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モンスターセイバーズ  作者: 短髪
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86話~94話 


86話/新たなメンバーで再スタート!


覇王:「ようやく帰ってこれたな、福岡に。」

本田:「もう山はこりごりだ。あれだけの戦闘を終えた後に下山するのは流石に骨が折れる。」

覇王:「同感だ。・・ん?あれは・・。」

ハンター:「待ってたよ、2人とも。」

本田:「え、誰?」

ハンター:「そういえば、君と直接会うのは初めてだったね。僕はハンター、かつてキングダムセイバーズのメンバーだったセイバーズの一人だよ。」

本田:「あーカイの仲間か、よろしく。」

覇王:「ハンター、次元の狭間の発生地を探り当てたぞ。」

ハンター:「!」

覇王:「碑文があった場所の奥に時空間の裂け目を見つけた。」

ハンター:「やっぱりあそこで出現していたのか・・。」

本田:「あのまま放置するのはまずいからな、あの次元の狭間は俺たちの代わりにカイが警備をしてくれるってよ。」

ハンター:「それは助かる!僕の方からも後でソフィアと連絡を取ることにするよ。」

覇王:「これからどうする気だ?次元の狭間を見つけたことはかなりデカいが、フォルテを探す為にわざわざオーロラマウンテンまで足を運ぶ気か?」

ハンター:「まさか。そんなことはしないよ、一つ方法がある。」

覇王:「ほう。」

ハンター:「エメラル翁が証に秘められた新しい力を発見したんだ。情報によると証の力は共鳴をするみたいでね。ソフィアがオーロラマウンテンにいるなら好都合だ。オーロラマウンテンにはエメラル翁も向かっているし、準備が整い次第実験を始めようかな。」

覇王:「実験・・何をする気なんだ?」

ハンター:「オーロラマウンテンにある次元の狭間に向けて心の証をかざして貰うんだ。ソフィアとエメラル翁にね。僕を含めた残り10名のキングダムセイバーズには、ある場所に集合して円を作ってもらう。」

覇王:「ある場所?」

ハンター:「草原広場にある地下空洞だよ。あそこはかつてロイヤルストレートフラッシュのメンバーがアジトとして使っていた場所なんだ。」

覇王:「なんでまたそんなところに?」

ハンター:「行けば分かるよ、本田くんはどうする?」

本田:「今日は家に帰るよ。長期間オーロラ島に滞在していたし、家に帰って羽を伸ばしたい。」

ハンター:「分かった。それじゃあ覇王、行こうか。」

覇王:「俺は強制かよ。」

ハンター:「君も心の証を持っているだろ?力を貸してほしい。」

翌日の光ヶ丘学院。

速水:「おはようございます、部長!」

竜牙:「おはよう、速水。」

速水:「随分とさわやかですね。」

竜牙:「え?な、なんだよ急に。」

速水:「だって部長、三年生は秋休みが終わると毎年恒例であれがあるじゃないですか。」

竜牙:「あれ?」

速水:「校内実力テストですよ。」

竜牙:「あ・・・・・・・・・・・・・あああああああっ!!」

速水:「び、びっくりした~もしかして忘れていました?」

竜牙:「ここ最近色んな事があって実力テストのこととか全然眼中になかった・・。」

速水:「それはまずいですよ!このテストで叩き出された順位は、進学・就職どちらに進むにしても大きく影響しますよ。」

竜牙:「あああああああああ・・・。」

速水:「何でも今年から方針も変わったみたいで、テストの成績がひどい生徒は強制的に三者面談らしいですよ。」

竜牙:「ま、マジか・・。」

(やっべぇどうしよう・・。こんな時夏海がいれば一緒に勉強してくれるのに~。)

スペード:「よう剣崎。」

竜牙:「お、おう・・。」

スペード:「なんでこんなにどんよりしてるんだ?」

速水:「部長、校内実力テストの事を忘れていたみたいで・・。」

スペード:「あー色々あったもんな、ここ最近。」

竜牙:「お前・・他人事みたいに・・あ!」

スペード:「な、なんだよ。」

竜牙:「頭のいい天才・・夏海のほかにもいるじゃないか!」

竜牙が指を差した方向にはスペードがいた。

スペード:「お、オレ?!」

竜牙:「頼むよスペード、一緒にテスト対策してくれないか?」

速水:「うわっ・・部長~情けないですよ。」

スペード:「ま、いいけどよ。そのぐらいお安い御用だ。」

椎名:「おっはよ!速水く~ん!!

ギュッ!

速水:「し、椎名さん?!いつも言ってるじゃないですか、急に抱き着いて来ないで下さい!!」

(む、胸が当たって・・!)

椎名:「いいじゃん!」

速水:「良くないです!」

(僕の理性にだって限界はあるんですっ!!)

スペード:「なんかあの二人、似てるよな?」

竜牙:「誰と?」

スペード:「お前と木嶋にだよ。」

竜牙:「は?!ば、バカ言うなってあんなにイチャイチャしてねぇよ!!」

スペード:「・・自覚ないんだな。」

桜:「おはようございます、先輩!」

竜牙:「おー!おはよう桜。ってか前々から言おうと思ってたんだけど・・俺ら同級生だし敬語とその呼び方は止めようぜ?竜牙でいいから。」

桜:「ええっ・・そ、そんな・・名前で?!」

スペード:「おっ?!さっそく浮気か〜竜牙?」

竜牙:「浮気じゃねェ!なんでそんなに浮き足立ってるんだよ、タチ悪いぞ。」

桜:「じ、じゃあ・・おはよう竜牙。」

竜牙:「うん、おはよう!」

桜の顔が真っ赤になっていく。

桜:「ま、また後で!!」

竜牙:「お、おい・・行っちゃった・・。」

スペード:「何やってんだよ竜牙、あいつがまだお前に好意を持っていたらどうするんだよ。」

竜牙:「いやだって先輩呼びはおかしいだろ?・・ってあれ・・お前俺の事、名前で呼んでたっけ?」

スペード:「親しみの意味を込めて俺もお前の事を名前で呼ばせてもらう。」

竜牙:「ほら~な?桜にもそういう意味合いでだな?」

小池:「相変わらず騒がしいな、お前ら。」

竜牙:「おおっ!小池じゃないか、久々だなお前の制服姿!」

スペード:「話には聞いてたぜ、その様子だと編入試験は無事に通ったみたいだな。」

小池:「当たり前だ、仮にも受験生なんだからよ。」

竜牙:「受験生・・受験生・・あ”~俺は受験生・・はぁぁぁぁ~。」

小池:「なんなんだ・・一体。」

スペード:「大分追い込まれてんな、こりゃ。」

花音:「そーいうあんたは余裕じゃない。」

スペード:「む・・花音。」

花音:「元気そうで何よりだわメガネノッポ。」

スペード:「朝っぱらからデレデレ女と出くわすなんて俺もついてないぜ。」

花音:「な・・誰がデレデレ女だ!」

スペード:「林さんにデレデレだったじゃねぇか!イケメンにはここぞとばかりについて行きやがって・・この尻軽女!」

花音:「わ、私!林さんにデレデレなんかしてない!!だいたい、あんたにそんな事言われる筋合いないわ!」

スペード:「んだとぉ~。」

花音:「なぁによぉ~。」

バチバチバチ・・。

竜牙:「あいつ、まだ根に持ってたのかよ。」

白鳥:「男の嫉妬は醜いですね、先輩。」

竜牙:「うわっ?!お前、いつの間に・・。」

白鳥:「フフッ、先輩!おはようございます!!」

竜牙:「お、おはよう・・そーいや俺たちと登校時間が重なるなんて珍しいな。」

白鳥:「まぁ今までは木嶋先輩が剣崎先輩の近くにいましたからね。元会長がいなくなった以上、私も積極的に先輩に近づいていこうかなぁと思って。」

竜牙:「!」

視線を感じた竜牙は慌てて辺りを見回す。

竜牙:「な、夏海がいなくて良かった。」

白鳥:「?」

竜牙:「あ、いやいや・・こっちの話だよ!」

小池:「なんだ・・あいつはそーいうのに興味のない男だと思っていたけど、そういう訳でもなさそうだな。」

竜牙:「そーいうのって?」

小池:「ハァ~お前は・・もうちょっと周りを観察するクセをつけた方がいいかもな。」

竜牙:「ど、どういう意味だよ!」


87話/エンジョイプラスパック


キーンコーンカーンコーン。

市原:「おっす竜牙!」

竜牙:「勇太郎!久しぶりだなぁ、ってかなんで俺のクラスに?」

市原:「あ、あー・・えっと。」

橘:「うっうっうっ・・。」

竜牙:「えと・・一応聞いておくけどどうしたんだ橘?」

市原:「木嶋がいなくなった喪失感にやられているんだよ。」

橘:「木嶋さんとはあれから連絡を取っているのか?」

竜牙:「まぁマチマチだけど、たまに通話して近況報告をしたりしてる・・って大丈夫かお前?」

橘の目元はひどく腫れ上がっていた。

橘:「大丈夫なわけあるか!女神が!女神がいなくなったんだぞ?!」

市原:「相手してたらキリがねぇぞ。そっとしとこうぜ。」

竜牙:「だ、だな・・。」

女子生徒A:「剣崎くん、木嶋さんと遠距離恋愛してるんですって。」

女子生徒B:「たしか木嶋さんってアメリカに行ったのよね?」

女子生徒A:「これはチャンスね。」

女子生徒C:「木嶋さんには悪いけど、剣崎くんの心を奪うなら今がチャンスよ!」

女子生徒B:「こんなチャンス、滅多にないものね。」

女子生徒D:「私はパス。木嶋さん相手じゃ流石に敵わないもの、それにあの二人って幼馴染みなんでしょ?いや、厳しいわ。」

女子生徒A:「本気?剣崎竜牙ってうちの学院じゃかなり有名人よ!かっこよくない?私、超タイプなんだけど~。」

女子生徒B:「そうそう、うちのクラスの男子たちとは比べものにならないわ。」

市原:「フュ~。」

竜牙:「どうした?」

市原:「なんだ、お前には聞こえなかったのか?」

竜牙:「?」

市原:「鈍感ってのは罪だねぇ~それにほら!」

市原はある女性をに向けて顔を向ける。

市原:「あの子、ずっとお前の事見てるぞ?」

竜牙:「え、誰が?」

市原:「ほらあの子だよ。名前は確か・・江口だな。」

竜牙:「江口?」

橘:「江口沙織。俺らの学年の中では恐らく女神(木嶋夏海)の次に頭がキレる女子生徒だ。成績優秀でスタイル抜群ゆえに数多の男子生徒がひそかに目をつけている。」

竜牙:「って橘・・復活早っ!」

橘:「剣崎、江口はここ最近ずっとお前の事を見ている。何か用があるのかもしれないし、声をかけてきたらどうだ?」

竜牙:「随分と調べ上げてんな・・何を企んでるんだ?」

市原:「大方、あわよくば江口と竜牙をくっつけようと思ってるんじゃないか?」

橘:「バカを言え!俺が女神を悲しませるようなことするわけがないだろ!」

竜牙:「まぁでも・・確かに気にはなるな。」

竜牙は席を立ち、江口の元に足を運ぼうと動くが・・。

江口:「・・!」

ガタッ!

その様子を見ていた江口が慌てて席を立つ。

竜牙:「え”?!」

江口:「・・・。」

タッタッタッ!!

竜牙:「お、おい!」

市原:「む、無言のまま走り去って行ったな。」

橘:「明らかにお前の事を避けていたぞ?」

竜牙:「な、何もしてねぇよ。」

竜牙は逃げた江口を追おうと廊下に飛び出るが・・。

桜:「り、竜牙・・?!」

竜牙:「うおっ?!桜じゃないか。」

桜:「もう!急に飛び出して来ないで、危ないじゃない!」

竜牙:「わ、悪りぃ・・あ・・あ~行っちゃった。」

桜:「何かあったの?」

竜牙:「いや・・えっと・・。」

生徒会室。

桜:「江口さんが・・。」

竜牙:「う~ん、俺何かしたのかなぁ。」

白鳥:「先輩が何かしたんだと思います。」

竜牙:「だから何もしてねぇ・・ってなんでお前がここにいるんだよ。」

桜:「百合花ちゃんには副会長代理をしてもらっているんで・・・じゃなかった、してもらってるの。夏海が抜けた後、生徒会長を私が引き継ぐ事になった関係でね。」

竜牙:「どういう事?」

桜:「麗華に副会長を任せようと思ったんだけど、書記の方が性に合ってるって言うから副会長の席が空いたままになっちゃってね。この欠けた人数で生徒会業務をこなすのは困難を極めるわ、ってか無理!だから身近にいる生徒で部活動もバイトもやっていない彼女に声をかけたの。」

竜牙:「し、白鳥で大丈夫なのか?」

白鳥:「失敬な!ひどいですよ先輩。」

桜:「それがね・・恥ずかしながら私よりもこの仕事に適性があるかもしれないわ、すごく器用に雑務をこなしてくれるの。」

竜牙:「ま、マジか・・。」

白鳥:「木嶋先輩に出来たことぐらい、私にだってできますよ~♪」

竜牙:(毎回思うけど、なんでコイツは夏海に対してこんなに好戦的なんだろう・・。)

