第16話 最後の戦い Side 彩
「まだ戦える…?剣を1本にしたところであなたの未熟さは変わらないのよ?」
「剣の本数は関係ないよ。今の全力を出せるのがこれってだけだから」
悠里ちゃんの表情が少しだけ険しくなって、レイピアを持つ手に力が入っているのが伝わってくる。
さっきまでとは違って、悠里ちゃんがよく見える。そう、まるでランスロットと戦った時のように。
「…っ!!」
だから、見えた。
ガキィン!!という大きな音を立てて、レイピアの切っ先が白雪の側面にぶつかる。
悠里ちゃんが目を見開く、それも当然だった。
私は今、突きを剣の「側面で防いだ」のだから。
そのまま私は白雪を斜めに傾けて、突きの勢いを後ろに逃がして、体勢が崩れた悠里ちゃんの体に思いっきり拳を叩きこむ。
「えっ…」
意表を突かれた悠里ちゃんはその拳をまともに喰らって倒れこむ。
「なんで…この体は悠里のものなのに…」
「姿は悠里ちゃんでも、今のあなたは悠里ちゃんじゃない。私だけ覚悟を決めないなんて、一航戦のみんなに失礼だから…」
白雪の切っ先をユーリに向けて、私は身構える。
「もう一度言うよ、私は悠里ちゃんを助けるためにユーリ、あなたと戦う!!!」
虹の翼を広げて、私はユーリに突進する。
ユーリが繰り出す突きは、ティアが翼を使って防いでくれる。
私がやるべき事は、ユーリに全力で立ち向かう事だけ。
今までと違う私の動きに、ユーリは戸惑いを隠せていない。
「彩は悠里がどうなってもいいの!?」
「よくないよ。よくないけど、今のあなたは……悠里ちゃんじゃない!!」
甲高い音を立ててぶつかり合う剣と剣。戸惑いの色はあるけれどユーリの一撃はレイピアのものとは思えないくらい重い。
一瞬でも気を抜いたら私がやられる、そんな怖さと真っ向から向き合う。
「シッ!!!」
「やぁぁぁ!!」
互いの力が拮抗して、鍔迫り合いにもつれ込む。
剣ごしにユーリと視線がぶつかる。そこにはもう、戸惑いはなかった。
「まさかこんな短時間でここまで目つきが変わるなんて…あなたを見くびっていたわ」
「そういうあなたこそ、さっきとは違って本気に見えるけど?」
「英雄の小娘が……!!!」
ユーリが放つ気配に殺気が混じる。
何か来る、そう思って身構えた瞬間、地を蹴ったユーリから目にも止まらない速さの突きが何発も繰り出された。
「速っ……」
『防御が間に合わない!』
ティアの反応速度を上回る突きの連撃、翼で守りきれなかった何発かが私の体を掠め、私は思わずよろけてしまう。
その隙を逃さんとばかりにユーリは身をかがめて低く走り、私の足を封じるためにさっきの連撃を繰り出す。
「はっ!」
すんでのところで横に飛んで直撃は避けたものの、右足にレイピアが掠って赤い鮮血が走る。
痛みのない左足だけで着地し、ユーリのいた方向に顔を向けるが、そこにユーリの姿はない。
「どこ…!?」
『彩、後ろ!!』
ティアの声で後ろを振り返ると、そこにはレイピアを構えて必殺の一撃を打ち込もうとするユーリの姿があった。
ティアの防御の翼も間に合わない、ユーリの突きが届くまで僅かの時間しかない。
思考がフル回転する、この状況を打破するために私が出来ること、それは…
「お願いパパ、私に力を貸して!!」
腰に下げていたエクスカリバーの柄を握り、振り返りざまに剣を抜く。
剣を振った遠心力を利用してユーリと対面した私は、両手の剣を煌めかせて反撃の連続技を放つ。
ユーリは黒い魔力をレイピアに纏わせ、私の一閃一閃を弾いていく。
5度目の交錯、下からの斬り上げがレイピアの真ん中を捉え、ユーリの腕を無理やり上に持っていく。
そこに生まれた僅かな隙を見逃さずに私は吠える。
「悠里ちゃん、今助けるよ!!」
無防備なユーリ目掛け、私はパパから教わった連続技ースターダストレインーを繰り出す。
7連続全ての攻撃がユーリに当たり、宙に鮮血が舞う。
ユーリの体が前に倒れ込んでいく。でもその眼にはまだ光が宿っている。
残された全ての力を込めるように、私を睨んだユーリは倒れかけた体を左足で踏ん張って支え、右腕から渾身の突きを放った。
「終わりだ、篠宮彩!!!」
連続技の反動で動けない私の左肩に、レイピアが深々と突き刺さる。傷口に流れ込む黒い魔力が刃となって、私の左腕をそのまま斬り飛ばした。
「あああああああ!!!」
肩に焼けるような痛みが走り、目が眩む。
このまま倒れてしまいたい、けど、けど……
ユーリに必殺技を当てるには、体勢を崩した今を逃す訳にはいかない。
右手に握った白雪にありったけの魔力を込めて、左腕で支えられない分、後ろから振りかぶって。
「アヴァランチ・ブレイザーーーー!!!」
虹の翼から溢れ出た魔力が小さな刃となって、ユーリを包み込んで………
ついにユーリは地に伏した。