雲を抜けて、機銃を撃って。
第1話を読んでくれた方々、お待たせしました。いろいろリアルで忙しく…
大幅改稿しました。詳しくは3話のあとがきで
少女の駆るドラゴン?に追随して、のろのろと上昇を続ける最中、私はどうにかしてあの娘と会話ができないものか考えていた。
なにせこの世界で初めて出会った人間(多分)なのだ。今後のためにも、是非ここでコンタクトを取っておきたいところなのだが…
さて、どうしたものか?
無線はまずもって無理だろう。たとえ全バンドで呼びかけを始めたとして、それを受信できるものをあの少女かドラゴンが持っているとは到底考えられないし、奇跡的に受信してもらえたとして言語が通じないだろう。よって無線連絡はダメ。
次に発光信号だが…まあこれもダメだろう。発光信号に関しては同じ地球出身の人間だってよく学習しておかないと通じないものだ。
同様にハンドサインの類も……って私手なんか持ってないじゃん。何考えてるんだ私。
どうしよう。さっきはどうにか派手に動いてこうやって成り行きでついていけてるわけだけど…
『ねぇ、これで聞こえる?』
ん?ええ、聞こえますよー……って、え⁉
ちょ、誰⁉どこから話してるの⁉
『私だよ、わーたーしー!』
言われ、前方を見ればドラゴンの背中から乗り出してこちらに手を振る少女。
……え?
『ゴメン、びっくりしたよね。これ、念話っていうんだ。心に直接話しかける魔術で…まあ今はとりあえず説明はいっか。どう?そっちからも普通に話しかけられると思うんだけど』
どうって………え?
普通に話しかけるって言っても、私ロールアウトしてからこのかた喋ったことなんてないし…
念話っていうくらいなんだから、こう、イメージみたいなことをしてみればいいのかなぁ…
『………あー、もしもし?』
『あ!よかったぁ!できてるできてる!聞こえてるよ!』
通じた!
ロールアウトしてから今まで、喋ったことなんて一度もなかったから心配だったが……
よかった。これでかなりマシなコミュニケーションができる!
『まずは初めまして。私、フィーエル。フィーって呼んでね。こっちは相棒のソロー』
フィーと名乗った少女は私に向かってにっこりと笑うと、彼女が跨るソローというらしいドラゴンの背を叩いてそう言った。
『さっきは助けてくれてありがとう』
『フィー…こちらこそ初めまして。私は…』
そう名乗ろうとして、気付いた。私にはちゃんとした名前がない。
YF-23という機体名こそあるものの、それは「私」の名前ではないのだ。ヒトとかイヌとか、そういう種としての識別名でしかない。
『……すみません。名乗るような名前は、私には…』
恐る恐るそう答えて、けれど少女は特にそれを不思議がる様子もなく答える。
『別に鳥さんが謝ることはないよ。名前ならまた今度考えればいいし』
『そう…ですか』
どうやらだいぶ私の故郷と価値観が違うらしい。
彼女…フィーも名前しか名乗らなかったけど、もしかしたら名字は無いのかな?
