表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

テンプレ通りに悪役令嬢倒す

作者:

流行りに乗り遅れました……!

テンプレ注意! です。

「この地底砦に、悪役令嬢ベルタ様がいるのね……」

 眼下に広がる地底砦を見て、黒目黒髪の少女アリアは呟いた。

 アリアは、アリアが前世でプレイしまくっていた乙女ゲーム『庶民の私が学園で高貴なヒトと恋愛しちゃうの?』のヒロイン、アリアに転生していたヒロインだ。そして悪役令嬢ベルタは、ヒロインをいじめる悪役令嬢だ。ここだけの話、アリアと同じ転生者だ。

 そして、アリアはさんざん嫌がらせをしてきたベルタを断罪するために、ベルタの本拠地、地底砦に来たのだ。

「アリア、何も心配することはない。俺は騎士だ。だから俺が、お前を守る」

 攻略対象の一人、騎士団長の息子、エドガーが剣に触れながらアリアに言う。

「アリア、僕もエドガーと同じ。君は僕の魔法への誇りを取り戻してくれた」

 攻略対象の一人、元宮廷魔導師の教師、フェリクスも杖に触れながらアリアに言う。

「エドガー様、フェリクス先生、ありがとう! 絶対にベルタ様を止めなきゃ!」

 アリアはまっすぐ砦を見据える。そして隣の二人と頷き合い、砦へと向かった。


 砦に入って最初の大きめの部屋、アリア達三人が入ると、そこにはすでに人影があった。

「あ、あなたは……!」

 その人物を見てアリアは驚きの声をあげる。

「すまない、アリア。君と過ごした時間は、とても穏やかで、いつまでも共にいたいと、思っていた」

 その顔に自嘲を浮かべる人物、それは攻略対象の一人、王太子クリストファーだった。

「ど、どうしてクリス様?! なぜベルタ様に……」

「アリア、ベルタが何をしようとしているか知っているか?」

 悲痛な表情を浮かべるアリアに、クリストファーが問いかける。

「ベルタは世界征服を企んでいる。そして実際に、世界征服するための秘密結社ノイモーントを作ったのだ」

「え、そんな……」

「そしてベルタはこの国を足掛かりに世界征服を進める気だ。だから私と婚約して、この国から内側から乗っ取ろうとしている。しかし、これを拒めばベルタが内乱を起こし、力ずくで国を奪い取られてしまう!」

