↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/1

おとずれ

/00



ザ、ァァァ、ァ、ァァア、ァァァ、、、


……の音……が響き渡っている。

俺は二階にいて、白いシーツのベッドが横に置いてある。このベッドはセミダブルぐらいの大きさだろうか。部屋の中はなんだか暗い。まるで自分が蝋燭の光のように自分の周りだけがぼんやり見える。部屋の中には何かのシルエットは見えるのだが、それが何なのかまでは暗くてよくわからない。 

体の赴くまま、部屋を出てフローリングのような床の廊下を歩きながら、ふと思う。奇妙で身の毛のよだつ場所だなと。

廊下の先には行先の見えない階段が、ぽっくりと口を開けていた。先の方に目をやっても暗くて何も見えやしない。


コツッ、   コツッ、

冷たい廊下を歩き、鳴り響く硬い床の音。

家の照明が廊下を照らしてる。

なのに何故だろう?違和感を感じる。とても変な感じだ。

特に視界が暗闇で見えないという訳ではないのにとても薄暗い。

照明がついているのに、まるでトンネルの中にいるような気分だ。


音を立てゆっくりと階段を降りる。

一段一段確かめる足は、恐る恐る下へと伸びていった。


コツン、 コツン、コツン、コツン、 

階段を下る。



ザ、ァァァ、ァ……。 ザ、ァァァ、

ザ、ァァァ、ァ、ァァア、ァァァ、、、




ザ、ァァァ、ァ、ァァア、ァァァ、、、

音が強くなってきた。

階段を下りた先は、また廊下に着地した。当たり前だが、階段を下りた向きへと続く廊下と、階段から降りてきた方向とは逆に伸びる道があった。

音が鳴るのはこっちか……。

ともかく、階段を下りた先に続く、廊下の方角には行きたくなかったので、そっちとは逆の、音がなっている方向に歩いた。



この部屋だ。


部屋に入る前から音の鳴る正体と対面した。

ドアはない。


部屋の中はもの静かで、人がいる気配は感じられない。ただ、なんというか、不気味だ。いや、この部屋の配色がそのように見せているだけなのかもしれないが、薄暗く、何か空間が歪んだような感じの、何とも言えない視界が広がる。


目の前にはテレビが置いてある。

電源の入ったテレビが、デッキの上に乗せられて鳴っていた。

こいつが原因か。しかしなぜ、砂嵐画面の状態でつきっぱなしなのか?

スノーノイズの状態のテレビが、この静寂な部屋ではより奇妙さを演出している。


この不気味な部屋と、スノーノイズ状態のテレビを見て、とある都市伝説の話を思い出した。この状態のテレビは見てはいけないなどと言う話だ。

この話にはいろいろな語られ方があって、何かが映り込んでくると言ったものや、何かの場所が流れるというもの。はたまた死後の世界とつながっているなど。とにかくホラー話に陥ることだ。語る人がいれば十人十色。いろんなパターンの話があったが、大体霊的な、死と関する内容に結びついた内容の話ばかりだ。


俺の記憶で覚えているのは……。


ずっと見てはいけない。見ると……。 だから砂嵐状態のテレビ画面をずっと見てはいけませんよ。というようなもの。


内容はたしか……。


深夜、テレビ番組の放送がすべて終わるとスノーノイズ状態に画面が移行するが、このスノーノイズの状態をずっと見ていると突然映像が映るという。

どこの何処かも知らない廃墟の中の映像。その中を歩き回りながら徘徊している画がずっと放送される。


砂嵐状態と言えば、すべての番組が終了したことを意味する。それはつまり、ほぼ一日中働いていた局のお休みの時間な訳でもある。そのためまた、映像が始まるなんてことはまず意味がわからない。

それが朝の四時を回っていると言うのであれば仕事を開始する番組もあるだろうが、深夜帯で放送休止になってからすぐに放送を開始するのなら、はじめから砂嵐にする必要がないというものだ。

砂嵐にしなくても何かの番組で間を繋いでおけばよい話である。

それに、暗い不気味な廃墟の中を、誰が寝るまを惜しんで見たいというのであろうか。

そんな何を意図したのかわからない映像が急に流れだしたかと思うと、こんどはクラッシク音楽が流れて来るのだという。

まったく、何かを意味して流しているとは到底思えない内容だ。

しかしこの話が味を出すのはここからで、見続けていると、こちらを覗き込んだ人の顔らしきものが一瞬映るのだとか。男なのか女なのか、それは見た人によって色々な噂があった。

一瞬映った顔を見た人の中には、部屋の中に誰かいるのではないかと見渡した人もいるらしいが、誰もいなかった。

顔の色は青っぽいだの、真っ白だの言う。

ただなんにせよ、それがあの世とこちらが繋がった事を意味するらしく、その後しばらくして最後に流れるドラマのテロップのような表示が流れ出す。そこに書かれているのは名前で。

ずらずらと何人かの名前が流れてくる。それを低めの声で読み上げるアナウンサーがいて、ひたすら名前だけが刻々と読み上げられていく。名前を読み上げられ行くだけでも気持ち悪いのに。深夜帯の時間に低い、感情の無い声が永遠続いたらそれはもう悪寒が走る。

流れて来る名前は、見ている側の人には何をした人の名で、誰の名前かもわからない。そしてなぜ上がってくるのかも。

しかしそれを最後まで見続けると、解が出る。


「明日の犠牲者は――――――  以上です。」


と唐突に読み上げられ、また名前が表示されていくのだ。

つまり、ずらずらと読み上げられた名前は何らかの形でこの世を去った人の名前が挙げられていたと言う訳だ。


これが都市伝説としてに語られている内容だったはずだ。俺が記憶している内容ではこんな感じだ。

これを軸に色々形を変えた話などが出回ったりするが、これも原初の話だったのかというとどうなのだろうか。そうなのかそうでないのかはわからない。

ただ、この話で一番怖いのはそのあとの低い声での「それでは、おやすみなさい……。」といって終わるところに俺は恐怖を感じさせられた。

そう言い終わるとまた砂嵐が始まり、最後はカラーバーになって終わる。

クラッシクが静かに流れていたのに、急に砂嵐に切り替わるので、その瞬間、心臓が一瞬止まりそうになった。

感覚としてはそうだな……。まるですべてが終わったかのように、急に異空間から現実にパッと戻ってきていたような感じだ。

実際経験したような語り方だが、そうではなく。

一度だが、映像で見たことがあるのだ。

見た事がると言っても、実体験でこの都市伝説を体験したのではなく、こんな感じではなのだろうかというような形で作成された模造品をネットで見たのだ。

その時のアナウンス役の人の読み方が頗る怖かったので、今でも印象に残っている。

あんな動画見なければよかったと、今とても後悔している。おかげで寒気がする。

ま、都市伝説だ。ほとんど人の作ったものなので嘘である。信じるだけばかばかしいというもの。


そう自分に言い聞かせた。


俺はとりあえず部屋のあたりを見渡した。

普通のファミリー家族が住むような一軒家のおうちのリビング。といったところだろうか。この家の内装はすごく洋風だ。もちろん何人でここに住んでいるのかはわからない。

大体二世帯ですんでも暮らせないことはない広さだ。

今いる部屋の中には楕円形のテーブルがあり、ものが散乱してテーブルの上に乗っている。


汚いな……。


ここは食卓なのだろうか……

その奥にテレビを囲うように、ソファーが置かれている。今俺が立っているこの部屋とテレビが置いてある部屋は仕切りがなくつながった部屋だ。

でもなんだ? だれも使っていないのか? そのソファーもテーブルもなんだか少し埃っぽく感じた。

いやそれがというよりはこの部屋全体がと言ってもよい。むずむずするようで気持ち悪い、

否、気持ち悪いのはこの部屋の雰囲気だ。


奥に行くとキッチンがある。流し台の中には重なりあった食器が乱雑に置かれている。何もかもだっしぱなしだ。だらしがないのか何なのか。

そんなところまで行きたくもなかったので、食卓らしき部屋から奥のキッチンを遠目で見ていた。この場所からキッチンも眺めることができる。特に仕切りという仕切りが無いな。この家は……。

しかし、何か食べた後なのだろう。

いくつもに重ねられた食器と、倒れた茶碗やコップが流し台の場所から顔を出している。

まだ洗われた感じではない。食して置いたものなのか、何日もたっているのか。俺にはそれをじっくりと観察するような気は無かった。


そして、とりあえずこの音は止めたい。

テーブルの上に置いてあったテレビのリモコンを取る。なんだかザラザラする感触だ。触っているのが気持ち悪い。が仕方がない。それをテレビに向けた。

この場所でこの音を聞き続けるのはすごく嫌だ。

怖さの度合いがどんどん増していく。この薄暗い部屋の中で、小さな明かりと、汚いキッチンに、ぽつんと立った一台の砂嵐を映し出すブラウン管らしきテレビ。こんなのホラー映画でしか見たことがない。今にも襲いかかられるか、何かが起こる絵面しか想像できない。

テレビを消そうとリモコンのボタンに人差し指がかかったが、思いとどまるように少し考えた。精神がそれは危険かもしれないと対話してきたからだ。

いや、静寂もまたこの場では恐怖である。そう判断した。それならば何か明るい番組を探して気分を変えよう。

今さっき自分が押そうとしてたボタンから指を除け、違うボタンを押した。


この時間何がやっているのだろう?