……というか。
『あの、ひとつ聞きたいんですけど…あなたは…いえ、フィーはさっき何に襲われていたんですか?その…私が墜とした方の…』
『ああ、うん。さっきは本当にありがとう。あれは黒竜っていう魔獣なんだけど、縄張り意識が強くて、うっかり縄張りに入り込むとああやって相手が死ぬまで追いかけ続けるんだ…さっきはうっかりその縄張りに入っちゃったみたいで…』
『はぁ…魔獣、ですか。その、なんなんです?ソレは』
だいたい目星はついてるが、一応聞いてみる。
まあ、あれでしょう?この世界のでっかくてキケンな感じの獣で、モノによっては魔法も使えるよみたいな…
ホント物好きだよなぁ、あのいつもラノベ持ち歩いてた日本人。
『あれ?君もそうじゃないの?』
………そう来たか。
まあ、でも確かにそう見えるのかもなぁ。
たぶんこの世界の「人間」も地球と同じヒト種の形をしてるんだろうから、そちら側から見た私は「なんかデカくて変な形の鳥」って見えるんだろうなぁ。
現にさっきフィーは私のこと「変な鳥さん」とか呼んでくれたしね、チックショウ。
『……私は自分のことをその辺の獣だと自覚したことはないですが』
『あ、ごめんなさい。そうだよね……うん。ええっと、私達が魔獣って呼んでるのは、人間種以外の動物のなかでも、特に体内の魔素量の多い種類を言うんだ』
ほら、予想通り。
『……魔素って、なんですか?』
『…………』
だいたい想像はついていたが、一応聞いてみる。もしかしたら予想と違うかも知れないしと思ったのだが…返ってきたのは長い沈黙。
『………あれ?』
『ええっと……その、こう、なんていうのかな。私にはちょっと…よくわかんないかなぁ?』
ああ、うん。
まあ、多分無くなると魔法が撃てなくなったり具合が悪くなったりするやつだろう。そう思っておこう。
それじゃあ、そろそろ本題を。
『フィー。もうひとつ聞きたいんですが』
『ん?なに?』
『私たち、どこに向かってるんです?さっきからずっと上昇しているような気がするんですが…』
『ああ、それはね……?』
フィーがそう答えた途端、一際大きな雲に突入する。
私は、エアインテークに水が入るこの感じが大嫌いだ。構造上ある程度なら大丈夫だし、それは私自身が一番良く分かっているんだけれども、だからと言って好きになれる感触ではない。
雲を突き抜け、そこで水平飛行に戻る。
先導するフィーが不意に指さした方を見て、私は唖然とした。
そこにあったのは、巨大な…それはもう本当に巨大な…どれくらいかっていうとロナルド・レーガン(当然空母の方であって、間違ってもあのおっさんではない)が可愛く見えるくらいに巨大な雲である。
ま、ぶっちゃけロナルド・レーガンとか見たことないんだけどね、試験機だもの。
その、雲に阻害されてしまうレーダー波が感覚のほぼ全ての私にとってはその雲がとてつもなく不安に感じてしまう。のだが。
『付いてきて!大丈夫、ただの見掛け倒しだから!』
フィーはそれだけ言うと、なんの躊躇もなくその雲の壁に旋回して飛び込んでいった。
当然、レーダーコンタクトもロストである。
いやだなぁ…付いて行きたくないなぁ…。あんな雲抜ける前に主翼が着氷しちゃうよぉ…。
だけれども、ここで躊躇って引き返したら、せっかく会えたフィーという意思疎通のできる相手を失うことになる。
私は意を決して、その雲の分厚い壁に飛び込むことにしたのである。
飛び込んだ瞬間、視界が失われる。機体の装甲板を這うように流れる水滴、今にも翼をもごうと叩きつける強風、結露から生まれ、動翼とエンジンの制御を奪おうとする氷。おおよそ戦闘機…いや航空機として生まれた身には生理的に受け付けられない不快感が私を襲う…
と、思っていたんですが。
いやね、私考えすぎだったみたいなんです。まぁ、ドラゴンみたいな生物がいる時点でまあファンタジーだなぁって思ってたんですが、まさかそこまでファンタジーじゃあなかろうって。
え?なにを言いたいんだって?
…結論から言いますとね、無かったんですよ。雲なんて、最初から。
来る!と身構えた私に、しかし雲特有の、航空機だけが分かる(私のような感情を持っているモノに限るが)不快感は襲ってこない。
それどころか、エアインテークに飛び込んでくるのは爽やかな高空の大気の香り。
燃料との燃焼比率が一番いい、私の大好きな匂い…
……え?
