第7話 終わりの始まり
「ん…んん…」
長い夢を見ていた気がする。
体を起こすと、そこはいつもと変わらない私の部屋のベッドの上だった。
「夢…じゃないよね…」
そう、さっきまで見ていた夢は夢のようで夢でなかった。
なぜなら、私の手にはエクスティアが眠るペンダントがしっかり握られている。
これがあるということは、私は本当に過去のパパと会って、そして戦ったということだ。
虹の翼の最初の持ち主、どんな人なのか少しドキドキしながら私はペンダントに話しかけてみる。
「あの…エクスティア?」
『ティア、でいいですよ彩。』
とても優しい、それでいて凛と響く女の人の声。
姿は見えないけれど、確かにそこにティアはいる。
「ねえティア、私のこの翼はあなたが貰った力なの?」
『そうです。遥か昔、初めて『滅び』と戦うために与えられたのが7色の翼と『奇跡』を起こすこの翼。けれど私はすぐに病気で死んでしまったのだけれど。』
「それがどうして私に?」
『それは…ごめんなさい、正直分からないわ。ただ、翼は持ち主が死ぬと他の者へと転生する。それが巡り巡ってあなたの所にやってきた…ということね。』
「それなら、どうしてティアはこの翼と一緒にいるの?」
『翼を使うことなく倒れた私は、この翼の使い方と『滅びに立ち向かう方法』を後世に残すため自らの心を翼の中に封印したの。いつか虹の翼を受け継いだ人が、私に気づいてくれるまで。』
「どれくらいの間?」
『もう数えられないくらい、長い間。だって気づいてくれたのは彩、あなたが初めてなのよ?』
私は絶句した。60年以上前にあった「大戦」の時でさえもティアは気づかれることなく、ずっと転生を続けていたということに。
「なんか、どう答えていいのかわからないや…」
『気にしなくていいの、私が望んでしたことだし、それに…彩は私を見つけてくれたでしょう?きっとそれが運命なんだと思うわ。』
ティアに出会った事が運命。それなら、私のやることは一つだ。
「ティア、私はあなたと一緒に戦いたい。パパとママが守ったこの世界を、今度こそ平和にしたいの。」
『もちろんです。今の私に出来ることは彩の力になることですから。』
目には見えないけれど、そこには私とティアを結ぶ固い絆があった。
私はペンダントを首から下げるとリビングへと降りていく。パパやママ、一航戦のみんなにティアの話を聞いてほしかった。
「ああ、おはよう彩。よく眠れたかい?」
「おはようパパ。ねえ今日はお仕事休みだよね?」
「日曜日くらいはゆっくりしたいからね。ん?彩、このペンダント…」
パパは私の首からぶら下がるペンダントに気がついて、手を伸ばしてきた。その指先が触れた瞬間、まばゆい光がペンダントから放たれた。
『姉上!?』
パパとは違う、男の人の声が響く。
『あら、この感じはエクシリアね?ああ、こうして会話するのは何年振りかしらね。』
「あ、姉上?それにエクス、なんだって急に出てきたのさ。あれ以来、ずっと出てこなかったのに。」
「パパなのにパパじゃない人の声が聞こえる。」
「ああ、これはパパの中にいる「昔の翼の持ち主」だよ。それはそうと、彩にもそんな存在がいるのかい?」
『悠、我を「これ」呼ばわりとは貴様もずいぶんと偉くなったものだな。しかしそんなことよりもだな…どうして姉上がここに?』
『あら、それはこちらの台詞よエクシリア。まさかあなたも転生を繰り返していたの?』
『そうなのだが…いや、ここ最近懐かしい感覚をずっと感じていたが姉上が現世にいようとは。それに器は…』
「僕の子供だよ、エクス。」
『…数奇な運命だ。終わったはずの戦いが再び始まるのもだが、貴様の子供に姉上の翼が受け継がれるとは…。時に悠、この子の母親、貴様の正妻は誰なのだ?』