なんでもいい。とにかく砂嵐でない、何かが映れば、

何度かチャンネルを変えた。


……です。 昨夜〇〇市の自宅で女性の変死体が見つかりました。

亡くなったのは近藤、由利さん 25歳で 自宅の床に倒れるような形で亡くなっているのが見つかりました。遺体には複数の打撲と痣があり、首には刃物のような物で裂かれたような跡、手足と腰が逆向きに曲がった状態で発見されました。被害者は特にもがいたような形跡もなく、倒れており、

警察によると、亡くなった遺体から、殺人の可能性として調査を行うとのことですが、今だ犯人と思われる人物が残した痕跡は何も見つかっておらず、これまで起こった事件と経常が似ている為、変死体の事件と関連があるとして調査が進められています。


続いてのニュースです。

先週暑い日差しが続く中、……、


軽快な音楽が鳴る。


またか。

このニュースは知っている。迷宮入りの未解決凶悪殺人事件だ。よくニュース番組をつけると1か月に何度かこの内容のニュースを聞く。

犯人も痕跡もわからず、どうすればこんなエグイ死に方になるのかというような形で死体が発見されるやつだ。実際に死体を見た訳ではないが、殺害後の報道内容を聞いているとほんとに酷いものばかりで、未だ何ら解決しない変死体事件だ。俺の町の近くでよく起こっている事件。

奇異でなんの痕跡も見つからず手掛りすらないらしい。すべての変死体事件は同一犯として捜査が行われているが、もう何か月もこの犯人は捕まっていない。そして大規模なニュースに、なっているのにこの犯人は殺害を止めない。楽しんでいるのか、復讐心からこその殺し方なのか……。

このことから犯人は一人では無いのかもしれない。 組織ぐるみの大規模なものであるとか。であるなら、何故なんの突飛圧しもない一般人でさえ殺しの対象になっているのか、謎になってはくるが――――――。




ニュースの内容を想像したからか、なんだか身の毛がよだった。

何か異様で気持ちが悪い。 自分の知らない場所だからなのか、ここから早く抜け出したい。



もういいからここから抜け出そう。

玄関も探さなくてはならない。

そもそも廊下はまだまだ続いてそうだったしこの広い家の何処にいるのかもわかっていないのだから。

だからってこの家の隅々まで歩き回りたくはない。 目的は家の構造を知ることではない。この家からの脱出だ。



俺はテレビのリモコンの左上の一番端にある赤い円形のボタンを押した。


プチーンー。



音を立ててテレビ画面は消えた。 


静寂がそこにあった。

画面が暗くなった瞬間―――。


アレッ? おかしい。



 テレビの黒い画面には二人の人物が写っている。


一人は自分だと分かるのだが、もう一人は誰だ??


見てすぐわかる。自分とは違う姿。

赤いモワモワした毛。 真っ白な顔の真ん中に赤い鼻。なんだか真っ赤に染まっているような、汚れた服。 

その特徴は、はっきりとわかる。

手には……。

何か持っている? 視線はじっと、こちらを見ているようだ。 まるで獲物を見るような視線を送っているように見える。

テレビに映っているそれはじっとこちらを見ていた。不敵な笑みをしながら。


ここには俺一人でテレビを見ていなかったけ?いつからそいつはそこにいた?



俺は急いで振りかっえった。


真っ白顔の赤鼻は手に持っていた物を振り上げ一気に振り下ろしてきた。


俺は人間の反射心理からか、振り向いた体勢から素早く頭を守るように両手を前に出して、自分の視界を塞いでいた。 

ごとんっと鈍い音がする。


脳にすごい振動が走った。



生ぬるい液体が飛び散っている。赤い、赤い液体が血しぶきをあげて床に広がっていくのが見えた。目の前が真っ黒になっていて、目が霞んでくる

俺と倒れている?


なんだろう……。 体の自由が効かない。

俺の目はまだ開いていたが、どんどん視界が暗くなって闇に覆われようとしている。端っこからじわじわじわじわ視界が狭まっていく。

困る。こんなところで視野が無くなってしまったら、さっきのやつに好き放題に駆られてしまう。

目を開けているはずなのに、勝手に視界が縮こまっていく。


なんでだ?嫌だ、いやだ、いやだ。

こんなの嫌だ。

なんで、……。 何で―――。



もう視野は真っ直ぐ中心ぐらいしか見えなくなっている。その小さく小さくなった視界の中を覗き込むようにこちらを見てくる、もじゃもじゃ髪の赤鼻。

そいつは手を伸ばしてくると、床に転がっているビー玉が見ている様な視界から一気に視界の高さが上がる、覗き込んでくるそいつの不適の笑みを最後に俺の視界が消えた。




/01



鳥の囀りが聞こえてくる。


とても明るい日差しが窓の隙間から漏れてくる。


俺は目を覚ましベッドから身を起こした。下からは香ばしい匂いが漂ってくる。

また朝が来たらしい。 起きて行かなければならない。また目を閉じてしまったら遅れてしまうから。頑張って起きよう。

時計を見ればもう7時を回ろうとしていた

急いで学生服に着替えると俺は足早に部屋を出た。まだ体の疲れが残っている。どうやら俺の体が休まるには十分の睡眠ではなかったらしい。



廊下を出てすぐ突き当りのリビングに行くと目玉焼きとウインナー。そして食パンが二枚。テーブルの上に準備されていた。横には、透明のガラスのコップが下向けに伏せてある。真ん中にどんと置いてある牛乳パックが目についた。冷蔵庫から取り出されて少し経ったのだろう、沢山霜が牛乳パックの周りについていた。冷えていておいいそうだ。朝ごはんはとても栄養満点なメニューである。

寝ぼけた顔で洗面所に向かい、歯を磨いて、髪の毛を触る。

鏡の前に立つ、間抜け面の青年を目にして、心に語り掛ける。



―――――― 朝起きるのが辛い。



頬を両手で後ろ側に引っ張りながら見つめた。


起きるのが辛すぎるので、自分の体に何か異常をきたしているのではないか?

そう相談の意を込めてぼやいたことがある。父にも母にも。皆は、それは若いからだ。と、それで当たり前のように足らわれた。

小さい頃はあまり眠さなど感じず、夜遅くまではしゃいでいても、朝には何の疲れも無かったようにしゃきっとして動いていたのに、何故こうなってしまったのか。寝ても、寝ても、朝起きるのが辛いのだ。ここ最近眠りでも浅いのだろうか……。

鏡の前に立つとどうも自分の事について考えてしまう。


―――――― あぁ、やめよう。こんなことをしてる場合じゃない。はやく美味しそうなご飯を食べて出ていかないと遅れてしまう。

しゃっきと気合を入れて引っ張っていた頬を両手で軽く叩いて戻った。


用意されていた朝ごはんを、閉じようとする瞼と戦いながら食べて家を出た。


ここから学校までは自転車の通学になる。

駐車場の脇に止めていある俺の愛車。シートを外してそれをたたむ。

このシートは雨除けだ。自転車がすっぽりと覆える。

自転車置き場にも雨除けの屋根はついているのだが、横に壁は無いのですべて防げる構造にはない。

シートをかけているのだから水に濡らしたくないような高級な乗り物かと言うとそうでもない。ただ、両親が高いお金を払って買ってくれたものだ。無下にできるモノでもないものだ。

それに、このシートは昔、台風が来た時に、一応の為に買って被せていたもので、それ以来雨が降るとわかっている日は被せるのようにしているだけ。


昨日の豪雨のおかげか今日はとても快晴の朝だ。


日差しの照った心地の良い風に押されて、自転車にまたがり颯爽と走らせる。


しばらく道を走らせると、出るは出るは、道行く人。

すれ違う生徒たち。

そっと背中を押してくれる風のおかげか、歩いている生徒たちをどんどんと追抜いていった。

別に急いでいた訳ではないけど、こっちは自転車だし、他は徒歩だ。追抜いてしまうのは仕方がない。 それに、何故か乗り物に乗ると少しスピードを出したくなる。 

もちろん少しだけだ。

風を斬って走っている感覚が気持ちがいい。この疾走感が清々しい朝にはとてもいい刺激になる。



「おい!ちょっと待てよぉ!」


突然後ろから呼ぶ声が飛んできた。


俺は呼び止められた声に止まった。

この声は――――――。

俺の友達の友野の声だ。間違えない。


こいつとはよくこの道を一緒に通学してる。ふざけ合えるばか友達といっていい仲だ。

ここの道に出る前に、歩道橋のかかっている広い道路がある。こいつとはその広い道に出る手前の道路で合流していることが多いのだが、今日はその道を通り越しても合わなかった為、一人で登校しようと思っていた。大体いつも友野の方が先に来ていて俺を待っている事が多い。てか、何故か友野は俺を待っていてくれるな……。

だから一緒に通学しようとブレーキをかけたのが間違いだった。

後ろから自転車が勢いよく迫って来ていて、ちょうど俺が止まった瞬間、後ろから来ていた自転車とぶつかった。

そのまま少しタイヤに引かれてから、それはまるで糸が絡まるように、俺と後ろのやつと、自転車とがぐしゃぐしゃにからみあって転がっていった。


ガシャ、ガシャ、ゴトゴトゴトッ。


酷い音である。


いってぇぇぇー



俺はすぐさま頭を押さえた。そのまましばらく倒れこんで頭の痛みと戦った後、ゆくっりと体を起こした。

後ろのやつも倒れて腰を押さえている。


「大丈夫か?」


そっと自転車の上から手を差し伸べてくるやつがいる。


親友の手だ。 



「ありがとう」

そういって俺はその手を掴み返した。 


「にしても、気をつけろよなぁ」

友野が俺を心配していた。


「悪ぃ」


「大体自転車乗ってて急に止まるなよ!」


止まったのは誰のせいだ!


