第1話 再び現れた影
「ACF」という言葉を聞いて、わからないと答える人間はまずいない。
18年前、それまで長く続いてきた「使徒」との戦いに終止符を打ち、空を取り戻した組織。その中でも「第一航空戦隊」通称「一航戦」と呼ばれるチームはたった7人で使徒の王「ゼロ」を倒した…
今の社会の教科書には必ずと言っていいほど、このことが載っている。少し詳しい資料集なんかだと、その一航戦のメンバーの名前さえ載っている。
桐谷梓、工藤雅哉、佐藤龍一、篠宮悠、浜野桜、神山由乃、成宮海斗
この7人が世界を救った英雄として語り継がれていて、その中でも…
篠宮悠はたった一人で「ゼロ」を倒した最強の戦士と名高い。でも、私にはなんだかその実感が沸かない。だって・・・
「…宮、篠宮!」
「は、はい!!」
「次は篠宮の番だぞ、早く読まんか。」
「え、え~と…」
「彩、35ページの3段落目からだよ。」
「あ、ありがと悠里ちゃん。」
普通に会社に行って、疲れた顔して帰ってくる最強の戦士なんて、いると思う?
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「はぁ~~~~。」
「また長いため息ね。」
「だってさぁ…」
「また授業中に考え事してたんでしょ、どうせいつものなんでしょうけど。」
「悠里ちゃんさすが~。」
「ここ最近そればかりじゃない、いつまで考えていたって、答えは出ないわよ?生まれちゃったものはしょうがないんだから。」
「そうだけどさ~」
そう、私、篠宮彩はあの最強の戦士と言われる篠宮悠と、これまた英雄と言われる神山由乃の子供。
だけど私には最強や英雄なんて欠片はちっともなくて。ただただ普通の女子中学生。
「誰が誰の子供だって関係ないわよ、彩は彩なんだし。それに…もう戦いは終わってるんだから。」
「それもそうだよね。あー考えたらお腹空いてきちゃった。ねえねえ、放課後に幽玄堂のたい焼き食べてこうよ!」
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放課後、宣言通り幽玄堂のたい焼きを頬張りながら、私と悠里ちゃんは歩いていた。
「やっぱりあそこのたい焼きはおいしいね、中身たっぷりでさ。」
「そうね。」
「甘いもの食べて、今日はさっさと宿題やっちゃお。」
「そう言って、いつも私に泣きつくのは誰かしら?」
「えへへ~。」
「ごまかさないの、ふう…」
悠里ちゃんは頭を抱えて立ち止まる。いつもとは違う悠里ちゃんの姿に私はとても心配になった。
「悠里ちゃん、どうかしたの?」
「なんでもないと思うのだけど…1週間くらい前から胸がざわつくというか、何か違和感があるの。」
「何かの病気!?」
「いえ、病院には行ったけれどなんともないって言われたわ。」
「もしかして、おっぱいおっきくなるとか!?」
「そんなわけないでしょ。もしかしたら、誰かさんが宿題をちゃんとやってきてくれれば治るかもしれないわ。」
「うっ…。いや、でも悠里ちゃんのためなら私やるよ!」
「宿題は元々あなたのためなんだけどね…」
具合が悪そうな悠里ちゃんを送ったあと、私は空を見上げた。
黒い雲が浮かんでいる、夕立が来るのかもしれない。
「早く帰って宿題やろっと。」
私は小走りに家へ帰る。その時は、まだ何も、誰も分かっていなかった。
その黒い雲がなんなのかを。
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夕飯を食べ終わってから、終わりかけた宿題を片付けるために私はすぐに部屋に戻った。
「さーて、最後の1ページ!…っと、着信だ。誰からだろ。」
スマホのディスプレイに表示された名前は「若草悠里」だ。宿題の進捗が気になるのかな。
「悠里ちゃん?」
「ああ、彩。いきなりこんな事言うのは変かもしれないけれど、何か嫌な予感がするわ。」
「嫌な予感?」
悠里ちゃんの声色が重々しい。また胸が苦しくなっているのかもしれない。
「何かよくないものが来る…そんな気がするの。さっきから、また……」
ブツッ、ツーツーツー。
電話が切れてしまった。何か言いかけた所で切れてしまったということは、悠里ちゃんに何か起きたということだろう。
そう悟った私は、一気に階段を駆け降りた。
「そんなに急いでどうしたんだ、彩。」
今日は早く帰って来たパパ。驚いた様子で声をかけてくるけどパパには目もくれず、私は靴を履いて玄関を開ける。
「悠里ちゃんが…、行ってくる!!」
それだけパパに行って、飛び出したところで…何かがそこに立っていた。
背丈は人間と同じくらいだろうか、暗闇に紛れるように真っ黒なソレは、私の行く手を阻むように立っている。
「な、何…あなた。」
人ではない、その黒い何かは私を視界に捉えると、その腕を振り上げた。
第1話、読んでくださってありがとうございます。
さて、本編が始まりました。そうなんです、主人公は篠宮彩。
前作のラストに出てきた悠と由乃の子供です。
本当は、続編を書こうとは思ってなかったのですが、「せっかく悠と由乃が結婚して子供がいるんだし、その子供を主人公にして続編を書いたらおもしろいんじゃないか」と思い、再びキーボードを叩いたという所です。
さて、また黒いものが出てきました。前作を読んでいただいた方なら、黒いものが何かわかるかと思います。
この勢いに任せ、次回の更新も早めにしたいと思います。