桜:「江口さんと言えば、この前表彰式で表彰されていた吉沢さんがいたでしょ?あの2人はわりと仲がいいんじゃないかな、よく一緒に登下校しているし。」

竜牙:「吉沢・・うろ覚えだけど吉沢里奈だったよな?」

桜:「そうそう。3-1にいるはずだから直接クラスに出向いて吉沢さんに聞いた方が早いんじゃない?」

竜牙:「勇太郎と同じクラスか・・ありがとう、行って見るよ。」

3-1教室。

市原:「吉沢?ああ、あいつだよ。」

竜牙:「ちょっと呼んで来てくれないか?」

市原:「ああ、ちょっと待ってて。」

市原は吉沢を竜牙の前に連れてくる。

吉沢:「あの・・何か御用でしょうか?」

竜牙:「江口のこと知ってるよな?」

吉沢:「沙織の事ですか?」

竜牙:「そうそう!実はさっき・・。」

竜牙は事の経緯を吉沢に説明していく・・。

吉沢:「あーそれで・・。」

竜牙:「どうにも気になってさ。」

吉沢:「心配ないですよ。」

竜牙:「?」

吉沢:「あの子、剣崎くんに憧れているんです。」

竜牙:「俺に?!」

吉沢:「隣町にある剣道クラブのメンバーなんですよ、あの子。2学年に上がって間もない頃、剣崎くんが剣道部部長を倒した事で一時期、学年中で話題になってたじゃないですか。その時から沙織は剣崎くんに憧れを抱くようになったらしいんですよね。剣道部に入ったらいいのにって言ったんですけどかなり内気な子で・・今思えば憧れが強すぎて剣崎くんの側にいれなかったんだと思います。」

市原:「つまり・・竜牙を避けていたのはただ単に話しかけられて嬉しかっただけ・・ってことか。」

ニヤニヤしながら市原は竜牙の方を振り向く。

竜牙:「んだよ。」

市原:「いやモテますなぁって・・。」

竜牙:「んなことねぇって。」

吉沢:「そういえば悩み事を聞いてもらいたいって呟いてましたよ。」

竜牙:「悩み事?」

吉沢:「何でも剣道の切り返しのコツが掴めないとか・・。」

竜牙:「だから俺の事を見つめていたのか。」

放課後の剣道部。

顧問:「はい、正面素振り、左右素振り、跳躍素振り五十本、初め!」

部員:「「いーち、にー、さんー!!」」

顧問:「終わった人から面と小手を付けて蹲踞(そんきょ)の体制に並ぶ!」

部員:「「はい!」」

そして・・。

竜牙:「ふぅ~ようやく休憩だ。」

速水:「部長はこの後、銀河先輩と実力テストの対策をするんですよね?」

竜牙:「ああ、必殺の一夜漬けだぜ!」

速水:「何の自慢にもなりませんけど・・。」

竜牙は外した面を見つめて呟く・・。

竜牙:「・・もうそろそろ引退だな。」

速水:「あ・・。」

竜牙:「・・・。」

速水:「そっか・・部長たち三年生は今度の秋季大会を持って引退・・。」

竜牙:「嫌だなぁ、勉強なんて。」

名残惜しそうに面を見つめる竜牙を速水は寂しそうに見つめる。

竜牙:「ま、秋季大会に向けて頑張ろうぜ速水!」

速水:「そんなの二の次ですよ!今は実力テストの方に集中した方がいいですって。」

竜牙:「う・・が、頑張る。」

数時間後。

スペード:「さてと、それじゃ実力テストの対策をやっていくぞ。」

竜牙:「スペード、一応確認なんだけど。」

スペード:「なんだ?」

竜牙:「本当に数時間で終わらせる気なのか?」

スペード:「ああ。」

神谷:「へぇ~私も見てみたいな。」

竜牙:「うわぁっ!お前・・いつまで俺ん家に居候する気だよ。」

神谷:「いいからいいから!」

スペードは卓上の上に置いた白紙にペンを走らせた。

スペード:「これが明日の実力テストに出てくる問題だ。」

竜牙:「え?な、なんでそんな事分かんだよ。」

スペード:「それぞれの教科担当の先公(せんこう)の性格と今回提示された試験範囲から推測すればだいたいの的は絞り切れる。今ここに記入した問題をすべて解けるようになれば軽く90点は超えられるだろうな。」

竜牙:「ま・・マジ?」

神谷:「す、すごい・・。」

スペード:「学院の勉強には無駄が多い。必要な部分を見極めることさえできれば実力テストなんてパズルみたいなものだ。」

竜牙:「か、カッコイイ・・!」

スペード:「後、10点を上積みする為の注意点なんだけど・・。」

竜牙:「あ、ちょっと待ってくれ!メモの準備をするから!!」

その翌日・・。

先生:「はい、そこまで!答案用紙を後ろから前に回せ、回収だ。」

竜牙:「や、やべぇ・・。」

桜:「どうでし・・どうだった?」

竜牙:「さ、桜・・・どうしよう。」

桜:「だ・・駄目だった?」

竜牙:「全部・・答えられた・・。それも空白なく!不安なのは応用問題ぐらいかな・・。」

桜:「あはは・・何言ってるの~一夜漬けでいくらなんでもそれは・・。」

竜牙:「・・・・。」

桜:「え・・マジ?」

竜牙:「ち、ちょっと自己採点してみるわ。」


88話/フルスピードinスクールライフ


竜牙:「おっつ・・。」

あれから数日が経ち・・実力テストの結果がエントランスホールに張り出された。そこには成績上位者の中に本来ならばいるはずのない人物の名が載っていた。直、実力テストは国・数・英の3教科で行われている。

竜牙:「本当に漫画みたいな展開だ・・。」


テスト結果上位者3年5組

1位 江口沙織  300点

2位 剣崎竜牙  297点 

3位 小池共士郎 294点


竜牙:「江口やべぇな・・3教科満点とか夏海かよ・・。」

小池:「俺から言わせてもらえばお前が297点も取っていることの方が信じられない。」

竜牙:「いやお前も大概だろ・・頭良かったん「見損なったぞ。」」

竜牙:「は?」

小池:「どんなカンニングをしたんだ?」

竜牙:「してねぇよ・・なんだ!その目は!!」

小池:「正直に吐け、隠してもボロが出るぞ。」

竜牙:「人聞きの悪いこと言うなって、スペードと一緒にテスト対策をして実力で勝ち取った点数なんだからよ。」

小池:「・・それ実力って言うのか?まぁでも一夜漬けでやったにしては大したもんだな。」

小池は張り出された別クラスのテスト結果に目を向ける。

小池:「なるほど・・確かに銀河の名前が一番上に載っている。」

竜牙:「スペードも全教科満点かよ・・化け物ばっかだな、この学院。」

小池:「あいつがここまで頭のキレるやつだったとは・・。」

スペード:「そう見えない見た目で悪かったな。」

小池:「噂をすればやって来るとはこの事だな、銀河。」

スペード:「なかなかの出来じゃないか竜牙。」

竜牙:「後でファ〇チキ奢ります、先輩!」

スペード:「な~にがファ〇チキだ、スタバでコーヒー奢れ。ケーキもつけろ。」

竜牙:「ういっす!」

小池:「ん?剣崎・・。」

竜牙:「っと・・どうした?」

小池:「あいつ・・江口だろ?」

小池が指し示す方向にはテスト結果を見つめる江口の姿があった。

スペード:「テストの結果を見ている見たいだな。」

江口:「やったっ!満点だ!!」

竜牙:「おっ、初めて喋っているところを見た。随分と嬉しそうじゃないか。」

江口:「っ!」

不意に話しかけられたせいなのか、江口は慌ててバックを掴み階段を駆け下りて行った。

竜牙:「え"・・・な、なんで・・。」

小池:「何かしたのか?」

スペード:「とりあえず謝ってきた方がいいんじゃないか?今ならまだ間に合うだろ。」

竜牙:「わ、分かったよ。ってか・・何もしてないからな本当に!」

スペード:「分かったから!江口を見失わないよう全力で走れ!!」

竜牙:「あーもう!」

小池:「俺たちも行くか。」

スペード:「いやなんでだよ。」

小池:「退屈しのぎにはなる、様子を見にくのも悪くない。」

スペード:「・・・。」

タッタッタッ!!

3人は全速力で江口を追いかけるが・・。

スペード:「!・・竜牙、江口の様子がおかしい。」

足を止めた江口の前にワゴン車が止まった。

竜牙:「なんだあのワゴン車は・・。」

ワゴン車の中から現れた他校の男子生徒3名に江口は抵抗虚しくも連れ去られてしまう。

竜牙:「う、嘘だろ・・。」

小池:「誘拐・・っ?!」

竜牙:「あ・・あの車行ってしまったぞ!警察に知らせねぇと!!」

スペード:「いやこのまま追いかけた方がいい、行くぞ。」

竜牙:「は?!何言ってんだ、警察に任せた方が利口だって!!」

スペード:「落ち着け竜牙。制服から察するにあいつらは白金学院の生徒だ。」

竜牙:「白金って・・ヤンキー校で有名なあの・・!」

スペード:「江口を誘拐した目的は分からない。けど、連れて行かれてしまった以上あいつらが警察が来るまで大人しくしている保証はない。一刻も早く江口を救い出すことが先決だ。」

小池:「俺たちで片をつけた方が早い・・という訳か。」

小池はナックルグローブをカバンから取り出し、両手にはめる。

竜牙:「ちょっ!ま、待てって・・!!仮にも俺たちは受験生なんだ、暴力沙汰は御免だぞ!!」

スペード:「無論・・あいつらが手を出すまでこちらも手は出さない、正当防衛を成立させる為にな。俺だって自分の立場はわきまえている、あくまで江口の身の安全を確保する為に動んだ。」

小池:「白金学院には黒い噂が絶えない。俺たちが首を突っ込むべき問題じゃないかもしれないが、人の命が関わってくるなら話は別だ、そうだろ剣崎?」

竜牙:「っ・・分かったよ、けど俺たちが動くのは警察が到着するまでの間だけだ。それ以上は踏み込まないと約束してくれ。」

スペード:「ああ。」

小池:「分かった。」

3人は光ヶ丘学院を飛び出し、ワゴン車を必死に追いかける・・そして。

竜牙:「ハァ・・ハァ・・わりと近くで停車してくれて助かった・・。」

小池:「とにかく・・呼吸を整えねぇと。」

スペード:「!あいつら・・あの倉庫の中に入って行ったぞ。」

竜牙は恐る恐る倉庫のドアノブに触れる。

竜牙:「駄目だ・・鍵がかかってる。」

小池:「だったら・・。」

竜牙:「お、おい・・!」

小池:「超必殺技・ソウルブレイク!」

ドッカァァン!!

小池:「強行突破するしかないだろ。」

スペード:「ごく〇んのヤン〇ミみたいだな、わくわくしてきた!」

竜牙:「お、お前らなぁ~。」

白金の生徒A:「あ”?なんだてめェらは!!」

スペード:「この倉庫に光ヶ丘(うち)の制服を着た女子生徒を連れ込んだよな?」

白金の生徒B:「あぁん?だったら何だよ。」

竜牙:「彼女を解放して下さい。」

白金の生徒A:「ハッ!エリート校の分際で俺たちに指図してんじゃねェよ!!」

男は竜牙に向けて拳を振る!

ガシッ!

白金の生徒A:「う、受け止めた・・?!」

竜牙:「そっちがその気ならこっちも容赦しないぜ?」

白金の生徒A:「ただの高校生じゃねぇな・・てめェ・・。」

竜牙:「い、いやだなぁ~普通の高校生ですよ。」

白金の生徒A:「舐めやがって、お前ら!やっちまえ!!」

白金の不良たち:「「おおーっ!!」」

竜牙:「小池、スペード!セイバーズの力は使わずにこの場を抑えるぞ!!」

小池:「言われなくても・・。」

スペード:「分かっている!」

白金の生徒C:「うおりゃぁぁ!」

小池:「っ!」

ブン!ブン!

鉄パイプを持った男の攻撃を小池は軽いフットワークで交わしていく。

白金の生徒C:「コイツ・・なんて動体視力をしてやがる!」

小池:「動きに無駄が多いから隙が生まれる・・こんな風にな!」

バシィッ!

小池の下突きが不良の腹を貫く!

白金の生徒C:「がはっ!!」

小池:「おらぁっ!」

バシッ!

小池の容赦ない拳が白金の生徒Cを地面に叩きつける!

白金の生徒D:「こ、コイツ・・強ぇ!!」

小池:「どうした?まとめてかかって来い。」

スペード:「やるなぁ、小池。」

白金の生徒B:「よそ見してんじゃねぇよ!」

白金の生徒Bはスタンガンを手に持ち、スペードに接近する!

スペード:「全く・・お前らは何か武器を持っていないと戦えないのか?」

スペードは眼鏡を指で押し上げる。

スッ・・。

白金の生徒B:「!・・なんだ・・・やつの姿が見えなくなっちまった!!」

スペード:「頭脳派の戦い方を見せてやる。」

スペードは倉庫に置いてあったオイルタンクのフタを開け、男に向けて投げつける!

ビチャッ・・!

白金の生徒B:「うわっ・・な、なんだ・・?!」

白金の生徒E:「やばいっす・・俺らだけこの部屋に閉じ込められたみたいっす!」

白金の生徒B:「なっ!いつの間に誘導されたんだ・・。」

スペード:(驚くのも無理はないか、フィールドワープでこいつらだけを山奥にある別の倉庫の中に飛ばしたんだからな。)

白金の生徒F:「ってか・・なんで油かぶってんですか!」

スペード:「そろそろだな。」

白金の生徒B:「げほっ・・げほっ!」

白金の生徒E:「息ができ・・!」

スペード:「あんたたちのいる部屋には一酸化炭素が溜まっている。このままだと窒息死するわけだが・・どうする?」

白金の生徒F:「げほっ・・げほっ!じ、冗談じゃない!!」

白金の生徒E:「窓があるっす!急いで換気しましょう!!」

白金の生徒B:「・・・!ば、バカ・・やめろ!!」

ドッカァァアン!!

