第8話 交差する拳と死の槍
4チームに分かれての従者捜索、任務の内容はシンプルだけど手がかりが少なく、私達は従者を見つけられないまま3週間が過ぎようとしていた。
その間、隊長は「君は確かに一航戦だが学生だ。従者に動きがあるまでは普通に登校して、普通の中学生でいたまえ。」
と言って日曜日以外、私が捜索任務に入ることはなかった。
実際、仕事をしているパパを含め平日の日中に行動できる人は少ない。
「ACFがあった頃なら没頭出来たけど、今の一航戦は職業としては認められないからね。使徒の襲撃時は特例だけど。」とぼやいたのは副隊長さんだ。
その代わり、探索に長けた翼を持つ桜さんと隊長は平日の日中も色んな所を回ってる。
それでも従者が現れる気配はなかった。
「はぁぁぁぁ。」
「また大きいため息ね、お父さんのお手伝いは順調なの?」
「うーん、どうなのかなぁ。最近はなーんにもないからいつもの日常って感じ。それが一番なんだけどねぇ。」
「そうね、何も起こらないにこしたことはないわ。」
悠里ちゃんとの何気ない会話、普通の放課後、こうしていると使徒が復活したのが嘘のようだ。
「…っ…。」
「悠里ちゃんどうかした?」
「いえ、なんでもないわ。少しめまいというか、クラっとしただけ。」
「ここのところ暑いからね~、ちゃんと水分摂った?」
「水分補給はしてるわ。でも中々治らなくて…。」
悠里ちゃんの体調不良、これが最近の心配事だ。
使徒が復活してからというもの、悠里ちゃんは頭痛やめまいを感じるようになっていた。
けれども、その後ですぐに使徒が現れるわけでもなく、また原因も不明。
使徒の放つ魔力を敏感に感じ取ってしまっている…という結論に至るしかなかった。
「今日は寄り道せずに帰ろうか。送っていくよ。」
「ありがとう、彩。お言葉に甘えさせてもらうわ。」
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一航戦作戦室。日中は桜と梓が主に従者の捜索を行っている。
翡翠の翼を使用した探索システム、そこに反応が現れたのは捜索開始から3週間が経った時だった。
「隊長!従者らしき反応を確認!位置的には雅也さんが一番近いです!」
「龍一は今どこにいる?」
「浜ノ宮駅です、雅也さんとの合流までそんなに時間はかかりません。」
「では雅也と龍一に周辺を捜索させ、発見次第撃滅の指示を。」
「了解しました!」
「さて…初めての従者戦。どのようになることか。」
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「龍一、今何している?」
「ちょうど休憩中だ、そっちは?」
「外回りの帰りだ、会社の方には連絡した。この反応の位置からして従者は浜ノ宮ツインタワーの近くにいる。僕は南側から回るから、龍一は北側から回ってくれ。」
「がってん!」
従者出現の報を受けたの雅也と龍一、二人は浜ノ宮ツインタワーを中心に捜索を開始した。
「いたか?」
「どこにも。確かに反応はここら辺なんだろ?」
「それは間違いない。だが…」
合流した二人は翼を広げ、警戒体勢に入る。しかし従者らしき姿はどこにも見当たらなかった。
「避難が完了してるなら、一発ぶっ放すか?」
「いや、手の内を知らないのは向こうも同じだ。こちらから動くのは得策じゃない。」
「それはそうだが…おい、あんなところに人なんていたか?」
龍一が指差す先に、赤いローブを纏った人のようなものがいた。
赤ローブは龍一に気づかれたことを察知すると、赤い槍を煌めかせ一気に距離を詰める。
「先に気づかれたのは誤算だけど…俺からは逃げられない。」
「龍一、迎撃だ!」
「おうよ!行くぜぇ、打突拳!」
「刺し穿て…死棘の槍!」
龍一が放った打撃と赤ローブが放った一突きが空中でぶつかる。
大きく距離を空けて着地、そして再び拳と槍がぶつかる。
「やるなおめぇ、従者ってのは名ばかりじゃなさそうだ!」
「貴様こそ、俺の死棘の槍を受けて一撃で死なないとは…おもしろい。」
「は、そんな一突きで死ぬわけねぇじゃねえか。」
「龍一、油断するな!死棘の槍という名が本当ならその槍は一突きで心臓を貫く魔槍、何度も打ち合って勝てる相手じゃないぞ!」
「ほう、知ってるやつがいるとはな。」
「君の槍は有名だからね、クー・フーリン!」
雅也は龍一を守るように機動防盾を展開し、龍一の横に立つ。
「まさか名前までばれるとはねぇ…だが二人で勝てるとでも?」
「決して君たちをなめてかかっているわけじゃないが…こちらも人数不足でね!」
「そういうこった、てめぇは俺たちが倒す!」
「ふん、やってみやがれ!!」