 クリストファーが話す内容に驚き、声を失うアリア達。クリストファーは言葉を畳み掛ける。

「だからすまないな。国民を守るために、私はここを通すわけにはいかないんだ!」

 クリストファーの声は悲痛だ。

 戦うしかないのかと、アリアが唇を噛み締めながら、剣に手をかける。それを横から、そっと押さえる手があった。

「エドガー様……」

「ここは俺に任せて、君達は先に行くんだ」

 エドガーが静かに剣を構える。

「必ず殿下を説得して、追い付く」

「わかったわ、エドガー様! 絶対ですよ!」

 アリアとフェリクスはさらに奥に向かって走り出した。


 しばらく進むと、またも大きめの部屋にたどり着いた。そこにもまた人影があったが、今度の人影は右腕のシルエットが異常だ。

「来てしまったんだね、アリア。君のその真っ直ぐな性格が、今は憎いよ」

 そう言ったのは、攻略対象の一人、宰相の養子でベルタの義弟のデリックだ。しかし、その様子は普通ではない。

「デリック様……その腕は……」

 そう、デリックの右腕は、肩から指先まで、真っ黒な甲殻に覆われいた。指には凶悪そうな鉤爪、二の腕辺りには赤く脈動する不気味な石が嵌まっていた。

「僕は幼い頃、姉上に肉体改造を施されてね。強くはなれたんだけど、この呪玉のせいで姉上には逆らえない」

「デリック様……なんてこと……」

 デリックは皮肉げな笑みを浮かべ、右手を持ち上げる。

「本当は君達と戦うのは嫌だ。でも、姉上の命令だからね。ここは通さないよ!」

 アリアは、目に涙をためながら、剣に手をかける。しかし、またしても、横から伸びた手が、そっと止める。

「アリア、僕だって戦える。それに魔導師だからね。彼をベルタの支配から解き放てるかもしれない」

 フェリクスがデリックに杖を向ける。

「必ず彼を救うから!」

「フェリクス先生! 絶対に二人とも追い付いてくださいね!」

 アリアは、さらに砦の奥へと走った。


 アリアはついに最奥の部屋にたどり着いた。途中何度も奇声を発する量産型の怪人が襲いかかってきたが、量産型なので普通に倒した。

 最奥の部屋には、異様に太い柱の前に立つ、豪華なドレスを着た金髪碧眼の女がいた。髪型はもちろん縦ロールだ。

「オーッホッホッホ! よくぞここまで来ましたわね、アリアさん!」

 右手に持った扇子を口元で開き、左手を腰にあて、背を反らしながら高笑いするのは、悪役令嬢ベルタ!

「ここまで来れたご褒美に、ワタクシの仲間に入れて差し上げてもよろしくてよ! もちろん、相応の地位は約束して差し上げますわ!」

「お断りです、ベルタ様! 世界征服なんてさせません」

 アリアは素早く剣を抜き、ベルタへ向ける。

「庶民の貴女がこのワタクシを止められるわけがありませんわ! かかってきなさい!」

 ベルタが言うや否や、アリアは剣を構え前へ飛び出し、ベルタに向けて目にもとまらぬ速さで剣を振り抜く。しかし、それは途中で高い金属音をたてて止まった。

 アリアが驚きに目を見開く。その目に写ったのは、アリアの剣を扇子で受け止めるベルタ!

「オーッホッホッホ! 遅すぎますわよ、アリアさん! 次はワタクシの番ですわ!」

 ベルタがアリアに左手を向け、エネルギー弾的なものを放つ。

「きゃああああ!」

 その衝撃でアリアは十メートル程後方に吹き飛ばされる。

「他愛ないですわ!」

 吹き飛ばされたアリアに左手を向けるベルタ! その左手にエネルギーが溜まっていく。

「これで、終わりですわ! オーッホッホッホ」

 アリアに向けてエネルギー弾的なものが放たれた! アリアはとっさに目を瞑り、衝撃に備える。

 しかし、しばらくしても何も起こらない。恐る恐る目を開くと、アリアの前に四人の男達が、アリアに背を向けて立っていた!

「私は、目が覚めたよアリア。気づいたんだ、民の平和を思うならなおさら、ベルタを止めるべきだと! ベルタ、今日を持ってお前との婚約を破棄させてもらう!」

「クリス様!」

「フェリクス先生のおかげで、姉上の呪縛が解けたよ。アリア、今度こそ一緒に戦わせてくれ。そして、姉上、貴女はやり過ぎた!」

「デリック様!」

「アリア、遅くなってすまない。だが、約束は果たした! だから、俺は今から君を守るために戦う!」

「エドガー様!」

「アリア、僕はやったよ。不思議だな。今の僕なら、何とだって戦える気がするんだ。アリア、全力で、支援するよ!」

「フェリクス先生!」

 そう、四人の攻略対象達だ。

「みんな……来てくれるって信じてた! みんながいれば、ベルタ様だって倒せるわ!」

 アリアは立ち上り再び剣を構える。

「フフ、さすがに五人相手だと、このままではワタクシでも勝てませんわ」

 不敵に笑うベルタ。

「負けを認めてくださいますか?」

「オーッホッホッホ! 負けを認める? このワタクシが? あり得ませんわ!」

「強がりか? この状況、覆すことはできまい!」

 ベルタは不敵な笑みを浮かべたまま、ぴしゃりと扇子を閉じる。

「コードエクスキューション。来なさい! 灰塵式機装アーネストディザイア!」

 その瞬間、異常な地響きと突風が起きる。

「な、何が起こっているの?!」

 地響きと突風が収まると、ベルタの姿は一変していた。

 先程までの豪奢なドレスはなくなり、代わりに所々光が走るロングローブ。その手には一本の機械パーツの見え隠れする大剣。背中には一メートル程の十枚の鋭利なプレートが、円形状に浮かんでいた。

