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戦闘機ですが、異世界に転生させられちゃいました  作者: ロッキード絶対許さないマン
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異世界、来ちゃいました

初めて異世界ものに手を出してみました。

が、主役はあくまでブラックウィドウちゃんなので、あしからず。

あんなカッコかわいい子を不採用にした米軍とロッキードを許すな。


 吾輩は戦闘機である。



 …え、何言ってるかわかんないって?いや、そのままですよ。


 YF-23 ブラックウィドウⅡ、私の名前です。今「あ、米軍にいらない子宣言されちゃったやつだ」とか言った人、正直に出てきなさい今なら20mmで 勘 弁 し て や る。

 わからない人?そのままの君でいて。

 さっきから何言っているのって?安心してください私にも分からない。

 こうやってめっちゃ喋ってますけど、自我だってさっき生まれたばかりです。

 ちょっと、状況整理のために現状を説明しますとですね?




 えぇ、私は先程述べた通り、YF-23ブラックウィドウⅡと申します。米空軍の試作ステルス戦闘機です。

 1989年、アメリカでマクドネルダグラスとノースロップの両親の下で誕生し、育てられたんですが…

 アメリカ空軍が新型ステルス戦闘機を求めて、いざ晴れ舞台ってときに、YF-22のオカマ野郎に蹴落とされました◯ァッキンロッキード!

 でね、その後博物館でのんびり日向ぼっこしてた訳なんですが、もう展示終了ってお知らせが来まして。

 もうそんな年かぁ…って短かった人生・・・というか戦闘機生に思いを馳せながら…具体的にはB-52おじいさん羨ましいなぁとか思いながら、解体されたわけなんです。





 …でね?ここからが問題なんですよ。いやもうそれは大問題。

 なんと私ね?今飛んでるんですよ。私も訳わからないってそういうことなんです。

 完全に、もう墜ちないようにそれだけ気をつけて雲海の只中を飛んでおります。

 ここがどこだかまるで分からない。でね、今思ってるのが、これが異世界転生ってやつかぁって。

 なんでそんなパワーワードを生粋のアメリカン(戦闘機)が知ってるのって?

 そりゃ、私だって博物館生活短くありませんし。結構来るんですよ、ジャパニーズのお客さん。ライトノベルって向こうで言われてる本何冊も持って、わざわざ私の前でよく語ってくれるお客さんの組が居ましてね。

 たぶん彼ら当時留学でもしてたのかな?とにかく、そんな風に彼らが知らない所で読み聞かせみたいなのをしてもらってたもんですから、それなりにジャパニーズライトノベルは知ってるんですよ。

 まあだいたい、死んで、生まれ変わって、魔法使って、ハーレム作るんでしょ?どんだけ女に飢えてるんだジャパニーズ。もっと構ってやれジャパニーズウーマン。


 だからね、思うんですよ。

 私博物館リストラされて解体されたじゃないですか。これ人間で言う所の死って感じですよね?

 で今なぜか何処かも分からないところ飛んでるじゃないですか。しかもこうやってめっちゃもの考えてるじゃないですか。

 しかもね、もうお分かりかも知れないですけど、飛べるだけの状態なんですよ。私の体、というか機体。

 普通、博物館で屋外展示される機体は中身がごっそり抜かれるんですが、ていうか私がそうだったんですが。

 ところが今はそれが飛べてる。エンジンも灯が入ってるし、コックピットも電源が点いてる。でもパイロットさんいないんです。完全無人機、自分で自分のことそう言うのもなんですが。

 でね? …でねでねってうるさいかもしれませんが興奮してるんですよ、私。さっき「じゃあ自分ひとりで飛べるんじゃね?」って思ったので、試してみたんですよ。

 こう、うまく伝えられないんですが…旋回の動作をやってみようとしたんですよ。これを伝えるのは至難の技です…だって、皆さんも腕を動かそうって思って腕を動かしてるわけじゃないでしょ?