ちょっと、待って。あれ、なに⁉
大好きな香りにうっとりとしていた私が、我に返って機首正面を見ると、そこには到底信じられない、例えるならロッキードの野郎が先進戦術戦闘機計画で私を蹴落としたとき並に信じられない光景が広がっていたのである。
端的に言えば、城である。レトロチックな、中世風の。
一度テストパイロットの人が家族で行ってきたというフロリダのディ◯ニーワールドのアレに近い印象を抱く、でっかい城の天守閣である。
はいえー。今どきあんなでっかい城があるのかぁ…
ってそれどころじゃねぇ‼
頭の中で鳴り響く接触警報ではっと我に返った私は、スペック限界の半径で旋回する。
パイロットさんが乗ってたら今頃潰れてるだろうなぁ…ひとりで飛べて本当に良かった。
謎の城との激烈なキスを寸前で回避した私は、ほとんど反射的に高度をとる。あ、ちなみに高度をとるのは戦闘機の性です、ハイ。
さて、少なくとも衝突の危機を脱した私は、先程キスしかけたソレを注視してみる。のだが…
目の前…というか、私の感じる「視界」に入り込んでくるのは、一言で言うならば…島であった。
な、なんじゃこりゃああああああ!!!???
ええ、島ですよ。上空をカラフルなドラゴンが何匹も飛んでいて、普通の島ならまずあり得ない、「羽」がにょきっと生えていて、おまけに空に浮かんでいるってことを除けば。ね。
嘘じゃないですって、本当に飛んでるんですよ。だって島の下に雲見えるし。
この状況を端的に表すなら…そう。あのジャパニーズアニメムービーの名言。
父さん、ラ◯ュタは本当にあったんだ!………
HAHAHA!ならさっきの雲は龍の巣ってかチクショウめ!
いったい何がどうなってるんです⁉雲に飛び込んだと思ったら雲じゃなくて城あるし!
城⁉って思ったら空飛ぶ島だし!ふざけてんの⁉あの「アタック・オブ・ザ・キラートマト」ってZ級映画だってもうちょっと面白おかしい設定あったぞ⁉
雲に突っ込んだら目の前に城よりモンスターの正体は巨大化したプチトマトって方がまだ理解できる!……できる?
ああ、私をここに飛ばしてきた主とかいうすごい人よ。もう少し分かりやすいシチュエーションを下さい…
『おーい、大丈夫ー?』
再び大混乱に陥っていた私に声を掛けてくれたフィーは、この場合大正解であった。
正直、自分で言うのもなんだが、はっきりとした自我としての私は生まれたばかりなのだ。こんな刺激的な光景は、いわば赤ん坊に等しい私には少々…というよりかなり刺激が強すぎる。
だから、彼女の声は藁にもすがりたい気持ちだった私にはありがたい救いであった。
いつから居たのか、フィーの乗るドラゴンは、私の右に並行するように飛んでいる。
巡航速度の私に追いついている時点で、かなり頑張っているほうだろう。ドラゴンの方はというと、明らかに疲れた目で、必死に羽ばたいている。
こりゃ失礼、速度を落としましょう。
『大丈夫?港まで案内するから、付いてきてね』
そう言うとフィーは、島…と認めたくはないが、そのどこかへと降下していく。
はて、港と言っていたか?
見やれば、なるほど確かに幅が広めの埠頭のような構造物がいくつも島の端から伸びている。
フィーの乗るドラゴンはそこの一つ。中くらいの大きさのソレに降りていく。
じゃ、私も降りさせて貰いましょうかね………………ちょっと待って。
あれ、私着陸できる場所なくない?
さて、確認するが、私はYF-23という、戦闘機である。そして、私はSTOL機である。
間違っても、海軍のデブ…F-35や常に紅茶が足りてなさそうなハリアーのようなVTOL機ではないから、垂直離着陸などできるわけもなく。
そして私が見るに、彼女が降りていったそこは、木造の、見るからに脆そうな埠頭である。
あんなの絶対降りれる訳ない!
まずい、非常にマズイ。燃料は不思議なことにまったく減っていないが、だからといってずっとこのまま滞空し続ける訳にはいかない。
どうする⁉
と、フィーのドラゴンがもう一度上がってくる。
今度はそうする余裕がないのか、念話ではなく直接眼下の1点を指さしている。
彼女が指差す方向を見てみると…なんということでしょう!見るからに着陸に最適なでっかい埠頭があるじゃないですか!