 そして何よりも、ベルタの背後にあった柱、その覆いがなくなっていた。中には液体が満たされており、ヒトガタのなにかがチューブに繋がれ浮かんでいた。

「まさか……灰滅の魔王グレー?!」

 なんとヒトガタのなにかは、隠しキャラの灰滅の魔王グレーだったのだ!

「フフ、その通りよ! 灰塵式機装アーネストディザイアはグレーの灰滅エネルギーを利用して作動する兵器! これで、貴方達に勝ち目はないわ! オーッホッホッホ!」

 ひとしきり高笑いすると、ベルタは背後のブレードパーツを一斉にアリア達に向けて飛ばす。ブレードはそれぞれ、炎や氷、雷などの属性を纏わせ飛来する。

「これくらい!」

 アリア達はそれぞれ、ブレードをかわしたり打ち落としたり、なんとかしのぎきる。

「これだけじゃありませんわ! スタートアップアーネストディザイアフォームキャノン!」

 ベルタが、機械剣を顔の前で真っ直ぐ構える。先程撃ち出したブレードが戻ってきて、剣の鍔辺りを旋回し始める。そして、剣の先端がわずかに開き、灰電を走らせるエネルギー的なものが溜まり始める。

「灰塵砲アッシュデスペアー!」

 機械剣の先端から、灰色のビーム的なものが発射される。アリア達はぎりぎりかわすが、余波まではかわしきれず、吹き飛ばされる。

「く、正面から戦えば圧倒的な力で今みたいに吹き飛ばされてしまうわ」

「なんとか隙をついて弱点を攻撃するべきじゃないか?」

「弱点……あの灰塵式機装アーネストディザイアは灰滅の魔王グレーからエネルギーを得ているみたいだね」

「ということは、やつの弱点は灰滅の魔王グレーということか!」

 アリアは決意を瞳の宿らせ、周りの仲間を見回す。

「私が、私がグレーパーツを攻撃するわ」

 アリアの仲間達ははっきりと頷く。

「分かった、俺達がベルタを引き付ける」

 アリア達は、もう一度全員で頷き合うと、各々の武器を持って走り出した。

「何をやっても無駄ですわー!」

 ベルタのブレードが襲いかかる。

「アリア! 行け!」

 アリアは、ブレードをかわし、ベルタの後方グレーパーツの元へ走る。

「く、グレーパーツを狙うとは、小癪ですわ!」

 ベルタが機械剣をアリアに向けるが、

「させない!」

 すかさず、エドガーが割り込み止める。

 その隙にアリアはグレーパーツの前にたどり着く。

「はあああああああああああっ!」

 アリアが剣を降り下ろす。グレーパーツ、グレーを覆っていた物が、激しい音をたて砕け散った。

「しまった、ですわ!」

 その瞬間、ベルタの灰塵式機装アーネストディザイアは力を失い、地に落ち光らなくなった。

 それと同時に、燃料にされていた灰滅の魔王グレーが目を覚ました。グレーはグレーパーツを破壊したアリアに目をやる。

「我を解放したのは、汝か?」

「は、はいそうですが……」

 緊張するアリアを見て、グレーはふっと軽く笑う。

「なるほど、我を封印した勇者に似ておる。汝、名はなんと言う?」

「アリアです」

「ならば、アリア。汝に我の力を貸してやろう。とは言っても、今は力を大幅に失っておるがな」

 皮肉げに笑うグレー。

「お願いします! グレー!」

 アリアはグレーの手を取りにっこり笑う。

 そして、再びベルタと向き合う。

「ベルタ様、これでまた、形勢逆転です!」

 しかし、ベルタは笑みを崩さない。

「フフ、こうなったら奥の手を使うしかないようね」

 ベルタは、足元の魔方陣を起動させながら、何らかの呪文を唱え始める。

「我は力を欲するものノイモーント。古より狭間に揺蕩う破滅の力よ、今こそ我に宿りたまえ!」

