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ファザー神話  作者: のぎんご
第一章 すべての始まり
5/5

ミーラとの特訓①


すいません、またまた前話修正しました。

 



 ハヤト達が修行を始めてから1日が過ぎた。つまり、今は修行2日目という事になる。


 ハヤトとミーラが出会ってから丸丸一日が過ぎていて、ハヤトはミーラの事を本当にやよいと重ねて見てしまっている。ハヤトからしたらやよいに耳と尻尾が生えた感じである。


 一方ミーラはというと、ハヤトの事をこの人本当にいい人なんだなと思い始め、1日経った今でも既に敬語ではなくタメ口で喋ってしまう程である。


 その修行を始めるぞと言った次の日、修行を1日目に2人が何をしていたかというと、ハヤトの装備の買い出しと、人助けである。


 ハヤトの装備の買い出しについては、ハヤトが後で返すという事で話が纏まり、ミーラが取り敢えずお金を出す事になったのだ。


 だからと言って、ミーラの懐も暖かい訳ではない。日本円で言う所の、20万円、要するに金貨20枚である。一ヶ月1人が生活するのに金貨10枚必要だというのに、ハヤトにお金を出すと言うのだ。ミーラの優しさも大概である。偏にハヤトの為だけにという訳でなく、ミーラからすれば親友を助ける事が最終目的なので、その為の手段でしかないのかもしれないが。


 そして、2人は武器屋、防具屋を回り、ハヤトの取り敢えずの装備が揃ったのである。


 まず2人が選んだ武器は剣である。何故剣になったかと言うと、唯々闘うなら剣だろう!!というハヤトの強い意志、言い方を変えれば思い込み、の結果剣になったのだ。見た目は、刃渡り1メートル程の両手剣という形だ。結果的に見れば、剣を選んだのは正解である。それは、ハヤトはまだ知らないがミーラは武術、剣、槍、弓、などの武器を使った様な戦闘はこれっぽっちも出来ないので、どの武器を取っていても変わらなかったのだ。


 最初からちゃんとした師も付けずに、槍やら弓の様な難しい武器よりは、まだ振っていればいいだけの剣の方がハヤトに取ってもいい選択であった。


 防具については、ミーラから見てハヤトはかなりイケメンの類に入るそうで、ミーラのオススメの服を買う事になった。剣を買った後の、この時にミーラが武器は何も使えないと言う事をハヤトは知ってガッカリしていたりしたのだった。


 なので、取り敢えずハヤトは近接戦はメインではしないと言う事にもなり、防具もプレートみたいな物よりも、動きやすい布系の生地の方が良いという話になり、ミリタリージャケットの様なマント、その中は白の厚手のシャツの様な感じの上着に、下は茶色のダボっとした感じでズボンで纏まったのである。


 こうして、ハヤトのフル装備が完成したのだ。総額、金貨8枚。大変満足げなハヤト、一方ミーラは若干財布を見ながら青ざめていた。そんなミーラに、絶対倍返しにするから待っててくれというハヤト。普通に考えたらこんなどこの誰とも知らない男にここまでするなんておかしいかもしれないが、元々ハヤトはいい歳のおじさんな訳で、その雰囲気というか、名残みたいな物が残っていてミーラをそういう気にさせたのかもしれない。



 全身装備も揃い、早く修行がしたくてしたくて堪らないハヤト。ミーラも、ハヤトの潜在能力の開花が楽しみで仕方なく、近くの魔物の森へ行こうとしたその時であった。2人は小さい泣いている子供を見つけたのだ。そして、ハヤトがいち早くその子供の所は行き、大丈夫?お母さんお父さんはどこにいるんだい?と今初めて見るような優しい笑顔で子供をあやしていたので、こんな笑顔も出来るんだととても関心した感じで微笑んでいるミーラがそこにはいたのだ。


 その後ミーラは、この人なら大丈夫だ。絶対に親友を取り戻す。と歯をぐっと食いしばり、拳もぎゅっと握り締め、決意に満ちた顔でその光景を眺めていた。ミーラが本気でハヤトに心を開いた瞬間はこの時であろう。


