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その0


 毎朝同じ時間に起きる。


 同じ服を着て、学校に行って、帰ってくる。


 ネットで社会を冷めた目で傍観して、風呂に入って寝る。いつもと同じ景色、いつもと同じ人達、南野ハルはいつもと同じ毎日を生きていた。


 今日も学校帰り、スマホをいじりながら横断歩道を渡ると周りの様子に異変を感じた。


「あぶねぇぞ!!」


 慌てた怒鳴り声がどこからか聞こえてきた。


パァァァァ


 けたたましいクラクションの音が聞こえる。


 トラックが突っ込んできた。


 いや、ハルが横断歩道を注意もせずにわたっているのだからその表現は間違っている。しかし、


 ──横断歩道なのだから歩行者優先だろ?


 スローモーションのように周りが動いて見えている。それは思考がいつもの何倍かの速度で動いているからだ。


 ──あっ死んだ


 ハルはそう思い、少し伸びた前髪の間から覗かせている両目を瞑るとトラックが横切る音と風を感じた。


 ギリギリでハンドルをきったトラックはハルを躱して、再び自分の旅路へと向かっていった。


 ──あぶな!異世界モノなら今のに轢かれて今頃、転生してるな!


 危機をやり過ごすことができたが、心臓は早鐘を打っている。ハルはその鼓動に身を任せながら、考えた。


 ──あの思考速度と周りがスローモーションに見える光景…あれが走馬灯か……貴重な体験だ


 冷静に分析したとて、胸の鼓動はおさまらない。この時、ハルは初めて周囲を見た。


 ハルに注目している人は何人かいるが、他はいつも通り日常生活に勤しんでいる。


 ハルは走った。あと少しで交通事故を目撃することになりそうだった者達の視線が恥ずかしかったのだ。


 揺れ動く黒髪は太陽の光を浴びている。まるでその光は、この人が先程、事故りそうだった高校生ですと言わんばかりにハルを照らしている。


 普段走らないせいか、死にそうだったからなのか、それとも注目を浴びたせいか、おそらくその全てが要因で、ハルは走って早々に息を乱し、汗だくになった。制服の襟元を緩め、家路を急ぐ。 


 鍵を開けて、勢いよく家に入り、扉を閉めた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 汗だくになったハルは、額にへばりついた髪をかき上げ、バックを玄関に置いて、渇いた喉を潤しにキッチンへと向かった。


 ゴクゴクと音を立ててコップ一杯の水を一気に飲む。飲み干した勢いで、音を立ててコップをテーブルに叩き付けた。


「はぁぁ!!怖かった!!!」


 完全に安心したせいか、先程死にそうになったことを落ち着いて思い返してしまった。それをまぎらわせるために、ソファの上で横になりスマホをいじっていた。


 どこかの大統領が国境に壁を設けたせいで、何人か死んだとか、中年のオヤジが未成年の女の子に猥褻したとか、ある芸能人の発言が炎上して議論になってるとか、

 

 ──もううんざりだ……こういう人達はなんの目的があって人生を生きているのか……


 ハルは溜め息をついたが、それに対しての明確な回答を自分でも答えることができなかった。そしてトラックに轢かれそうになって初めて自分が生きていることを実感したことに気づいた。


 現在17才のハルは高校2年生、来年は受験を控えている。大学には入りたいと思っているが、将来の夢なんてないし、そこそこの大学に入って、そこそこの会社に入り、結婚して子供ができて年老いていく。そんな漠然とした人生の設計図を想い描きながら今日を終えようとしていた。


 もう危うく死にそうになった記憶は薄れ始めた。


 SNSの通知になにもきていないことを確認しホームボタンを押そうとしたその時、自分の周囲が蒼白く光っているのに気が付いた。


 どうやらハルを中心に円を描くように発光している。ソファの上で上半身だけを起こし、何事かを認識しようとしたが、先程よりも光が強く発光し始めハルの視覚を奪った。ハルは咄嗟に目を閉じて叫んだ。


「うわぁぁ!!」


ゴーン ゴーン


 鐘の音が聞こえる。


 目を開けるといつもと違う見たことのない景色がそこに広がっていた。

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