スペード:「バックドラフト現象。室内など密閉された空間で火災が生じている状態のことをさす。不完全燃焼によって火の勢いが衰えた可燃性の一酸化炭素ガス・・コイツが室内に溜まった状態時に窓やドアを開くなどの行動を起こすと、熱された一酸化炭素に酸素が取り込まれて結びつき、二酸化炭素への化学反応が急激に進んでしまう。成るべくして起こった化学反応が爆発を起こす引き金になってしまう訳だ。そしてあんたたちはまんまと俺の罠にはまってしまった。けど安心しろ、殺さない程度に火力は抑えている。」

シュッ!

スペード:「よっと。」

スペードはフィールドワープで元の倉庫に戻る。

竜牙:「おいスペード!セイバーズの力は使うなって言っただろ!!」

スペード:「被害を考えた上での結論だ、俺たちは喧嘩をしに来た訳じゃない。」

スペードは白金の生徒Aに向けて指を差す。

スペード:「江口を解放しろ、そうすれば俺が捕えたお前の仲間を解放する。交換条件だ。」

白金の生徒A:「何が交換条件だ・・俺たち相手に脅迫とはなぁ~やってくれるじゃないか。」

スペード:「最後の提案だ。お前たちが江口を解放しさえすれば、誘拐、監禁のことは目を瞑ってやる。」

白金の生徒A:「ざっけんな!」

竜牙:「サバイバルナイフ・・!」

スペード:「危ない!竜牙!!」

白金の生徒A:「死ねやぁぁっ!!」

竜牙は目を瞑り剣舞眼を開く!

シュッ!

白金の生徒A:「?!」

(この距離で・・交わされた?!)

竜牙:「っぶねぇ・・はぁぁぁっ!」

バシィィッ!!

背中に背負っていた竹刀を使った一振りが白金の生徒Aの背中を地面に叩きつけた!

・・白金の生徒Aはそのまま気絶したようだ。

スペード:「な~にがセイバーズの力は使うなだ、お前も使っているじゃないか。」

竜牙:「・・この目力(がんりょく)は剣崎家の力。そもそもあの距離だ・・サバイバルナイフの軌道を見切らなければ交わせなかった。」

小池:「どうやら終わったみたいだな。」

竜牙:「大丈夫かよ・・ボロボロじゃねぇか。」

小池:「問題ない。それより江口を・・。」

竜牙:「・・そうだ!」

竜牙は白金の生徒たちが隠していた部屋の扉を開ける。

ガチャッ。

江口:「!キャァァッ!!」

竜牙:「うわっ!!」

江口は制服を脱がされ下着姿が露わになっていた。赤面し、両手で顔を隠しながら俯く江口を見て竜牙は言葉を失ってしまう。

竜牙:「ひでぇことをしやがる・・。」

江口:「うっ・・ううっ・・。」

竜牙:「動いて正解だった・・あのまま俺たちが動いてなかったら江口は今頃、レイプされてたかもしれねェ・・。」

(躊躇せず、もっと早く行動を起こすべきだった・・。)

拳を握りしめ、竜牙は地べたに落ちていた江口の制服を手に取り2、3回はたいて江口に渡す。

竜牙:「江口、もう大丈夫だ。俺は部屋の前で待ってるから着替え終わったら呼んでくれ。」

江口:「・・・うん・・。」

スペード:「竜牙・・江口は見つか「うおぉぉぉい!!」」

小池:「ど、どうしたんだ?」

竜牙:「いいから、早く外に出ろ二人とも!」

スペード:「な、なんだよ!」

小池:「押すなって!」

竜牙:「え、江口のやつは無事だった!だから部屋に入る必要はない。に、荷物とってくるから外で待っててくれって言ってたぜ?」

スペード:「そ、そうか・・。」


89話/ハッピーメモリーフューチャー


その後、到着した警察の人に事情聴取を受けた俺たち3人と江口は学校側並びに各々の両親にも今回起こったことを説明し、無事に事件は幕を閉じた。そして・・。

竜牙:「わ・・わざわざ家まで来なくても・・。」

江口:「ちゃんと・・お礼をしたかったんです。ごめんなさい、休みの日に。」

竜牙:「体はもう大丈夫なのか?」

江口:「まだ・・男の人への恐怖心が抜けきれなくて・・でも、怪我の方はだいぶ良くなりました。剣崎くんたちが助けに来てくれたおかげです。」

竜牙:「もういいって!気にすんな。」

江口:「そういうわけには・・。」

竜牙:「無事で何よりだよ。」

江口:「っ~ホント・・本当にっ・・ありがとうございました・・っ!」

江口は深々と頭を下げる。

竜牙:「顔を上げてくれよ、もうこの話は終わり!それよりさ、事が落ち着いたら聞こうと思っていたんだけど・・。」

江口:「?」

竜牙:「なんで俺の事を避けていたんだ?」

江口:「あ・・ごめんなさい!私・・その剣崎くんの事が嫌いとかそういうつもりで避けていたんじゃなくて・・!」

竜牙:「・・・。」

江口:「嬉しかったの。ずっと目で追うことぐらいしか出来なかった憧れの人に声をかけてもらえて。」

竜牙:「俺に?」

江口:「うん。この学院に入学して間もなく耳に入ってきた噂があって・・。」

吉沢:「剣道部って言えばさ~沙織、知ってる?」

江口:「ん?」

吉沢:「私たちの同級生にね、入部して間もないのに3年の剣道部部長を倒した凄腕の新入生がいるって話。」

江口:「ま、まさかぁ~光ヶ丘学院の現部長は全国大会でも指折りの実力者なのに。」

吉沢:「だから、その人がぶっ飛んで凄いの!気にならない?」

その日の放課後・・。

竜牙:「め〜んっ!」

江口:「凄腕の一年生って誰だろう・・名前は確か剣崎・・。」

浅田:「うん?入部希望者かな。」

江口:「!ふぇ・・あ、いや・・その・・。」

浅田:「?」

江口:「ここに・・剣崎くんっていますか?」

浅田:「なんだ、剣崎の知り合いか。」

竜牙:「俺がどうかしました?浅田先輩。」

浅田:「お、剣崎。丁度良かった、お前に客人だぞ。」

竜牙:「え?どこに・・?」

浅田:「あれ?!い、いない・・どこに行ったんだ・・?」

竜牙:「あの時、俺を探していたのはお前だったのか。」

江口:「お、覚えてるの?」

竜牙:「ああ、あの後浅田先輩とあちこち探し回って大変だったんだぞ。今でも鮮明に記憶に残ってるよ。」

江口:「ご、ごめんなさい。」

竜牙:「まぁもう過ぎた話なんだけどさ、そーいや吉沢から聞いたぜ?剣道の切り替えしのコツを知りたがってたって。」

江口:「そうなの!お、教えてくれるの?」

竜牙:「お安い御用だよ、そんなに難しい動きはしないから今ここで教えてやるぜ。ま、江口に時間があれば・・の話だけど。」

江口:「全然大丈夫!!教えて!!」

竜牙:「グ、グイグイくるなって!」

江口:「あ・・私ったら・・つい・・。」

竜牙:「ははっ、いや気にすんな。」

江口:「は、恥ずかしい・・。」

竜牙:「恥ずかしがる必要はねぇよ、これも何かの縁だしこの一件を機に友達になろうぜ。」

江口:「フフッ・・木嶋さんが剣崎くんを好きになった理由がなんとなく分かった気がする。」

竜牙:「え?」

江口:「何でもないよ!」

翌日。

竜牙:「ふわぁ~寝不足だ。なんだかんだ遅くまであいつの練習に付き添ってたからなぁ。」

江口:「あ・・おはよう、剣崎くん!」

竜牙:「おはよう、なんか無駄に元気ハツラツとしてるな。」

江口:「えへへ・・唐突で悪いんだけど、今日の放課後剣道部に立ち寄ってもいい?」

竜牙:「ああ、別に構わないぜ。」

江口:「ありがと!」

タッタッタッ!

竜牙:「なんだ?行っちまった・・。」

スペード:「ほ~しばらく見ない間に随分と距離が縮んだものだな。」

竜牙:「!急に現れんなよ、びっくりするだろ。」

小池:「お前、最低だな。」

竜牙:「は?何でだよ・・。」

小池:「木嶋が泣くぞ。」

竜牙:「そんなんじゃねぇって!」

スペード:「なら、江口とお前が仲良くイチャコラしてたって白鳥に報告するぞ。やましいことが一切ないと言い張るなら問題はないよな?」

竜牙:「い、いや・・やめてくれ。どう考えたってそのルートは誤解に誤解を重ねて夏海に情報が回ってしまう予感しかしない・・。」

スペード:「ぷっ・・冗談だ。」

竜牙:「おいっ!・・人の苦しむ姿を想像して楽しむな!!」

小池:「フッ、からかいがいのある男だ。」

竜牙:「フッじゃねぇよ!俺にとっては死活問題だっつーの!!」

小池:「それにしてもなんで江口は白金のやつらに絡まれたんだろうな?」

スペード:「それはきっと江口が江口皐月の娘だからだろうな。」

竜牙:「江口皐月?!大手化粧品メーカーの社長じゃねぇか!」

小池:「結局、金目当てだった訳か・・本当にろくでもないやつらだな。」

竜牙:「にしても社長令嬢って・・どこまでも夏海と被るな、あいつ。」

スペード:「やっぱり白鳥に連絡を・・。」

竜牙:「うぉい!なんでそうなるんだ!!」

スペード:「浮気は未然に防がねぇと。」

竜牙:「と・も・だ・ちだ!」

小池:「クククッ・・。」

竜牙:「なーに笑ってんだよ、この!」

小池:「バカ!お前・・こめかみはやめろ!!」


90話/自分が当てられるまでのドキドキはホント地獄


椎名:「ず~っと前から君が好きでした~oh~精一杯の思いを全部今すぐ伝えたいの~。」

北村:「西カナの歌を呪文のようにブツブツと呟かないでくれる?」

椎名:「!彩加・・どうしたのこんな朝っぱらから?」

北村:「それはこっちの台詞。あたしはジョギングがてら自販機に飲み物を買いに来たのよ。そしたら見覚えのあるJK(女子校生)が公園で沈んでいたからさ、一体何があったの?」

椎名:「ここ最近ずっと寝れてないんだ。」

北村:「不眠症?ほら、あたしのコーヒーやるよ。」

椎名:「ありがと・・ハァ~。」

北村:「今度はため息?せっかくの休みだってのに随分と頭を悩まされてるのね。」

椎名:「ある男の子の事が脳裏に焼き付いて頭から離れないの、毎日、毎日・・ずっとその人の事を考えちゃう。」

北村:「あんたそれ、恋わずらいよ。」

椎名:「何それ?」

北村:「誰かに恋をする気持ちが募るあまり、まるで病気にでもなってしまったかのように元気がなくなってしまう事よ。 四六時中ボーッとする、食欲がなくなる、勉強が手に付かない、やら仕事が手に付かない、寝付けない、人の話が耳に入らない、涙もろくなる・・と症状は人によって様々だけどね。」

椎名:「ど、どうしたらいいの?病院に行った方がいいかな・・。」

北村:「病院で直すものじゃないっつーの、そんなもんちゃっちゃと告っちゃえばいい話じゃない。」

椎名:「簡単に言わないで!」

北村:「び、びっくりした・・。」

椎名:「好きな人に思いを伝えるのってすごく緊張するし、勇気のいる事だよ。告白をするってことは今まで築いてきた友人関係を一度壊さなきゃいけなくなるんだよ?上手くいかなくて後悔するかもしれない、でも簡単に諦めがつくものでもないの。だから・・。」

北村:「臆病者の都合のいい言い訳ね。」

椎名:「なっ・・!」

北村:「昔から言われてるでしょ、恋愛は惚れた方が負けなのよ。惚れた時点であんたはもうその彼と友達じゃいられなくなってるわけ、分かる?異性の友人に対してそれ以上(・・・・)を求めたらそこで終わりなの。」

椎名:「!」

北村:「逆に聞くけど、その彼に彼女が出来ちゃったらどうする気?」

椎名:「うっ・・。」

北村:「その人のどんなところに惹かれたの?」

椎名:「そ・・それは・・。」

北村:「悩むところじゃないんだけど。ま、何にしても睡眠にまで影響を与えてるのは問題ね。」

椎名:「?」

北村:「今からそいつ呼び出しで告っちゃいな。」

椎名:「えぇっ・・?!」

北村:「恋愛って頭であーだこーだ考えてするもんじゃないの、彼の心にあんたの心が惹かれたように人の心を突き動かすのもまた人の心よ。」

椎名:「彩加・・。」

北村:「んじゃま、いい返事が聞けることを願ってるわ。」

椎名:「え、ちょっ?!行っちゃうの?」

北村:「あたしにだって色々と予定があんの、健闘を祈ってるよ。」

タッタッタッ・・。

椎名:「ど・・どうしよう・・。」

翌日の放課後。

椎名:「ハァ~。」

溜息を吐く椎名の前を速水が通り過ぎる。

椎名:「あ・・!」

速水:「?・・椎名さん?」

椎名:「あ・・えと・・。」

速水:「・・・。」

椎名:「・・・。」

速水:「う、うん?」

(どうしたんだ・・?)

椎名:「まっ・・また明日!」

タッタッタッ!!

速水:「え・・あ・・うん・・。」

(・・あ!)

椎名:「ハァ・・ハァ・・。」

(駄目だぁぁぁ速水くんの顔をまともに見れない・・・今までこんな事なかったのにっ!)

速水:「椎名さん!」

椎名:「えええっ?!」

(な、なんで追ってきてるの?!)

タッタッタッ!!