 そして、ハヤトはこの子の親を探すと言い出し、探し始めたのだ。2人は早く修行をしたい気持ちはとてもあったが、小さい子をほっとける事などできない性格なので、必死になって親を探していた。


 情報探しにギルドに行ってみた所、ちょうど子供探してます。という張り紙がされた所で、2人はこれじゃね?とその張り紙を覗き込んだ。その張り紙を見た瞬間2人の目が大きく見開かれ、目を合わせる。なんと報酬が、金貨30枚であったのだ。日本で言えば30万、子供1人に30万!?どんな事あんのか!?とハヤトはとても驚愕していたが、この世界には公的機関、警察なるものがないので、無料で一般市民の助けになってくれる民間の味方もいない。


 なので、多少高めでもこういう所に依頼を出し、我先にと動き出した冒険者に見つけてもらうのが1番早いと考えたのだろう。ただこの依頼を出したのは有名な貴族であり、金貨30枚など安いもんでしかないのであるが…。


 こうして、ハヤト達は子供を受け渡し、報酬を手に入れる事ができた。やはりいい事をすればいい事も起きるものだと2人はハイタッチした後、握り拳を重ねて笑い合っていたのだった。とても高笑いで。


 そんな頃もう既に陽も落ちてしまい、これから魔物を狩りに行くにはさすがに遅い時間になってしまったので、本格的な修行は明日からという事になったのだ。


 これが修行1日目の出来事である。




 ――――――――――――――――――――――



 そして冒頭に戻り、修行2日目だ。ついでに、2人が仲良くなり、タメ口で話し始めたのは前の日の高笑いの後からであったというのを言っておこう。



「やっと始められるぜーーー!!!」


「まだ今日いれて予定の日まで6日も残ってるから大丈夫だよ!ハヤトなら、もしかしたら初級の魔法くらいならマスターしちゃうかもしれないよ!」



 2人は、近くの森にきている。今はまだ森へは入っていないが、ある程度ハヤトが魔法を覚える事が出来たら魔物を相手に実戦トレーニングをするという魂胆と言う訳だ。だが、実際初級魔法を覚えるというのは、魔法に才能のある人が、一年かけてようやく初級の魔法の属性一つをマスター出来るという物なのだ。どれだけミーラがハヤトに期待している、いや、期待しすぎているというのがわかる。



「ファザー神話の始まりだぜ!!」


「ファザー?何の事?」



 ハヤトは、高まりまくって自分が若くなっているのを忘れてしまっているようだ。そして、まだミーラにも自分が一家の大黒柱で娘が君そっくりなんだ!というのも明かしてないので、自分が言ってしまった言葉に、やべっと冷や汗をかいていた。



「あ、いや、こっちの話だ! 魔法を教えてください!」



 ハヤトは、この誤魔化し方はねぇーだろーーと思っているかのように、だらだらと冷や汗をかき、焦っている顔が見えないように下を向いて頭を下げている。



「まぁ、まぁ…そいうことにしといてあげる。さぁ、じゃあ始めましょっか!」



 ミーラは少々ジト目でハヤトを見つめていたが、まあいいっかというように気持ちを切り替えたらしく、笑顔でこれから始めるよと切り出した。



「まず、魔法について説明するね。魔法は全部で属性が6つあるの。基本この6つを使ってそれを組み合わせていろんな魔法を使ったりするんだ。後、なんでかこの世界は結構6という数字で出来ている物が多いんだよ。これ豆知識だから覚えてといて!それで、その6つの魔法というのが、火属性、水属性、地属性、風属性、光属性、闇属性、があるんだ。ここまでは大丈夫?」


「おう大丈夫だ!」



 ミーラは、ハヤトは飲み込みも良さそうだなと満足げに頷き、続きを話し始める。



「そこで、まずはこの光闇を除いた4属性を覚えてもらうよ!光闇はちょっと特殊な魔法が多いからまた後で説明するよ!まずは火属性の初級魔法、ファイアーボール!というか、まず魔法の使い方か…えーっと、身体の奥深くに魔力って言うんだけど、力?あ、ステータス出すのと同じ感覚!それを考えながら詠唱するの、我に火の化身たる龍の力与え給え、さぁ、解き放て、龍の息吹、ファイアーボール!!」



 ズダおおおオォォーーーン!!!!!

