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集落の危機

「失礼だが、君たちはただの放浪者と言う事なのだろう? 何故我々の問題に関与する道理がある?」


 初老の男のもっともな問いにアリーシャが唸る。


「道理か……確かに道理などはないだろうな。しかし──」

「オネちゃんだよ」


 突然のフィーネの発言に、その場の三人の視線が彼女に集まる。


「私が助けたいと思うのはオネちゃん」

「……何故オネをしっている」


 若い男の面持ちがまた険しくなる。家の件といい、オネの事といい、家族のこととなれば、より厳しくなるようだ。


「今朝お話ししたから。……話すその顔は笑顔だったけど、多分もっと可愛い笑顔ができる子だと思う」

「……お前たちがオネのなにを知っている」


 フィーネの強い眼差しに男は警戒を強めるが、引き下がる様子はない。


「何も知らないよ。……でも、オネちゃんの考えてることはなんとなくわかる。……私、子どもっぽいところあるからかな」


 おどけて見せるフィーネのその様子に、強い心根を感じたのだろう。男二人は沈黙し、彼女の言葉を待っているようだ。


「あのオネちゃんが悲しむ姿も見たくないし、可愛く笑う笑顔も見てみたい。だから私に何かできるなら、なんでもする。あなたたちの抱えている問題がどんなものでも、私は力を貸します!」


 真っ直ぐと二人を睨む彼女の墨色の瞳には一切の曇りも感じられない。

 男二人は頷き、彼女の顔を見つめると、三人の視線が交わった。


「オネは私たちにとって何よりも大切な存在だ。そのオネを大切に思ってくれる、君の言葉は信じるに値する。是非協力してほしい」

「私たちが今直面する危険因子について、私からも協力を仰ぎたい」


 二人の反応は予想外だったのだろう。フィーネは面食らった顔でアリーシャに目配せする。

 当のアリーシャはそんなフィーネの様子に微笑み、「仕方のないやつだ」と呟くと二人に向き直った。


「二人の気持ち、深く感謝しよう。彼女も狼狽ろうばいして言葉を失ってはいるが、心ではひどくはしゃいでいることだろう」


 アリーシャの言葉にフィーネは何度も顔を縦に振っている。どれほどに驚いたのか見当もつかない。


「そうか……? ならよかった」


 若い男がほっとため息をつくと、フィーネも深呼吸を始めた。


「まだお互い、名前も知らなかったな」


 初老の男が胸に手を当て言葉を続けた。


「私の名前はサマク。この部落の首長をやっている者だ」


 サマクと名乗った初老の男はそのまま隣の男に手を差し出す。


「……シャモだ。敬称などは苦手だから、そのまま呼んでくれると助かる」


 二人の自己紹介を受け、アリーシャも続き胸の上に手を置いた。


「私はアリーシャだ。そして──」

「フィーネですっ!」


 アリーシャの発言に重なるほど口早に名前を名乗るフィーネ。


「絶対反対されると思ってたから……恥ずかしいところ見せてごめんなさい!」


 頭を下げ、素直に謝罪するフィーネに、二人も驚き顔を見合わせた。


「頭を上げて欲しい。君に落度など何一つないのだからね」


 サマクの優しい声を聞き、頭を上げて不安気に見つめる彼女にシャモが続ける。


「昨日といいさっきといい、本当に申し訳なかったと思っている。許してもらえるものだろうか」

「何も悪くない、オネちゃんを考えてのことなら仕方ないもん。いいお父さんなんだと思う」


 フィーネの言葉に「ありがとう」と返すと、さらに言葉を続けた。


「しかし、最近はオネとまともに話もできていない。本当にいい父親とは言えないだろうな……」

「そんなこと──」

「だからそうなれるように、今問題となる事案を最優先にしているんだ」


 強く言い切る彼の視線は、集落の外の広大な砂漠を見ているように感じる。

 その視線に気づき、フィーネ始め、他の二人も同じように砂漠を見やる。


「ほう……あれがその事案、というやつか」

「なに? あれ……」


 集落に続く迷路のような家並み、まるで集落を守る外壁のように置かれた、集落の周囲を囲う白く丸い岩のようなもの。

 集落を抜け、何もない砂漠を真っ直ぐと辿った先、空間を隔てるかのような大きく密度の高い砂嵐が舞っていた。

 密度の濃さ故か、あるいは距離のためか、その中の様子はうかがえない。


「この広い砂漠を徘徊する大蛇だ。その大きさはこの集落を全て埋めたとしても、まだ足りない可能性すらある」


 高台を除く集落全体を見れば、一つの都市と言われても違和感はないほどだ。

 それを覆い尽くしてもなお余る大きさともなれば余程の巨蛇なのだろう。


尽喰じんばみと呼んでいる。その巨体のせいか、何もかも飲み込んでしまうからな」

「尽喰か。悪くない呼び名だ。是非間近で拝見したいものだな」


 アリーシャの発言に二人は驚嘆し、フィーネが呆れる。


「やめてアリー。そんな大きな蛇なんて、アリーじゃ食べられちゃうだけだよ」

「ならば君が守ってくれればいい」

「それはそうだけど……」


 あまりにも二人の会話に緊張感がないためか、茫然自失と言った様子だ。


「……まあ距離がこれだけ離れているからな。その大きさを実感出来なくても仕方がない」


 シャモの自分を説得するような発言に、二人は不思議そうに首を傾げた。


「まあ、実際に見てみないと分からないというのは事実だな」

「だから、アリーは危ないの!」


 ほとんど変わらない緊張感とやりとりに、男二人は諦めた様子で頭を抱える。


「ああ、頼もしい限りだな。……とりあえず家に戻るとしよう」


 シャモの言葉に三人は頷き、高台を下っていく。

 

 高台を下りきり、集落の家並みへ進入する頃合いで、フィーネにとっての事案が発覚した。


「何だこれは……?」


 サマクが先ほどフィーネによって崩された家の、その下にある瓦礫を見つけたようだ。

 

「あ、とそれは──」


 フィーネはばつが悪そうに呟き、すぐに口を塞ぐ。


「知っているのか?」

「いや、そのー……」

「まるで悪さをした子供のようだな助手くん!」


 口籠くちごもるフィーネにアリーシャが追い討ちをかける。当のアリーシャからは他意を感じられないことから、おそらく素直な気持ちを述べただけだろう。


「アリー──いや、うん。……ごめんなさい」


 フィーネは頭を下げ、空を指差す。

 彼女の言動を受け取ると、サマク、シャモ共に指さされた上方に顔を向けた。

 そこは、先ほどフィーネが跳躍した場所であり、つまるところ陸屋根の角が崩れた光景が残っている。


「……君がやったのか?」

「……はい。急いでいてつい……」


 フィーネの素直な回答と、落ち込むその姿にサマクは頭を掻き、ため息をついた。


「まあ、人が住んでいたわけでも、被害があったわけでもない。……今後気をつけてもらえればそれでいい」


 彼の寛大な言葉に、フィーネの表情が明るくなる。


「あ、ありがとうございます! 絶対もうやらない!」


 フィーネの真剣な眼差しに二人の男は表情を綻ばせた。


「しかし、こんな大きな瓦礫を、ついでのように作り上げていくとは……」

「あるいは本当に、彼女たちに助けられるかも知れないな」


 安堵からアリーシャとじゃれ合うフィーネをみやりながら、感慨かんがいふけっていた。


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