俺はさすがにそこは言い返したかったが、そんな言葉を出すよりも先に〈痛い〉が口を塞いでいた為言うタイミングを逃した。



そこに倒れているぶつかった生徒は大丈夫だろうか?なんともなければいいのだが。

いやあの衝撃でなんともなかった方がすごいが、見るからに華奢なその体は脆く、少しの衝撃で壊れてしまいそうな程に細い。

なんともなかって欲しいと思いながらぶつかった生徒を起こしに行くと、俺はすぐさま誤った。

向こうはこちらをすごく痛々そうに見ていた。

こっちも飛ばしすぎてたから。 ごめんね。 とお互い和解し合い、事なきを得た。

そう言うなり颯爽と自転車を起こして華奢なあの子は、足早に去って行ってしまった。

それにしてもキレイな人だったな。

真っ直ぐな目をしていて、瞳に吸い込まれそうになった。しかし何かを抱えている様な……、表情に少し心配を覚えた。


自転車を起こし、去っていく彼女の姿に見惚れるように、その背中を見送った。


ふと意識が自分に向く。何をしているんだ俺は。ストーカーでも、彼女のファンでもあるまいし。時を忘れて見惚れるなんて。俺に限ってそんなに人を目で追うことはないと思っていた。

まして、初対面の女性に対して。女性に興味がないと言っているわけではない。むしろ男性と女性と、どちらが恋愛対象かと聞かれれば間違いなく女性である。だけど、あまり人自体を良いと思っていない俺に対しては全く関わりのない他人はただの人という生き物であり、皆一緒のようにしか見えていない。いや、この言い方は少し違うな、他人の一つ一つをいちいちしっかり見て判別しようとまではしないというのが正解か。

とにかく興味がないのだ。しかし親しくなるとまた話は別。その人の事をしっかりと理解しようとする。多分仲良くするのにその人と他人との違いが把握できていないと、区別がつかなくなってしまうから、生きていく上で必要なことを行っているのだと思う。

知り合いが近づいてきても、相手の形と他人との違いがわかってなければ、名前も覚えないだろう。個体の違いが判っているからこそ初めて他人ではなく、○○と名のついた誰々だと、自分で理解できる。


その人の形から髪の色、考え方や、好き嫌い。

そうして知れば知るほど、その人に魅かれていき、好いていく。

なのに初対面で、いきなり彼女を見た瞬間俺は、彼女と他の人との違いを探した。彼女の目の形、口元、瞳、髪形。彼女を知ろうと求めるように。



俺は混乱しているであろう頭をリセットする為に大きな深呼吸をゆくっりと行った


すう――――――、    はぁ――――――。


さて学校へ行くか。

「おい、お前大丈夫か?」

血相を掻いた様な声で友野が問う。


「なに言ってんだよ。どんだけ心配性なんだよ?大丈夫だって」

あまりにも俺が我を忘れて立っていたせいでか、心配しているのだろうか?本当に心配性な奴だ。まぁ、それがこいつの良いところでもあるが。

どれだけ神経質なんだよと、笑いながら言い返した。確かに絡まって転げていったときはすごい衝撃に、俺もビックリはしたが。

「いや、腕だよ腕。 その血」


友野はすぐさま言い返して来た。


腕?


俺は自分の腕に目を当てると腕の部分の白いカッターシャツが赤一面に染まっていたことに気づいた。

なんだこれ? さっきの衝撃でできたのだろうか?



「それ、出すぎじゃないか?」

だいぶひきつった顔の友野がチャリの上から見つめる。

確かにそうだ。 血が出すぎてる。 カッターシャツが赤にべったり染まるほどだぞ。いったいどんなエグれ方しているんだ、とシャツをめくって傷口を露わにしてみた。

すると鋭く、とても深い一本の切列がそこにはあった。

それはそれは、キレイなとても真っ直ぐな直線。スケートリングで滑った時にできる後の一本の線のように深く刻まれていた。

傷口はこの一つだけか?俺はこの血の量がここ一つから出ているには多すぎるのではないかと他もさらっと見てみたが、特にこれと言って傷口は見当たらなかった。

いや、それにしてもやばい。 今にも縫ったほうがいいのではないのかという傷口に不安を抱いた。

「なぁ、その傷縫ったほうがよくないのか?」

友野が心配そうにしている。



確かに、やばそうには見えるが、俺の体はあまり痛みなども感じていないし、出血多量になるというような体からの信号も感じてはいなかった。


「とりあえず、学校へ行こう。 特に痛みとかもないし。大丈夫だろう。そんな大袈裟なものでもないよ。」

そう答えて。自転車を起こした。


「そうか、なんともないならいいが、とりあえず着いたら保健室だな。俺は登板だから着いたらすぐ、職員室に行ってくるわ。」


そうだな、一応学校には怪我などを見てくれる先生もいるのだから、その人がいる場所、とりあえず着いてたら保健室へ向かおう。


そう言って俺たちは自転車をこぎ始めた。

登校途中、サイレンを鳴らすパトカーが横を通り過ぎた。あれは何かを追っているのかそんな感じの警察車両だった。

相当急いでいるらしい。 

俺たちもそれぐらい急いで学校に向かった。


何とか余裕がある時間に着くことができた。 校門から見える時計を見る。まだ大丈夫。これだけ時間があれば朝礼が始まるまでに十分保健室によることができる。


自転車を降り駐輪場へ向かう。

自転車を止める定位置は大体決めている。大きく立派な木の枝が伸びたこの場所。ここはちょうど駐輪所のそばまで枝を伸ばしていて、暑い日差しを遮ってくれる。最高の止め場所だ。

自転車も日陰のおかげで太陽の熱から守られ劣化も少なからずはマシになっているはずじゃないかな。


そう思って、空いていればいつもここに止めている。

今日は賑やかだ。木の枝に鳥が止まっているらしい。 昨日の一日雨のおかげで今日は好天だ。小鳥も羽を伸ばせてうれしいのだろう。

太陽の日差しを浴びながら木陰からは小鳥の囀り、清々しい朝をまじまじと感じていると、上から何やら異様なモノが落ちてきた。

白いどろろっとした物体。真ん中には黒っぽいような濃い抹茶色の混ざったものがある。しかもそれは俺のちょうど足元横をかすめて飛び散った。

やわらかい物体なのでそれはぴちゃと鈍い音をたてて地面に叩きつけられたのだ。

とても汚いものなのでそれに触れたくなかった俺は、第二波が来る。そう予知してすぐさまそこから離れた。それが功をなしてか、俺の肩にそれが乗っかた。

最悪だ。


はぁ―――――――。


しばらく目を棒にして、肩に乗った物体を見つめた。

……これは、まだあるな。

友野は日直の仕事がある。だから、別の場所に自転車を止めて先に行ってしまった。


とりあえず、手で払って保健室を目指した。


俺の予想は的中した。

案の定いつもいるはずの保健室の先生はおらず、ドアの前には張り紙が貼られていた。

まぁ何となく予想はしていた。というより、予知に近いのか、鳥のフンが当たってから保健室の先生はいないのだろうと感じとっている自分がいた。


『申し訳ございません。先生は今が外出しております。用のある方はまた来てください。』


いつもはいるというのに、ケガをした今日という日に限って外出とは一体全体なんて日だ。



もういい、保健室は後回しにして、先に手洗い場に向かい肩を洗った。職員室に行けば簡単な心配はしてもらえるかもしれないが、こんな姿を沢山の人に見られるのはごめんだ。晒すなら保健室の先生一人で十分。

何とか白い物体は取れたが。


……見るからに制服が汚い。

朝から本当にやってくれる。 


右肩は赤く染まり、左肩はなぜか雨が降ったかのようにずぶ濡れ。なんとも珍妙な姿がそこにあった。おまけに胸のあたりには黒いタイヤの擦れた跡。制服は擦れて汚れていた。

教室に入れば笑いの的だ。友野も笑ってこちらに近づいてくる。どうしたその恰好は?さっきより酷いぞ。と言わんばかりに大笑いだった。

友野、お前、覚えとけよ。 なぜか友野に怒りの矛先を向けてしまっていた。事を知っているだけにmあいつに笑われるのは何となく癪だ。


保健室には昼間空いた時間を見計らっていってきた。どうやら相当深い傷のようで、すぐにでも縫いに行った方がいよいと病院を進められた。

「何かの鋭い刃物で切ったの? 何してたの?」

保険の先生は驚いていた。俺は刃物で切ったのではないと、今日の内容を話した。鳥の丸っこいのからすべてだ。

先生は傷口の深刻さから、緊張しきったこの場を和まそうと、俺の話に笑ってくれていた。そして優しい笑顔をしながらこう言った。

「さ、病院へこれからいこう。準備してくれる。」

それは今すぐに病院へ行って、縫いましょうとのこと。


嫌だ。



俺は縫うのが嫌だったため頑なに断って、大急処置だけしてもらえればいいと言った。

先生は傷口の深さから縫わなければいけないと深刻そうな表情で俺に訴えてきたが、何とか硬くなに押し切って応急処置をしてもらった。帰ったら病院に自分で行くよう約束をさせられたが。


大急処置とはいっても、消毒液で部位を消毒し、切り傷を繋ぎ留めるように止める小さい綿棒のような形をしたテープを、3枚ほど貼ってもらって包帯を巻いてもらった。保健室で出来るのはこれが限界だった。