速水:「えええっ?!」

(なんで逃げるの?!)

速水:「ちょっ、待って・・待って!!」

椎名:「ちょっ・・速水くん早っ!」

ガシッ!

速水:「やっと・・捕まえた・・。」

椎名:「ハァハァ・・なんで私を・・追いかけて・・来たの・・?」

速水:「これ・・返すの・・忘れてたから・・。」

速水はカバンから現国の教科書を取り出す。

椎名:「あ・・私の!」

さかのぼること数日前。

先生:「じゃあ授業を始めるぞ、教科書の77ページを開いて。」

速水:「・・・あれ?」

ガサゴゾ・・ガサゴソ・・。

速水:「ない・・ない・・!」

(なんてことった・・教科書を・・忘れてしまった・・。)

速水はそっと隣の人に目を向ける。

速水:(左隣の鈴木は今日は欠席・・となると右隣の山崎に見せてもらうしか・・。)

山崎:「ZZZzzzz・・・。」

速水:「おっつ・・。」

(この(ひと)・・授業が始まってまだ2分程度にか経過してないにもかかわらず熟睡している。なんという無駄な技術(スキル)・・っ!)

速水:「ひ・・ひとまず教科書を忘れたことを先生に悟られぬよう筆箱と手でノートを覆い隠しながらやり過ごすしかない・・。」

先生:「それじゃあ、物語の冒頭から一人ずつ読んでもらおうか。」

速水:(なんですと・・?!)

先生:「今日は20日か・・じゃあ出席番号20の・・西岡から席順で回し読みしていこうか。」

速水:「なっ・・!」

先生:「じゃあ西岡、読み始めてくれ。」

西岡:「うぃ~。ある日の暮れ方のことである。一人の下人が羅生門の下で・・。」

先生:「よし、もういいぞ。次橋本!」

橋本:「あ、はい!」

速水:(先頭から順に読んでいくパターンかよ・・まずいな、この流れは西岡、橋本、坂田、森本・・つまり僕の席がある列の一番前から順に回し読みしていく流れだ・・。となると僕が当たるのは5番目・・やばいな・・確実に当たるぞこれ・・!)

坂田:「前にも書いたように当時京都の町は一通りならず・・・。」

先生:「・・・・。」

坂田:「・・・えと・・。」

先生:「すいび。」

坂田:「衰微していた。」

速水:(やばい・・近づいてくるにつれて心臓が・・落ち着け、落ち着け・・とにかく見せてもらわないと。)

スッ・・。

速水:「え?」

うずくまっていた速水の背後から教科書を差し出す手が見えた。

椎名:「早く手に取って!先生に気づかれちゃうよ。」

速水:「椎名さん?!何をして・・そんなことをしたら僕の次に回ってくる椎名さんが・・。」

椎名:「大丈夫、私に考えがあるから。」

速水:「え、えと・・。本当にいいの?」

椎名は頷き、速水に教科書を渡す。

森本:「いわばどうにもならないことをどうにかしようとして、取り留めもない考えをたどりながら・・。」

先生:「よし、速水!」

速水:「あーごほん。・・どうにもならない事を、どうにかするためには手段を選んでいるいとまはない・・。」

先生:「よし、次は・・!」

速水:(ありがとう・・椎名さん!)

椎名:「先生~沙羅が寝てますよー。」

先生:「何?!おい、山崎!!」

山崎:「え・・あ、はいっ!!」

椎名:「ほら~先生がだらだらと回し読みさせるから~。」

先生:「なっ・・先生が悪いとでも言いたいのか?」

椎名:「ずーっと回し読みしてたらみんなの集中力がもたないですよ~先生の新婚生活の話を交えながら楽しく授業しちゃいましょうよ~。」

先生:「まぁ・・一理あるか。よし、回し読みはここまでにして要点のまとめに入る。」

速水:「上手いこと自分の番を交わしちゃったよ、この人・・。」

キーンコーンカーンコーン。

速水:「あの後、返そうと思ったんだけど・・椎名さんトイレに行ってたし、それっきり俺も返しそびれていたからさ・・今、返そうと思って。」

椎名:「そういえば私も返してもらわなきゃって思ってたんだ!うん・・ありがとう。きちんと受け取ったよ。」

速水:「うん、それじゃ!」

椎名:「あ・・・。」

(駄目だ私っ!・・自分から声をかける勇気がないのなら、どんなに些細なことがきっかけでもこの機を逃しちゃ駄目なんだ、きっと!)

椎名は拳を握りしめる。

椎名:「速水くん!」

速水:「ん?」

椎名:「この後、部活だったりする?」

速水:「ううん、今日は休みだよ。」

椎名:「!」

(・・よし・・!)

椎名:「ちょっと時間をもらってもいいかな?」

速水:「え?」

椎名:「大事な話があるの。」

速水:「大事な話?」

椎名:「うん・・。」

速水:「ここじゃ何だし、ちょっと場所を変えよう。」

光ヶ丘学院屋上。

椎名:「なんでC棟の屋上に通じる扉が開いてるの?」

速水:「数日前に白金学院の不良が不法侵入してここのドアノブを壊しちゃったんだって。」

椎名:「え”・・本当に出入りして大丈夫なの?!」

速水:「先生たちは職員会議の時間だし、今の時間なら問題ないよ。」

椎名:「もしかして・・私に気を遣って・・?」

速水:「まぁ人目のつかない場所の方がいいかなって・・でも、何を言おうとしているかについては大体想像がつくよ。」

椎名:「・・じゃあ・・私が何を話そうとしているか当てて?」

速水は咳払いをして、椎名と向き合う。

ゴホン・・。

速水:「君が僕に好意を寄せていることには気づいているよ、ずっと前から。というかあれだけあからさまにアプローチされて気づかないはずがないよ。」

椎名:「ご・・ごめん。」

速水:「いや・・その・・まだ僕の意思は伝えてなかったね。ごめん、僕は君の気持ちには答えられない。」

椎名:「あ・・。」

速水:「・・・。」

椎名:「他に・・好きな人がいるの?」

速水:「いないよ。ただ僕にとって君は大切な友人だ、それ以上の関係にはなれない。・・ごめん。」

椎名:「あ・・アハハ・・だ、だよね~。」

速水:「・・・。」

椎名:「・・・私・・思いを伝えることすらできずに・・振られちゃった・・。」

椎名は無言のまま速水の前から全速力で立ち去った。

速水:「・・椎名さん・・。」

速水:「鈍感って言葉で片付けないでくださいね。相手の”気持ちに気づかない”っていうのは、”気持ちに答えられない”ことよりも残酷ですよ。だすってその人はまだ、相手方の認識の中でスタートラインにすら立たせてもらえてないって事でしょ?」

速水:「部長に偉そうなことを言っておきながら僕は最低だ・・。だって僕は彼女がスタートラインに足を踏み込むことすら許さなかったんだから・・。」


91話/涙の数だけ強くなれるよ アスファルトに咲く花のように


椎名:「うっうっ・・うっ・・。」

椎名:「あの・・困ります。」

男:「いいから、俺が色々とおごるよ~?」

速水:「おい・・。」

男:「あ?」

バシィッ!

男:「あ”・・がっ・・。」

速水は男が油断した隙に所持していた竹刀で男の溝を突き刺した。

速水:「・・福岡だろうと東京だろうとこういう輩はいるんだな。」

男:「て・・め・・ぇ・・。」

佐藤:「警察には連絡したぜ、速水。」

速水:「人のあれこれから学びなおせ、この外道が。」

椎名:「あの!あ、ありがとうございます。」

椎名:「懐かしいなぁ・・あの時からだった・・。」

(誰にでもできるような事じゃない・・でも彼は迷うことなく私を救ってくれた。誰かの為に行動を起こせる人・・それが私の初恋の相手・・だった。)

白鳥:「大丈夫?」

椎名:「!」

白鳥:「あ・・ご、ごめん・・驚かせるつもりはなかったんだけど・・。」

椎名:「ご、ごめんなさい!通行の邪魔だったよね、廊下の隅っこでうずくまったりして・・。」

白鳥:「失恋?」

椎名:「え・・。」

白鳥:「あ・・違ってたらごめんなさい!でもあなた屋上から降りてきたでしょ?告白でもして振られたのかなぁって。」

椎名:「アハハ・・振られたぐらいで・・ホント情けないよね。」

白鳥:「・・・・。」

椎名:「あ、あたしもう行くね!」

白鳥:「”ぐらい”じゃないわよ?」

椎名:「え?」

白鳥:「だから、失恋の傷ってその程度のものじゃないから。相手を思い続けていた時間が長ければ長いほどその精神的ダメージは計り知れない。痩せ我慢するだけ辛くなるだけ。目元が腫れるまで泣いていいじゃない・・振られたときぐらい本気でさ。」

椎名:「っ・・!」

白鳥:「今泣かなくていつ泣くのよ・・本気の恋に破れた時ぐらい、感情を向きだしにして思う存分泣き叫ぶべきだわ。・・って初対面の人に何熱くなってるんだろ・・。とにかく!そういうの見ていられないのよ。」

白鳥はそのまま椎名の横を通り過ぎる。


椎名:「う・・うわぁぁぁぁぁああああん!!」


ビクッ!

白鳥:「び、びっくりした。流石にお節介が過ぎたかな・・ううん!だってまだあの子の恋はまだ終わってないもの、自分の中で好きな人への思いを断ち切れるまで彼女の恋は終われない。」

(そうよ。潔く引き下がる必要なんてないわ、桜先輩や神谷先輩を知っているからこそ私はそう思う。だって自分で納得のいく答えを出さなきゃ彼女はこの恋をずっと引きずってしまう気がするもの。)

アナウンス:「間もなく2番乗り場に18時10分発小倉行きが九両編成で参ります。」

速水:「・・・もうそんな時間か。」

白鳥:「速水くん?」

速水:「!白鳥さん。」

白鳥:「珍しいじゃん、この時間で帰るなんて。」

速水:「今日は部活が無かったからね。」

白鳥:「あーなるほど。」

速水:「聞いたよ、生徒会に入ったって。」

白鳥:「成り行きでね。桜先輩には色々とお世話になってるし、助けてあげようかなーって。」

速水:「部長は知ってるの?」

白鳥:「もちろん!私が剣崎先輩に言わないわけがないじゃない。」

速水:「だ、だよね~。」

白鳥:「・・平和だね。」

速水:「うん・・小池先輩が魔王力をあの地に封印し直してから、モンスターの出現がピタリと止まったからね。とは言ってもフォルテを抑え込まない限りまた次元の狭間が発生する恐れはあるんだけど。」

白鳥:「嵐の前の静けさよね、正直不気味だわ。ザークとの戦いがずっと前のことのように感じる。」

速水:「怖いこと言わないでよ。」

白鳥:「・・さっきね、失恋して辛そうにしている女の子がいたの。」

速水:「え”?」

白鳥:「?」

速水:「あ”・いや・・。」

白鳥:「その子を見て思ったんだ。こーいうのが普通の高校生なんだって。でも、セイバーズとして戦っているとそういう当たり前の事を忘れそうになる時が時折あるの。」

速水:「確かに現実離れしすぎていて、自分がフツーの高校生だってことを忘れてしまいそうになることは僕にもある。でも忘れたら駄目なんだ、僕らは当たり前の日常を送る為に戦っているんだから。」

白鳥:「へぇ~カッコイイこと言うじゃん。」

速水:「・・・。」

白鳥:「どうしたの?」

速水:「白鳥さん、男女の友情って成立しないのかな・・。」

白鳥:「随分と唐突な質問ね。」

速水:「君の話に便乗するわけじゃないけど、僕はさっきある女の子に告白されたんだ。」

白鳥:「で?何て返したの?」

速水:「・・振った。」

白鳥:「理由を聞いてもいい?」

速水:「彼女の気持ちにはずっと前から気づいてたんだけどね。でも僕は今に至るまで彼女の好意と向き合おうとはしなかった、彼女との友人関係を壊したくなかったんだ。」

白鳥:「–なら壊して正解だったんじゃない?」

速水:「なっ・・!」

白鳥:「私、恋愛のスペシャリストでもカウンセラーでもないからさ、そういうの良く分かんない・・。」

速水:「・・相談した僕が馬鹿だった。」

白鳥:「ちょちょちょっ・・!人の話は最後まで聞きなさいって!!」

速水は無言のまま白鳥の元を離れていく。


白鳥:「これからなんじゃないのっ!!」


ピタッ・・。

白鳥の叫びが速水の動きが止めた。

速水:「え?」

白鳥:「男女が本当の意味で友達になる時ってさ、友達から始まって・・お互いの良さを知って仲良くなって・・それでも恋愛に発展しなかった時なんじゃない?お互いが性の対象として見なくなったときにやっと友達になれるんじゃないかな?・・よく分かんないけどさ。」

速水:「・・・!」

白鳥:「桜先輩も神谷先輩も一度振られたことで剣崎先輩と本当の意味で友達になれた、だから今の関係があるんだよ。もちろん、言葉で言い表せるほど簡単な事じゃないよ。けど!あの2人は沢山悩んだ上で先輩との関係を一度壊したんだよ、だからこそ前よりもずっと固い絆で剣崎先輩と繋がっている。言っちゃ悪いけどさ・・速水くん、友人関係の変化を恐れていたら何も始まらないわ。違う?」

速水:「・・僕は何をしていたんだろう、ずっと逃げていたんだ・・彼女の好意から。」

白鳥:「速水くんからしたら勝手に好きになって、勝手に傷ついて・・ありがためいわくな話だとは思うよ?けどさ、逆に言えばあなたの良さに気づいてくれた人なのよ。」

速水:「あ・・。」

白鳥:「彼女の気持ちから目を背けるのことばかり意識していたからそういう風に考えたことなかったでしょ?彼女のことを。」

速水:「僕には・・まだやるべき事がある・・!」

(ありがとう、白鳥さん・・っ!)