 ギシギシギシギシ――――



 中々に壮大な音を立てて、ミーラの放ったファイアーボールが木に直撃する。その気は当たった所を中心に半径2メートル程真っ黒焦げになり、ギシギシと音を立てて倒れ始めてしまった。本来のファイーボールならば、ここまでの威力は出ないのだが、ミーラの魔法の才能故の結果である。ミーラはちょっとやり過ぎてしまった…という感じで、慌てふためいていた。ハヤトは、唖然と口をぽかーんとしていた。



「初級でこの威力なのか……?」



 しばらくすると、ハヤトが口を開いたが、その質問も当たり前である。



「えっと…ちょっと私って凄いんだぞ!って見せつけてやりたくて調子乗った…ごめんなさい…」



 ミーラは、ハヤトに自分の凄い所を見せたかったらしく、少々やり過ぎてしまったようで反省しているのか、ショボーンとしている。



「そいうことかよ!初級でこの威力なら最上級ってどんな威力なんだよ!って思ったわ!てか、詠唱って毎回そんなに長いの言わなきゃ行けないのか?」


「いや、別に詠唱が絶対に必要ってわけじゃないよ。魔法の極致に至ったような人なら、無詠唱魔法ってのも使えるらしいけど、詠唱しないと普通の人は使えないよ!ちなみに私は!詠唱を!簡略化出来るので!名前だけで使えるのです!」



 ミーラは、さっきまでしょぼくれていたのが嘘のように、自分の凄い所を自慢できるチャンスができた途端物凄く自慢気に胸を張り、ふん!とドヤ顔で腰に手を当てていた。



「無詠唱かぁ〜…取り敢えず相性する前に魔力を操作するイメージを思い浮かべてー、えーとこんな感じか?」



 ズドォーーーン!!!



「え………嘘でしょ……」



 なんとハヤトは、ファイアーボールを無詠唱で一発成功させてしまったのだ。ハヤトはこうしてこうじゃね?みたいな感じで発動させてしまったのである。それは、女神ペルセポネからもらった力なのか、本能的に出来てしまった事なのかはわからないが。



「なんか、ふと気づいてな。火を出すなら酸素、燃料、摩擦とか電気とかキッカケが必要だろ?だったら魔力を燃料代わりにして、酸素はそこら中にあるし、あとは、キッカケも魔力で作ってやれば、ほら、簡単!!」


「た、たしかに…って簡単に言うけどねぇ!!そんな器用な魔力操作自体が普通できないんだよ!!ハヤトって…本当にすごい」



 そんな感じでハヤトはボンボンファイアーボールを連発させている。ハヤトは魔力量すらも多いのか魔力が尽きる様子もなく打ちまくっていた。


 ミーラはそんなハヤトの事をキラキラした目で見ている。はたから見れば恋する乙女とそれに気付かない鈍感主人公である。だが、ハヤトはミーラの事を娘と思っているし、ミーラもハヤトの事を信頼できるお兄ちゃんみたいな存在と思い始めたのはそれは思い違いであろう。



「いやぁ〜それほどでもぉ〜」



 ハヤトは、照れていた。ただただ頬が緩み誉められた事に純粋に照れていた。だが、今回はたまたま上手くいっただけかも知れない。それをミーラも感じているらしく、次の魔法を教えようとし始めた。



「なんか悔しいよぉ…よし!気を取り直して、じゃ!次行くよ!水は、ウォーターボール!風は、ウィンドボール!地は、ストーンボール!」



 そんな感じで、ミーラはそれぞれの魔法を違う木に向かって連発し始めた。ザパァーーン!ブワァーーン!ガッッツゥーン!などと様々な効果音を響かせながら色とりどりの魔法が木にぶつかっていった。そんな様子を見ながらハヤトはふむふむと頷いている。