どこでどう、そして何で切ったのか?と先生も真剣な顔で質問してきた。形相を変えて先生が聞いてきたのは仕方がない。

この町は今事件が多発している。どこでどう殺されたかもわからない死体、変死体事件が続いているのだ。未だに犯人も見つからないままもう十数年だ。

この切り傷はとても深く切れていたのだろう、事件に巻き込まれたのではないかと心配してくれていた様子がうかがえた。


本当に優しい先生だ。保健の先生といえばこの人には本当に適任のように、生徒と接してくれる。


部屋を出るとき、先生からは必ず帰ったらすぐに病院に行って縫ってもらうように念押しされた。ちゃんと処方をほどかさないとその傷口からいろんな病気に繋がらいとも限らない。黴菌が入って壊死でもしたら大変だからと。

俺は知識として深く刻んでおくことにした。


少し休みたい。帰ってきた俺は教室の自分の机に座り、左手を枕にして、ぐったりともたれかかるように体を倒した。

体を、脳を休める為、少し目をつぶる。

ここ最近とても悩まされていて疲れている。休める暇がないように。 自分の周りでとても不可解な事や不幸なことが何故かずっと続いているのだ。

些細な事から大きなことまで色々と巻き込まれている気がする。 朝学校に来るだけでここまで忙しくなるのだ。これからも何かが起きると思うと正直休みたい。

前もクラスメイトのカバンがあさられたことがあり、事件の主犯になったことがある。たまたま教室にいたのが自分だけだったということで俺が疑われた。どうやら夕方に誰かがその子のカバンをあさり、体操服を奪い去ったという何ともなものなのだが。

あれは、本当に大変だった。ちゃんとやってないと発言はしたが、それが余計に誇張したように聞こえたらしい。クラスの敵となり、鋭い眼光をしばらくの間至るところから向けられることになった。


時には頭の上から花瓶が落ちてくるなんて事もあった。もう少しずれていたら死んでいたかもしれない。

はたまた帰りにトラックの積み荷が俺の方に倒れてきて、重いパイプたちの下敷きになったこともある。

何故なのかは、まったくわからない。そして今一番強烈にきているのが『彼女』の事だ。俺には彼女がいるのだが、その彼女ともうまくいかなくなってしまっている。とても大切な彼女だ。


はぁ。――――――それもこれもすべてあれが来てから始まった。 


「おいっ!」

そう言って肩を叩かれた。人が休んでいるというのに。猛烈な勢いが肩を襲った。 痛かったので振り返るとそこに友野がいた。

人を起こすには強すぎる威力だ。俺は痛みだす傷口に思わず手を当てていた。


傷口を思い出してか俺の反応を見た友野はしまったという形相で誤ってきた。 

気を付けろよボケ



それはさておき、と言わんばかりに友野はからかって俺に質問してきた。


「ところで最近視線は感じるのか?」


楽しそうにまるで俺の言っている事を幻想事だと思って信じていない。


そう、これも今俺を悩ませている悩みの種の一つだ。

というかこれも結構効いている

後ろの方から何やら、不気味な視線を感じるのだ。どうもとてもよくないような感じの視線で、それに怯えていた俺は友野に相談を持ち掛けていた。

しかし今朝からはまだその視線は感じていない。

友野にはまだ大丈夫だと返しておいた。

というのは嘘で、実は自転車から降りて校舎に入っていく時に、その視線を感じてはいた。ただ、急いではいたので気にしないようにはしていたのだが。

この根源も突き止め解決しなければといろいろ頭を悩ませる。



ふと顔の向きを変え、彼女の方を見る。 クラスの友達たちと楽しそうに話している彼女。

はーっとため息をついてまた友野とたわいもないない話に耽けた。



こちらを見つめる鋭い視線を感じながら。





/02





下校時間が過ぎ、家に帰宅する時間だ。もちろん帰宅途中は友野と一緒だ。 

帰り際に警察車両とすれ違った。きっとまた事件なんだろう。 何台も連なって急ぐ警察車両のサイレンは、走る車すべてに道を開けろと言わんばかりに大きく鳴り響いていた。

この道は二車線になっている大通りの為、比較的車も警察車両に道を譲りやすい。 交通整備され、車が走りやすくなった道路だ。歩道はより安全に大きくゆったりと幅がとられた。

緑を増やし町全体を明るくする為大規模な都市開発がだいぶ前に行われたのだ。


それもこれもこの町には事件が多発しすぎたおかげなのだろう。

きっと今走っていた車両が変死体事件を追っているのだとしたら、結果は何の進展もないのだろう。 わかりきった事だ。これまでと同じ。何にもわからないままただ死体だけが上がってくる。

証拠はわからない、犯人と警察のいたちごっこの繰り返しだ。この町ではこの事件はこれで幕は閉じないが、これ以上は決して解決しない。

こうしてこの町では日常茶飯事のようにパトカーが巡回している。どこにあるかもわからない手掛りを求めて。

おかげで事故や一部の犯罪も減って、安全運転にも努める人が増えるというものだ。

まぁ、このパトカーが変死体事件で走っているのか、はたまた逃走犯等を追っている別事件のものか、スピード違反などの違反者を追いかけているのか俺にはどうでもいいことなのだが。

慌て走るパトカーを横目にそのまま俺たちは家を目指した。 

大通りを抜け、ちょっと走った道の先に十字路があるが友野の家と俺の家はその十字路を境に分岐する。

手を振り別れたら家はもうすぐだ。そのまま道なりに家を目指した。 



ただいまーと言いながら重い足を上げて靴を脱いだ。玄関の敷居を跨ぐと少し肩の荷が下りるような、ちょっとだけ力を抜いていい場所に帰れて気が安らいだ。

家に帰ると奥から声が聞こえてくる。これはニュースかな。そうしてキッチンでは、うちの母親が手慣れたように晩御飯の支度をしていた。ジューッという音と香ばしい匂いがしている。家の母こだわりのオリーブオイルを使っているのだろう。家の母は結構食材などにうるさく、こだわっている。今は特に油製品に目が入ってるらしく。体に良いモノをと真摯にいつも考えていくれているいい母だ。

ニュースはというと、四季折々の食べ物特集が流れていた。夕飯時にはとても適している内容だった。今日の特集は旬の魚料理らしく、あれやこれやと美味しそうに魚料理が出てくる。映し出された映像は色鮮やかで見栄えが良く、食欲がそそる。

まぁそれほどまで見たい内容とは思わなかったので、荷物を片付けに行った。玄関に続く一本の短い廊下に出て、右の扉を開ける。

さて、部屋には来たものの何をしようか、と思いながら手に持った鞄を机の横に置く。ズボンのポケットからスマホを取り出すと、机横のベッドに横たわった。

スマートフォンを触りながら届いたメッセージに返信を返していく。

今流行のLINEというアプリ。これをスマートフォンという電話にダウンロードして使うものなのだが。なかなか便利なもので、今世の中の大半殆どが使っている。

便利になった。

今までは持ち運べる携帯電話という物が主流だったのに。今は取って代わられている。

そして携帯電話を使う者はほぼいなくなった。というものだから悲しいものだ。携帯電話でも十分だと思うほどの性能を有していたのに。携帯電話は持ち運べる小さな電話というものでとても人気が出た代物なのだが、電話だけでなく、メールや写真、音楽まで聴けると来て世界を圧巻した。

ご丁寧に分厚い説明書一式もついてきてとても活躍した。

今では説明書もついてこない、タッチ式の電話に役割を剥奪され、本当に持ち運び電話としてのみ、ビジネスなどの一部で使われている。人間の進歩とは怖いものだ。

この現象は人間にもよく起こっている。アイドルや芸能人がこれに充てられる。流行という流れに消されては、また新しい芸人が人気のスポットライトを浴びる。これは学生が作っているといっても過言ではないのだろうか。学生は特に流行の移り変わりが激しい。新しいものが出ればすぐにそれは消される対象になりかねない。人々の記憶からも。学生とは、ある意味で一種のものの人生を握っているのかもしれない……。そういう意味では組織ぐるみの世界のドンだ。


一通り返信を返し終えたので、気になっていた彼女とのメッセージ画面を覘いた。  

はぁ。やっぱりだ。まだ既読がついていない。

相手がメッセージを見ると、確認した印として既読という文字がつくようになっているアプリなのだが、まだそれがつかない。もう4日も前に送ったはずの文面なのに。

それ以前の分はいつに開いたのか、どうやら既読の印がついてる。どこかの日にちで見ていたのだろう。

彼女がいつ見ているのか、忙しい時間帯の把握もできない。何故なら彼女からの返信は日が空くほど遅い、というより

―――――返ってこないのいのだから。 いくらメッセージを送っても。これはなかなか辛い。カップルらしいやり取りもほとんどしていない。画面を見ているとこちらの文がずらっと並んでいるだけ。胸が締め付けられたように心が沈む。

ああぁ。なんなんだ。もう。胸のイラ立ちが収まらない。 なんなんだよもう。

そもそも事の発端が何で、どうして彼女がそのような反応になったのか見当もついていない。

何に怒っているのか。はたまた面倒臭くなったのか、呆れているのか、俺のことが嫌いになったのか……

あぁ、考えただけでどんどんマイナスな事しか出てこない。

俺は彼女の事が大好きだ。 今でも。いや、そう思いたい。

小柄で笑顔が素敵で誰にでも気さくで優しく接する、人気者な彼女。

か弱そうな一面ながら頑張り屋さんで、努力している姿を見るとどうしてもほっておけない。危なっかしい一面もある子だ。

俺はスマートフォン、略称スマホの中にある彼女との写真を表示させた。

手入れがしっかりとされて綺麗に伸びた細い黒髪に、チャームポイントの大きなリボンの赤いカチューシャをほぼしている。これは昔俺が上げたカチューシャだ。毎日のようにつけては見せてくれる。俺はそれがとてもうれしかった。