タッ・・タッタッタッ!!

速水は拳を握り締め、光ヶ丘学院に向かって全速力で駆け出した!

白鳥:「うぉい・・行っちゃった・・。ま、いっか。」

(頑張って、速水くん。)

椎名:「グスッ・・。」

(もうこんな時間・・帰らないとママが心配しちゃう・・。)

速水:「椎名さん!」

ビクッ!

椎名:「え・・速水くん?」

速水:「その・・ごめん!」

椎名:「え?なんで謝るの・・?」

速水:「僕は君が告白してくるまでずっと君の気持ちと向き合おうとしてこなかった。」

椎名:「・・。」

速水:「君との友人関係を壊したくなかったんだ!だからずっと君の気持ちを受け流してきた。君はいつだって真っ直ぐ気持ちをぶつけてくれていたのに・・本当に最低だ。」

椎名:「ずっと・・嫌だったんでしょ?・・」

速水:「!それは違うよ、そんな事はない!」

椎名:「嫌だったって素直に言ってよ!安心して・・もうこれ以上私の心の傷が広がることはないから。」

速水:「話を聞いてよ!僕はただ・・彼氏でもないのに君と友達以上に接することは返って君の気持ちに対して失礼なんじゃないか?変に期待させちゃうじゃないか?って思い込んでいただけなんだ。いや、理由がどうであれ、君を傷つけてしまったことに変わりはない。でもやっと気づけたんだ、謝らなければならないのは僕の方だって。」

椎名:「は?」

速水:「君は・・僕の良さに気づいてくれた人なんだ。だからこそ僕のとるべき行動は”無視”じゃなかった、君の気持ちを”尊重”するべきだったんだ。」

速水はポケットからハンカチを取り出して、椎名の涙を拭き取っていく。

椎名:「!」

速水:「君に伝えなきゃいけない事がある。」




速水:「僕の事を好きになってくれてありがとう。」



椎名:「・・っ・・ずるいよ・・もうっ・・。」

速水:「君の事を必要以上に僕は傷つけてしまった、どうしようもない男だよ・・本当に。でも、もう一度、僕は君と友達になりたいんだ。このまま君と気まずくなるのは嫌だ、嫌なんだ!だからお願いします!!」

速水は深々と頭を下げる。

椎名:「ばかっ・・もう・・なんなのよ、本当に・・もうっ・・。」

速水:「だめ・・?」

椎名:「駄目なわけないじゃない、そう言ってもらえただけでもすごく嬉しい。でも今は気持ちの整理をしたいんだ、ごめんね。」

椎名はゆっくりとその場から離れていく。

速水:「椎名さん・・。」

桜:「あ!」

タッタッタッタッ・・!!

速水:「ん?」

桜:「速水くん!」

速水:「桜先輩、どうしたんですか?」

桜:「ハァ、ハァ・・竜牙がどこにいるか知らない?」

速水:「お、落ち着いて・・。急ぎの用ならお呼びしましょうか?多分、まだ学院内にいると思いますよ。」

桜:「お、お願い!」

剣道部部室前。

竜牙:「おー桜、速水から聞いてるぜ。俺に用があるんだって?」

桜:「ごめんなさい、今日部活休みなんでしょ?急に押しかけちゃってごめんね。」

竜牙:「気にするなって、で?どうしたんだ?」

桜:「うん、実はね・・。」

竜牙:「ええっ、光ヶ丘学院全学年の生徒名簿を盗まれた?!」

桜:「うん・・一昨日までは、書類の作成をする際に使っていたから間違いなくあったんだけど・・。」

竜牙:「つまり犯行が行われたのは昨日ってことか。」

スペード:「それはないな。」

桜:「うわっ、いたの?!」

竜牙:「部室の整理を手伝ってもらってたんだ。それで?どうしてそう言い切れるんだよ。」

スペード:「昨日は職員会議が長引いていたはずだ。門は夜遅くまで開いていたらしいぞ。」

桜:「先生たちが夜遅くまでいる以上、迂闊に学院内には入れない・・ってことよね?」

スペード:「ああ、ひとまず生徒会室に場所を移そう。ここで話すと他の生徒の耳に聞こえてしまうかもしれない。」

小池:「剣崎、銀河・・部室の整理は終わったか?」

竜牙:「小池、ちょうど良かった。お前も手伝ってくれよ。」

小池:「?」


92話/絞られた容疑者と最強の協力者


生徒会室。

小池:「その名簿ってどこに保管してあったんだ?」

桜:「生徒名簿は生徒会室の金庫に保管してあったの。」

竜牙:「ここに?!俺らが普通に足を運べるような部屋なのに・・。」

桜:「普通は誰でも出入りできるような場所じゃないの。本来生徒会室は生徒会のメンバーと先生以外は立ち入ることすら出来ないんだから。」

竜牙:「ゲッ?!そ、そうなのか・・俺、今まで普通に出入りしていたけど大丈夫だよな・・?」

桜:「竜牙たちに関しては夏海が勝手に入出許可を出しちゃってるからね。これを見て。」

チャリッ。

スペード:「それは・・?」

桜:「ここの鍵を所持しているのは現生徒会長である私だけ。後はこのマスターキーを使わなければ入室することは出来ないわ。」

花音:「生徒会と関係のない人が生徒会室に入る一連の流れを説明しておく必要がありそうね。ざっと説明すると一般人が出入りする為には事務室で発行できる一時入室許可の許可証が必要なのよ。その許可証を電子ロックにタッチすればロックが外れる。ただし、この電子ロックは、許可証を持っていても生徒会メンバーが不在の場合は例外として解除することができない仕組みになっている。」

竜牙:「!そういうことなら容疑者の特定範囲を結構絞り込めそうだ。」

スペード:「だな。今の説明を聞く限りだと犯行が可能なのは出入りが自由な生徒会のメンバー、もしくは昨日許可証を使用した人物のということになる。」

花音:「ま、そういうことになるわね。この件に関しては疑われても仕方がない。」

小池:「なぁ、生徒会のメンバーが使用したなら別に問題はないんじゃないか?」

桜:「昨日の業務で生徒名簿を使用することはなかったわ。つまり別の目的で”盗まれた”可能性があるのよ。言い忘れていたけど、名簿が保管されていた金庫は私の指紋を認証しないと開かない仕組みになっているの。」

スペード:「桜が頑なに盗まれたと証言している理由が分かったよ。生徒会長の許可を得ることなく金庫を開けた時点で犯人が別の目的の為に名簿を盗み出したと捉えることができる訳か。」

桜:「竜牙。」

竜牙:「なんだ?」

桜:「実はね、一つ心当たりがあるんだ。」

竜牙:「心当たり?」

桜:「うん。実はこの金庫、生徒会長が代々指紋を登録して毎年保管しているわけだけど、一度登録した指紋のデータが消える事はないの。もちろん、消すこともできない。」

スペード:「?!上書きされていくわけじゃないのか。」

桜:「その辺がアナログなのよね・・だからその・・私が言いたいのは・・。」

竜牙:「歴代の生徒会長なら誰でも犯行が行える・・そういうことだな?」

桜:「そう!諸先輩方を疑うのもどうかとは思う、でも可能性はゼロじゃない。」

小池:「もうそこまでくると警察に任せた方が早くないか?」

花音:「そういうわけにはいかない。警察沙汰になれば事が公になり学院側の責任問題になりかねない。」

小池:「けどなぁ、個人情報の漏えいだぞ?」

竜牙:「現生徒会のメンバー、下手したら生徒会長が疑われてしまう大きな事件だ。もしかしたら生徒会に何か恨みを持っている人間の犯行なのかもしれない。」

スペード:「花音、お前一体何しでかしたんだ?」

花音:「当たり前の如く真っ先に私を疑うの止めてもらえますか?」

スペード:「ん~まぁ日ごろの行いが悪いからな。」

花音:「ハァ?あんたにとやかく言われたくないわよ、メガネノッポが。」

スペード:「あんだと?」

花音:「なによ。」

竜牙:「・・・。」

桜:「どうしたの?」

竜牙:「犯人がターゲットにしているのは生徒会メンバーじゃなくて生徒会長・・なのかもしれない。」

スペード・花音:「「?!」」

小池:「根拠は?」

竜牙:「優秀な人間っていうのは人から頼りにされる一方で人から妬まれることもある。知らないうちに見ず知らずの誰かに妬まれていてもおかしくないんだ。それを踏まえた上で極めて優秀な人物に俺には心当たりがある・・分かるだろ?生徒会長として全校生徒からも教師からも信頼されていた生徒だよ。」

桜は口元をゆっくりと手で抑え込む。

小池:「木嶋か・・。」

桜:「そんな・・。」

竜牙:「とにかく、名簿を盗んだ犯人をこのまま野放しにはできない。」

桜:「そうね、幸い先生たちにはまだ名簿が盗まれたことが知らされてない。今のうちに事件を解決に持っていければ事を丸く収めることはできる。こんな事、下手したら私の責任問題に成りかねないもの。絶対に逃がすわけにはいかない!」

竜牙:「ああ、俺たちも協力するぜ。」

スペード:「だが具体的にはどうする気だ?」

竜牙:「これはもうあいつの出番かなぁって。」

スペード:「あいつ?」

竜牙はラ○ンをある人物に送信したようだ・・そして。

竜牙:「っし、返信が来たぜ。」

小池:「誰にラ○ンしたんだ?下手に事件の内容を広めるようなことは・・。」

竜牙:「送り先は夏海だよ。」

一同:「「ええええっ?!!」」

竜牙:「にしてもさすがは夏海だ、早速有力な情報を教えてくれたぜ。」

スペード:「木嶋は何て?」

竜牙:「野々村飛鳥・・って人を調べて見てって書いてある。」

桜:「!」

竜牙:「ん?この名前、どこかで聞いたことがあるような・・。」

小池:「おい、その人って・・。」

花音:「確か4年前の放火事件で亡くなったうちの生徒でしょ?」

竜牙:「そうだ、思い出した!一時期有名なニュースだったもんな。」

スペード:「でも、なんでその人のことを今更調べる必要があるんだ?」

竜牙:「あ、また返信が来たぜ。なになに?学院側からの依頼を受けてあの金庫を製造したのがその当時生徒会長だった野々村先輩らしい。」

スペード:「!あの金庫って生徒が作ったのか、どおりで指紋登録に融通が利かないわけだ。」

花音:「あの人、生徒会長だったんだ。」

竜牙:「ちなみに父親が検事、母親が当時の教育委員会を治めていた会長だそうだ。」

スペード:「うわぁ・・厳しい家庭環境で育った人なんだろうなぁ。」

小池:「ともかく、これで調べなきゃいけない範囲をまた絞り込めることができたな。探りを入れるべきなのは、野々村先輩から木嶋に至るまでの元生徒会長ら全員・・どう調べていく?」

竜牙:「んなもん、しらみ潰しに探していくしかないだろ。」

スペード:「幸い、光ヶ丘学院はまだ歴史の浅い高校・・歴代の生徒会長もさほど多くはないはず。」

竜牙は右手で作った拳を左手で抑え込む!

パン!

竜牙:「よし、まずは野々村先輩以降に生徒会長になった人たちのリストを作ろう。」



93話/見えてきた犯人の正体!


第八期生徒会長    野々村飛鳥【ののむらあすか】

第九期生徒会長    榊原奈緒【さかきばらなお】

第十期生徒会長    石橋晋太郎【いしばししんたろう】

第十一期生徒会長   明石優生【あかしゆうせい】

第十二期生徒会長   津上純平【つがみじゅんぺい】

第十三期生徒会長   小金丸弘樹【こがねまるひろき】

第十四期生徒会長   鮫島一成【さめじまいっせい】

第十五期生徒会長   霞梓【かすみあずさ】

第十六期生徒会長   本居平次【もとおりへいじ】

第十七期前期生徒会長 木嶋夏海【きじまなつみ】

第十七期後期生徒会長 桜優香【さくらゆうか】


スペード:「思っていたより結構な人数いるな・・。」

竜牙:「手分けして調べた方がよさそうだな。」

桜:「そういえば・・。」

竜牙:「どうした?」

桜:「本居先輩なら犯行が可能かもしれない。」

スペード:「何か心当たりがあるのか?」

桜:「本居先輩は青葉大学に進学しているんだけど、教員を目指しているみたいなの。卒業してからもよく光ヶ丘に足を運んでいるのところを見るわ、恩師に色々と教わっているみたい。」

