テンプレ通りに悪役令嬢倒す
流行りに乗り遅れました……!
テンプレ注意! です。
「この地底砦に、悪役令嬢ベルタ様がいるのね……」
眼下に広がる地底砦を見て、黒目黒髪の少女アリアは呟いた。
アリアは、アリアが前世でプレイしまくっていた乙女ゲーム『庶民の私が学園で高貴なヒトと恋愛しちゃうの?』のヒロイン、アリアに転生していたヒロインだ。そして悪役令嬢ベルタは、ヒロインをいじめる悪役令嬢だ。ここだけの話、アリアと同じ転生者だ。
そして、アリアはさんざん嫌がらせをしてきたベルタを断罪するために、ベルタの本拠地、地底砦に来たのだ。
「アリア、何も心配することはない。俺は騎士だ。だから俺が、お前を守る」
攻略対象の一人、騎士団長の息子、エドガーが剣に触れながらアリアに言う。
「アリア、僕もエドガーと同じ。君は僕の魔法への誇りを取り戻してくれた」
攻略対象の一人、元宮廷魔導師の教師、フェリクスも杖に触れながらアリアに言う。
「エドガー様、フェリクス先生、ありがとう! 絶対にベルタ様を止めなきゃ!」
アリアはまっすぐ砦を見据える。そして隣の二人と頷き合い、砦へと向かった。
砦に入って最初の大きめの部屋、アリア達三人が入ると、そこにはすでに人影があった。
「あ、あなたは……!」
その人物を見てアリアは驚きの声をあげる。
「すまない、アリア。君と過ごした時間は、とても穏やかで、いつまでも共にいたいと、思っていた」
その顔に自嘲を浮かべる人物、それは攻略対象の一人、王太子クリストファーだった。
「ど、どうしてクリス様?! なぜベルタ様に……」
「アリア、ベルタが何をしようとしているか知っているか?」
悲痛な表情を浮かべるアリアに、クリストファーが問いかける。
「ベルタは世界征服を企んでいる。そして実際に、世界征服するための秘密結社ノイモーントを作ったのだ」
「え、そんな……」
「そしてベルタはこの国を足掛かりに世界征服を進める気だ。だから私と婚約して、この国から内側から乗っ取ろうとしている。しかし、これを拒めばベルタが内乱を起こし、力ずくで国を奪い取られてしまう!」
クリストファーが話す内容に驚き、声を失うアリア達。クリストファーは言葉を畳み掛ける。
「だからすまないな。国民を守るために、私はここを通すわけにはいかないんだ!」
クリストファーの声は悲痛だ。
戦うしかないのかと、アリアが唇を噛み締めながら、剣に手をかける。それを横から、そっと押さえる手があった。
「エドガー様……」
「ここは俺に任せて、君達は先に行くんだ」
エドガーが静かに剣を構える。
「必ず殿下を説得して、追い付く」
「わかったわ、エドガー様! 絶対ですよ!」
アリアとフェリクスはさらに奥に向かって走り出した。
しばらく進むと、またも大きめの部屋にたどり着いた。そこにもまた人影があったが、今度の人影は右腕のシルエットが異常だ。
「来てしまったんだね、アリア。君のその真っ直ぐな性格が、今は憎いよ」
そう言ったのは、攻略対象の一人、宰相の養子でベルタの義弟のデリックだ。しかし、その様子は普通ではない。
「デリック様……その腕は……」
そう、デリックの右腕は、肩から指先まで、真っ黒な甲殻に覆われいた。指には凶悪そうな鉤爪、二の腕辺りには赤く脈動する不気味な石が嵌まっていた。
「僕は幼い頃、姉上に肉体改造を施されてね。強くはなれたんだけど、この呪玉のせいで姉上には逆らえない」
「デリック様……なんてこと……」
デリックは皮肉げな笑みを浮かべ、右手を持ち上げる。
「本当は君達と戦うのは嫌だ。でも、姉上の命令だからね。ここは通さないよ!」
アリアは、目に涙をためながら、剣に手をかける。しかし、またしても、横から伸びた手が、そっと止める。
「アリア、僕だって戦える。それに魔導師だからね。彼をベルタの支配から解き放てるかもしれない」
フェリクスがデリックに杖を向ける。
「必ず彼を救うから!」
「フェリクス先生! 絶対に二人とも追い付いてくださいね!」
アリアは、さらに砦の奥へと走った。
アリアはついに最奥の部屋にたどり着いた。途中何度も奇声を発する量産型の怪人が襲いかかってきたが、量産型なので普通に倒した。
最奥の部屋には、異様に太い柱の前に立つ、豪華なドレスを着た金髪碧眼の女がいた。髪型はもちろん縦ロールだ。
「オーッホッホッホ! よくぞここまで来ましたわね、アリアさん!」
右手に持った扇子を口元で開き、左手を腰にあて、背を反らしながら高笑いするのは、悪役令嬢ベルタ!