これは帰りに町に遊びに行った時の写真だ。

細くきりっとした大きな目で。その目はいつも楽しそうに、そして優しい眼差しで人を見ている子だ。口角の上がった口はいつも人を和ませていて、いつも笑顔だった。

口数は必要な事を答えるほどで、あまり多い方ではないと思うが。

元気よくじゃじゃ馬のように騒ぐような子ではなく御淑やかさが勝っていると言う感じの子だろう。とても明るい子。成績も優秀で進学は有名大学を推薦されている。

―――――― 俺が彼女と同じ大学に行けるのかは別の問題として。

 とにかく、教室に入ってくれば殆どの生徒が振り返るだろうほどの容姿端麗美人だと思うところは間違いない。

そんなに人に優しい彼女がどうして。あそこまで変わってしまったのか不思議で仕方がない……。

ペラペラと彼女との思い出の写真に回顧する。


とりあえず、横になりながらLINEを送ってみた。 文面は……。

今大丈夫?と少し意味あり様に返信が来やすそうな文面にしてみたのだが。 既読にならない。 そりゃまぁ、そうだよな……。今送ったばかりなのだから。彼女がスマホを現時点で見ているとも限らない。何してるかもわからないんだから……。

しかし、


ん―――。


――――――。



気になって、いつ既読になるのか、画面から目が離せない。

……だめだ。だめだ。やめよう。とりあえず、時間が持ったいない。 二十分ぐらい足を組みながらスマホを天井に持ち上げ見ていた。この体勢はもう手が痛い。

起き上がって机に向かう。読書でもしよう。 もうじきご飯だろうし。 スマホは、そうだな、またお風呂に入り終わったころにでも見てみようか。スマホは机の上に置いて本を開いた。もちろん画面は上に向けて。

実は彼女は別の男と付き合っているのではないかと俺は思っている。 なぜかと言うと、偶然男の影を見たからだ。あれはいつだったか、帰りにたまたま彼女を見つけてしまったのでそのまま少し追いかけたのだが。

 決してストーカーをしたわけではないが、好奇心というか、何もわからない彼女の現状を知りたかったから。ちょっとだけ後を追った。すると楽しそうに話しながら、待ち合わせていたらしき人物と去っていた。 さすがにそれ以降を追いかけるのは止めることにしたが……。

あまりにもプライベートをこのまま覗き込むのもどうかと思って。

ただとても楽しそうというか、幸せそうな表情だったのがすごく辛かった。だから彼女の事を余計に気にかけてしまう俺がいるのかもしれない。

しかもその男と会うのは、その一回ではなかった。何度かあっているのを見てしまっている。いつも幸せそうに手をつないだり、抱き付いたり、見る度、とても心が痛くて悩んだ。まるで小さな箱の中に大きな心臓を押し込めれたように。


それを今もほったらかしているからきっと辛いままなのだろう。 早く小さな箱に詰められてしまった心臓を取り出したい。

これは解決しなければならない問題だ。

でも、どうしたらいいのか。内心わからないままでいる。

別に見て見ぬふりをきめている訳ではない。ただどう動いたらいいのかわからないのだ。解がでないのである。自分がどのような行動を執るべきなのか。まったく体験のしたことのない出来事に対応しきれていない。

それは、彼女を失いたくないからか?失敗することを、選択を選ぶことを恐れているのだろうか?彼女への想いがそうさせるている?

しかし今のままでも何も変わらない。むしろこのことから逃げているだけでは、彼女の方からきっと去って行くことは予想がつく。

そうなって欲しくはない。

だから動かなくてはならない。

でも、もう向こうが俺の事をなんとも思っていないとしたら、俺はどうしたらいい?

それでも解を知らなければならないのだろう。きっと。

それはとても恐怖だ。


だけどこのままではいられない。 解決しなければと心が思う。

そして、この後の事をふと思った。 

―――――― まだまだ解決しないといけないことがあるな。 


ふと机の下についている引き出しに目をやる。あれもこれもすべて、コレから始まった気がする。



「○○~ご飯できたわよ~。」

優しく母の呼び声が届く。 もうか、と読もうと開いた本を閉じた。 結局のところ本は一ページも進まず閉じられた。 悩みが多いと、ろくに何も手がつけられない。

考え事が多くなる。 これもまた悩みか……

ふと時計を見る。はぁ、もう夜が来た。 夜は来てほしくない。

部屋を出るついでに本を片付けよう。びっしりと並んだ本の間に掻き分けながら本を差し込む。

もうお腹がペコペコだ。 部屋の電気をしっかり消して自室を後にした。








/03

ご飯も食べ終わり、お腹も満たされた。しかっりお風呂にも入って体を綺麗に流した。とても気持ちの良いお風呂だった。そのあとはソファに寝そべりリビングでテレビを見ても良かったが、とりあえず自分の部屋に戻ってくることにした。

あまりダラダラしている姿を見られたくはなかったからだ。たとえ肉親である親の前であっても。

特にどうしてと言う訳もないがやはりいいものではないと思ってしまう。というより、人の目があると逆に落ち着かない。

ゆったりするなら人のいない一人のところが適している。

 親父も疲れて帰って来て、自分の時間をゆったり過ごしたいだろうし。リビングは親に使ってもらおう。

俺の部屋にはテレビは無いので、見るにはリビングで見るしかないが、特に見たいテレビ番組もない。

今日の復習でもするか。



―――――――。



さて、明日の支度も終えてしまったし、一通り予習も済ませた。この後はどうしようか、


時計を見上げると時刻はもう1時を回っていた。 もうじき丑三つ時を向かえる時間だ。

夜は嫌だ。眠ってしまうから。 おかげでゆっくり眠りにつけた日がここ無い。だから眠らないようにしなくては。

眠ってしまったら。またアレが訪れる。きっと。


そうだ、俺は気が付いたようにスマホを手にした。 さっき送った返事帰ってきているだろうか?

机の上に置いたスマホに手を伸ばす。 少し来ていることに期待して画面の電源を入れる。 


特に通知は来ていなかった。 わかってはいたが、期待を裏切られたような溜息が出るほ。ショックが走った。

だが、もしかすると通知が表示されていなかっただけなのかもしれない。

LINEを起動してみたが、やはり既読にすらなってはいなかった。


―――――――― はぁ、



落ち込みのあまりベッドにダイブするように横たわった。やはり今日もこないのか、返事。

ふぅー、どうしたものか。 まぁ、いつも来ていないのだから、今日に限ってくるわけないか。

ただ、たまに、ほんと極稀に返事が返ってくるときはあったので、期待してしまっていたところはあるが、期待しすぎた。

会話をしに行ったところでまともに話してはくれず、いつもはぐらかされる。作り物の笑顔を被って相手にしようとしない彼女。

女子とは怖い生き物だ。 

どうするべきか考えていると、色々彼女との楽しかった日々の思い出が頭の中を駆け巡ってきた。デートに行った映画館での彼女。

学校からの帰り道にいつも遊びにっていた時の思い出。あの時は二人で大笑いしていた思い出が強い。 

二人で頑張った勉強会もあったな。

仰向けに寝ながら額に当てていた腕が、いつのまにか下に下がり、目に覆いかぶさっていた。

考え事をする時は真っ暗の状態の方が何故だか考えやすく好きみたいだ。

部屋は照明で照らされていたので、本能的なところで無心に真っ暗な状態を作ろうとしたのだろう。

目を閉じ、その上を腕で覆って、瞼の薄い皮膚から抜け入る光を遮断していた。




―――――――――――




気が付くと外にいた。 不気味な森の中だ。見渡す限り木が生い茂っていて、外は真っ暗。真夜中のようだとわかるのに、何か色が変だ。

赤?オレンジ?それに緑?そのような色がいくつも交わるように視界にかかる。もわもわとしたそんな視界。普通とは違う。

なのにそれが全く気にならず、まるで普通の日常のように、俺は不快に思うことはなくそれを受け入れていた。

それがおかしいともわない。それで正しい事のように気にも留めていなかった。

足が軽い。とことこと森の中を歩いていく。そもそもここが森なのか、林の中なのかもわからない。ただただ不気味なだけだ。


道もどこに続いているのか?

一本に伸びるだけの道。これを道と呼んでも良いのか、ただ、この一本真っ直ぐに続く道だけには、木々が生えていなく、行く先も真っ暗でしかない。

整備もされていない、まるで傾斜のない山道を直線で歩いてる間隔だ。


横の草が揺れる。 


ガサガサガサ。


何かが通った?よくはわからないが何かがいる。 

まったく視界の悪い時に、何匹もいるような草の擦れる音。 獣か?イノシシ?いや、音的には何か衝動物、 ウサギや、いや、それ以上に小さい。

リスや、ネズミと言ったところだろうか。


俺の体は恐怖を感じ震えていた。周りを警戒して、あたりを見回しながら歩んだ。


俺が知りえる小動物であるならまだ良かった。ネズミやリスなどの小動物程度、来たところで何とかできる自信がある。

しかしそれではないからこそ警戒をしている。

どこの誰ぞやもわからない声が混じっている。草原を駆け抜けていくさなか、会話をしている。

 こちらを伺いながらだ。

唸り声や、鳴き声ではない。

 しっかりと何かの言語で話している。

 そして勝ち誇ったような不敵の笑い声のようなものがいくつも聞こえてくる。

まるでこちらが狩人の領地に迷い込んだ動物の気分だ。

姿が見えるならまだしも形すらわからないものに見られている。

 つけられている。

何なんだここは。


こんな所に何時までもいられない。居たくない。早く出ないと。

駆け足で一本道を走った。止まらず、必死で。

どれだけ走ったのだろう、そんなに長く走った記憶はない。まして、疲れてもいない。なのに長い距離を走ってきていると錯覚してる。いや、走ったのか?