 そして、ハヤトはとても集中した様子で目を瞑り、思考の渦の中に身を投げている。そしてブツブツと独り言を言い始めた。



「水…魔力を雲だと思って水蒸気で…風…魔力で熱を作って暖めて冷して…地…魔力を変換…ん、変換…?あ!なんだそんな事か!えーと…ウォーターボール!ウィンドボール!ストーンボール!これか!?」



 そして、ハヤトは何かに気づいたようでその直後、ミーラと同じように様々な効果音を木に鳴らしながら見よう見まねでその他の属性までも全部一発で成功させてしまったのだ。今回は技名は言ってはいたが、技名である。詠唱はしていない。



「えーーーーーーー…私いらなくない…?私…実はいらない子…?」


「まてまて!!俺が一発で成功できたのもミーラの魔法の使い方を見てできたわけで、あんな長々と詠唱してるの見てたらさすがにできないと思うぞ!」



 ミーラは、ハヤトが覚えるのが早すぎる、というか異常すぎるというせいで自信を無くし、俯いてシクシクと泣き始めて物凄くネガティブになり始めていた。そんなミーラを、ハヤトは必死に慰めていたが、ミーラが最初に出したファイアーボールは詠唱付の魔法でハヤトはそれを無詠唱で成功させてしまった事から、全く持って説得力は皆無であった。



「でも、ハヤト…最初から一発で…」


「あーーーー、あれはな!まぐれだ!偶々なんだ!だからこれからも俺に色んな魔法伝授してください頼む!」



 ミーラと自信消失しながら、まぁしょうがないかと落ち着き、これも親友を助けるためならしょーがない頑張るぞと思ったいるのか、よしやるぞと立ち上がり修行の続きを始めるのであった。



「それじゃあ、中級に行く前に初級をしっかり使えるように魔物と戦って特訓しよっか!」


「おう!」



 ミーラの予定では、森に入るのはハヤトが初級のどれかの属性1つでも使えるようになってあわよくば今日中に入れたらいいなくらいの予定であったので、予定は大崩れである。いい意味でだが。


 ミーラも魔法の適正は一般人から見れば化け物と言っても過言ではない程高い。そのミーラでさえ、全属性の初級をマスターするのには、半年かかっている。それから考えると、ハヤト本人は気づいてないが、ハヤトがどれだけおかしいのか伺えるであろう。


 そうして、2人は魔物で関連するために森は入って行く。この森はハヤトが猫耳のおっさんの家からヨーカルまだきた森であり、エーラビットや他の魔物とどれだけ戦えるのか、ハヤトは楽しみで仕方ないのかウズウズしている様子である。


 そして、しばらくすると木と木の間の奥にエーラビットの屍に群がる3匹のエーウルフに遭遇する。



「ハヤト!エーウルフよ!群れで連携して攻撃してくるから気を……え…」



 バフゥーーン



 ミーラはハヤトにエーウルフの習性、戦い方を教えていたのも束の間、3匹のエーウルフはハヤトの流行った無詠唱のウィンドボール三発にすっ飛ばされ、空中を舞いながらドゴン!と景気のいい音を上げて木にぶつかり、ズルズルと下に落ちて動かなくなったのだ。



「ふぅ…」


「ふうじゃないよ!!ハヤト…この辺の魔物はもうハヤトに取っては相手にならないかもしれないよ…んー…」



 ハヤトはしてやったらという顔で、ふぅと一息ついているが、もう規格外すぎてミーラは魔物の事を逆に哀れだなと思っているような瞳で動かなくなったエーウルフを見ているのだった。



 グァァーーー!!!!