クー・フーリンが繰り出す槍の一撃を、龍一は打突拳でなんなくあしらう。
時には機動防盾が槍の軌道を阻み、龍一の一撃がクー・フーリンに当たることも。
「ちっ…やるじゃねえか。」
「心臓を狙う槍の軌道なんざ読みやすいからな。当たらなけりゃどうってことはねぇ。」
「ふん、俺の槍がただ単に心臓を貫くだけだと…思ってんじゃねえぞ!」
突如クー・フーリンが空中へと飛び上がり、死棘の槍を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた槍は無数の槍の雨となって二人へ降り注ぐ。
「なんだってんだ!」
「くっ…機動防盾!!」
雅也が機動防盾で槍の雨を防ごうとするが、30にも及ぶ槍を防ぎきれはしなかった。
「早い上に…重い…!」
「そらそら、まだこんなんでくたばってくれるなよ!?蹴り穿つ死棘の槍!!」
クー・フーリンは続けざまに死棘の槍を蹴り飛ばす。
隙のない槍の雨、龍一と雅也は残された数機の機動防盾の陰でチャンスを窺うも、クー・フーリンから放たれる槍の雨は止む気配を見せない。
「龍一、このままじゃ埒が明かない。機動防盾を龍一の周囲に集中展開するからその間にクー・フーリンに接近して槍の雨を止めてくれ。」
「その間、お前はどうするんだよ。」
「どこか建物の陰に…といっても隠れられる場所はないか…。」
「……自分が犠牲になって倒せればいいとか思ってねぇだろうな?」
「……。」
「昔っからそうだ、自分を犠牲にして仲間を守ろうとする。その心意気は悪くねぇが俺は好きじゃねぇ。やられる時は二人一緒にやられようじゃねぇか。大丈夫だ、まだ策はある。」
「龍一…?」
「要は槍の雨を止められるような隙を作ればいいんだろ?」
そういって龍一は手の甲に黄色の魔方陣を展開させる。
打突拳に魔力が練り上げられ、それは小さな玉へと凝縮される。
「行くぜぇ…打突衝!」
龍一の手から放たれた黄色い玉はゆらゆらと宙を舞うと、突き出された龍一の手に押されて一気にクー・フーリンの元へ加速する。
「弾けろ!」
声と共に黄色い玉がいくつもの弾丸のように弾け飛ぶ。それは槍の雨を相殺するように放たれ、槍の数を減らしていく。
「そんで…収束、突貫!!」
いくつもの弾丸に分かれた玉は再び一つの玉へと集まり、クー・フーリンの脚に直撃する。
「んなっ…」
バランスを崩したクー・フーリンは槍を蹴り出せず、前のめりに体勢を崩す。その瞬間を龍一は見逃さなかった。
「くらいやがれ、一撃必勝、打突拳衝!!」
「この状態でも突けるんだよ!刺し穿て死棘の槍!!」
龍一とクー・フーリンの渾身の一撃同士がぶつかり合う。
まっすぐ龍一の心臓を狙う死棘の槍を龍一は空いた左手でしっかりと握る。
「刺される前に掴んじまえば、あとは引き寄せるだけってな!」
「馬鹿な…従者の俺が…ユーリの四柱の俺が……っ!!」
無防備の腹にめがけて龍一は打突拳衝を撃ち込む。
翼によって強化された龍一の拳を受けたクー・フーリンはそのまま地面に叩きつけられ、炎を上げて燃える。
「ユーリ…やっちまったぜ…ひっさしぶりの現世で大暴れして、最後にゃユーリが作った新世界を見るはずだったんだが…」
「そんなもの作らせないよ、ここは僕たちの世界だ。」
「へっ…やれるもんならやってみやがれってんだ。俺以外の連中も強いぜ…特にあの「騎士王様」はな…。」
それだけ言い残し、クー・フーリンは燃え尽きた。
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クー・フーリンが龍一と雅也に討伐された頃、彩に送られ家に着いていた悠里は自室のベットに座っていた。
「彩にはまた迷惑かけちゃったわね…。それにしてもこれは一体…っ!?」
ドクンッと何かが大きく鼓動する。自分の心臓ではない、自分の中にある何かの鼓動。
「この感じは…クー…フーリン…?」
なぜ自分がその名前を口にしたのか、悠里には理解できなかった。
神話に出てくる戦士、ということしか知らないはずの名前。なのにも関わらず悠里はクー・フーリンが討伐されたことを本能的に感じ取っていた。
「なんでこんなことが分かるの?私は一体…なんなのかしら。」
ついに物語も後半戦に突入です。
滅びに立ち向かう新生一航戦、そこに立ちはだかる従者、ユーリの復活を阻止することは出来るのでしょうか
それはこの先のお話で、まだ従者は3人残っていますから
ここから数話は戦いに次ぐ戦いになる予定です。前作と違って自分の中で話数を決めていないので完結までじっくりと書きたいと思います。
悠と由乃に焦点を当てたエンカウント・マリッジ編もよろしくお願いいたします