気が付くと家がぽつんとあって、追手も迫って来ていない。

どこに行ったのか。いつの間にかいない。 静けさだけがあった。


駆け抜けた先に、一つのぼろい家がぽつんと立っている。

木でできた昔の家?とても汚らしく、掃除も何十年とされていないのではないか?

今にも崩れそうと言う訳ではないが、大きな地震なんか来たら堪えれるのだろうか?

地主の人が持っていそうな一軒家だ。

それにこの家には何かを隔てる塀なども一切無く。家自体は中々大きかったのだけれど、立派に飾れた物や、門などもない。ただ森の中にぽつんとさらされていた。

昔は立派なお屋敷だったのだろうか。

それにしたって蔵などようなものは見当たらない。あってもおかしくないような造りの家なのに。今となっては少し荒れ果ててはいるが。家族が住む家としては、中流階級というぐらいのお金持ちでだったのだろうか、という感じを匂わせる。

むき出しの為、庭と思われるところはすでに森と一体化していて、境界線がわからなくなっていた。

が、庭だったのだろうと感じさせる縁側が、横に長く、時にL字型に曲がって付いていたので、間違いなくこちらに庭があったのだろう。


池は――――――。


無さそうだ。


と推測する。植木はあったのだろうとは思わせるが、もうその面影は一切なく、あったのかも定かではない。もしかすると曾ては日本庭園映えの庭だったのかもしれないな。

障子もところどころに伺えた。黄ばんで古さを感じさせるような見た目だったが、しかっりと貼られていて破れている個所がない。ただ、沢山シミもあり、見た目も純白の貼り立てといったようなものでもない。とても年期がいってるように思える。

誰かが住んでいるのか?いや、それにしては奇妙だ。夜中だというのに明かりもない。確かに電柱もないので、電気が通っていないにしても、静まり返りすぎだ。

家の周りにも何も道具が無い。箒も塵取も。桑も樵も。くべる薪も。燃えた煤も。生活している様子が見えない。  



この家に入るか。足が家の方へ向かっていた。呼ばれているかのようにすうっと足が進む。


―――――― いや違う。まるで入ることが当たり前であったように進んでいく。

不気味で危険が漂う家だ。怖くて入るのに足が竦む。わかっているなら、こんなところ入りたくもなければ、近寄りたくもない。

なのに進んでいる。俺の意思とは別に。

 まるでそこに入る事が決められた、まるで映画の物語が進んでいくように選択の余地はない。



いつの間にか玄関の戸に手を掛け開けていた。


ぴゅーと冷たい風が頬を吹き抜ける。ここは絶対やばい。 何かあったに違いない。嫌な予感しかしない。

それでも勝手に進んでいく。 

別に誰かに無理やり体の自由を奪われて行動しているわけではない。本当に自由に体は動くのだ。

ただ自分が感じている感情とはまた別に、映像を見ているように進んでいく。

人というものは自分の意思で体を動かす。例えば飲み物が飲みたいと思ったら、水を器に注ぎ飲もうとする。はたまた手に入れようと取りに行き飲む。

だがこれは、人間の本能的な機能と水を飲みたいと言う自分の感情が合意しているからこそ喉に入るという行為が完成する。

しかし、水を飲もうと蛇口の水を捻ったら、悪臭漂う茶色の液体が出てきた時、体は水を飲もうと動いたが感情が何かを感じ、飲みたくないと判断する。そうすると、その水は飲まれず捨てられると言う行動に移るのが人だ。

だが今回の場合、そこに恐怖を感じているのに、俺の体は無意識の状態で家を目指した。もはや感情が入る余地もなく気が付いたら玄関の前にいた感じだ。そしてその家の漂わす風景、状態、過去の危険な記憶を覚える前頭葉の記憶したデータから、そこに入りたくないと感情が感じているのに、水を捨てるのではなく、飲んだのだ。

無理やり口に押し込んで嫌々飲んだわけでもなく。ただ、当たり前に水を飲むように体は行動した。


だからここでは感情と、今自分の執るべき行動が違って行われている。何か変なのだ。

感情が嫌だと思っていても、すでに行動は行われているのだ。本当に実体験できる映画を見せられてるようだ。

もちろん玄関の前に立った時、扉を開けるなどの動作は自分の意思と感情の合意で行っている。自分の思ったように体を動かしている。


だが、家に向かうなどの動作は違っている。本能と感情が合意していない。まるであらかじめ入ると決められている映像を見せられて、それを見た後で感情が感じる。

物語は別にすでにあって、その中で動作だけは自分でできるそんな空間だ。


横に引くと、扉は木が湿っていてギギギギィッというとてもうるさい音を発した。

腐りかけている木が持ちこたえるような音のように思えたが、触った感触は頑丈で丈夫な扉だった。まだまだ現役そのものの、大きく重みのあるしっかりした扉。


中は案の定真っ暗。

覗き込んでもその暗さから何も見えない。玄関は少し広いが、扉にあった大きさで、そこまで広すぎるといものでもない。

ただその先に長く伸びる廊下は――――――。


長そうだ………。








/04


廊下を歩いていくと扉のしまった部屋が何個もあった。これは襖だろうか。 トイレであろう、一つだけ一枚扉になっている場所を過ぎて、奥の広い部屋に入ると、右側から縁側に出れた。

縁側を歩いてそこから横の部屋を覗く。縁側に出る前の広い部屋は、襖のようなもので仕切られていたが、きっと今縁側から見ているこの部屋と襖を開けると繋がっているのだろう。

縁側をずっと歩いていくと最終的には用具箱のような、更衣ロッカーぐらいの小さな引き戸らしいものがついた扉で終わっていた。

むろんそこまで行く気は無く、大きな部屋二つ超えたところの次の部屋で中に入っていった。

 そこは大きな部屋よりは一段と小さくなっていて、テーブルが真ん中にどんと置いてあり、奥の方にテレビが置いてあった。

これは、……ブラウン管テレビという奴だろうか。現代では使ってる人を見たことがないようなテレビが置いてある。そんなに大きい方ではなさそうだ。


古いな……。


その奥にも部屋があるみたいだ。また襖がある。右側にも襖があるが、これはたぶん押入れのような気がする。

 そしてこの部屋、よりは家か。さっきから思っていたが、埃っぽいな。

 この部屋には書物がたくさんある。 それも、古い本ばかり。 印刷なんてできる機械も言葉もなさそうな時代の本ばかりが目に付く。

これはどう見ても墨と筆で書かれたものだろう。

本棚もあるが、ここにある本に対して小さすぎるし、足りなすぎるのか、棚の中は本でいっぱいだ。

入りきらなかったのか、床にいくつも積み重なった書籍が、壁に寄せて積み上げられている。六十冊ぐらいはあるんじゃないか。それ以上かも。 相当本を読むのが好きなんだな。

机の上にもひらっきぱなしの本がある。

それから何やら、文が途中で終わっている書物も。


目についたやつでいい、一つ読んでみるか。


開けた扉から月明りが入ってきてくれているおかげで、照らされた部屋の中が見れた。

 


書きかけか?


……


読めない。


俺は途中から白紙になってる中身に目を向けたが、まったくわからない。


テーブルの脚元にふと目を向けると、墨汁の入った入れ物と筆が添えてある。

何かを書いていたのだろうか??

それとも勉強か?

 何が書いてあるのか、何という字なのかも俺には理解できなかった。

筆記体のようにずらずらと文字が引かれている。まるで、お札などに使うような文字だ。





この部屋はこれぐらいだろうか。 書斎を思わす、本で囲まれたが為に小さく狭いこの場所はそれ以上に何か発見できるモノなどない。

この部屋に名前を付けるとするなら書斎の間といえるほど。本。本。本しかない。

テレビもあったが……。


と、なると……。 


行きたくないが、あとはあの奥の部屋か。 

襖は締まっているが、とてもあの部屋には入りたくないと思った。

理由はない。ただただそう思っただけ。


だけど、絶対何かある。そう覚悟してと俺の意思とは別に襖の前に立つ。


息を飲んだ。 ふうー。

大きく息を吐く間に俺の手が襖を開けていた。


はっ――――――――!



心臓が止まりそうになった。

気持ち悪い。 …………。


俺は恐怖のあまり目から涙が流れそうになった。


なんだこれ。 部屋の中はさっきの書斎より狭い部屋で中は何もない。 あるのは、狭い部屋の真中に四客足と背凭れの長い椅子が置いてあるだけ。


そしてその上に座らせているのか。白い気持ち悪い人形が座っている。しかも、こちらを向いて。

だから俺は驚いてしまった。


何しかこの人形が気持ち悪い。大きさは俺の脚の膝の高さもないほど小さい。人間の平均身長の人の脛あたり、もしくはそれ以下の身長だ。まぁ、小さいやつだ。

しかしなんだこの奇妙さを感じさせる造りは。何故こんな不気味な人形を作ったのだろう。 形にした人の気がしれない。 何を対象に作られているのだろうか。本当に怖い。見ないようにしたいが視界に入ってくる。

後ろ向きにしたいが、この部屋に入りたくもないし、人形にも触りたくない。

 それに人形の座っている椅子は、家庭用にあるような足が長いテーブル用の椅子だろう。

そもそもなんでこの部屋にこの椅子が一つだけ置いてあるのか不思議だ。足の長いテーブルなど見当たらないし、そんな足の長いテーブルは見てこなかったが。

どこか他の部屋にでも置いてあるのだろうか?