「は、ハヤト!後ろ!!」



 と、その時いきなりハヤトの背後からシーベアーが現れる。そして身体が無駄にでかい。例で表すならばゾウくらいあるかもしれない。実は、このシーベアーはこの森で1番強く、主として君臨していた。そんなシーベアーは自分の縄張りに入ってきた強者を見つけて襲いかかってきたのだ。



「あぁ、わかってる!」



 ハヤトは、後ろを向いたまま上に飛んだかと思えばそのまま、サマーソルトを決めに蹴りを放ったのだ。だが、さっきまでの雑魚魔物とは違いシーベアーはハヤトの足を掴むとそのまま腕をひと回し、ハヤトをタオルのように木に向かって投げ飛ばした。



「ウィンドボール!」



 ハヤトは咄嗟に木に向かってウインドボールを打ち自分と木の間に風のクッションを作り威力を緩和して致命傷を避けたのだ。



「あぶねぇ…」



 ハヤトからしても今のは結構危なかったらしく、冷や汗をかいていた。そんな一瞬の出来事を見ていたミーラは、なんて身体能力なの…と唖然としているのだった。


 ハヤトも最初はえーラビットにあれ程ビビっていたのにもはや別人である。最初のあの頃はちょうど記憶も抜けていたし、自分を鍛え、世界征服を成し遂げ、やよいを、救うという覚悟も無かったので仕方のない事かもしれない。


 だが、ハヤト本来の運動神経も、地球にいる時からぶっ飛びぬけていたし、身体も若返りペルセポネの眷属としての恩恵も受けているのでさらに凄まじいことになっていた。



 グルゥゥ…



 シーベアーは、ハヤトに自分の攻撃をいなされて少々苛立っているのかさっきより鼻息が荒く低く唸り声をあげている。


 そして、その巨体からは考えられないよう速度でハヤトに接近し、右手の鋭い爪をハヤトに向かって突き出した。ハヤトも、その巨体から動きは遅いだろうと考えていたのか少し反応遅らせる。だが、なんとかギリギリの所で反応する事に成功しその突き出された右手を右脇の所に誘導しそのまま腕でロックする。



「ぬらぁぁあああー!!」



 あろう事か、ハヤトは裂帛の気合いを入れてそのまま象サイズの熊の右手を抱え込むや否や背負い投げの体勢を取り思いっきり投げ飛ばしたのだ。ズドォォーーン!!という壮烈な地響きを立て巨体が地面に仰向けに状態になる。そのままハヤトは、仰向けのシーベアーに馬乗りになり、ただただ殴り続ける。凄まじい速度でパンチを繰り出しシーベアーはグゥゥ…と苦しそうに唸り声を上げている。



「これでくたばれ!ストーンボール!!!」



 ハヤトがこれで留めだ!言わんばかりに金髪の髪がツンツンのスーパーマンばりのフォームでストーンボールを繰り出す。


 そして、ガツーーンという痛々しい音とともにそのストーンボールを頭部に受けたシーベアーはぐったりして、仰向け大の字の状態で気を失ったのか動かなくなった。



「はぁはぁ…やよい!やったぞ!」


「やよい?」



 ただ見ている事しかできなかったミーラは、ハヤトの自分に対してではなく違う名前を呼んでいる事に何の事?という感じで首を傾げている。



「あ…何でもない…ミーラ!俺結構いけるんじゃないか!?」


「まあ…いっか。えっと…あり得ないよ…ていうか!その身体能力どういう事なのー…」



 ハヤトの諸事情だしあまり突っ込むのはやめようと、引いたミーラだったが、ハヤトの身体能力の高さには呆れを見せる以外の反応はできないのであった。


 そんな勝利後の会話に浸っていた2人の背後には、気を失って倒れたと思っているシーベアーが動き出そうとしていた。当然2人はそんな事には全く気づかずにハヤトがいやいや、そんな事と…そしてミーラは本当にあり得ない…なんなの…と自信消失をしている。シーベアーは気を失ったフリをしていて、スキを伺っていたのだ。



 グルァァァアアア!!!