 まあ、話を戻して…できたんですよ、自分で、自分ひとりで、旋回。

 いやぁもう感動しましたね!なにせ30年ぐらいぶりの空ですもん。それはもう縦横無尽に飛び回りましたよ。

 雲海の中で、お空がなんにも見えないのが残念といえば残念でしたが。


 で、今に至ると。



 …私、誰に向けて喋ってんでしょう。聞いてる人なんていないのに。





 どこまで続くとも知らぬ雲海の中、私は突き進む。

 ひとまずは自分の状況…機械的な現状を把握しなければ。

 まず確認するのは高度、速度、水平の3つ…なのだが、どうもこれが分からない。高度計、水平儀に関してはもうめちゃくちゃだ。

 高度は突然宇宙空間になったり地面にめりこんでいたり。水平儀はぐるぐるもの凄いスピードで回っている。

 こうなれば必然的に、速度計が正常な数値を示すはずがなく。

 高度計よろしく巡航速度で飛行していたと思っていたら1秒後にはゼロになっていたり、また次の1秒でもう光速じゃねえのこれ?と思える速度になっていたりする。

 それに私は機械だから、このセンサー類以外に外の様子を探ることはできない。なぜか、本当にコレばかりは原理的に不明な感覚としてある視覚以外は、まるで自分がどう飛んでいるのか分からいのだ。

 あぁ…こんな時あの子たちが話してたみたいに都合よく天から声が降ってくればなあ…



『…聞こえますか?機械の鳥よ』



 うっわ本当に来たよ。え?これがフラグ回収ってやつ?



『聞こえていますか?』



 えっと…これ完全に私が聞かれてるやつですよねハイ。えっでもどうやって答えよう。この声向こうに届くの?



『聞こえているなら、返事なさい』



 は、ハイ!聞こえてます! …これ、向こうに届くのかなぁ…届かなかったらせっかくの自由飛行ここで終わりって



『よかった。聞こえているのですね、機械の鳥よ』



 いや届いてるんかい!まあ、でも、よかった。うん。



『機械の鳥よ、貴方の、空を飛びたいという無念、我々の住む世界、天界にもよく届いておりました。そこで、主は貴方の願いを叶えることにしたのです』



 ほうほう。……おう?

 待って、ちょっと待って。私戦闘機、機械。宗教とかは、まあパイロットさんとか周りの整備士さんとかから聞いてはいるけどあんまり詳しくはない…です。


 天界?天界とか仰いました?



『しかり。我々は主に仕える天使。天界は、その主と、我々のいる聖なる空間なのです』



 お、おう。主…あぁ、パイロットさんが昔言ってたな。創造主様、でしたっけ?



『しかり。貴方には、その主から賜った恩寵と、そして天命を授けます』



 は、はぁ…



『貴方には、救ってほしい世界があります。その世界に、貴方はこれから向かうのです。主の、恩寵と共に』



 えぇっと…恩寵とはなんぞですか?



『機械の鳥よ、貴方への、主からの恩寵…それは命です。貴方はこれから先、機械の鳥の姿をした1個の生命となるのです』



 えぇと?うん、うん、うぅぅうぅん???



『じきに、すべて分かります。貴方という存在がなんなのか、なんの為にこれから生まれゆくのかが』



 あれ、まってこれ既に何を言おうが手遅れな感じですかぁ⁉



『さあ行きなさい。貴方の救いを待つ世界へ、貴方が救う世界へ!』



 待ってまだ心の準備と状況の整理とプリフライトチェックが済んでなあああああああああ‼‼‼



 直後、私の意識はまばゆい光の中に溶けていったのである。


 我輩は戦闘機である。名前は…………まだない。





 私は飛んでいる。

 基本的にさっきと同じだ。モスボールされた体の筈の私が、パイロットも無しに、殆ど完璧な状態で空を飛んでいる。

 さっきと違うのは、ちゃんと空が見えて、地表が見えて、高度計も速度計も水平儀も素直になっていることだろう。大変良いことである。

 良いことである…のですが。


 いや理解できませんて!え⁉

 戦闘機の私が?機械の私が?命を持って世界を救え?

