第5話 時を越えて(前編)
目覚めると、そこは家のベッドじゃなかった。
(ここはどこ…?それに、なんか変。)
そう、なんとなく変なのだ。自分が今いる部屋は、どことなく新しい雰囲気が漂っている。
(まるで建てられたばかり…)
思考を巡らせていると、廊下から少しずつ話し声が聞こえてきた。
しかもその声の主達はこの部屋に入ろうとしている。
ま、まずい。ただでさえ今の状況に混乱しているのに、見知らぬ誰かが部屋に「侵入」していると思われてしまったら…
どうすればいいか、まったく答えが出ない内に部屋の扉が開かれた
「今回の訓練はいい結果だったね由乃。射撃の精度も上がってるし、なにより大和と武蔵の使い分けが…ん?」
「わっ、急に止まらないでくださいよ…あれ?」
「………こんにちは。」
そーじゃなーい!と自分で自分に突っ込みを入れるがそのあとに言葉が繋がらない。
「ああ、こんにちは。誰かの訓練生かな?由乃、見たことある?」
え、今、隣の女の子のことを由乃って…
「うーん、訓練生の中にはいなかったと思いますけど…先輩は?」
「僕も同期の中で見たことないな、新しく入った五航戦の子かも。」
由乃と呼ばれた女の子は隣の男の子を先輩と呼んだ。確かパパはママのACF時代の先生で、パパはママより一つ年上…ということは…
私はタイムスリップして過去に来たってことなのだろうか。
「あ、あの~。私は決して怪しい者ではなく起きたらここに居たというか、そもそもこの時代の人間ではないと言うか…。」
また訳のわからない事を口走ってしまった。
「んーと…僕は一航戦の篠宮悠、隣にいるのは同じく一航戦の神山由乃。君はどこの航空戦隊かな?」
「あ、えーと…私は…」
未来の一航戦と言って信用してもらえるだろうか、でもパパとママなのは名前を聞いて間違いないし、ここは覚悟を決めて…!
「し、新一航戦の篠宮彩…です。よくわからない内にタイムスリップしてきたみたいで…」
「篠宮彩ちゃんか、ん?篠宮?」
「先輩と同じ名字ですね。先輩に親戚いたんですか?」
「親戚はいるけど…それにしても彩ちゃん、由乃に似てないか?」
「似ているというかですね…」
未来の私が過去のパパ達に「子供」だと打ち明けていいのだろうか、そのせいで世界が変わっちゃうなんてことないよね?
たっぷり考えること5秒、私はパパを指差した
「パパ」
そのあとママを指差して
「ママ」
とだけ言った
「パパ?そして由乃がママ…?え、てことは彩ちゃんは僕達の…」
「子供…ってことになりますよね!?え、えええええ!?あ、あたしが先輩とけけけ結婚…それに子供ってことはえ、え、え、しちゃったって…えええええ!?」
ママが私とパパを交互に見ながら顔を赤らめている。
だって、私がいるってことは、そういうことだもんね…。
「彩ちゃんが僕の子供で、新一航戦ってことは、もしかしなくても翼を持ってたりするのかな?」
パパは意外と冷静だった。
「あ、はい。皆さんのとはちょっと違うみたいですけど…」
そう言いながら私は翼を広げる。虹色に輝くそれに、さっきまであわあわしてたママも見入っていた。
「虹色…」
「過去のデータベースにも載っていなかった、エクスからも聞いたことはないし、うーん。」
パパが腕組みしながらずっと私を見る。
「一度、練習試合をしてみようか。」
「先輩!?だってこの子はあたし達の子供って話じゃ…」
「だからこそだよ、父親になった僕がどんなことを伝えているのか見てみたいし、それに…強そうだ。僕にとっていい経験になる。」
パパは手を差し出して、私を誘った。
「彩ちゃん、どうかな?」
「私、パパがどんな人だったのかを詳しく知りたいです。だから、お願いします!」
「よし、じゃあ決まりだね。」
「はい、パパ!」
「……うーん、そのパパっていうのはやっぱり照れるな…」
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貸し切りにされた広い体育館には、私とパパとママの3人しかいなかった。
パパ曰く「さすがに他の人に見られるわけにはいかないから」らしい。
「相手のライフゲージを先に0にした方が勝ち。セーフティがあるからどんなに全力でやっても大丈夫、全力で来てね。」
「は、はい!行くよ白雪、そして武蔵!」
私は指輪とネックレスに力を込めて、二つの武器を解き放つ。
白く輝く刀身と、赤く光る盾はパパとママから託された「希望」の証だ。
「白雪に武蔵…そっか、未来じゃ彩ちゃんは本当に一航戦の仲間なんだね。さあ、始めよう!」
パパが二つの剣を抜き、青い翼を広げる。そしてお互いに見合って…
私は大きく一歩踏み出して空へ舞った。
「先手…必勝!!」
私はパパめがけて急降下する。白雪を握る左手に力を込めると、その刀身はぼんやりと白い光を纏う。
「へえ、魔力を込めた斬撃も使えるなんて…。それならこっちも!」
パパはその場から動くことなく、左手の蒼い剣で私の斬撃を防ぐ。そしてその刀身が蒼い光を放った。
「ソニックエッジ!!」
剣から解き放たれた力が、私の体を大きく吹き飛ばす。とっさに翼で防御態勢をとっていたのか、ライフゲージはそこまで減っていなかった。
「だったら…!」
私は武蔵の砲塔を展開してパパに照準を合わせる。それに反応したパパも、背中の砲塔を構えて迎え撃つ体勢をとる。
真っ向から撃ち合ったら勝ち目はない、少しでもパパにダメージを与えるには何か策を考えないと…
「今度はこっちから行くよ!!」
そう言うと、パパの砲塔に蒼い光が収束しまっすぐ私に向かって砲撃が放たれる。
私はそれを相殺させようと武蔵からビームを放つ、がパパの砲撃の方が強かった。
「くっ……」
辛うじて直撃を避けたものの、不安定な体勢になった私をパパは見逃さなかった。
放たれる砲撃、直撃コース、避けられない体勢、こうなった以上は真っ向勝負をするしかない。
私は強い防御の気持ちを込めて翼を前へ伸ばした。
大変長らくお待たせしました、少しずつ少しずつ書いていってようやく第5話完成です
展開的にはありきたりかもしれませんが、どうしても書きたかった戦いでもあります
後編では翼に慣れてきた彩の才能の片鱗が…どうなるかは次の第6話で
読んでいただきありがとうございました