 ベルタの足元の魔方陣が、強く光った瞬間、ベルタが黒い光の柱に覆われ見えなくなる。

「な、何が起こっていると言うの?!」

 アリア達は、光柱から放たれる衝撃に、吹き飛ばされまいと踏ん張る。

「あれは、魔王化の儀式だ。やつは、人間をやめると言うのか?!」

 そして光が収まると、そこにはかつてベルタだったものが鎮座していた。

 体は二回りほど大きくなり、肌は青く変色している。髪も黒くなり、アリア達を眺める目は深紅。上半身はあまり変わりはないが、下半身は巨大な植物の蕾のような形になっていた。そして、その背には深紅の花弁で形作られた一対の翼。周囲には葉や花を飾った蔦が蠢く。

「オーッホッホッホ! はじめまして、ワタクシ、浸植の魔王ベルタ・ノイモーント! ワタクシに逆らうものは、すべて死刑よ!」

 アリア以外の者達はその威圧感に、無意識に一歩下がっていた。しかし、アリアは引かない!

「あなたがどんな力を手に入れようとも、私は諦めません! あなたを絶対に止めて見せます!」

「オーッホッホッホ! できるものなら、やってみなさいな!」

 ベルタ・ノイモーントはその蔦を自在に操り、アリアに攻撃を始める。アリアは、その手の剣で必死に捌く。しかし、時おり飛来する花弁まで対処できず、徐々に傷ついていく。

 そして、ついに蔦の一本を捌くことに失敗してしまう。しかし、アリアではない人物が、その蔦を代わりに剣で受ける。

「すまない、アリア! だがもう大丈夫だ!」

 王太子クリストファーだ! それ以外の仲間達も、武器を持ちアリアの横に立ち、アリアに頷いてみせる。

「みんな、ありがとう! 今なら、きっと必殺技が使えるわ! みんなの絆の力を私に集めて!」

 アリアが剣を掲げると、クリストファー、デリック、エドガー、フェリクス、そしてグレーまでもが手を掲げアリアの剣に力を送り始める。徐々に虹色の輝きを強めていくアリアの剣。

「みんなの思い、受け取ったよ! これで終わりよ、ベルタ・ノイモーント!」

 アリアが太陽のごとき眩い虹色の輝きを放つ剣を振りかぶる。

「絆剣レインボーノヴァエクスプロージョン!」

 アリアが思い切り剣を降る。その纏っていた虹色の輝きがレーザーっぽくベルタ・ノイモーントに殺到する。

「きゃあああああ、こんな、こんなああああああ!」

 強烈な光に飲まれ、ベルタ・ノイモーントはその体を消滅させていく。

「ワタクシは、こんなところでは終わりませんわあああああ! 必ず蘇って、お前達を…………」

 そして、ベルタ・ノイモーントはその言葉を残して、完全に消滅した。

「終わった、のか?」

 誰ともなく呟く。

「いいえ、まだです」

 アリアが、さっきまでベルタ・ノイモーントがいた場所を見つめながら、はっきりと否定する。

「ベルタ様は、必ず蘇るとおっしゃいました。私もきっと、いえ、絶対に蘇ると思っています。だから」

 アリアが真っ直ぐ仲間達の目を見る。

「次も倒せるように、しっかり備えなくてはなりません! そう、私達の戦いはまだ始まったばかりなのです!」

お読み頂きありがとうございました!

凍の次回作にご期待ください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ん?RPG風なんですか? 悪役令嬢ではなく、RPGのラスボスになったような? 悪役令嬢に不可欠な気がする断罪で拘束シーンはどこへ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