 なんと素晴らしい!素晴らしい程の中二病だよド畜生!

 あ、中二病って単語もあのジャパニーズボーイズから習ったんですよ。ああいうちょっとイターい感じのこと平然と言っちゃう人でしょ?じゃなくて!


 あぁマズイ。混乱して本格的に情緒不安定だ。どうしましょう。



 …降りますか。地上に。



 高度を下げて、何か街みたいな。少なくとも意思疎通できる存在を見つけなければ。

 人間孤独が最大の敵って言いますが、きっとそれは自我を持った機械も同じようなことでしょう。きっとそうだ。

 ああ、寂しいって、こういう気持ちのことを言うんだな。



 寂しい、寂しいかぁ…



 高度を降ろして、攻撃目標指示用のカメラで人工物の類を探す。

 私自身に対地攻撃用の装備はないが、他の近接航空支援機…A10とかA10とかA10とか…に目標を指示するための赤外線カメラぐらいは付いているのだ。

 人工物を見つけるには、これが一番だ。


 1番…なのですが。


 さっきから見下ろしている限り、この辺り、どこまでも森しかない。

 その鬱蒼と生い茂る木の下にたとえ人工物があったとして、そんなものは見えない。

 え?これ詰んでません?

 私とて、スーパークルーズ…つまり超音速巡航能力を備えた、ステルスジェット戦闘機で。その私が、これだけ飛んで、まだ森が途絶えない。

 この世界森しかないの⁉そんなこと聞いたこともない。



 私が途方に暮れ始めた、その時。



 レーダーコンタクト。


 瞬時に、私の中の、戦闘機械としての本能が目覚める。

 ウェポン、フュールチェック。不思議なことに、胴体下部のウェポンベイにはサイドワインダーとスパローが満載してあって、燃料もかなりの時間飛び続けているのに満タンのままだ。

 好都合。

 マスターアームオン。シーカーオープン。

 目標は正面。対空目標2。ドッグファイト中の航空機特有の、不規則な動き。



 つまり、戦闘中と断定。



 目標更新、ボギー2。エンゲージ。

 IFF応答なし。撃ってきた方をバンディットと判定する。


 …エンゲージ。


 アフターバーナーを点火して、最大加速。瞬間的に音速を突破した機体がソニックブームを発生させる。

 タリホー。ボギー2、機種…不明。

 というより、航空機のフォルムには見えない。羽ばたいている様に見えるが…しかし鳥にしては双方大きすぎる。


 すこし、カマをかけてみるか。


 音速のまま、不規則な運動をしている2つの物体に接近し、そのまま通過。

 その時気付いた。

 あれは航空機などではない。生き物だ。私の知る範囲では聞いたこともない、とてつもない大きさの鳥のような何か。


 そして、見た。先頭の1匹には、その首元には、ヒトが乗っている…!

 通過と同時に急上昇。尻をちらつかせて、誘ってみる。

 思った通り。後方の、人を乗せていない方が追ってきた。

 こちらに追従して上昇してこようとする。だが…



 戦闘機を舐めるな、怪物め。



 フルスロットル。アフターバーナーを全開にして、それはもうもの凄い加速でソイツを引き離すと、今度は上空でターンして急降下。一瞬のうちに、ソイツとヘッドオンの状態になる。

 ターゲット、インサイト。

 ガンズ。

 ガンレティクルの中央にソイツを捉えた瞬間、私はM61機関砲を、ソイツに向けて放った。




 ふぅ…


 戦闘終了と同時に、私は吐くこともできないのにため息をついた気分になってしまう。

 まさか、人生…いや戦闘機生?初の実戦があんな怪物相手の、しかも地球ではない空でのモノになるとは…


 ギネス貰えるかな。


 ボソッと思い浮かんだしょうもない思いつきをハードウェアの隅に追いやって、私はさっき見かけたヒト…と思えるものを乗せたもう片方の怪物を探す。

 幸い、殆ど移動していなかったようで、私の加速力を以てすれば数秒で追いつくことができた。


 追いつけた…の、だが。



 さて、問題です。

 私の目の前には例の怪物…形状からしてかの有名なドラゴンっぽい生物に乗った人間が居ます。

 そして私はソイツの速度に合わせて、真横でかなりノロノロと平行して飛んでいます。

 そのドラゴン(?)に乗った人間…たぶん女の子はこちらを怯えた目で見てきます。



 ど う や っ て コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン し ま し ょ う ?



