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家族

 四人はフィーネの件が終わると、彼女らが前回に通った道とは異なる経路を通り、サマクらの家の前に到着していた。


「なるほど、こんな道もあったのか。私もまだ未熟だったという訳だ」

「いやそもそも、家を特定された事が不思議で仕方ないのだが……」


 アリーシャの謙遜にシャモが呆れたように否定する。本来であれば、あってはならないことなのだろう。


「何を言う。人間という生物はあらゆる事象に対して、心理や直感が働き、その上で理性や思考を行使して物事を考える」


 アリーシャは、すぐ隣であまり話を聞いていなかったであろうフィーネの肩に手を乗せる。


「最終的には意識のある無しに関わらず、合理的に設計してしまうものだからな。予想する事自体は容易い。助手くんが相手では通用しないのだが」


 褒めているのかけなしているのか、判断がつかない言葉にフィーネが首を傾げるが、アリーシャの見せる得意げな微笑みに顔を赤らめ目を逸らす。


「本当に驚く事ばかりだなアリーシャ、君には頭が上がらない」


 サマクの自嘲じちょう気味な呟きに、呆れたようにアリーシャがため息をつくと、サマクらの家の扉が内側から開かれた。


「おかえりー!」


 扉の奥からは、満面の笑みで現れたオネが父親と祖父の帰りを歓迎した。

 

「オネちゃん!」

「お姉さん!」


 二人を迎えたはずなのに、フィーネと意気投合してオネの体は真っ直ぐと彼女に向かっていった。


「……随分懐かれているようだな」


 オネを迎え入れようと両手を広げていたシャモが、涙は出さないが心で泣いているのが容易に見て取れる。

 そんな彼の肩を叩き、「仕方ないさ」とアリーシャが慰めた。


「放っといてくれ……」


 思った以上に落ち込んでいるようだ。


「おかえりなさいあなた、お父さん」


 オネの母親、彼女にそっくりな女性からの笑顔の歓迎を受け、シャモは精悍せいかんなその顔立ちを台無しにする。


「お父さん泣き虫!」


 オネは辛辣しんらつな言葉で自分の父親をけなしていく。彼が不憫でならない。


「私は泣き虫ではない! 涙脆なみだもろいだけだ」


 世間ではそれを泣き虫というのだが、断固として認めない。せめてもの彼の自尊心は否定すべきではないだろう。


「みんなが会えたようでよかった。またすれ違いでもしたら、紹介した私も立つ瀬が無いものね」

「うん、助かったよ。えっと……オネちゃんのお母さん」


 「あら」と口を抑え、オネの母親がフィーネに向き直る。


「そういえば、名前をまだ言ってなかったわね。私の名前はディゼル。自由に呼んで下さいな」

「ディゼルさん……はいっ!」


 それぞれの挨拶等が終わった頃合いで、サマクが切りをつけるために手を叩いた。


「さあ、とりあえず中に入ろう。詳しい話はそれからにしようじゃないか」


 サマクの言葉を皮切りに、一人ずつ家の中に入っていく。

 そんな中アリーシャは動く気配が無く、立ち止まる彼女を気に留めたフィーネも足を止め、彼女にくっついていたオネもその場に留まった。


「どしたのアリー?」

「……いや、君はオネと街の散策に行ってみてはどうかと思ってね。つまらない話など聞いていても仕方ないだろう」


 彼女なりの気遣いなのか、あるいは他意があるのかもしれないが、フィーネにとっては願っても無い事だろう。


「いいの?」

「もちろんさ。ただまあ……最終的にはおそらく君の力が必要になる。その時のことを君なしで相談していいかと言う懸念けねんだけは残る訳だが……」


 アリーシャは既に回答がわかっているのだろう。フィーネに問いかけるその口調は、質問というよりは、確認しているように感じる。


「私はそう言うのわからないから、アリーに任せるよ?」

「ああ、そうだろうな。ならば問題ないはずだ。──そうだろう?」


 アリーシャがサマクらに目配めくばせすると、三人は顔を合わせはするが全員頷き彼女に向き直った。


「彼女なら心配はいらないだろう。構わない」

 

 サマクの言葉に他の二人も頷き、了承する。


「だそうだ。行ってくるといい」

「やた!」


 話を聞くのが億劫おっくうだったのか、オネと出かけたかったのか、どちらにせよよほど嬉しかったのだろう。胸の前で拳を強く握りしめた。


「オネちゃん、いっしょにお出かけだって!」

「お出かけ? お姉さんと?」


 あまり話も聞かずに、フィーネの綺麗な黒髪を適当にっていたオネが聞き返し、フィーネが嬉しそうに頷く。

 そんな彼女の様子を見たオネが、さらに嬉しそうにはしゃいで見せる。


「連れて行きたいところいっぱいあるよ! 行こ!」

 

 オネの強引な引率にフィーネが若干よろめいた。


「それじゃ、行ってくるね!」

「ああ、ゆっくりしてくるといい」


 フィーネとアリーシャが挨拶を交えると、オネが引っ張るその腕に逆えずにフィーネは強制的に連れて行かれた。

 オネの手によって赤いリボンで結われた、大きな尻尾を頭の左側に垂らしながらフィーネが彼女について行く。

 顔を合わせて微笑み合う二人の姿は、歳の離れた姉妹のように見えたことだろう。

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