ロマン・ピカレスク(悪者)小説の楽しみ ベスト30選 面白くって少し教訓的な。厳選5作品の詳細な解説付き
ピカレスク(悪漢)小説というジャンルに分類される小説がある。
その始原はスペイン16世紀の「ラサリーリョトロメスの生涯」という小説であるといわれている。
これはその後スペインで大流行して、いわゆる「悪漢小説」として数多くの続作。類似作品を生んだ。
さらにフランスに伝わり類似作を生みさらにイギリスにも飛び火して傑作といえる類似作を生んだ。
さて
これらの悪漢小説の特徴は
1、生まれが卑しい少年(少女)が主人公 。たとえば捨て子とか、娼婦の産んだ子とか。
2、その主人公がやがて世間の様々な人々(多くは小悪党)と出会い、世間ずれして利口者になってゆく。
3、多くは主人公の遍歴、放浪というスタイルをとる、。あちこち旅をしては様々な事件や人物に出会うという面白さ。
4、そうした遍歴生活で、社会の底辺や小悪党の跋扈する裏社会の実相が描かれる。そういう意味ではリアリズムであるがその描写の味付けはたぶんにシニカルで諧謔的である。コミカルですらある。19世紀以降のいわゆるリアリズム小説とは別物である。
5、主人公が裏社会で出会うこそ泥、娼婦。詐欺師。悪徳者、などの描写を通じて、そういう奴に騙されないようにという教訓小説?の意味合いもある。
6、世間ずれして利口者になった主人公は、やがて成り上がり、幸福?になるというところで終わる場合が多い。がそんなことは実はどうでもよくて、こういう悪漢小説は、主人公の遍歴と冒険と裏社会の描写の面白さが主眼なのである。まあ、とってつけたような結末?ということですね。
というわけでだいぶ前置きが長くなりすぎましたが
今回はこうしたピカロ小説系の中から私が傑作と認める最高に面白い小説をいくつかご紹介したいと思うのです。
生まれ卑しい主人公がなんの因果か世知辛い世間に放り出されて、人生修行してゆく。
裏社会の修羅場の諸相をシニカルに活写して、そこでうまく世渡りしてゆく主人公の遍歴と冒険を諧謔的に描く。
まさに面白くなけりゃ、小説じゃない?という大原則をその通りに描いた作品。それが
ピカレスク小説なのです。その影響は今でも、底流として各種の小説に引き継がれていますよね。最大の後継者?がゲーテです。
彼はこういうピカロの主人公のある意味軽薄な?遍歴冒険小説をもっと心理的・教養的に深めて内面性を持たせ、内面の進化成長という
主人公の精神成長という主題に集約させたのです。
これがいわゆる「ビルドウンクスロマン」(教養小説)ですね。
その代表作が「ウイルヘルムマイスター」ですね。
教養小説についてはこのサイトですでの既述済みなのでこれ以上はここでは取り上げませんが。
さて、、最初はこの小説から
「モル・フランダース」 イギリス文学 長編小説
ダニエル・デフォー原作 あの「ロビンソンクルーソー」の作者がこんな小説書いてたんですね。、
主人公モルは母親がスリで、刑務所で出産した子で養女に出されて育つ。その後美しく成長したモルは養家の長男とできてしまうが長男がほかの女と結婚することになりモルは弟と結婚させられる羽目に、
しかし弟とは手切れ金をもらって離婚その後モルは様々な男と出会い関係するがすごいお気に入りの男と出会いめでたく結婚するが、、実はその男、モルの母がほかの男との間に設けた子だった!。
つまり父親違いの異父兄、近親相姦は、これはまずいと、モルは分かれて去ってゆく。
それからはモルは様々な悪事に手を染めてたくましく?生きてゆく。こそ泥、詐欺師、売春とあらゆることをして金儲けしてゆくのである。
モルは生涯に5人と結婚離婚、二人の男と愛人関係を結ぶのです。そして物語の、、最後はモルが捕まって死刑か、アメリカ流罪かを迫られるがそのときなんと偶然?かって別れた夫の一人と再会、二人で新天地アメリカで生きてゆこうよ、という大団円?この小説18世紀のイギリスの裏社会の一大風俗絵巻でもあるのですね。
邦訳は岩波文庫にありますが絶版中
キム・ノヴァック主演で映画化もされています、この映画も面白いですよ。
お次は
「トム・ジョーンズ」 イギリス文学 長編小説