「ここまで来れたご褒美に、ワタクシの仲間に入れて差し上げてもよろしくてよ! もちろん、相応の地位は約束して差し上げますわ!」
「お断りです、ベルタ様! 世界征服なんてさせません」
アリアは素早く剣を抜き、ベルタへ向ける。
「庶民の貴女がこのワタクシを止められるわけがありませんわ! かかってきなさい!」
ベルタが言うや否や、アリアは剣を構え前へ飛び出し、ベルタに向けて目にもとまらぬ速さで剣を振り抜く。しかし、それは途中で高い金属音をたてて止まった。
アリアが驚きに目を見開く。その目に写ったのは、アリアの剣を扇子で受け止めるベルタ!
「オーッホッホッホ! 遅すぎますわよ、アリアさん! 次はワタクシの番ですわ!」
ベルタがアリアに左手を向け、エネルギー弾的なものを放つ。
「きゃああああ!」
その衝撃でアリアは十メートル程後方に吹き飛ばされる。
「他愛ないですわ!」
吹き飛ばされたアリアに左手を向けるベルタ! その左手にエネルギーが溜まっていく。
「これで、終わりですわ! オーッホッホッホ」
アリアに向けてエネルギー弾的なものが放たれた! アリアはとっさに目を瞑り、衝撃に備える。
しかし、しばらくしても何も起こらない。恐る恐る目を開くと、アリアの前に四人の男達が、アリアに背を向けて立っていた!
「私は、目が覚めたよアリア。気づいたんだ、民の平和を思うならなおさら、ベルタを止めるべきだと! ベルタ、今日を持ってお前との婚約を破棄させてもらう!」
「クリス様!」
「フェリクス先生のおかげで、姉上の呪縛が解けたよ。アリア、今度こそ一緒に戦わせてくれ。そして、姉上、貴女はやり過ぎた!」
「デリック様!」
「アリア、遅くなってすまない。だが、約束は果たした! だから、俺は今から君を守るために戦う!」
「エドガー様!」
「アリア、僕はやったよ。不思議だな。今の僕なら、何とだって戦える気がするんだ。アリア、全力で、支援するよ!」
「フェリクス先生!」
そう、四人の攻略対象達だ。
「みんな……来てくれるって信じてた! みんながいれば、ベルタ様だって倒せるわ!」
アリアは立ち上り再び剣を構える。
「フフ、さすがに五人相手だと、このままではワタクシでも勝てませんわ」
不敵に笑うベルタ。
「負けを認めてくださいますか?」
「オーッホッホッホ! 負けを認める? このワタクシが? あり得ませんわ!」
「強がりか? この状況、覆すことはできまい!」
ベルタは不敵な笑みを浮かべたまま、ぴしゃりと扇子を閉じる。
「コードエクスキューション。来なさい! 灰塵式機装アーネストディザイア!」
その瞬間、異常な地響きと突風が起きる。
「な、何が起こっているの?!」
地響きと突風が収まると、ベルタの姿は一変していた。
先程までの豪奢なドレスはなくなり、代わりに所々光が走るロングローブ。その手には一本の機械パーツの見え隠れする大剣。背中には一メートル程の十枚の鋭利なプレートが、円形状に浮かんでいた。
そして何よりも、ベルタの背後にあった柱、その覆いがなくなっていた。中には液体が満たされており、ヒトガタのなにかがチューブに繋がれ浮かんでいた。
「まさか……灰滅の魔王グレー?!」
なんとヒトガタのなにかは、隠しキャラの灰滅の魔王グレーだったのだ!
「フフ、その通りよ! 灰塵式機装アーネストディザイアはグレーの灰滅エネルギーを利用して作動する兵器! これで、貴方達に勝ち目はないわ! オーッホッホッホ!」
ひとしきり高笑いすると、ベルタは背後のブレードパーツを一斉にアリア達に向けて飛ばす。ブレードはそれぞれ、炎や氷、雷などの属性を纏わせ飛来する。
「これくらい!」
アリア達はそれぞれ、ブレードをかわしたり打ち落としたり、なんとかしのぎきる。
「これだけじゃありませんわ! スタートアップアーネストディザイアフォームキャノン!」
ベルタが、機械剣を顔の前で真っ直ぐ構える。先程撃ち出したブレードが戻ってきて、剣の鍔辺りを旋回し始める。そして、剣の先端がわずかに開き、灰電を走らせるエネルギー的なものが溜まり始める。
「灰塵砲アッシュデスペアー!」
機械剣の先端から、灰色のビーム的なものが発射される。アリア達はぎりぎりかわすが、余波まではかわしきれず、吹き飛ばされる。
「く、正面から戦えば圧倒的な力で今みたいに吹き飛ばされてしまうわ」
「なんとか隙をついて弱点を攻撃するべきじゃないか?」
「弱点……あの灰塵式機装アーネストディザイアは灰滅の魔王グレーからエネルギーを得ているみたいだね」
「ということは、やつの弱点は灰滅の魔王グレーということか!」
アリアは決意を瞳の宿らせ、周りの仲間を見回す。
「私が、私がグレーパーツを攻撃するわ」
アリアの仲間達ははっきりと頷く。
「分かった、俺達がベルタを引き付ける」