幅目測30メートル、距離にして同じく800メートル程。逆噴射で、行けなくはない距離。
石造りらしい。タイルの継ぎ目は不安要素だが、表面はかなり均されているようで、目に見える突起物は今の所見当たらない。
つまり、行ける。なら。
うっしゃぁ行ってやらあ‼
ギア・フラップダウン。
スロットルレベルをランディングに、機速350、まだ落とさなくては。
エアブレーキ開、機速250。タッチダウンポイントまで約1000。
機速200。ストール警告はいまさら気にする余裕はない。ランディング続行、警告システムシャットアウト。
30、20………タッチダウン!エンジン逆噴射!
風に煽られてしまうほど、限界まで速度を落とした私は、ランディングギアが埠頭の石畳を捉える感触を得るとただちにスラストリバーサーでエンジン推力を逆向きのベクトルに変更する。
急減速で発生するGと、石畳の継ぎ目をランディングギアが越えるとてつもない振動に、しかし機械の私は呻くことはない。
機速100。滑走路(仮)は残り500メートル。
私とてSTOL機だ。500メートルもあれば、着陸はできる。
機速、ゼロ。停止を確認。
久々に地に降り立った私は、ひとまずホッとして辺りを見渡す。
ここまで来るのにいろいろ濃い出来事がありすぎた。少し休ませて……
と、いかないのが、こういうお話のテンプレである。
予想通りというべきか。私は今、どこからか現れた大量の現地人(ヒトでないもの含む)に、ダンケルクもびっくりの密度で完全に包囲されている。
私が降り立った埠頭は、海の港にあるそれとほとんど同じ構造で、着陸を無事済ませた私はその終端、岸壁にあたる場所までタキシングしてエンジンの灯を落とし停止している。
私の周りには好奇心たっぷりの目でこちらを見つめる者多数、武器(剣とか盾とか、そういうアンティークなやつ)を手に警戒心マックスで今にも襲いかかろうとしている者、なぜか私を崇め始める輩と、それは多種多様の人々である。……おいこらそこの少年、エアインテークに近づくんじゃない。ってエルロン引っ張らないでお嬢さん!
ともかく、武器を持った人間に襲われてはいくら戦闘機である私とあれど駐機状態では無防備なので、いつでも威嚇射撃ができるようにバルカンの砲身だけは回しておこう。いちおう、射線上に誰もいないことを確認して。
いや、まあ使わないで済むのが一番なんだけどなぁ…
と、突然私から見て正面の人垣が散り始める。
何事かと上を見上げてみれば、なるほど。先程の少女とドラゴンが降りてきたのだ。
人垣が消えてクリアになった埠頭の一角、私の真正面に、そのドラゴンは降り立った。先程は飛行中でよく見えなかったのだが、その姿は神話や伝説の類に出てくる一般的なドラゴンとまったく相違ない。
爬虫類の面影が強く、羽はコウモリのようで、いかつい顔の上には1対の大きな角が生えている。
燃え盛る炎のように真っ赤な体色をしたソイツの首元から、少女…フィーが降りてきた。
私の主観だとティーンエイジャーといったぐらいの年齢か。信じられないほど鮮やかな水色の長いツインテールと、とても整った顔立ちは傍らに控えるドラゴンとは正反対の穏やかな印象を思わせる。
「その鳥さんから離れて。その子、困っちゃってるよ」
飛行中の風切り音の中でもよく通った、若い女性が放つ特徴的な高い声が響く。空の上でもそう感じたけれど、やっぱりとても綺麗な声だ。
彼女がその声で言う相手は、さっきから私のすぐ傍で剣を構えて、それこそ視線だけで殺す気かと言わんばかりにこちらを睨みつけている鎧を着た大男だ。
やめてくださいよ、私、いい戦闘機ですって。ああほらそんな怖い目しないでよぉ。
「だ、だがなフィー。こやつ、羽ばたきひとつせず空から降りてきた…それもとんでもなくデカイ声で鳴きながらだ。襲ってくるかも知れんのだぞ!」
