~虐げられる者1~
※主人公視点ではありません
「…ハーフエルフ、…逃げて…に行きやがった!!」
「…して……の森に……たんじゃ…」
「くそっ!奥まで……なら可能性は…」
「はぁ…はぁ…はぁ…っ!」
遠くから追手の声が聞こえてきて、疲れ切った体に渇を入れ呼吸を急いで整える
どうやら私と言う商品を諦める気はないようだ
だけど、せっかく巡ってきたチャンス
ここでなんとか逃げ出さなくては私に未来は無い
逃げた後どうなるかは時の運になってしまうだろうけど、どこかの貴族の性奴隷にされるぐらいならわずかなチャンスにも縋りたい
奴隷商人に捕まってから碌に運動出来ていなかった体が悲鳴を上げるのを無視しながら私はどこだかも分からない森の中を走り続けた…
どれくらい逃げ回ったのだろうか
明るかった空はもう日が暮れようとしている
森の奥からは自分でも分かるレベルの強大な魔物の気配がしていたため、森の奥に進む事は出来ず隙を見て街道に出る為にも森の浅い所をあれからずっと走り続けていた
追手の声も聞こえなくなり、近くに魔物の気配もしないしもう大丈夫だと震える足を止め、呼吸を落ちつけながら近くの木に寄りかかろうとした瞬間、突然後ろから現れた男に突き飛ばされた
「キャァ!」
「へへ、散々逃げ回ってくれたがここでお終いだな!」
気配は無かったと言う事は隠行系スキルでも使っていたのだろう
「この森の奥に逃げられたら流石に俺達でも命は惜しいからな、こんな浅い所を逃げ回ってくれたおかげで大事な商品を逃がさず済んだぜ」
あぁ…結局私には追手に捕まってどこぞの貴族の性奴隷にされてしまうか、追手から逃げて森の奥で魔物の贄になってしまうかの2択しかなかったんだ
隠行系スキルを持っていて、気配を完全に消せるという事は、この追手のリーダーらしき者は相当レベルも高いのだと想像できる
万全の状態なら何とかなったかもしれないけど、この衰えた能力では…
「とりあえずまた逃げられても面白くないから片足ぐらいは斬らせてもらうぜ!なに、あんたみたいなハーフエルフなら片足なくても良いって奴は大勢いるだろうよ。」
そう言って男は倒れた私の右足めがけて戦斧を振り下ろした
…出来ればあまり痛くないと良いな、などとどこか客観的に思いながら直ぐに来るであろう痛みに備え目を閉じ歯を食いしばった。
ガキンッ!
私の脚に振り下ろされた筈の戦斧が何かに当たり鈍い音をたてた
私と男の間にはそんな鈍い音を出すような物は無く、振り下ろされた戦斧は間違いなく私の脚を切断する筈だった
なのに斧は私の脚に届く事は無く、覚悟していた痛みは襲ってこなかった
振り下ろされた瞬間、恐怖から閉じた目を開けるとそこには望んではいたけど絶対にあり得ない光景が映っていた
「……え?」
それはまるで物語の英雄の様に、私に対し背を向けて追手の男の斧を軽々と見た事もない武器?で受け止めている黒髪の男の姿だった
「てめぇ!何様のつもりだ!!」
「いや、よく分からないけどあんたを止めないとこの子の脚が無くなってただろう?」
「当たり前だ!そいつはこの俺から逃げたんだ、2度とそんな事考えられないように脚の一本ぐらい斬っといてやらねえとな!」
「うーん、剣と魔法の世界でそういった事は覚悟してたけど予想以上に物騒だな」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!!そこをどかねぇって言うならまずお前から殺してやるよ!」
「ここまでお約束だと笑いも出てこないな…」
私に当てる筈の攻撃が邪魔され苛立つ追手に対してどこか達観しているような黒髪の男がぶつぶつと何かを呟いている
その間にも追手は容赦なく黒髪の男に切りかかっているが、全ての攻撃が軽くいなされてしまっている
あまりに現実離れした光景に呆然としていると…
「えっと、そこのお嬢さん?で良いのかな?この男は君の身内かな?」
そう声をかけられハッと意識を戻し、周りを見て黒髪の男が私に声をかけているのだとようやく気が付いた
そこで私は驚きで声が出ない代わりに首を横に振った
「ん~、じゃあ気絶させたりしても問題ない?」
今度は首を縦に振る
「そっかそっか」
「てめぇ、何余裕こいてやがる!いいぜ、そろそろ他の奴らも追い付いてくるだろうが、その前にこの俺様のとっておきのスキルで」
「あ、そういうのは間に合ってるので」
バタン
そう黒髪の男が言うと、何故か追手の男は倒れ伏していた
「……え?」
何が起こったのだろう
気が付けば戦闘?が終わり、追手がまだ居るという事を除けば私と黒髪の彼と二人だけになっていた
「えーっと立てるかな?」
私に手を差し出しながらどこか困った様な苦笑い浮かべ黒髪の男が声をかけてきた
そんな彼を見てこの人が、私に対する悪意や敵意を持っていない事を理解した瞬間、安堵と疲労、そして張りつめていた緊張の糸が緩み私は意識を手放した
「あ、ちょっと!?」
そんな黒髪の彼の困った様な、慌てた様な言葉が最後に聞こえた気がしました