 どうしよ、これ。そもそも私に口なんてありませんし、呼びかけられても言葉通じるか分かんないし、いやそもそもあの子味方かどうかすらわからないじゃないですか!

 っていうか今更気づきましたよ…私、焦るとなぜか敬語でモノ考える「癖」あるようです。

 て本当どうでもいいこと気付いちゃったよ!ああもおどうすりゃいいのぉ‼アイ・アム・ファイター‼ノット・ヒューマン‼

 なにか、なにか打開策はないのでしょうか⁉



 …ん?あの子、こっちに手振ってる?



 よく見れば、そのドラゴン(?)に乗った人間…少女は私に手を振りながら、何事か叫んでいるようだ。

 だが聞こえない。風切り音や、隣のドラゴンが羽ばたく音、なにより私自身のエンジン音のせいだ。

 あれ、てか私音聞くことなんてできたっけ?いや、どうでもいいや、今は。


 さて、私自身のエンジン音のせいで聞こえないとなれば、解決策は唯一つ。エンジンを、切ってみることだ。


 …すごく怖いけど、いやしかしそれしか方法がないんだしばらく滑空ぐらいできるはずだええい切ってみよう!

 すごく、ビクビクしながら、自身のエンジンを、切ってみる。

 …ファンの回転数が下がっていく音。これで、もう2度と再点火できないのではと、本気で思った。

 やがて、完全に、エンジンの灯が消える。



 同時に、ようやく聞こえてきた。少女特有の、高くて、弾むような声。



「ねー!そこの変な鳥さーん!聞こえるー⁉」



 聞こえますよー。…と言えたらどんなに楽か。

 「変な鳥さん」という正直屈辱的な呼び方はひとまず置いておいて、言葉が通じるのは予想外だった。絶対意味不明の言語で話しかけてくると思ったからだ。

 問題は、どう返答するかだが。これは案外、すんなりいけた。

 私はどうにか肯定の意を伝えたくて、エンジンを切った状態で、失速しないギリギリの動きを試す。

 具体的には、バンクを振ってみたり、思い切ってロールしてみたり程度のことだが。

 でもそれで、伝わってくれたらしい。少女は「付いてきてー!」とだけ叫んで、彼女の乗るドラゴンを軽く叩いて上昇していく。

 私はエンジンを再点火して―正直このときが一番恐ろしかった―無事点火したのを確認すると、心底安心して少女の乗るドラゴンに付いていく。

 とは言っても、繰り返すようだが私は超音速巡航ができるステルス戦闘機である。

 そして相手は正体不明なれど少なくとも生き物で、つまり私からしたらかなりノロい。


 めっちゃ追い抜きてぇ…


 そんな衝動を必死にハードウェアの隅へ押し込む。

 今ここでコンタクトをロストしたら、これから先接触の希望はない。

 そしてそれが分かるほどには、今の私には理性がある。


 かくして、私は博物館の余生を終えたと思ったら、天使を称する謎の声に追い立てられ、気づけば怪物を1匹叩き落とし、助けた(?)少女に付いてノロノロ上昇している。



 これが、私、YF-23ブラックウィドウⅡの、異世界生活のプロローグであった。


投稿ペースは遅いです。長い目で見守ってください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘機好きに嬉しいコアな機体チョイスが良いですね! 一人オモシロおかしく自問自答するYF-23が可愛い/// [気になる点] 感情描写とか素晴らしいのですが... レーダーコンタクトした…
2019/11/27 19:11 YF-23ライダー
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