喚されてから2年170日目~


 追いかける。ホブゴブリンの背中を。


 このホブゴブリンは人間の女性を痛め付け、自分に危機が降りかかると部下であるゴブリンを犠牲にして逃げていった。ハルはそんなホブゴブリンを痛め付けるようにして殺した。


 今度は、地下の研究室で逃げていく老人の背中が見える。


『そこまでして生きたいのか?誰かを犠牲にしてまで……』


 自分の声が聞こえた。そしてハルはファイアーボールを放ち老人を始末した。


 そして、また今度は追いかける。屋敷内でハルに敵わないと思い、味方を犠牲にして逃げる男の背中を。


 ハルはその男の背を一突きにして心臓を鷲掴みにし、握り潰した。


 そしてまた、逃げていく者の背中を追いかけた。


 今度の奴は中々すばしっこい。その者は自分が助かりたいが為に仲間を犠牲にして逃げていく。


 ようやく追い付いた。


『死ね!糞野郎!』


 ハルはその者を殺した。もうハルから逃げていく背中は見当たらない。


 ふと最後に殺した者を見やると、それはハル自身だった。



「ガハァ!!…はぁ…はぁ……」


 久し振りにこの夢を見た。


 ハルの激しい息づかいで起きるフェルディナン。


「ん~?どうしたぁ?怖い夢でも見たか?」


 ハルは両手で自分の肩を抱きながら怯えていた。


 その様子を見たフェルディナンは自分が軽はずみに訊いたことを後悔した。


「ぉ…おい……大丈夫か?サムエル様に言って医者に見て貰った方が……」


 ハルはフェルディナンの提案を手で制した。もう片方の手は胸に当てている。


 フェルディナンはハルの様子を窺いながら仕度を済ませた。二人は畑へと向かった。


「なぁ~ハルはどうして奴隷になったんだ?」


 フェルディナンが何の気なしに話し掛ける。


 ハルは無言だ。


 しかしフェルディナンはもう慣れっこだ。


 構わず続ける。


「俺の場合は何回も話したよな?冒険者達に騙されちまったんだ!アイツら次あったらぶっ飛ばしてやる!」


 フェルディナンは自分の拳を掌に打ち付けてパチンと鳴らした。


 畑が見えるとそこに自警団のモヒカン男が立っている。


 目が合うフェルディナン。


「あっ!お疲れ様です!!」


「お、おう。その、昨日は悪かったな…ぶっ叩いてよ……」


「全然気にしてないんで大丈夫ですよ!」 


 フェルディナンの要求が通り、畑付近にいたハウンド・ベアを討伐してもらえたのだ。また、ハルが無傷ということもあり、モヒカン男は処罰されたがそこまで重いものではなかった。


 その処罰がこれだ。ハルとフェルディナンの畑を警備すること。自警団団長のラハブはなかなか粋なことをする。


「お、おう…お前は大丈夫なのか?」


 モヒカン男はハルに話しかけた。


 ハルは頷いた。


「なんかあったら言えよ?」


 フェルディナンは礼を言って、モヒカン男は訓練へと向かった。


「すげぇ変わりようだな?」


 フェルディナンの言葉に同意するハル。


「てかお前あんなにぶっ叩かれたのになんで無傷なんだよ?」


 ハルは下を向いて黙った。首を縦にも横にもふらない。


「まぁ、あん時は俺も助かったわ!あんがとな!」


 ハルは頷いた。


 2人は仕事に取りかかった。


 フェルディナンとハルをよく思っていない年上先輩奴隷達も自警団に嫌な思いをさせられていたようだったが、ハル達の一件で自警団達は奴隷に関わらないようになったようだ。


 そのおかげで先輩奴隷達のフェルディナンとハルに対する態度も変わったようだ。


 畑仕事に勤しむ2人。今日も精がでる。


─────────────────────


 ねぇ?


 みんなはない?こんな経験……


 だって、小さい時からテレビやインターネット、小説や映画や漫画で見てきただろ?


 悪者の姿ってやつを……


 そんで自分はいつしか正義の味方になるんだって思わなかった?


 或いは、何かしらのスーパースター、大金持ちになるんだって思わなかった?


 それが無理なら普通の仕事をして、普通の生活をする。普通の大学を卒業して、普通の会社に就職して、普通の給料を貰って、普通の結婚をして、普通に子供を育てて……


 そうなるって思わなかった?


 僕は思ったよ?


 でもさ、いざ自分に危機が降りかかると思ったことができないんだ。


 困っている人がいれば助けるのが当たり前だろ?身をきってでも……


 映画や小説や漫画の主人公達はいつだってそうしていたよね?


 でも、僕には出来なかったんだ……


 そんで、最悪なことをしてしまった。


 物語に出てくる悪役ってさ?最近は悪役にも色んな哲学を持っていて魅力的な奴もいるけど、そうじゃない本当にグズみたいな奴いるじゃん?


 え?例えば?


 そうだなぁ、味方を裏切るとか?……あとは…嘘をつくとか?……あと……


 誰かを犠牲にして自分だけが助かろうとする奴とか……


 そう…それは僕だ。


 こんな経験ない?


 コイツだけにはなりたくないって思っていた奴に自分がなってしまった経験……


 皆見てたでしょ?僕はクズみたいな奴等を躊躇なく殺していた。


 じゃあ僕も死ぬべきかな……


 でも死ぬ勇気がないんだ……


 そんなことを考えていたらいつの間にか奴隷になってた。


 情けないだろ?

 僕を見下すだろ?

 幻滅しただろ?


 皆僕みたいになりたくないって思ったでしょ?


 僕だって、こんな自分になりたくなかったよ!!


 初めて……悪者の気持ちがわかったんだ……


 僕は只、妄想していただけだった。夢を見ていただけなんだ…その夢からやっと覚めた……


 そこは地獄だった……


 四肢を裂かれた痛みは、もうとっくに消えた。


 でも精神的な痛みはいつまでも消えないんだ!


 よく聞くよね?この台詞?


 でも本当なんだ!


 初めて理解したよ……


 この消えない痛みは僕にずっとつきまとう……


 何度もさっきみたいな夢を見て、激痛を感じるんだ!


 寝るのも怖くなったよ……


 このままじゃ駄目だって思ったさ?


 いつまでもくよくよしてるんじゃなくてさ、気の持ちようだとか価値観を変えろとか簡単に言うじゃん?


 頑張って僕も立ち上がってみたさ!?


 そしたら過去の僕が何度も殺しにやってきた!!


 だって、正常になろうとすればするほど、過去の僕が今の僕を殺しに来るんだ!!


 だってそうだろ?過去の僕が許せないような行動をとったんだから、正常だった過去の僕でいようとすると今の僕を過去の僕が罰してくるんだ!!


 お前は最低なことをした悪党だって!お前は生きてちゃダメなんだって!


 そう思うのが正常な僕なんだから。


 やがて考えるのを辞めたよ。


 そうしていると楽なんだ……


 指をさして笑ってよ?

 

 誰か僕を罰してよ?


 誰か僕を…殺してよ……


 僕はどうしてこの世界にいるの?


 父さん……母さん……


 僕を……助けてよ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ん...ハル君は望んでこちらの世界にきたわけじゃないし、これといった何かをやりたいという目的があいまいだから心が折れちゃうのもしょうがないよね...。最初に助けてくれた女の子を救うため、みた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