自称神
(ここは…俺は確か…やよいが助けられるって事を聞いて、たしか"何か"に…)
勇人は雲上にいた。他には何もいいようがない、雲の上だ。周りをきょろきょろと見回し、自分の状況を確認している。そして、今どこにいるのか理解した途端顔を青ざめさせて濡れた子犬のように体をブルブルと震わせはじめた。
「あなた、ここがどこなのかやっと理解した?そして、チラチラと私の方見たくせになんでスルーしたのよ!それとも何?見えてない?」
「あぁぁ……」
勇人がずっと震えていてそのうちお漏らしでもしそうな勢いだったので、"何か"は「わかったわよ」と言いながら、首を傾げ両手を投げて諦めたかのようなポーズをとると、指を出し、人差し指でまるでスマートフォンのページを捲るかのような動きをした。
そしたら、まるでほんとにページを捲るかのように世界がスライドして世界が一変してしまった。それは、森の中だ。周りには大量の木々を生い茂り、地球にではないような樹が聳え立っている。動物の鳴き声がそこかしら中から聞こえ、木々の隙間からは木漏れ日が差し、とても幻想的な光景だった。その樹齢何年だよ!!っと突っ込みを入れたくなるような樹の根元にはコタツとコタツに入る"何か"がどうよというかのようなドヤ顔をしながら微笑んでいる。その合わない二つの謎の光景には違和感しかない。ぶるぶる震えていた勇人はやっと落ち着いてきたのか、言葉を発する事が出来た。
「お前誰だよ」
「さっきからいるじゃない!!目の前に居るじゃない!!!なに!さっき私は独り言しゃべってたって事!?私を誰だと思ってるのよ…」
「だからお前は誰なんだよ」
「聞いて驚きなさい、私は神様。でも直接世界には干渉できないの。だからあな――」
自称神様の言葉を遮りいきなり土下座して頼み込む男が一人いた。もちろん勇人だ。
「頼む!神様ならやよいを、俺の大切な娘を、助けてくれ!!」
呆れたように手をひらひらさせながら溜息を吐き答えた。
「最後まで人の話を聞きなさい?私はなんでもするなら助けてあげるって言ったはずよ?もちろん助けるわ。あっちの世界は今時間が止まっているの。まぁ、私が止めているんだけど。その間にあなたにしてほしい事があるのよ。」
「な、何をすればいいんだ・・・」
「世界征服よ」
と、あっさり自称神は答えた。勇人は目をぱちくりさせながら放心状態で止まっている。いきなり現れて、娘を助けてやる。その代わりに世界征服をしてくれといわれても現実味がなさすぎる。だが、勇人からしてみれば娘さえ助けてくれれば世界征服だろうとなんだろうとするつもりである。
「分かった。やろうじゃないか」
「え?軽すぎない?普通世界征服!?そんな事俺ができるわけない!とか、無理無理!とかそういう反応するもんじゃないの!?」
「あぁ、普通はそうだろうな。でも、娘の命と引き換えに考えてみれば何だって出来る。なんたって俺はやよいを愛しているからな!!しかも、見たところここは俺の住む世界とは違う場所なんだろ?だったら俺には関係ない事だ。今すぐにでもしてやる、おら、いくぞ」
勇人は勉強はできないが頭の切れが悪いわけではない。すぐに状況を理解し、今すぐにでも走り出しそうな勢いで世界征服に乗り出そうとしていた。コタツに入っていた自称神もさすがに、驚きを通り越し逆に慌てだしてしまった。
「待って待って!あなた何様のつもり!?私は神で、あなたは一たくさんの世界の中のひとつのちっぽけな一般人よ?私より先に行こうとするってどういうことよ!」
「いや、だってお前が世界征服すれば助けてくれるって言ったんじゃないか」
「ちょっと待ちなさいよ。あなたの世界は止めてあるって言ったでしょ?まずは私の話を聞いてちょうだい。」
勇人はまぁ、そういうことならといい、自称神は語りだしたのだった。
まず、自分は神様ではあるけど、なんでも出来るわけではない事。神にも色々いて、良い神や悪い神やいたずきな神が居ること。世界の自然災害なども、神様のいたずらで起きる事もあると言う事。そして、その自称神は自称良い神で、世界には直接干渉はできないけど、時間止めたり、過去や未来を見るくらいなら出来るということ。そして、自分の眷属に世界征服をしてもらう事によって新しい力を得て、その力で弥生を救えるのだという事。大まかにいうというとこんな所だろうか。
「という訳で、あなたにはこの世界を征服してもらうわ。」
「わかった。けどこんな40歳のおやじにそんな事できるのか?」
「えぇ、できるわ。あなたにはその適正がある。だから呼んだのよ。転移させる時にいくつかしてあげれる事があるから私が力を授けてあげる。まずは身体を若返らせて……」
自称神はそんな事をブツブツと言いながら、指をくるくる回し始めた。そして、いきなり立ち上がったかと思うと両手を広げて神々しく輝きだした。
それを見ていた勇人は、ほんとに神なのかずっと疑っていたが本物なんだと納得している様子でその場にじっと佇んでいる。しばらくしたら、上空から眩い光の柱が降ってきて勇人の周りをぱぁーっと包むと徐々に細くなって消えていった。勇人は両手を開閉したり、自分の顔を触ってみたり、変顔してみたり、ジャンプしてみたり走ってみたりして驚きの表情で驚愕している。なぜなら、本当に若返り昔の運動神経が、蘇り鍛えていた時の体型に変わっていたからだ。
そこへ、ふぅーっと一息ついた自称神がまたもドヤ顔しながら、勇人の方に向かってきた。そして、肩にポンと手を乗せて、「力は与えたわ。女神の祝福があらんことを」って言いながら微笑んでいる。
「お前が神様だろ。」
ってごもっともな突っ込みをし、「細かいことはどうだっていいの!」とか自称神が喚いていたがそんな事は気にせず、勇人は弥生の為に…と小さく呟き、両手をぎゅっと握り締めるのだった。
「それじゃ、私が出来る事はここまでよ。後は任せたわ!転移、B666」
「ちょっ!まっ!どんな力なのかとかまだ聞いて―――」
勇人はまたも光に包まれ、意識が薄れて行く。あぁ、本当に世界征服をするのか……というなんとも言えない心境のままとうとう意識が完全に奪われ、また闇の中に飲まれていくのだった。