竜牙:「確かに本居先輩なら犯行を行いやすいだろうけど動機がないんじゃないか?」

花音:「とりあえず本居先輩が学院に来た形跡を調べてみる。」

小池は時計を見る。

小池:「・・なぁ、だいぶ時間も押してきたし、一旦解散してまた集まらないか?」

花音:「そうね、私的には集中して調べる時間も欲しい。」

竜牙:「分かった、今日はここまでにしよう。」

翌日の放課後。

竜牙:「アリバイがある?!」

スペード:「ああ、花音からの情報によると本居先輩は数日前に交通事故を起こしている。前方不注意による衝突事故らしいが命に別状はないそうだ。」

竜牙:「それは・・確かな情報なのか?」

小池:「ああ、さっきスペードと2人で見舞いがてら行ってきた。城戸病院に入院している。」

竜牙:「そっか・・本居先輩に犯行は不可能・・か。」

スペード:「・・・。」

竜牙:「?なんだよ。」

スペード:「竜牙、ちょっとついて来い。」

竜牙:「?」

放送室裏。

竜牙:「!放送室の裏にこんなところがあったなんて・・。」

スペード:「花音が突き止めてくれた。この部屋では学校に取り付けてある監視カメラの映像を見ることができる。」

竜牙:「そんな物騒なものがついているのかよ、この学院。」

スペード:「別に不思議な話じゃないだろ。光ヶ丘は名門、いざという時の為に備えているんだろ。」

小池:「お前に見てもらいたいのはこのカメラの映像だ。」

ピッ。

竜牙:「!ここって生徒会室じゃないか。」

小池:「ああ。そしてこれは事件のあった時間の映像だ。」

竜牙:「ハハ・・訳が分かんねェな、金庫をいじっている人の顔・・どうみたって・・。」

小池:「本居先輩だ。」

竜牙:「入院してるんじゃなかったのかよ?!」

スペード:「落ち着け。本居先輩は両足が骨折していて歩ける状態じゃない、本人に会ってきた俺たちが言うんだ、間違いない。」

竜牙:「いやいや、じゃあこのカメラに映っている本居先輩は誰なんだよ!」

小池:「分からん。」

竜牙:「もしかして、本居先輩にそっくりな顔をした人物の犯行なのか?」

スペード:「昨日桜が言ってたじゃないか、あの金庫には指紋を認証するシステムが組み込まれている。顔が似ているだけじゃ金庫は開けられない。」

竜牙:「じゃあ本居先輩が実は歩ける・・とか?」

スペード:「城戸病院は9時に消灯し、夜間は定期的に看護師が見回りに来るそうだ。この時間に病院を抜け出して、光ヶ丘の生徒会室にまで足を運んだりしていたら、本居先輩が抜け出したことに看護師が気づくはず。」

竜牙:「じゃあこのカメラに映っている人物は誰なんだ?!」

小池:「知るかよ、そんなこと。」

ハンター:「やぁ君たち。」

竜牙:「!」

小池:「ハンター?!」

スペード:「お前、不法侵入もいいとこだな。」

ハンター:「ひどい言われようだなぁ。」

竜牙:「今お前に構ってやれる時間はねぇぞ?」

ハンター:「そのカメラに映っている男は人じゃない。」

小池:「!」

竜牙:「唐突になんだよ。」

スペード:「まさか・・人に化けたモンスターとか言うんじゃないだろうな?」

ハンター:「いや、人に化けるモンスターなんて聞いたことがない。もしかしたら、映っている彼はパラレルワールドを通して人間界に迷い込んできた生物の一種かもしれない。」

竜牙:「!パラレルワールドの・・なんでそんなものが生徒名簿を盗んでるんだよ。」

ハンター:「さぁね、僕にもそこまでは分からない。」

スペード:「だとすれば、どこかでまだ発生してるな。」

小池:「ああ、次元の狭間が。」

竜牙:「!フォルテの影響かっ・・。」

ハンター:「あくまで僕の推測が正しければの話だよ。確かこの学院に元々発生していた次元の狭間は小池くんが封印したはずだ、にも関わらずこんな謎めいた生物が学院内に侵入している。僕の推測通りなら並行して小さな歪みが発生している可能性を視野に入れるべきだ。」

小池:「話が生徒名簿の盗難事件どころじゃなくなってきたな。」

竜牙はスペードと目を合わせる。

スペード:「帝王フォルテ、覚えているだろ?」

竜牙:「フォルテ?さすがにもう捕まってんじゃないのか?」

スペード:「残念ながら捕まってはいない、逃走を続けているみたいだ。」

竜牙:「は?!う、嘘だろ・・あいつは全国で指名手配されているんだぞ、いくらなんでもそれは・・。」

スペード:「あいつはパラレルワールドを行き来きできる、逃げる手段ならいくらでもあるだろ。そうじゃなくても奴には人獣の力が備わっている、不思議じゃない。お前、モンスターワールドのことを知ってるんなら当然パラレルワールドの事も知ってるんだろ?」

竜牙:「知ってっけど、次元の狭間を自由に行き来きすることはできないって聞いたぞ。」

スペード:「フォルテならできる。どういう理屈なのかは分かんねぇけど、あいつはそれができたから人獣の実験を行えたんだ。でなきゃ、都合よく被験体のモンスターを捕獲し優秀な人間をかき集めるとか困難を極めるだろ?」

竜牙:「っ・・言われてみればそうかもしれない・・。」

竜牙:「ハンター、オーロラマウンテンでのフォルテの捜索はどうなったんだ?」

ハンター:「フォルテの捜索は打ち切ることにしたんだ。」

竜牙:「なっ、お前本気かよ!こうしている間にも次元の狭間は増え続けているかもしれないんだぞ?」

ハンター:「彼を探すよりも君たちをパラレルワールドに飛ばした方が早いと判断したんだ。」

スペード:「!そんなこと・・できるのか?」

ハンター:「僕も半信半疑だったけどね、ある方法を使えばパラレルワールドに君たちを飛ばせるかもしれないんだ。おっと!それよりか、今君たちが考えるべきなのはフォルテの事じゃないだろう?」

竜牙:「んなこと言ったってどうしたら・・。」

ハンター:「一つ提案なんだが張り込みをしたらどうだい?」

竜牙:「張り込み?」

ハンター:「ほら、刑事ドラマとかでもよくやるじゃないか。都合がいいことに明日は土曜日、君たちにとっては休日に当たる。だから今夜は生徒会室に張り込んで彼がまた現れるのを待って見るのはどうだい。」

スペード:「確かに悪くない方法だけど、このカメラに映っている本居先輩がまた生徒会室に現れるとは考えにくい。」

ハンター:「けど打開策があるわけでもない、違うかい?相手は未知の生物、人の常識で彼の動きを予測しない方がいい気もするけど?」

竜牙:「・・よし、やるだけやってみよう。」

ハンター:「うん、僕はこの生物がどこからやってきたのか調べてみることにするよ。」

竜牙:「ああ、頼む。」

生徒会室。

桜:「なるほど、じゃあ今夜は生徒会室に張り込むんだね。」

竜牙:「ああ。桜には悪いんだけど、生徒会室のマスターキーを貸してほしい。」

桜:「分かった。」

桜はマスターキーを竜牙に渡す。

竜牙:「ありがとな、優香。」

桜:「ふぇっ?!」

竜牙:「な、なんだよ・・変な声出して。」

桜:「だって・・さりげなく名前で呼んできたから・・。」

竜牙:「名前で呼んでくれって言っておきながら俺だけ名字呼びもなんだか違う気がしてよ。」

桜:「で・・でも・・。」

竜牙:「大丈夫、夏海はそんな事で怒ったりしねぇよ。」

桜:「そ、そうだけど・・まぁ・・いいんだけど・・。」

(わ、分かってるのかな・・身を引いただけであって私はまだ先輩に好意はあるんだから、名前で呼ばれるだけでも・・ドキドキするんだよ?・・あ~も~っ!むしゃくしゃする〜!)


94話/国際警察Jとパラレルワールド


深夜の生徒会室。

竜牙:「深夜の学校・・やべェな。」

スペード:「ビビってんのか?」

竜牙:「なっ・・んなこと!」

小池:「しっ!」

コン、コン、コン・・・。

竜牙:「足音?」

スペード:「まさか、幻聴だろ。」

コン、コン、コン・・。

竜牙:「さっきより響いてるぞ・・近づいている・・?!」

小池:「ニセモノのおでましか?」

スペード:「だといいけどな。」

竜牙:「!ドアが開くぞ。」

ガチャッ。

石山:「まさか福岡だけであれだけのセイバーズがいるとはな。」

竜牙:「!てめぇが犯人か。」

スペード:「おい!」

小池:「張り込みが台無しになっちまったよ。」

石山:「!これは驚いたな、モンスターセイバーズの剣崎竜牙、銀河スペード、小池共士郎か。何をしているんだ?」

竜牙:「一言みたいに!ってかお前、セイバーズのことを知っているのか?!」

石山:「丁度いい。この生徒名簿は返すよ、おかげで光ヶ丘に在籍しているセイバーズの確認がとれた。」

スペード:「返すよ・・じゃねえよ!」

小池:「お前のやったことは立派な犯罪だ。」

スペード:「そもそもお前は何者だ?監視カメラに映っていたのは本居先輩だった、お前には何か特殊な力でもあるのか?」

石山:「残念ながら捜査協力の届けは出している、犯罪にはならないよ。俺は国際警察J 特殊犯罪捜査課所属の石山誠也だ。監視カメラの映像に関してだけど少々細工させてもらった、ただ誤解しないでもらいたい。本居くんに罪を着せるためじゃない。彼の許可を経た上で、俺の姿を隠蔽する為に一役お願いしたんだ。本当は木嶋さんに頼みたかったんだけどね、日本にはもういないって聞いたからさ。」

小池:「本居先輩はこのことを知っていたのか・・。」

石山:「俺は隠密に捜査するよう上から命令されているからね、やむを得なかったわけさ。金庫を開けるとなると生徒会長の姿を利用した方が効率がいい。ま、君たちがここで張り込んでいるところを見る限り、俺の行動が逆に裏目に出たみたいだけど。」

スペード:「金庫の鍵はどうやって開けたんだ?あの金庫には指紋認証のシステムが組み込まれていたはずだ。」

石山:「あの程度のセキリュティを突破できないようじゃ国際警察はやっていけない、俺なら30秒程度で外せるよ。」

竜牙:「っ・・なんなんだ、あんた・・。」

石山:「さっきから何を驚いてる?君たちにだって特殊な力が備わっているじゃないか、君たちだって一般人から見れば化け物だ。そのリアクションはないだろ?一つ言っておくと、俺にもあるんだ。特別な力がさ。」

石山はそっとスペードの頭に手を置いた。

スペード:「お、おい・・!」

石山:「読み取った。」

スペード:「は?」

石山:「剣崎竜牙、今から銀河スペードの脳波から読み取れたことを口に出す。当たっているか確認してくれ。」

竜牙:「スペードの・・脳波から?」

石山:「実力テストの結果はオール満点で堂々の一位。クラスは三年一組。最近の出来事で記憶に新しいのは・・同級生の江口を白金学院の不良たちから救出したこと。幼馴染は花音麗華、ちなみにコイツは花音のこ「うわぁぁぁああああっ!!」」

石山:「なんだ?」

スペード:「余計な事まで話すな!」

竜牙:「す、すごいな・・全部当たってる・・。」

小池:「フッ、最後の部分が少々気になるけどな。」

スペード:「うっせぇよ、バーカ。」

石山:「これで分かっただろ?俺はサイコメトラーだ。人の知能を読み取るだけでなく、触れたものの中身や性質、製造者、組み込まれている小さな部品まで見通すことができる。」

小池:「ほう、つまりお前は超能力者(エスパー)ということか。」

石山:「その通りだ。さてと、俺の自己紹介も済んだところだし本題に入るぞ。」

竜牙:「?名簿を返しにきただけじゃないのか?」

石山:「名簿を返す為に生徒会室には戻っては来たが、光ヶ丘学院に潜入した目的は違う。まだ話してなかったな、俺はフォルテの行方を追っているんだ。」

竜牙:「フォルテの・・?!」

石山:「数か月前、とある次元の狭間の前でフォルテと俺は遭遇した。」

フォルテ:「くっ、はぁ、はぁ・・。」

石山:「いい加減、観念しろ。帝王フォルテ!」

フォルテ:「ちぃぃ・・。」

シュッ!

石山:「!歪みの中に・・くそっ、待て!!」

フォルテ:「!」

(躊躇なく次元の狭間に足を踏み入れるなんて・・なんなんだ・・コイツ!)

石山:「お前には人獣の件と異世界の仕組み、この歪みの正体!聞きたいことが山ほどあるんだ。」

フォルテ:「フン、だったら尚更捕まるわけにはいかない。一度踏みとどまって足下に目を向けてみろ。」

石山:「!・・ここはどこだ・・。」

フォルテ:「パラレルワールドだ。」

石山:「パラレルワールド?!」

フォルテ:「証の所有者でも、異世界の住人でもないのにこの世界に足を踏み入れるなんて・・。とんだ大馬鹿野郎だよ、これで貴様は外の世界に戻ることでできなくなった。」

石山:「まるで自分は自由に移動できるとでも言わんばかりの言動だな。」

フォルテ:「事実、そうだからなァ。」

そう言い残し、フォルテがパラレルワールドから抜け出そうとした・・その瞬間!

石山:「逃がすかよ・・。」

フォルテ:「!っ・・コイツ、俺にしがみついてっ!!」

石山:「ぐぐぐっ・・こんなところで俺は生涯を終える気はない!」

シュッ!