アリア達は、もう一度全員で頷き合うと、各々の武器を持って走り出した。
「何をやっても無駄ですわー!」
ベルタのブレードが襲いかかる。
「アリア! 行け!」
アリアは、ブレードをかわし、ベルタの後方グレーパーツの元へ走る。
「く、グレーパーツを狙うとは、小癪ですわ!」
ベルタが機械剣をアリアに向けるが、
「させない!」
すかさず、エドガーが割り込み止める。
その隙にアリアはグレーパーツの前にたどり着く。
「はあああああああああああっ!」
アリアが剣を降り下ろす。グレーパーツ、グレーを覆っていた物が、激しい音をたて砕け散った。
「しまった、ですわ!」
その瞬間、ベルタの灰塵式機装アーネストディザイアは力を失い、地に落ち光らなくなった。
それと同時に、燃料にされていた灰滅の魔王グレーが目を覚ました。グレーはグレーパーツを破壊したアリアに目をやる。
「我を解放したのは、汝か?」
「は、はいそうですが……」
緊張するアリアを見て、グレーはふっと軽く笑う。
「なるほど、我を封印した勇者に似ておる。汝、名はなんと言う?」
「アリアです」
「ならば、アリア。汝に我の力を貸してやろう。とは言っても、今は力を大幅に失っておるがな」
皮肉げに笑うグレー。
「お願いします! グレー!」
アリアはグレーの手を取りにっこり笑う。
そして、再びベルタと向き合う。
「ベルタ様、これでまた、形勢逆転です!」
しかし、ベルタは笑みを崩さない。
「フフ、こうなったら奥の手を使うしかないようね」
ベルタは、足元の魔方陣を起動させながら、何らかの呪文を唱え始める。
「我は力を欲するものノイモーント。古より狭間に揺蕩う破滅の力よ、今こそ我に宿りたまえ!」
ベルタの足元の魔方陣が、強く光った瞬間、ベルタが黒い光の柱に覆われ見えなくなる。
「な、何が起こっていると言うの?!」
アリア達は、光柱から放たれる衝撃に、吹き飛ばされまいと踏ん張る。
「あれは、魔王化の儀式だ。やつは、人間をやめると言うのか?!」
そして光が収まると、そこにはかつてベルタだったものが鎮座していた。
体は二回りほど大きくなり、肌は青く変色している。髪も黒くなり、アリア達を眺める目は深紅。上半身はあまり変わりはないが、下半身は巨大な植物の蕾のような形になっていた。そして、その背には深紅の花弁で形作られた一対の翼。周囲には葉や花を飾った蔦が蠢く。
「オーッホッホッホ! はじめまして、ワタクシ、浸植の魔王ベルタ・ノイモーント! ワタクシに逆らうものは、すべて死刑よ!」
アリア以外の者達はその威圧感に、無意識に一歩下がっていた。しかし、アリアは引かない!
「あなたがどんな力を手に入れようとも、私は諦めません! あなたを絶対に止めて見せます!」
「オーッホッホッホ! できるものなら、やってみなさいな!」
ベルタ・ノイモーントはその蔦を自在に操り、アリアに攻撃を始める。アリアは、その手の剣で必死に捌く。しかし、時おり飛来する花弁まで対処できず、徐々に傷ついていく。
そして、ついに蔦の一本を捌くことに失敗してしまう。しかし、アリアではない人物が、その蔦を代わりに剣で受ける。
「すまない、アリア! だがもう大丈夫だ!」
王太子クリストファーだ! それ以外の仲間達も、武器を持ちアリアの横に立ち、アリアに頷いてみせる。
「みんな、ありがとう! 今なら、きっと必殺技が使えるわ! みんなの絆の力を私に集めて!」
アリアが剣を掲げると、クリストファー、デリック、エドガー、フェリクス、そしてグレーまでもが手を掲げアリアの剣に力を送り始める。徐々に虹色の輝きを強めていくアリアの剣。
「みんなの思い、受け取ったよ! これで終わりよ、ベルタ・ノイモーント!」
アリアが太陽のごとき眩い虹色の輝きを放つ剣を振りかぶる。
「絆剣レインボーノヴァエクスプロージョン!」
アリアが思い切り剣を降る。その纏っていた虹色の輝きがレーザーっぽくベルタ・ノイモーントに殺到する。
「きゃあああああ、こんな、こんなああああああ!」
強烈な光に飲まれ、ベルタ・ノイモーントはその体を消滅させていく。
「ワタクシは、こんなところでは終わりませんわあああああ! 必ず蘇って、お前達を…………」
そして、ベルタ・ノイモーントはその言葉を残して、完全に消滅した。
「終わった、のか?」
誰ともなく呟く。
「いいえ、まだです」
アリアが、さっきまでベルタ・ノイモーントがいた場所を見つめながら、はっきりと否定する。
「ベルタ様は、必ず蘇るとおっしゃいました。私もきっと、いえ、絶対に蘇ると思っています。だから」
アリアが真っ直ぐ仲間達の目を見る。
「次も倒せるように、しっかり備えなくてはなりません! そう、私達の戦いはまだ始まったばかりなのです!」
お読み頂きありがとうございました!
凍の次回作にご期待ください!