「ッッ!!う…は…」



 そして、とうとう2人は最後までシーベアーの存在に気づく事が出来ずに、ハヤトはシーベアーのその鋭い爪で背中を引き裂かれてしまい、小さく呻きバタッと地面に倒れてしまったのだ。



「は、ハヤトーー!!!!!う、うそ…」



 ハヤトはそのまま起き上がらずミーラの叫び声も聞こえていないのかビクともしない。恐らく気を失ってしまっている。ミーラは先ほど見ている事しか出来なかった事から今の状況は非常にマズイと考えているのか、冷や汗を流し始め、ハヤトを守るような体勢でハヤトとシーベアーの間に入る。



「わ、私が相手になるわ!!」



 シーベアーは、こんな弱そうな娘に負けるわけ無いとでも言うかのように、ニヤリと口元が裂けているようにも見える。ミーラはとりあえずこのままじゃまずい、ハヤトを木の陰に急いで運び、一言待っててと言うと再びシーベアーと相対する。


 シーベアーはそんな光景を待ってやるよとでも言っているかのように佇んでいた。しかし、直後、ブォン!というような空気を切り裂くような音が響き、シーベアーがミーラに一瞬で肉薄したのだ。そして、熊の身体とその巨体からは考えられないような蹴りを放つ。


 ミーラは、え…と声を上げるだけで接近戦は全くなので反応が何も出来ていない。



「あ……ハヤト…」



 そしてそのまま蹴りはミーラの腹部に直撃し、鋭い爪もある事からかなり深く爪も食い込みそのまま上空にすっ飛ばされてしまったのだ。最後に、小さくハヤトの名前を呟いたが、ハヤトは倒れままビクともせず動かない。



「聖なる光の加護あれ、ヒール…」



 上空を舞いながら、ミーラは回復魔法を呟きなんとか自分の腹部の傷を治す事だけは成功する。だが、そのまま地面に落ちる衝撃はどうする事も出来ず、シーベアーの目の前に落下してしまったのだ。



「かっはっっ!くっ…ファイアーボール…」



 上から下に落とされたミーラは、衝撃で肺の中から空気を絞り出され、その時に内臓にもダメージが入ったのか血も一緒に吐き出してしまう。それでも、最後の力を振り絞り今出せる最大の火力でファイアーボールを放ったのだ。シーベアーは、余裕ぶってスキだらけであったので、ミーラの最大威力のファイアーボールを、ドガァーーン!と腹部に思いっきり当てられてしまったのだ。


 シーベアーの巨体なので、ズズズッと3メートル程しか後ろに下がらなかったが、腹部は真っ赤に焼けて赤黒い肉が見えるくらい抉られている。そして、そのダメージで自分の巨体を支えきれなくなったのか、前屈みに倒れ始めた。



「や、やった……」



 ミーラは言ってしまったのだ。最高のフラグ全開の言葉を。シーベアーは、倒れるギリギリで両手を地に着き、その巨体を支え再び起き上がってしまったのだ。


 そして、シーベアーは倒れているミーラに少しずつ近づいてきて、鋭い爪のついた巨大な右手上に大きく掲げ、これで留めだとでもいうような感じで振り下ろそうとする。



(もしかして、ここで終わり?ディンの事も助けられないし…ハヤトにも私がいろいろ教えあげるなんて張り切っていっちゃったけど、結局私は何もしてない…師匠ー…ハヤトー…もうこれはダメだよ…魔力はあるけど、身体の弱い私じゃもう立ち上がる事も魔法を放つ事もできそうにないよ…ごめんなさい…役立たずで…)



 ミーラが、これが走馬灯?というかのように昔の記憶を思い出したり親友ディンや自分の師匠の事を考えたり、一瞬の間の中で色んな事を頭に思い浮かべていたのだ。そして、とうとうシーベアーの右手が勢いよく振り下ろされる。ミーラはもう諦めてしまったのか、目を瞑って覚悟を決めていた。



 そして……グチャッ



 辺り一面には、いきなり真っ赤な花が咲いたのかと思う程、血が飛び散り、鳥達の群れがザザァーーーッと森の木から飛び去っていったのだった。





そういえば地図についてなんですけど、

そのうち書いておきます!

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