フォルテ:「ぐあああっ!」

石山:「あああっ!」

フォルテ:「なんて奴だ・・俺にしがみついて無理矢理次元の狭間を潜り抜けるなんて・・。」

石山:「っ・・体が・・動かねぇ・・。」

フォルテ:「人体への負担は相当なものだったようだな。」

石山:「くそっ、待てっ!!」

石山:「それ以降、フォルテを追う手掛かりを完全に失ってしまった俺は、奴と接触のあったモンスターセイバーズに目をつけて捜索を再開することにした。なんせうちの協力者が仕入れた情報の中に興味深い話が出てきてね、内容は光ヶ丘学院には怪物を討伐する”学生”が潜んでいるというものだった。」

竜牙:「!」

石山:「にわかには信じがたい話だがフォルテと無関係とも思えない。そう考えた俺は校舎に足を踏み入れ、学院内に潜んでいるセイバーズを見つけ出す為に、生徒名簿を使わせてもらったというわけだ。」

小池:「あんたの協力者ってやつはどこで俺たちのことを嗅ぎつけたんだ?」

石山:「それについては話すことができない、守秘義務ってやつだ。」

スペード:「解せないな。あんたがそうやって情報を黙秘するなら、こっちにだって黙秘する権限があるはずだ。都合よく俺たちからフォルテに関する情報を得られると思っているなら大間違いだぜ。」

石山:「知っている情報を無理に話す必要はない。」

スペード:「どういう意味だ?」

石山:「君たちの力を貸してほしい。聞いたところによると君たちもフォルテを探しているんだろ?なら、互いの利害は一致しているわけだ。ここは一つ協力しないかって話だよ、なんせ相手はあのフォルテだ。」

スペード:「なるほどな、目的は戦力補強といったところか?」

石山:「その通りだ。なんせこっちは隠密行動が原則なゆえ、組織からそう何人も協力者を派遣できない。

その点、君たちはモンスターを討伐する力を備えておきながらどこにも属していない。まさに俺専属の協力者としてはこの上なく都合がいいんだ。」

スペード:「おいおい、何勝手に話を進めているんだ。俺はあんたの駒になるつもりはないぜ。」

竜牙:「待てよスペード。」

スペード:「?」

竜牙:「俺たちにとっても悪い話じゃない。」

スペード:「お前・・本気か?」

竜牙:「フォルテを追っている国際警察なら各地で発生している小さな歪みがどこで発生しているか把握してしているはずだ。歪みの場所さえ把握できれば俺たちのバックにはキングダムセイバーズがいる。ハンターの仲間たちなら、その歪みを通じて現れるかもしれないモンスターを討伐してくれるはずだ。そうすれば、モンスターによる新たな被害を未然に防ぐことができる。」

スペード:「そりゃあ・・そうだろうけどよ・・。」

小池:「俺は剣崎に従う、お前はどうする銀河?」

スペード:「お前は、あいつが次元の狭間を行き来きすることで生まれる小さな歪みをこれ以上発生させない為にフォルテの捜索をお願いしていたんだろ?けど、ハンターは俺たちをパラレルワールドに送ったほうが早いと言っていた。それはつまり、オーロラ島で発生している大元の次元の狭間を使わずに俺たちをパラレルワールドに送る方法が見つかったってことだ。なら、俺たちは無理にフォルテを捜索する必要がなくなったという風にも考えられる。」

竜牙:「分かってるよ、パラレルワールドに俺たちが足を運んで、身を潜めていれば次元の狭間を行き来きしているフォルテと必然的に遭遇する可能性が高い。でもさ、結局は大元の次元の狭間を塞がなきゃ意味がないんじゃないか?」

スペード:「!」

竜牙:「あの大きな次元の狭間を塞がない限り、オーロラ島がモンスターで溢れ返っていく可能性がある。オーロラ島は観光地だ、そんなことになればモンスターの存在が公になり事が大事(おおごと)になってしまう。だから俺たちはフォルテを追うことだけに集中しちゃ駄目なんだ、パラレルワールドに行く方法が見つかったんなら、俺たちは迷うことなくモンスターワールドに向かうべきだ。」

小池:「なるほどな、次元の狭間が発生している原因はデストロイヤだ。なら、俺たちが直接モンスターワールドに出向いて奴を討伐すれば歪みがすべて消えるはず。」

竜牙:「そういう事!だから、フォルテの捜索は石山さんに任せて俺たちはデストロイヤを討伐することにしないか?2つの事を同時進行で進めていくにはこれしかない。」

スペード:「けどお前、デストロイヤはハンターたちでさえ討伐できなかった強敵だ。簡単には行かねぇぞ?」

竜牙:「けど、封印が弱まっている以上やるしかないだろ?」

竜牙は石山さんの元に歩み寄る。

石山:「話はまとまったか、剣崎竜牙?」

竜牙:「明日、この連絡先の男と電話をしてほしい。名前は三島和人、俺たちと同じモンスターセイバーズだ。」

石山:「ほう。」

竜牙:「事情は俺の方から説明しておく、俺はあんたに強力するよ。だから、あんたの知っている情報をハンターに伝えてほしい。」

石山:「分かってもらえたようで何よりだ、ありがとう。」

スペード:「ったく・・。」

小池:「これからどうする気だ?」

ピロリン。

竜牙:「ん?・・ひとまず、桜ん家の郵便受けに生徒名簿を投函しに行こう。遅くなったし、本当は明日の朝にでも手渡しした方がいいんだろうけど、そうも言ってられないみたいでさ。」

ピッ、ピッ・・。

竜牙は送られてきたラ〇ンを二人に見せる。

小池:「!」

スペード:「ハンターから?」

竜牙:「明日の11時に草原広場にある地下空洞に集合してほしいってさ。」

スペード:「!」

竜牙:「ロイヤルストレートフラッシュのアジトがあった場所だよ。あの地下空洞に俺たちを集める意図は分からない。でも行かなきゃいけない事だけは分かる、きっと本当の戦いがこれから始まるんだ。」


~to be continued



番外編10/なりたい自分になる為に!


速水:「やぁぁぁっ!!」

バシィッ!!

速水:「駄目だ・・こんなんじゃ・・。」

白鳥:「速水くんからしたら勝手に好きになって、勝手に傷ついて・・ありがためいわくな話だとは思うよ?けどさ、逆に言えばあなたの良さに気づいてくれた人なのよ。彼女の気持ちから目を背けるのことばかり意識していたからそういう風に考えたことなかったでしょ?彼女のことを。」

速水:「っ・・本当に最低だ、僕は・・。」

バシィッ!バシィッ!バシィッ!!

速水:「っ・・らぁっ!!」

バシィッ!!

速水:「ハァハァ・・。」

瓜生:「ヒッヒッヒッ・・精が出るねェ~こんな遅くまで練習かい?」

ビクッ・・!

速水:「この声・・聞き覚えがあるぞ・・。」

速水が恐る恐る振り向くと、満面の笑みで見つめている瓜生が立ちすくんでいた。

瓜生:「久しぶりだなぁ、デザートォ~?」

速水:「瓜生?!!なんでここに・・!」

瓜生:「そりゃあリベンジマッチをしに来たんだよ。」

速水:「リベンチマッチだと?」

瓜生:「全国大会の時の時の快感、今でも鮮明に覚えているよ。なァ、あの時よりもうんっと満足させてやるからよォ~僕とまたやらないかァ?」

速水:「相変わらずイカれた野郎だな、だいたいなんでセイバーズ同士で殺り合わなきゃいけないんだ!僕たちの力はモンスターを討伐する為の力だ。お前の私情で無闇に力を振り回すな!!」

瓜生:「ざけんじゃねェ!!コイツァ僕の力だ、どう使おうと僕の勝手だろうが!しょーがねぇーよ、だって僕、最っ高のデザートの味を知っちゃったからさァ~もうその辺の雑魚相手じゃ満足できないんだわ。」

ゾクッ!

速水:「やっぱり・・コイツは危険だ、異常者だっ!」

瓜生:「じゃねぇとはるばる福岡にまで足運ばねぇんだわ、なァ?分かるだろォ?僕の溜まったモン全部出させてくれよォォォッ!!」

速水:「っ・・!」

シュッ!

タッタッタッ!!

瓜生:「おいおい、鬼ごっこでもおっ始めようってのかァ?いいぜ、まずは前戯といこうじゃないかァァァッ!!!」

タッタッタッ!!

速水:「とにかくここから離れないと!学院内でコイツを相手にするのはまずい、みんなを危険に晒してしまう!!」

瓜生:「相変わらず足が速いなァ~でもそれがまたいいんだよなァ~。」

タッタッタッ!!

速水:「?!」

(嘘だろ?!!僕の速度に追いついて・・!)

瓜生:「ヒャッハァァア!!」

速水:「くそっ、氷河転結・絶対零度!!」

シュッ!!

速水がハイゼルセイバーを振り下ろすと、強烈な冷気が足場を凍らせながら瓜生の元に突き進んでいく!!

カチカチカチ!!

瓜生:「うぉっと!あくまで僕を近づけさせない気か、そう嫌がるなよ~すぐに終わるからさァ!!」

速水:「くそっ、移動しながらだと技の焦点が定まらない!けど・・!」

(接近戦に持ち込めばあいつの思うツボだ、あいつの持っている電磁石を一つでも付けられると立ち回れなくなる・・どうしたら・・!)

瓜生:「ちぃぃっ!なかなか距離が縮まらないな・・。」

(デザートの動きを止めないとには僕の攻撃を当てられない、何かねぇのかァ?!)

タッタッタッ!!

速水:「よし、もう少し走れば校舎を抜けられ・・!」

瓜生から逃げる速水の目に映ったのは・・。

速水:(椎名さん?!な、何で・・!)

瓜生:「お?いいモン見~っけ!!」

速水:「お前っ!!」

瓜生:「ヒッヒッヒ、何だよ?」

速水:「一般人を巻き込む気か!」

瓜生:「やけに血の気が立ってんじゃねぇか、知人なのか?あの女はァ~。」

速水:「くそっ!椎名さん!!」

椎名:「!速水くん・・え、何をして・・。」

速水:「全速力で走れ!!」

瓜生:「逃がすかよォ!」

スタッ!

瓜生は椎名の首を背後から締め、ナイフを突き立てる。

椎名:「ヒッ!!」

瓜生:「形成逆転ってやつだ。」

速水:「くっ・・!」

椎名:「は・・はやみ・・くん・・。」

速水:「彼女を離せ!!」

瓜生:「離してほしけりゃ、お前が僕のところに来い。」

速水:「何?」

瓜生:「たっぷり可愛がってやるからよォ。」

椎名:「駄目だよ速水くん!」

瓜生:「てめェは黙ってろ!!」

ググッ!

椎名:「・・ううっ!」

速水:「くっ・・やめろっ!!」

瓜生:「へっ!さァ、首を洗う時間は与えてやったぞ。さァ早く!僕の元に来い!!」

椎名:「っ・・。」

速水はゆっくりと瓜生の元に進んで行く。

椎名:「っ・・!」

バシィッ!

瓜生:「うぐっ?!」

瓜生が速水に気を取られた瞬間、椎名は左足のかかとを使って瓜生の股間を蹴り飛ばした!

速水:「なっ!」

瓜生:「あ”あ”あああああっ!!」

(タマがァァァ!タマがァァァ!!)

椎名:「速水くん!」

椎名は速水の元に駆け出す!

速水:「椎名さん!何て無茶を・・。」

椎名:「私ね、ずっと考えてた。速水くんに友達になろうって言われてずっと、どう接したらいいんだろうって。」

速水:「・・・。」

椎名:「今、答えが出たよ。」

椎名は瓜生の元に体を向ける。

椎名:「速水くんが悩んでいる時や苦しんでいる時にあなたの力になりたい。そんな友人に私はなろうと思う。」

速水:「!ちょっ、い、意味が分からないよ・・危ないから下がって!!」

椎名:「下がらない!」

速水:「っ・・。」

椎名:「前に一度私を怪物から私のことを守ってくれたよね、うろ覚えだけどちゃんと覚えてるよ。」

速水:「!」

椎名:「初めて会った時も東京で私を助けてくれた・・速水くんはいつだってそう。誰かの為に行動を起こせる正義感の強い男の子だった。あなたのそういうところに私は強く惹かれたの!!」

速水:「椎名さん・・。」

椎名:「だから私もあなたみたいになりたい。確かに私は女だし、速水くんみたいに戦う力はないわ。でも、見て見ぬフリはできない。私にだってやれることはある。」

瓜生:「ほざけ・・女に用はねェんだよォ!!」

スッ・・タッタッタタッ!!

速水:「危ない!椎名さん!!」

椎名:「私はもう守られるだけの女じゃない!速水くんのように、困っている人を助けてあげられるそんな人に・・。」

瓜生:「デスライトニングスピア!!」

瓜生は小型のサバイバルナイフのようなもので椎名を突き刺しに来る!

椎名:「えいっ!!」

椎名は手鏡を瓜生に向けて、光を反射させた!

瓜生:「うぐっ・・!」

(ま、眩しいっ・・!!)

速水:「!デスライトニングスピアの光を反射させたのか?!」


椎名:「なりたい!!」


瓜生:「ぐっ・・くそっ、視界が定まらねェ!!」

椎名:「速水くん、今よ!!」

速水:「っ・・分かった、ハヤブサランニング!」

シュッ!!

速水は瓜生との間合いを詰める!

瓜生:「ぐっ・・!!」

(くそっ、まずい!)

速水:「X技・ブレイクウルフスマッシュ!!」

速水は狼のように足の爪を尖らせ、瓜生を引き裂いていく!

ズバババッ!!

瓜生:「ぐあああああっ!!」

速水:「僕はもうあの時とは違う、そっちがその気ならこっちも容赦はしない。それと・・。」

瓜生:「・・っ。」

速水:「彼女は強いぞ。」

椎名:「!」

瓜生:「ざけんなァ!!」

スッ・・タッタッタタッ!!

瓜生は椎名に向かって一直線に進んで行く!!

瓜生:「クソアマがァァ!!」

カキン!!

瓜生のデスライトニングスピアをハイゼルセイバーで速水は押し返す!!

速水:「女性に手を上げるなんて・・本当にゲスの極みだな、君は・・。」

瓜生:「抜かせ、俺はァ欲求不満なんだよ・・食事の邪魔をすんじゃねェ!!」

シュッ・・ズババッ!!

椎名:「キャァッ!」

速水:「椎名さん!」

椎名:「大丈夫・・カスっただけ・・。」

速水:「けど血が!止血しないと!!」

椎名:「いいから!」

速水:「!」

椎名:「目の前の敵に集中して、自分の身は自分で守るわ!」

瓜生:「ほう虚勢というやつかァ?」

椎名:「虚勢かどうか確かめてみたら?」

瓜生:「どこまでも気に触る女だ、デスライトニングキール!!」

瓜生がサバイバルナイフを投げつけるとそのサバイバルナイフが次々と分身し、横一列で速水と椎名に向かっていく!!