ヘンリー・フィールディング原作
「ある日、大地主オールワージーの屋敷の寝室で捨て子の赤ん坊が見つかる。大地主は赤ん坊をトム・ジョーンズと名づけ、トムは裕福なオールワージーの養子として、オールワージーの妹ブリジットの息子であるブライフィルとともに育てられる。トムは地主の娘ソファイアと相思相愛になるが、ソファイアは両家の親によりブライフィルと婚約させられていた。陰謀家のブライフィルはトムを中傷してオールワージー家を追い出してしまう。トムはロンドンへ向かい、ソファイアも後から追ってくる。ところがトムは美男子すぎて行く先々で女性たちに言いよられ、決闘騒ぎに巻き込まれたり、肉体関係を持ったウォルターズ夫人が自分の母親だという驚愕の事実(これはあとで誤報とわかる)が明らかになるなど波乱に満ちた暮らしをする。最後にトムが本当はブリジットの息子であったことがわかり、トムはソファイアと結ばれる。」(以上、この項、のみ、ウイキペディアより引用文になります)
邦訳は岩波文庫にありますが絶版中。
お次は
「ジル・ブラース」 ル・サージュ原作 フランス文学 長編小説
ジル・ブラースと言う百姓のこせがれが各地を放浪して、様々なごな主人に仕えてひどい目遭ったりするという基本パターン?で物語は進行します。その語り口は諧謔調で展開もスムーズです。一応スペインが舞台?ということになってますが作者はフランス人ですから実態は当時のフランスの風俗描写と思っていいでしょう。様ざまなエピソードの連続という構成ですが面白かしく語るので飽きさせませんね。盗賊団に誘拐されては泥棒家業に精を出したかと思えば今度は、ニセ医者として適当に治療しては病人を殺してしまったり、、出世したり一文無しになったり。、そのうち出世して偉くなるがでもジルブラース自身の人格はかってのまま、精神的に深まるとかそういうのちの「教養小説」的な要素は皆無だがしかしこの小説は18世紀のフランスの一大風俗絵巻として面白く興味深いものであることは断言できるだろう。
邦訳は岩波文庫にあるが絶版中。
お次は
「マリアンヌの生涯」 マリボー原作 フランス文学の長編小説
幼くして両親をなくした孤児のマリアンヌは食うためにパリに出て来る。そこで待ち受ける様々な試練?
好色な老人に愛人にならないかと誘惑されたり,その老人の、甥と恋に落ちたりそのほかの実に様ざまな試練というか、運命にもてあそばれるのである。
邦訳は岩波文庫にあるが絶版中。
さて最後は
「カンディード」 ボルテール原作 フランス文学
ある意味?この小説こそ、ピカレスクの衣鉢を正確に受け継いでいる?といえるような素晴らしい?作品です。そこにはボルテールのあの諧謔精神と批判精神が横溢しきってコミカルに、展開してゆくのです。
そういう点ではもう一つのかれの傑作「ミクロメガス」もいいんですがこれは今でいうSF小説?ですからここでは取り上げません。
さてこの小説の前説にこうある。
「この世界は神が作った最善の世界である、したがって、あらゆる出来事はすべて最善である、神様がおつくりになった世界に悪があるなんてありえない」
さてドイツのとある領主様の、お館に、領主の甥のカンディードと呼ばれる若者がいた。家庭教師のパングロスに学んでいたのだがこの先生、
普段の信条が「この世は最善であり、したがって送る出来事も最善である」という徹底した?楽天主義者、
さてある日。カンディードは領主の娘のキュネゴンドといちゃついてるところを見つかりあえなくお城から追放です。そして折からの戦争で一兵卒として無理やりブルガリア軍に従軍させられるのですね。そこでいたものは殺戮と奪略と凌辱の戦禍の生々しい現状です。といってもリアリズム小説ではないので描写はあくまでも、冷笑的。諧謔的です。コミカル?ですらあります。その後オランダにたどり着いたカンディードは偶然師匠のパングロスと再会、彼の語るところによると、、領主のお城はブルガリア幣によって強奪の限り、領主は殺されて、キュネゴンド姫も行方不明に。パングロスを治してあげたカンディードは二人でポルトガルのリスボン向かうことに、
、、さあてお立会い、これからどうなるのか?
