CASE-02 社会人タクミ
実家から離れて都会で働いている社会人の岐路
CASE-02
社会人タクミの場合
毎日会社と家の往復
生活に張りがない
大学出てからなんとか決まった今の会社
もう八年務めている
だけど忙しいだけで給料も昇格もあまり変わらない
忙しいので実家に帰る事もあまり出来ない
最後に帰ったのはもう五年前かな
あの時は親父もまだ元気に働いてたけど
この間おふくろから電話来て
ガンになって入院してるとか言ってたっけ
丁度年末、一度帰ってみるかな
今日は26日
クリスマスの予定は…なかった
24・25日は短い一日だったので
世のカップルはいい気味だ
電話して30日には帰るよと伝えると
どうやら親父そうとう良くない
正月を迎えられないかもしれない
だけどこの会社の8年目
居なくなると会社が回らない部分も出てくるので
勝手に抜けられない
それにちょっとブラック気味の会社
今から来年明けるまでなんて
取らせて貰えるわけがない
30日には必ず帰るからと
伝えて電話を切った
仕事納めをした
翌日
上司から電話がきた
取引先から緊急の連絡が入ったらしい
納品した機械が故障したという
年末年始稼働する機械らしく
今の内に直してほしい
そして今日は短い日
今から行っても明日まで掛かってしまう
若手社員じゃ対処出来ない
上司も機械の事が分からないし行きたがらない
しょうがない自分しかいない
取引先へ
「申し訳ありません、今から向かいます」
現場に着いたのはもう夜だった
悪戦苦闘しながら終わったのは
翌30日の朝
「助かったよ、わざわざすまなかったね」
そう言われたら
「こちらこそ申し訳ありませんでした。今後ともよろしくお願いします」
そう言うしかない
疲れ切っていたので帰って寝てしまった
その日も短い日だった
起きたのは夕方
携帯に履歴がたくさん入っていた
急いで掛け直した
「あぁオレだけど急な仕事でまだそっちに向かってないんだ
これから行くから夜遅くになると思う」
「何度も電話掛けたのにアンタでないんだもの。
おとうさんね、今危険なの。お医者さんが言うには
明日は迎えられないんじゃないかって。
だから急いで帰ってきな」
まさかこんな事になっているとは
準備もそこそこで急いで車で向かった
4時間程かかり実家近くの病院に着いた
そして受付で部屋を聞き向かうと
もう冷たくなった父がいた
間に合わなかった
おふくろにはアンタ遅いよとかいろいろ言われた
「ごめん」
それしか言えなかった
最後に親父と会話したのはなんだっけな
五年前かな
「仕事があるってのは幸せな事だ
時には家族より優先しないといけない時もある
あっちでもがんばれよ」
その時は聞き流していたけど
今となっては冗談きついな
おふくろも落ち着いてきて
話を聞かせてくれた
「タクミには言うなって言われてた
仕事の邪魔しちゃいけないって」
あの親父ならそうだろう
だけどこんな事になるんだったらと今の自分なら思う
仕事も大事だけど
家族・自分の為に仕事をしているという事が前提にあるんだと
上司に電話し葬儀があるからしばらく休みをくださいと伝えた
残念な事だとも言っていたけど、正月明けには戻れるよな
そう言われて思わず言ってしまった
「そのまま退職いたします。いままでありがとうございました」
葬儀が終わり、しばらくして会社へ行き正式な手続きをして辞めてきた
実家に帰り再就職もなんとか決まり
またおふくろと生活を始めた
そこで知り合った人と結婚し孫も見せてやる事が出来た
おふくろには何とか親孝行出来ただろうか
ーーーハッピーエンド?---
時間が短く
帰省が遅くなってしまい
最後に立ち会えなく今までの自分を変えてしまった
もし時間が長く
最後に立ち合えていたら
会社は辞めずそのままだったのか
どっちにしても時間は大した問題じゃないのかもしれない
おしまい