速水:「サバイバルナイフが・・分身した?!」

瓜生:「死ねぇぇっ!!」

速水:「ナイフを全て凍らせる!超必殺技・ハイパーブリザード!!」

カチカチカチ・・!

速水は向かってくる複数のサバイバルナイフを一気に凍らせた!

瓜生:「!技の精度が上がってやがる・・一筋縄ではいかねェか。」

椎名:「やぁぁぁっ!!」

ブン!ブン!!

椎名は通学用カバンを瓜生に向けて振り回していく!!

瓜生:「なっ!ぐっ・・この!・・目障りなっ・・!!」

椎名:「速水くん!」

速水:「うん、ありがとう!」

(氷河転結・絶対零度!!)

カチカチカチ!!

速水がハイゼルセイバーを振り下ろすと、強烈な冷気が足場を凍らせながら瓜生の元に突き進んでいく!!

瓜生:「くっ・・避けねェと!!」

ガシッ!

瓜生:「?!」

椎名:「逃がさないわよ。」

椎名は瓜生の両脇を締め上げる!

速水:「なっ・・椎名さん!何を!」

瓜生:「バカが・・てめぇもこれで巻き添いだ。」

椎名:「うぐっ、こうでもしないとあなた素早いでしょ。」

速水:「何を言ってるんだ!」

瓜生:「バカが・・てめぇの足も一緒に凍りついてんだよ。自分のやっている事が、速水の動きを鈍らせることになっているのが分からねェのかァ?アァ?」

椎名:「速水くん、このまま彼を斬って!!」

速水:「なっ・・そんなことできるわけないだろ!!」

椎名:「できるよ!!」

速水:「!」

椎名:「大丈夫、私はあなたを信じてる。」

瓜生:「この女・・血迷ったか?!」

速水:「くっ・・。」

(確かに今なら瓜生を確実に仕留めることができる・・でも一歩間違えたら瓜生を抑えている椎名さんまで一緒に斬ってしまう!そこまで繊細な技の力加減が僕にできるのか?!)


椎名:「迷うな!」


速水:「!」

椎名:「私の惚れた男は考えるよりも先に体が動いてた!剣を振るうことを・・躊躇うな!!」

椎名:「!ハハ・・とんだイカレ野郎だ、下手したら死ぬかもしれねェってのに・・。」

速水:「・・・ハヤブサランニング!」

スッ・・スタタタタッ!!

椎名・瓜生:「「?!!」」

速水:「奥義・・。」

瓜生:「なっ・・!お前、正気か!!」

速水:「プリズムエンペラークロー!!」

椎名:「いけ!!」

シュツ・・ズバババッ!!

瓜生の胴を分裂した3本のハイゼルセイバーが貫いた。


番外編11/BELIEVE YOURSELF


速水:「プリズムエンペラークロー!!」

椎名:「いけ!!」

シュツ・・ズバババッ!!

瓜生の胴を分裂した3本のハイゼルセイバーが貫いた。

だが・・動きを抑え込んでいた椎名の体ごとのようだ・・。

ドサッ!

速水:「ハァ・・ハァ・・。」

瓜生:「ぐっ・・はっ!!」

速水:「椎名さん・・。」

(成功したのか?・・くそっ、とにかく彼女の安否を確認しないと!!)

椎名:「へへ・・やるじゃん。」

瓜生:「!バカな・・ゴホッ!・・なんで・・生きて・・!!」

速水:「よ・・良かった・・よかっ・・ううっ・・!!」

椎名:「何・・泣いてるのよ・・。」

速水:「プリズムエンペラークローは手に持っている実体のハイゼルセイバー以外、2本の刀身が残像でできている。この残像は少々特殊な刀身なんだ、殺意を向けた相手じゃなければ刺さっても体を貫通することなく透ける。とはいっても、意識の分配が難しい裏ワザでもある為実践でこれを実行するのは極めて困難、いや不可能に近い。うん・・だからこそ、この土壇場で成功させたのは・・僕の力じゃない。僕の潜在能力を信じ、極限まで集中力を高めてさせくれた彼女の力だ。」

瓜生:「たまたま成功しただけだろうが・・くそっ、どこまでもコケにしやがって!!」

速水:「まだ分からないのか?彼女の意志の強さは相当なモノだぞ。」

瓜生:「知ったことか!僕はァまだ!負けてないぃぃっ!!」

速水:「いや、負けてるよ。僕も君も・・彼女の意志の強さには遠く及ばないさ。それともう一つ、もう僕が君に負けることはない。」

瓜生:「なァァァにィィィッ?」

速水:「彼女の強い意志が僕の意志に火をつけたみたいだ。」

椎名:「!」

沙加:「彼の心にあんたの心が惹かれたように人の心を突き動かすのもまた人の心よ。」

椎名:「彩加・・どうやら私も人の心を突き動かせたみたいよ。」

瓜生:「こざかしい・・デスライトニングキール!!」

瓜生がサバイバルナイフを投げつけるとそのサバイバルナイフが次々と分身し、横一列で速水に向かっていく!!

速水:「はぁぁぁっ!!」

カキン!カキン!カキン!!

瓜生:「なっ!」

速水はハイゼルセイバーでデスライトニングキールのナイフをすべて弾いていく!!

瓜生:「フン!」

シュッ!シュッ!!

椎名:「そんな・・速水くんが弾いても弾いても空中で態勢を立て直して向かって来てる・・?!」

速水:「まさか・・また電磁石を!」

瓜生:「ご明察だなァ、お前の剣はすでに極小の電磁石まみれだよォ。」

椎名:「電磁石・・まさか磁力で?」

速水:「大丈夫だよ、見てて。」

瓜生:「ア”?」

シュッ!シュッ!!

速水はサバイバルナイフを必要最低限の動きで交わしながら瓜生の元に向かっていく!!

瓜生:「ハヤブサランニングの速度を応用してサバイバルナイフを交わしているだと?!」

椎名:「すごい・・踊ってるみたい・・!」

速水:「これが僕の新しい必殺技・・ターンランニングだ。」

速水は適度に応じて半身になったり、上半身を屈めたりしながら瓜生に向かって行く!

瓜生:「チィィッ!奴の動きが変則的すぎてサバイバルナイフを上手く扱えないっ・・!!」

速水:「うぉぉぉっ!!」

瓜生:「調子に乗るなよ、X技・レッドアイズノヴァ!!」

椎名:「何よ・・あの赤い球体・・速水くんっ!!」

速水:「氷河転結・絶対零度!!」

速水はハイゼルセイバーを地面に突き刺し、冷気を流しながら滑り込む!!

瓜生:「!剣から手を離しただと・・?!」

速水:「この技はもう二度と食らわないよ。」

(確かにレッドアイズノヴァは広範囲を制圧できる強力な技だけど、弱点がないわけじゃない。この技の弱点・・それは、奴が自身の血液を球体に集めている瞬間が無防備になる事だ!)

瓜生:「くそっ・・まずい!!」

速水:「X技・ブレイクウルフスマッシュ!!」

ズバババッ!!

瓜生:「ぐあっ!!」

速水:「よしっ!」

瓜生のレッドアイズノヴァはそのまま収縮し消えてしまったが・・。

瓜生:「っ・・デスライトニングスピア!!」

ズババッ!!

速水:「ぐあっ!!」

瓜生は速水の右腕を引き裂くと、そのまま重心を速水にかけて押し倒す!!

ドサッ!!

瓜生:「グヘへへッ!!これでようやくてめェを完食できそうだ。二人っきりの時間を楽しもうぜ。」

速水:「くそっ!離せこのっ!!」

瓜生:「安心しろよ、失神するまで突いてやるからよォ!!」

速水:「くそっ・・!」

瓜生:「ヒャッハァ!!」

ズバズバズバズバズバッ!!

椎名:「ヒッ!!」

瓜生は目にも止まらない速度でサバイバルナイフを何度も地面に突きつけたが・・。

速水:「へッ・・効かねぇなァ・・。」

ポタッ・・ポタッ・・。

どうやら速水は、血まみれになりながらも両手を使って瓜生のサバイバルナイフを押し返していたようだ。軌道を少しずらすことで、致命傷を避けたといったとこだろう。

瓜生:「バカな・・これだけの攻撃を受けてまだ・・!」

速水:「フィニッシュの時間だ、歯ァ食い縛れよ変態ヤロォ・・。」

瓜生:「くっ・・!」

速水:「はぁぁぁっ!!」

ズバァッ!!

速水のハイゼルセイバーが至近距離で瓜生の腹を貫いた!!

瓜生:「がは・・っ!!」

ドサッ・・!

速水:「ハァ・・ハァ・・大会ん時の借りは返したぞ・・瓜生・・。」

瓜生:「ヒヒッ・・まさか俺の方がイかされっちまうとはなァ・・興奮して漏らしちまいそうだぜ。」

速水:「漏らす元気があるならまだ大丈夫そうだな・・うっ・・。」

ドサッ・・。

椎名:「速水くん!」

タッタッタッ!!

速水:「椎名・・さん。」

椎名:「待ってて!今救急車呼ぶから!!」

速水:「ありがとう・・。」

椎名:「え?」

速水:「君は最高の友達だ・・。」

椎名:「全く、血まみれの状態で何清々しい顔してんのよ。」

速水:「君のおかげで・・あいつを倒せた・・。」

椎名:「・・最後の一撃・・かっこよかったよ。」

速水:「ふふっ・・ありがとう。」

椎名:「斬ハイゼルセイバー・・だね。」

速水:「斬?」

椎名:「うん、思いを込めた強い一撃・・なんか斬撃って感じがしたから・・斬ハイゼルセイバー・・って何勝手に命名してるんだろ・・。」

速水:「ううん、いい!凄くいい名前だ・・斬ハイゼルセイバーか・・気に入ったよ。」

椎名:「気に入ってもらえたようで何よりです。」

瓜生:「女ァ・・。」

椎名:「!」

瓜生:「大した根性じゃねェか・・名は?」

椎名:「椎名・・春香。」

瓜生:「椎名ァ・・ハッ!とんだ化け物だぜ。やっぱ人は皆化けの皮を被ってるもんだな。」

椎名:「何よ、それ褒めてるの?けなしてるの?」

速水:「・・フフッ。」

椎名:「あ~ちょっと!何笑ってんのよ!!」

速水:「いやだって・・あの瓜生にそんな台詞吐かせるなんて・・クク・・ッ!」

椎名:「も~なんなのよ!」

瓜生:「真剣勝負ってのも悪くねぇもんだなァ~久しく忘れてたぜ、こういうの。」

速水:「瓜生・・。」

瓜生:「負けて得たモノは大きい・・か。」

瓜生はゆっくりと立ち上がる。

椎名:「え?!ち、ちょっと!そんな怪我でどこに行くつもりよ。」

瓜生:「速水ィッ!」

速水:「な、なんだよ・・。」

瓜生:「僕を満足させられるのはお前だけだ、絶対に死ぬんじゃねェぞ。”また”会おうぜェ。」

瓜生は手を差し出す。

速水:「瓜生・・。」

瓜生:「次会う時はァ・・この上ない刺激をた~っぷりと味あわせてやるからよォ。」

速水:「ハァ・・分かったよ、お前の気が済むまでまたこれからも相手をしてやるよ。」

ガシッ!

2人は握手を交わした。

瓜生:「それと椎名・・だっけか。」

瓜生は通帳と暗証番号をメモした紙を椎名に渡す。

瓜生:「そん中にある金は全部くれてやる、だからコイツの治療費に使ってやってくれ。モチロン、お前の傷の治療にも当ててくれよォ?」

椎名:「なんで・・こんな事・・。」

瓜生:「いい戦いをさせてもらった礼だ。それにコイツにァきちんと傷直してもらわねぇと僕が困るんだよ。」

そう言い残し、瓜生はその場を後にした。

椎名:「何なの・・あの人・・好き放題暴れて帰っちゃった・・。」

速水:「ただの変態ヤローだよ。ただ・・最後のあいつはどこかスッキリしたような顔をしてた。」

(椎名さんが彼の中にあった”何か”を変えたのかもしれない・・。)

椎名:「さてと、救急車を呼ばないとね。」

速水:「・・・。」

椎名:「ん?」

速水:「なんでもない。」

椎名:「?そう・・あ、もしもし・・はい、負傷者2名で・・はい・・。」

速水:「ん?部長からラ〇ンだ・・え?」

(パラレルワールドに行く方法が見つかった?)

椎名:「5分程度で到着するって。」

速水:「・・・。」

椎名:「速水くん?」

速水:「僕はなれるかな、部長の右腕に。」

椎名:「なれるよ。」

速水:「そ、即答だね・・。」

椎名:「だって・・私の見込んだ男だからさ。」

速水:「!」

椎名:「なによ?」

速水:「いや。あの瓜生を圧倒した君にそう言われると、だいぶ自信になるなぁって。」

椎名:「あ~また私のこと化け物扱いしてる!」

速水:「してないって!」

椎名:「嘘だ!」

速水:「ホントだって!」

椎名:「目をそらすなぁ!!」


この戦いを機に僕と椎名さんの関係は大きく変わったんだ。そう、僕にとって椎名さんはかけがえのない友人となった。そして、椎名さんのなりたい自分になろうとする強い気持ちに突き動かされて成長したのは僕だけ・・じゃないみたいだ。でもここから先はまた別の話。僕や部長たちの戦いは、これから大きな佳境に入っていくことになる。立ち止まっていられないな、次なる戦いに向けて!


速水智也編 THEEND

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