もちろん、貞操。
『あー…眠い。…泊めてよ。』
「タクシーはあちらでーす」
ああ、お腹が痛い。
生理で苦しい中、付き合いで出た合コンで知り合っただけの男に、簡単に泊めると思われている事への苛立ちも相俟ってキリキリする。
金融機関に新卒入社し早5年。
仲の良い同期も、慕ってくれる後輩も、それなりのお金も手に入ってきた。
時代の要請もあり、ノルマは廃止されーー目標に追われるようになった。
そんな日々溜まる一方のストレスを、偶然にも誘われた飲み会という名の合コンで発散しようとしたのが間違いだった。
『家までは送るよ』
「近いから結構です」
『家覚えたりとか気持ち悪いことしないからさ』
ふむふむふむ。
先程、この男は言っていた。
それなりの高学歴で留学もしていたと。
そして、私は駅まで一直線かつ数分の家に住んでいるとも言った。
ちなみに言うと、この流れ5回目。
お、ま、え、は、ば、か、か。
覚える気しかないでしょうが。
というかこれで覚えなくても心配だわ。
「タクシー乗り場、わかる?」
『…えっと、』
「わかる?」
『…わかった。ここまででいいよ、ありがとう。』
強引にタクシー乗り場まで案内すると、ようやく諦めてもらえたのか解放してくれた。
「んー。やっぱ男苦手だわ。」
そういって自宅までの帰路に着いた瞬間。
線路脇の草むらから何かが飛び出してきた。
「…え、」
「……」
出てきたのは、裸の男だった。
「ひっむぐ」
「頼む!大人しくしてくれ!!」
「むごごごうぐむ!」
「わかる!俺は怪しい!しかし事情を!!!」
「むぐー!むっむっ………」
「…ありがとう…って息してない!」
恐怖のあまり、この瞬間のことは正直うろ覚えだ。
でも確かなことはひとつ。
この瞬間のことを、人は、運命が変わったというのだろう。
その場のテンションで書くと筆折れがち(体験談)。
末永く、お付き合いくださいませー。