いつもの世界
『 お は よ う 』
画面越しに声をかける。
凄く嫌な顔をしている。いつもの光景。
彼が自分は監禁されていると感じてる顔。
その、ちょっとした行動だけで元に戻ったのだと感じることが出来た。
『 調 子 は ど う だ い ? 』
普通。と淡々とした彼の返事。
いつもの会話。彼にとっては昨日と変わらぬ日常。
そう、彼にとっては。
「・・・しょうがないよね。」
昨日、外に出たこと。それを彼は覚えていない。
いや、正確には違う。幾度となく繰り返しているこの行動の一切を
彼は覚えていないのだ。
彼は無条件にこの記憶を封印している。
行った場所が何処だか知ろうとする行為を
彼の体が、脳が許さない。
それは僕も知らない過去にあるのだろう。
「聞いても教えてくれないしね・・・と言うか記憶がないんだろうけど。」
あ、今絶対彼は花に興味を持ったんだろう。
なんだろうと言わんばかりに首をかしげている。
「綺麗でしょ?その黄色の花。それ自体は花じゃないけどね。
福寿草って言うんだよ。毒をもっているんだ。
君が飾ったんだよ・・・」
あぁ、時間だ。今日もちゃんと繰り返さなきゃ。
彼がいつか現実から向き合うその日まで。
― さあ、始めようか。終わらぬセカイを ―
読んでいただきありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
ちなみに福寿草の花言葉には「悲しき思い出」と言う意味があります。