「失礼だな、正妻も何も奥さんは一人しかいないし浮気も何もしてないぞ。」
『エクシリア、今のは失言ですよ。』
『ううむ…』
「彩のお母さん、僕の奥さんは由乃だよ。覚えてるだろ?」
『紅蓮の翼の娘か。』
「そうだパパ、ママと一航戦のみんなにも聞いてほしい話があるの。」
「話かい?」
『ええ、私が知る限りの『滅び』に関する情報を共有したいのです。』
「なるほど、そういうことなら隊長を通せば皆集められそうだ。」
パパはそういうと端末を取り出して誰かに連絡を取り始めた。それが終わると、着ていたシャツの襟をピシッと正す。
その時の横顔は真剣そのもの、いつものパパとは違う、そこには『英雄』の篠宮悠がいた。
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ほどなくして、私達は一航戦のブリーフィングルームに集まっていた。
みんな真剣な顔、多分ティアの話がどんなものか考えているんだろう。
「ティア、よろしくね。」
『ええ。』
そう言って、私はティアを意識を入れ替える。
「初めまして皆さん、私はエクスティアと申します。彩が持つ翼、真名を『虹の翼』と言いますが、それを最初に与えられた者。以来長きに渡り時を巡って来た放浪者、と言った方が的確かしら?」
「だが戦いに巡り合ったのは今回が初めて…ということで間違いないか?」
「ええ、紫の翼。私はあなた方『7色の翼』のように戦いに巡り合うことはありませんでした。ですから私の知る情報も伝える事が出来なかった。」
「けど、今はこうして彩ちゃんの体を借りて話すことが出来る。これは我々にとって好機と見ていいのでしょうか?」
「私の知る限りの情報は伝えますが、後の判断はあなた方に任せます。
まずはあなた方が戦ったゼロという存在について。あれはいわゆる先鋒、滅びを与える星と彼らの時空間を門によって繋ぎ止める者です。」
「あのゼロが先鋒?」
「確かに、ゼロは「門を開くだけでいい」と言っていた。私達と戦ったのは奴の気まぐれ…というところなのか?」
「いえ、恐らくは滅びを確実なものにするためだと思います。門を開いた後に現れる「ノア」と4人の従者、それらが滅びを実行するまでに反抗の芽を摘む役割も与えられていたようです。」
「その、「ノア」っていうのはなんなんだ?」
「別名「ゼロを継ぐ者」、「ゼロ=オルタナティブ」とも呼ばれています。門を開いたゼロに替わり、滅びの塔をもってその星に終焉をもたらす…。4人の従者に力を分けし使徒の王、彼女は従者から「ユーリ」と言う名を付けられ慕われているようです。」
「ユーリというのが親玉…というわけですね。その従者というのは?」
「ユーリより魔力を分け与えられた者、それぞれAEGRというコードネームで呼ばれています。その従者達から全ての魔力を返された時、ユーリは完全覚醒する。」
「つーことはユーリに魔力が返る前に、従者4人を倒せば俺らの勝ちというわけだな!」
「恐らくはそれで間違いないと思います。」
「よし、それでは今後の方針だ。4チームに分かれて従者の捜索を行う。チーム分けはそうだな…師弟コンビ、同期コンビだとやりやすいか?」
「師弟コンビっつーか、一つは夫婦じゃねぇっすか。」
「家族だろ、彩ちゃんもいるんだ。」
「彩は私と組む。悠と由乃は二人で捜索に当たってくれ。」
「了解しました。」
「二人で任務なんて、どれくらいぶりだろうね先輩?」
「せ、先輩って…由乃、お前なぁ。」
「あれ、照れてるのかなー?久しく呼んでなかったもんねぇ?」
「………隊長、彩のことは任せました。…行ってきます。」
パパとママは一緒に廊下へ出ていく。ママはなんだか楽しそうだったけど…
それよりも、ついに私も一航戦として任務に出るんだ。隊長さんについていけるように頑張らないと!