キュネゴンドとの思わぬ再開。そして舞台は伝説の黄金境エルドラドを探しになんと南米迄向かうことに、さらにイギリスイタリアロシアと遍歴の旅は続き、
まあこのあらすじをたどるだけでも一苦労だが
最後はトルコの山奥?に土地を買い求めてそこでパングロス教授と自給自足の生活をするというところで終わっている。
パングロスは言う。
「どうじゃな?お前がお城を追放されなかったら。そうして様々なその後の遍歴放浪生活をしなかったらこのいまの安らかな生活は得られなかったということじゃろうが。だからすべては最善だったのじゃよ。」
「先生。そんなことよりもわれらの畑を耕そうじゃありませんか?」
Cela est bien dit, mais il faut cultiver notre jardin
邦訳は岩波文庫にあるが絶版中。
まだまだほかにもたくさんピカロ小説系はあるのだがまあここらでひとまず、はおしまいとしておきますか?
本当はいくらでも書名をあげていくらでも書きたいところですが?
多すぎて?めんどくさい?という私の怠惰癖?の故でもありますがね。
ということでせめてこんなのがありますよという
書名だけでも以下にあげておきましょうか?
ロマンピカレスク系の流れを汲む小説のリスト
まずは、、その先がけ的的作品から。
パンタグリュエル物語 (ピカロの前駆的作品です)
ガルガンチュア物語 ラブレー作
阿呆船 ブラント作
愚神礼賛 エラスムス
デカメロン
エプタメロン
サン・ヌーベル・ヌーベル
カンタベリー物語
そしてピカロの影響を受けた後続作品から。
ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え マルキドサド
ジュスティーヌ物語あるいは美徳の不幸 サド
ムッシュ・ニコラ レチフドラブルトンヌ
堕落百姓 ブルトンヌ
放浪の女ぺてん師クラーシュ グリンメルスハウゼン
日月両世界旅行記 シラノドベルジュラック
滑稽物語 スカロン
テレマックの冒険 フェヌロン
びっこの悪魔 ルサージュ
成り上がり百姓 マリボー
ファニーヒル 一娼婦の自伝 クレランド
そしてこれは小説ではありませんが小説以上に面白い?自伝(多少はウソ??も書かれてますが)
「カサノヴァ回想録」、これぞまさに18世紀の風俗絵巻ですね。
さらに時代はずっと下って
なんとアポリネールがピカロ小説を書いてますね。
それが「一万一千の鞭」です。
これはいわゆるポルノ小説ですが、内容は主人公がパリから
遍歴放浪の色道修行の旅を続けて、最後は日露戦争中の
旅順にたどり着きそうして、そこで、
ロシア軍に処刑されるという、とんでもないパロディポルノですよ。
さてこういうロマンピカレスク小説の最大傑作は何でしょうか?
と、問われればそれは
ドイツバロック時代の最大傑作の「ジンプリチウス」でしょうね。
「阿呆物語」という邦題で岩波文庫にありますが。確かこのサイトで解説・既述済み、ですので、ここでは再度、取り上げませんよ、
まあこの「阿呆物語」の前では、以上紹介した、作品群も影が薄くなる?ようなそんな大傑作、
それがこの「阿呆物語」なんですよ。
この物語も、邦訳は岩波文庫にあるが絶版中ですね。
私はこの邦訳本上中下三冊持っていて時折出してはパラパラと
適当なページをめくっては、読んでいますけどね。
素晴らしい小説です。
わたしてきには。、
もしかしたら、世界5大小説のひとつといってもいいかもしれませんね。
じゃああとの、4つの小説は何かって?
ダンテの「神曲」
ゲーテの「ウイルヘルムマイスター」
ホフマンの「悪魔の美酒」
ゲーテのファウスト(正確に言うとこれは戯曲ですが)
㊟小説内容については、あくまでも私の記憶による記述なので
あるいは、誤記憶の部分もあるかもしれません。