「なっ…この子はそんなことしないよ!さっきだって、私を助けてくれたんだもん!」
正直、見ず知らずの相手に危険物扱いされるのは大変不愉快だが、この男の言い分も分かる。
誰だって、得体の知れない物は恐ろしいものだ。
『あの、フィー。この人は?』
私がさっきの要領で聞くと、フィーもまた念話で返してくる。
どうやら念話は完全に頭の中で完結するらしい。口を一切動かさずにフィーはこちらをちらりと見て答えた。
『あの人はね、ガルムっていって、この島の島守の長をしてるの』
『島守?』
『他の島からの侵略とか、襲ってきた凶暴な魔獣から島を守るのが島守。悪い人じゃないんだけど、ガルムってプライド高いからさ』
なるほど。自分が島を守るのだという自負の強い人間なら、こうもなるか。
『じゃあ、私が警戒されるのも無理はないですね。ところで、この会話って周りに聞かれたりしないんですか?』
『念話だからね、意識した相手だけに通じるんだ』
『へぇ……それはまた、便利なことで』
そんな、私たちの内緒話を知る由もなく、ガルムとかいう男は腰の鞘から剣を引き抜く。
よく手入れされているのだろう。引き抜かれた刀身は、降り注ぐ陽の光を浴びて鈍く輝いた。
「どうだろうな。フィー。案外、お前を助けてここまで案内させるつもりだったのかも知れんぞ」
「そんなことないってば!ちゃんと言葉が通じるんだよ?念話だけど」
「言葉の通じるほどに高度な魔獣なら、なおさら危険じゃないか!今ここで仕留めておいた方が、後のためだ」
あぁ、駄目だこりゃ。完全に異質なものを目の前にして焦りが先に来てる。
ガルムというヤツが持っている剣程度では、私のボディにかすり傷を付ける程度が精一杯だろうが、その取り巻き連中も一緒に、執拗に突かれたらどうなるか…
それに、コックピットやインテークの中をダメにされたらおしまいだ。
『フィー、あの人に…ガルムさんに直接私から話しかけられませんか?』
『うーん…難しいかな。念話って、これでいて結構難しいんだ。今は私と鳥さんの間だけだからなんとか繋げてるけど。それに…』
『…今の彼には、私が直接話しかけたら逆効果でしょうね』
『うん…』
こちらを排除しようと躍起になっている相手に、いきなりこちらから話しかけたら相手のパニックを呼ぶだけだ。
……仕方ない。
『フィー、少し私から離れていてくれませんか?』
『え?』
返事を待たず、FCSを起動する。
兵装選択、ガン。オートターゲティング機能をカット。
目標、前方の武装集団上方。距離20。
ランディングギアのサスペンションをうまく使って、ほんの少し上を向く。
最悪のシチュエーション…連中が襲いかかってきたとき、威嚇射撃をしても、それが絶対に当たらないようにするための。
「バケモノめ…!ここの連中を襲おうったってそうはいかないぞ!掛かれぇ‼」
「「「「うぉぉぉぉぉおおおお‼‼」」」」
ガルムの号令で、臨戦態勢にあった男たちが一斉に襲いかかる。
戦闘に特化した私の思考の一部がその光景を冷たく捉え、ただちにエンゲージを選択。
M61対空機関砲が、砲身の回転を始めた。……その時だった。
「静まれぇぇぇぇぇぇぇえええ‼」
目の前で剣を振りかぶるガルムの、その雄叫びを遥かに上回る大音響が、辺りに響き渡った。
一言、たった一言であったが、それだけで今にも私をバラバラにせんと突撃を仕掛けていた男たちは静止し、私も思わず砲身の回転を止める。
まさに、鶴の一声。
だが。
(…なっ⁉FCSが止まらない⁉)
エンゲージを選択した私のFCSは、ハードウェアである「私」の攻撃中止の意思に反して、機関砲の砲身の回転を止めようとしない。
それどころか、わざわざ威嚇射撃で済むようにと上げた機首を、勝手に下げようとする。
FCSが……私から独立して稼働しようとしている⁉
(よ、よせ…!)