それにこの部屋はなんだかじめっていて、湿気臭い。


まるで部屋なのに、なんだかここは牢獄のようだ。


ふぅ――――――。


ここも何も無いな。早く戸を閉めよう。



ザ、ァァァ、ァ……。 ザ、ァァァ、

ザ、ァァァ、ァ、ァァア、ァァァ、、、



な、なんだ。


急に横から砂嵐の音が聞こえる。 これは……。

振り向くと書斎に置いてあったテレビの電源が入っている。 


何故だ?


ジャリッ、ジャリッ、



んん?足音……?


誰かいる?




ザ、ァァァ、ァ……。 ザ、ァァァ、

ザ、ァァァ、ァ、ァァア、ァァァ、、、


――――――。


あきらかに誰かの足音のようなモノが聞こえた気がしたのだが……。



いや、誰もいない。いるのは俺と、この気持ちわるい人形だけ。



はぁ――――――。


たまたまテレビのコンセントが見えたのでそれを引き抜いた。

それ以外コレの消し方を俺は知らないし助かった。




ザザ、ァァ、ァ、ァァア、ァァァ、、、


プツンッ



俺は背筋が凍った。 そこに映し出された人影。このシルエット。


俺は急いでテレビから、後ろに視線を移した。


あいつだ。現れやがった。俺の体が震えた。今にも腰が抜けそうだ。


手のはピッケルのような長く重そうな鈍器。

不敵な笑みでほほ笑むあの顔。白塗りに赤い鼻。

とても恐ろしい。 

あれはいつも俺を襲ってくるピエロ。


殺人ピエロだ。


そいつはゆっくりと近づいてくる。 微笑んでこちらをじっと見つめている。


辺りを見回しったって逃げる場所がない。狭い書斎。

唯一の逃げ道って、ピエロのいる方向しかない。



俺は後退りしながら近づく距離を離そうとする。



ゴトンッ


何かに踵が当たる。


さっきの人形の座っている椅子だ。

知らぬ間にあの部屋に入っていた。


置いてあった椅子と一緒に床に倒れ、俺は尻餅をついた。 


痛い。そして左手で人形を下敷きに押しつぶしていた。



ひっぃぃぃぃ。

気持ち悪い。俺はすぐに左手を離した。

ピエロが足元まで来ていたので急いで立つ。 一緒に倒れた椅子を広い上げ、それをピエロめがけて思いっきり叩きつけた。


まったく聞いていない。ひるむ様子もピクリともしていない。

椅子はというと原形を崩して壊れ果てた。


手に持った椅子の破片を投げつけた。と同時に俺の体は奥の壁に激突していた。




ゴハッ!



痛みのあまり片目を閉じた。 激痛が腰に走る。 

でも逃げないと。

赤ん坊のように床を這いながら前進んだ。


足元が目の前に来る。 


ピエロだ。 見上げると鈍器を頭いっぱい高く上げ振り構えている。 



終わった。  俺は振り下ろし始めると同時に目を閉じた。 もう何もできない自分の、最後の抵抗が。目を瞑って死を待つこと。


そしてそれは振り下ろされた……。







/05

死んだ……。


パッと目を開けると自分の部屋にいた。 またか。 またあの夢……。

 勢いで起こした体勢で時計を見ると、時刻は五時を回っている。

カーテンの隙間から漏れてくる、少量の青い光。外が明るくなってきていることが伺えた。 


またゆっくり寝れないのか。このピエロ?の夢は何なんだ。 いつも寝るとこいつが出てきて殺される夢だ。

そしてもう見たくない夢だ。

もう何回この夢を見ているか。見た数は俺が眠った回数に等しい。その度に変な世界でピエロに襲われる。

そして絶対こいつだ。こいつは何なんだ。誰かの嫌がらせか?

俺が一番ピエロが苦手だと知って、いつもピエロが出て来るなら、相当の虐めである。


小さい頃にも夢というものは見てきたから夢とはどういうものなのかと言う事は知っている。しかしあの頃の夢と言ったらこんなのではなかった。

もっとこう、楽しい夢や友達と遊んでいたり、何かに挑戦している夢。 はたまた、テレビなどを見てそれに影響されたキャラなどが出てきて一緒に過ごす夢など。

そりゃたまには、怖いテレビや本などを読んだ日には、何かに襲われたり、逃げ回ったり、殺されたりする夢も多く見たが、それが毎回苦手なピエロという事は無かった。


その日その日に起こった出来事によって見る夢は変わって見れていた。

しかしこの夢は何だ?

いつもピエロ。 ピエロ。 ピエロ。

 しかも必ず襲ってきて殺しに来る。 一度でも優しく接してくれたピエロなど出てきたことがない。

穏やかな顔のやつも一匹たりともでてこない。全部怖い顔だ。変な顔のやつばっかり。みんな猟奇的な顔をしている。



はぁ、なんじゃここは……。



 いつも夢の中で警戒して、怖いと感じて、目を開けたら朝。

だから俺は夜が嫌いなのだ。眠ることもできず、休めてなくて、いつも精神が疲れている。



可能な事ならもうこの夢は見ないでゆっくり眠りたい。 何の夢も見ないまま。暗闇の中に身をうずめたい……。

とりあえず、眠ればまたあの怖い夢を見る羽目になる。学校へ行く時間まではまだある。予習でもするか。

彼女からのLINEは……。


来てないか。

よし。予習、予習。



よし終わった。 もう、次の復習までしてしまった。 

我ながらなかなかの理解力である。 うん。うん。

時計を見ると直に七時に入ろうとしていた


よし支度をするか。いつものように、定まった朝を過ごし学校へ向かった。





「ところでお二人さんはそろそろ仲良くなられたんですかい?」

友野とお昼に向かう為、屋上へと向かう廊下を歩いていた。この学校は給食が出ない為、自分の家からお弁当を持ってくるやつもいれば、学食へ行って食べるやつもいる。

確かに学食は安い値段で飯を供給してくれるが、学生である俺たちにとって、あまり学食ばかり通えるほどお金など持ち合わせてはいない。

親にもらえる日はそれでもかまわないが、うちはほとんど母の手作り弁当だ。




「いや、全然まだだ。それよか全く進展なしの無視が続いている」


「お前らまだ喧嘩してんのかよ?!」

「仕方がないだろう。何を送っても返事も帰ってこないんだから。これ以上どうすりゃあいいのさ?」


俺は半分ほど聞き流すように友野の会話に返答した。こういう話をしていても現状の解決はしないし、嫌な思いを思い巡らすだけだ。



「いやいや。LINEばかりで済まそうとするからいけないんだろ。もっと、ちゃんと彼女と会って話せよ。」


「お前なぁ。人の苦労も知らないで。以前も彼女に近づいてしれっとあしらわれている姿をお前も見ただろう。あの後どんだけクラスの目が痛かったか。

俺としては穏便に学校生活を送りたいんだ。あまり人目のつくような事をしながらプライベートを晒していくなんざ嫌なんだよ。そもそも見世物じゃない。」


「そう言うなよ。俺たちは見ていて結構楽しいけどな。学校でも話題にできる。まぁ、確かにあれは酷かったな。冷たすぎるというか。顔も合わせず、そう。って言って去っていくんだぜ。ありゃ、端からみれば、眼中に無い異性がしつこく迫って来て、本当にうざい、構わないでと思われてるようにしか見えなかったわ」


友野はめちゃくちゃ笑顔だ。 


「あー、はいはい。俺だって本当にどうしたらいいのか……。本気で心を痛めてるんだぞ。それだけで気が病んでる日だってあるのに。」

「そうだよな。 心中お察しします。でも、お前もそんなことが続いていて、嫌いになったりしてないのか?もう二ヵ月ぐらいになるだろう。だいたい彼女いつも周りを女友達に囲まれてるからな。話にも中々いけないよな。お前も努力はしてる方だと思うぞ。」


そういって肩をポンポンと叩かれた。


あぁ。そう、よくもまぁ、二か月も耐えていたと思うと、自分を褒めてあげたくなる。

彼女にあしらわれ続けたこと数知れず。さすがに素っ気無くされ続けて、話に行くのはもうやめようとすら思った。

あんなに俺を見ようともしないと、いくら愛している人でも少しイラっと来るというか、近づきたくは無いとすら思ってしまう。



キャァッ。


そう聞こえるとともに気が付くと何かが俺の体に当たっていた。とても柔らかくて、軽いものだった。


「あっ。ごめんなさい。」

前を向くとプリントなどが散乱し、尻餅をついている女の子がいた。

とても痛そうにお尻を押さえて片目を閉じていた。


「こっちこそごめん。大丈夫?」


「うわ。大丈夫か。お前ちゃんと前見て歩かないから」


お前な……。


ぶつかってしまったのは、天美さんだ。俺たちと同じクラスメイト。

彼女はとても優しい子、そういえば、天美さんだっけ。さっきお昼前に先生に頼まれごとをされていたのは。しかしこれを女の子一人に頼むか。酷いものだ。


散らばったプリントや、俺たちが提出したノートなど結構な量が散らばっていた。

ぺちゃんと床に座る彼女を見て、また天美さんの事だから全部ひとりでこなそうと考えて行動していたのだろう。彼女は人が良すぎるほどやさしく自分に厳しい。そして断る事を知らない。

いつも自分の事より他人が優先なので、こんな小さくて、気弱な子には苦労ばかりしていないかと心配になる。


「ううん。私は大丈夫。それより○○君は大丈夫だった?ごめんね。」

涙の粒が光って見えた。痛かったのだろう。それでも自分よりも相手。本当に健気な子だ。こんな子に酷い事をするなんて本当に許せないものだ。まぁ、今回は俺だが……。


「大丈夫ならよかった。」

満面な笑みでこちらを見上げる天美さん。

――――――とても可愛い。こんなに可愛くては、同じ境遇に出くわした男性はきっとみんな心を奪われるだろう。間違いない。そういう意味ではとてもずるい子だな。

天美さんはクラスでもおとなしい子だから目立たないイメージを持たれやすいが、実はこれでいて結構なファンがいる。表立っては出ないが、うちの学校ではモテているの。

そりゃそうだ、容姿も可愛いし何よりも彼女からでる慈愛の母性本能が男たちを虜にするのだろう。また照屋さんで口ごもってもじもじしてしまう姿も男心をくすぶっていることは言うまでもない。


彼女は座りながら散らばったプリントを拾い始めた。当然俺も、友野もプリントを拾い集める。


ん?これ、友野のプリントか……。

 あいつ何やってんだ。 プリントの裏に落書きがあった。 なんとも変てこな動物。これは、ネコか?パンダか?よくわからん同じような絵が何体も描かれていた。これ、練習しているのだろうか、何かわからない絵をこんなに練習して、こいつはいったいどこで活躍するキャラクターなんだ?