「待って!」
こちらの攻撃の意図を、察したものか。
不意に、目の前にみずいろが、フィーが飛び出る。
私が心中に叫んだのと、彼女が両手を広げて私の前に立ちふさがったのは、ほぼ同時だった。
FCSが、射線上の動体を検知。ガンレティクルが赤く染まり、M61バルカンが作動。
20mm対空砲弾を毎秒数十発の猛烈なレートで撃ち出す砲身が回転し、給弾レールを砲弾が滑る。
エンゲージ。ガンズ、トリガー。
強烈なマズルフラッシュと共に飛び出る砲弾。人体などいとも容易く引き裂くそれが、目の前のフィーに向かって、音の壁を破って飛翔する………
だが。
……いやはや、こんな世界にやってきて、空飛ぶ島にいる時点で、おおよそ普通の戦闘機ならそうそう体験しないであろう不思議体験をしている時点でそれなりの身構えはしていたつもりなのですが……
世の中には不思議なことがあるものです。
到底銃器の発砲音とは思えない轟音の後、私は呆然とその場で立ち尽くす。
目の前はこの銃撃で巻き上がった土煙が立ち込めていて視界が悪く、その土煙が落ち着いて視界が晴れ、目の前にあるバカでかい壁が見えるようになるまでしばらくかかっt……
壁?
いやいや、そんな訳はない。さっき私の射線はクリアだったんだ。そんな壁なんてあるはずは…
思って、私は目の前をもう一度よおぉく見てみる。間違いない。さっきまでフィーが立ちふさがっていたその場所、正確にはその一歩手前には、さっきまでなかった大きく分厚い土壁のようなものがそびえ立っている。
………ナニコレ。
「…まさか、私の防御術式が破られてしまうとは。世の中広いものだ」
そんな、場違いのように落ち着いた老人の声とともに、目の前の壁が音を立てて崩れ去る。ガラガラと崩れていった壁の向こうをよく見てみれば、声の主らしい着物のような衣服を身にまとった老人。 全身が少し光っているような気がすることを除けば…見た目にそこまで特異な点はない。背筋は定規でも入れているのかというほどにまっすぐで、少々歩き方に軍人らしい癖が混じっている気がするが、きっと普通の人だ。うん。
突然現れたその老人にすこしビクリとしつつ、とりあえずはそれを意識の隅に追いやって目の前の光景に集中する。
もう土煙はほとんど落ち着いていて、私が探しているその対象はさほど苦労せず、発見することができた。
「…あ、あれ……?」
『フィー、…よかった』
よくはない。
私に撃たれたフィーは奇跡的に?無事だったようだが、周りの人たちは誰しもが私の放った轟音におびえていて、あのインテークに入り込んでいたやんちゃな少年も、今は母親らしい女性の後ろに隠れている。
と、例の壁の元凶らしい老人がフィーに近づく。
彼女の、急に顔を明るくした反応を見るに、もしかしたら彼女の肉親なのかも知れない。
………ん?と、すると。私、このままココに居るとマズくない?
もしあの老人が彼女の身内だったとすると、不本意とはいえ誤射った私を笑顔で迎え入れてくれる未来がこれっぽっちも予想できない!
ていうかあちら側からしたらこれは誤射ではなく純然たる攻撃行動⁉
マズイ、非常にマズイ。
致し方ない。離脱だ、離脱。可及的、速やかに。
きっとこれで私は追われる身となるが、あのドラゴン、どうやったって音速は超えられそうにないし、きっと追撃も逃れられよう。
エンジンスタートだ。デカイ音を立てれば周りの野次馬も退いてくれるだろうしその隙にフルスロットルで……
「師匠!」
………師匠?
ミリタリ描写、文構成、気になること等ございましたら感想をいただければ幸いです。
さて、第2話の所々の注釈をば…
主人公の装備について
YF-23自体、試作機でペーパープランな装備もあったので、半分妄想です。
>私はSTOL機である
装備同様、これも想像です。試作機のせいで資料が少なく…オススメあったら教えて下さい。ちなみに判断材料は同じATFで受かったほうのF-22がSTOL機だったからです。
>アタック・オブ・ザ・キラートマトってZ級映画だって(ry
不朽の愚作。B級映画を遥かに下回るZ級映画として、「酷すぎて逆にウケる」と有名になった映画です。え?詳しく知りたい?ググってください。