コイツちゃんと事業受けているのだろうか?

プリント拾いを必死に行う友野の姿を、目を竦めて見ている俺がいた。



あっ。

その時、別のプリントに手を差し伸べて手が止まった。これ。

彼女のプリントだ。……

やっぱり字綺麗だな。 近くにノートも落ちていた。どんな事を書いてあるのだろう。きっとわかりやすくまとめられたノートがそこにあるのだろうな。しばらく彼女とテスト勉強もしていないので、彼女のノートの中が少し懐かしく思えた。彼女も、友野とは違うが、とても可愛い自作のキャラクターの絵を端っこに描いていた。彼女の場合はノートに書き写すことが無くなって、暇な時間で書いているちびキャラ。

あのアホと行動は同じでも原理が違う。 あのちびキャラたちがまた可愛かった。よくそれを見て笑っていた。

最初見たときは、それは驚いた。まじめな彼女のノートにいきなり変なキャラクターが書かれていたのだから。彼女の友達が悪戯で描いたのかと思ったが、授業中自分で描いたと彼女は自信満々はっきりと言っていた。

勉強しようと集まったのに、めくればめくる度、可愛いちびキャラたちが何かをしている絵が出てきてよく笑っていた。


と、考えている間に細くきれいな白い手がさっと彼女のノートを取り上げていった。

「手伝ってくれてありがとう。」

「こちらこそごめんね。前見てなくって。」

「ううん。私こそ、ちゃんと前見てなかったから。」

そりゃそうだ。彼女を見ると、拾い上げたノートとプリントを一気に持ち上げている。背の低い方の天美さんはすぐさま視界を奪われていた。

こりゃ一人で持つのは大変すぎる。というか、よくそんなか細い体でここまでこのプリントの量を一人で持ってきたな。結構な重さがあるぞコレ……

実は見かけによらず怪力か?



「それ手伝うよ。」

俺は彼女が持ってるノート等をすべて取り上げた。

「え、そ、そんな。いいです。大丈夫です。私一人で持っていけますから。お二人の時間をこんなことで費やしてしまうのは悪いです。それにこれは私が引き受けた事ですから、最後まで一人でやりたいんです。」


はぁ。健気すぎる。そのキレイに整えられたショートボブのような彼女の頭を、よしよしと撫でてあげたくなる。

「いいよ。こんなのそもそも一人で持って行ける量じゃないし。俺らも、丁度職員室に用あったし。」


えっ!?と言った表情を彼女はした。


「そうなんですか?でもお二人とも職員室と逆方向に歩いてましたけど?」


あら、しまった。俺たちは屋上に向かっていたのだから当然職員室とは逆方向に歩いている。さすが賢い。


「いや、俺たちもさっき職員室に忘れ物をして、取りに行こうか迷ってて、丁度どうしようか話してたところなんだ」

「お優しいですよね。お気遣いありがとうございます。でも、私一人で大丈夫ですから。」

優しい笑顔を向けられていた。とても眩しい。

天美さんはちょんとノートを持っている俺の手に優しく触れてくる。



普通に嘘だとばれている



「まぁまぁ、天美さん。こいつもこう言っているんだし、せっかくあったのも何かの縁でしょう。手伝わせてよ。ね。天美さんにことわられちゃったら俺たちも傷ついちゃうよ。」

「でも……。」


ちらっと、下目でこちらを見つめてきた。

さすが友野。女心を掴むのが上手いな。やるじゃないか。

俺も天美さんを優しく見つめ返した。目での会話というやつだな。


「わかりました。お二人がそこまで言ってくださるなら、お願いします」

顔を赤めて目をそらしながら、もじもじして申し訳なさそうにそう言う姿に、俺たちはきっと心を打たれていたはずだ。少なくとも俺は心を打たれた。

彼女は魔法使いか何かだろうか。


「それでは私も、半分持つので少しください。」

そういって俺が持つノートを取ろうとしたのですぐさま腰をひねってよけた。


「いいよ。天美さんはここまでこれ運んできたんだから。あとは俺たちが持って行くから。」

「それじゃあ私がいる意味が無くなっちゃいます。」

困ったように目をぎゅっと瞑って必死に訴えてくる。なんと可愛い小動物なのだろう。この子は


まぁでも確かにそうだよな。自分が頼まれていて何も持たずに行くのも、反対の立場に立って考えてみれば立場が無くなるな。


「じゃあ、はい。」

そういって。一番下に持っていた、一番軽いであろうプリントを渡した。


「ありがとう。」

無邪気な笑顔をまっすくこっちに向けてくる。将来子供ができたのならこんな子に育てたい。


「よし。それじゃあ、行くか―。」

「はい。」

友野が元気に天美さんの肩を押して職員室の方を目指した。俺もそんな二人を楽しそうに見つめながら後を追った。


……。


―――――――いや、友野、お前も持てよ……。



んっ、んっ。

すごく冷たい視線を感じた。

彼女がこちらを見ていた。彼女とは俺の彼女の事だ。とても痛い目線を感じる。何かを睨むような、怒りか何かに満ちている様なそんな視線だった。

一直線に伸びる廊下を歩いて来る。


俺が彼女を見た時には、彼女の視線はこちらを見ず、真っ直ぐ進行方向を見ていた。まるで俺たちなど視界に無いかのように。

また口を利かず去って行くのだろう。わかりきったことだ。

だが一応声を掛けておこう。二人もこの場に流れた空気を感じ取ったのか浮かない表情で状況を見守ろうとしていう表情だ。

「よ、よう。」


勇気を出して話しかけてみることにした。


また素通りだろう。…… そう思っていた。思いこんでいた。

しかし今日の彼女は違っていた。


「よ!この前はごめんね。ちょっと色々あって嫌な思いさせちゃってたよね。本当にごめんね。

 あっ―――。そうだ。

 ねぇ、昨日返事見てくれてる?まだ見てくれてないでしょう?ひっどいなぁーもぉ。

 え、わかっていない顔して、LINEだよ!LINE。見てくれてないんだー。ちゃんと見てよね。」


彼女が目を細めこちらを向いた。満面の笑みでだ。


「それじゃねー。」

そういって彼女は去っていった。とても楽しそうにしゃべっていた。


いきなりの反応が予想外過ぎて俺は、言葉を出すことができなかった。


あんな彼女を見たのは幾月ぶりだろうか……。

なんだか驚きと共に、うれしい。気持ちが高揚してきた。

もし可能であればもっと今の彼女と話していたい。この後このまま追いかけて一緒にお弁当を囲みたい。


「おいおい、なんだよ、おまえら。結局なかよくなってんじゃんか。

 てかいつの間に仲直りしてんだー? 

 よかったな。」


友野がニヤケながら肘で突いてくる。プリントの束が揺れるほどに何度も。

プリントが傾れ落ちそうだ。やめてほしい。


「えっ、いや、あれは、……」


そう、あれは何だったのだろうか?夢か?急に現実を確認しようとしたが、夢でないのは確か。確かに彼女だ幻ではない。

一体どうなってるんだ?



「おーい。ぼーっと彼女に見惚れて。お熱いね。お前らの熱愛度はわかったから、さっさと行くぞー」


友野がしれーっと歩み始めた。もおいい、飽きたと言うようなダルそうに歩きだしていた。

天美さんも頬を赤く染めながらこちらを見守っていた。そして友野の掛け声と共に。友野の後ろをついてくる。


「あっ、あぁ、悪い。待ってくれ」

俺も急いで後を追った。もう睨まれている様な鋭い視線はどこにもない。 後ろを振り返るとそこにはもう彼女の姿は無かった。




「ありがとうございます。」

職員室の戸を閉める音。


天美さんがうれしそうにこちらを見上げている。



「別にお礼を言われるような事はやってないよ。」


「いえ、とても助かりました。お優しいお二人に出会えてよかったです。」

にこっとしたその太陽のような笑顔はとてもまぶしかった。


「なぁ、よかったらこれから俺らとお昼でもどうだ?」

「え?あーっと、その、……。

 ごめんなさい。私別の方と食べる約束していて。手伝ってもらって何なんですが、ごめんなさい。」


「いやいや、いいってそんなに誤らなくても。残念だけどまた食べよう。」


友野は他愛もなく言った言葉に深深く誤る天音さんの姿に友野はあたふたと戸惑っていた。

とても滑稽だ。



「それでは、また。」


そういって素敵な笑顔を絶やさず天美さんは去っていった。



「さぁ、俺たちもささっと飯食いに行こうぜ!」


「そうだな。もともと飯食いに行こうとしてんだから。早く行こう。お腹ペコペコだ」


「俺もだー。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。