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第14話 決戦

 階段を登り、さらに上の階へと進む一航戦の面々。

 第3階層には雅也、第4階層には梓が残り、今いるメンバーは悠・由乃・彩の篠宮一家のみになった。

 第5階層、今までより一際大きい扉を開く。


「ここも広間か…一体いつまでこんなのが続くんだ」


「広間だけじゃないよ、ほら」


 由乃が指さしたその先には、何かを祀るような祭壇があり、その奥に階段が見える。


「使徒達の祈りの場…なのか?」


「いいや、ここは復活の場さ」


 悠以外の男の声が響く。その声の主を悠と由乃はよく知っていた。


「その声、ゼロか」


「ふふふ、よく覚えてくれていたね。またこうやって会えるのが嬉しいよ」


 祭壇の後ろから現れたのは、18年前に悠が倒したはずのゼロだった。

 以前よりもさらに艶を増した黒色のコートを身に纏い、右手には新たな剣を握っている。

 相対する悠と由乃は静かに翼を広げてゼロを見据える。


「彩、行け」


「えっ、でも…」


「ここはママとパパに任せなさい。あなたはこの先でやらないと行けないことがあるでしょう?」


「ボクも、その子が進むには何も手は出さない。それがユーリからの命だし、ボクが戦いたいのは悠と由乃、キミたちだからね」


「彩は彩にしか出来ないことをこの先でやってくるんだ。友達を助けるんだろう?」


「パパ…うん、分かった!!」


 私はパパとママと別れて奥の階段を上がっていく。その間、ゼロは本当に何もしなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「随分と気前がいいな、ゼロ。彩はお前らの親玉を倒しに行くって言うのに」


「言っただろう?ボクは彼女以外この上に通さないように命じられている。ユーリの命とあれば無視は出来ない」


「なら、あなたを倒して上に行く分には問題ないってことね?」


「ふふふ、いいね紅蓮の翼(インフェルノ)蒼天の翼(スターダスト)もろとも、ここで叩き潰してあげるよ!!」


 ゼロは右手に握った剣を振りかざし、背の漆黒の翼を広げる。それは18年前よりも深い黒色で、全てを飲み込みそうな威圧感を放っている。

 対する悠は光り輝く白銀の翼を広げ、復活した水星(アクアスター)を片手にゼロと対峙する。


「ふっ…!」


 先に動いたのは悠だった。持ち前のスピードを武器にして、一気にゼロとの距離を詰める。

 剣の切っ先をゼロに向け、まっすぐに繰り出される突き技。

 ゼロはそれを軽いステップで左へ避けるが、その背面を目掛けて由乃の砲撃が走る。


「さすがは夫婦、コンビネーションはさらによくなってるね!」


「これだけで終わりと思うな?」


 悠はそこにすかさずソニックエッジを叩き込む。由乃の砲撃とに挟まれる形になったゼロはそれを剣で凌ぐが、大人になった悠の力が上乗せされたソニックエッジはゼロの予想を上回る重さを持っていた。


「ちぃっ!」


 ゼロは剣を斜め下から振り上げてソニックエッジの軌道を逸らし、その下をかいくぐるようにして抜け出す。

 だがそれも悠の手の内だった。左手に握った黒焔(ブラックフレア)を体勢が崩れたゼロへと振るい、由乃が大和から砲撃を放つ。

 さしものゼロも全てを避けきることは出来ず、由乃の砲撃をくらって吹き飛ぶ。


「大人になって動きが鈍ったと思ったら、むしろ洗練されてるじゃないか…」


「お前こそ、復活したてで体が鈍ってるんじゃないのか?」


「18年も寝ていればそれも仕方ないと思うけどね!」


ゼロは音を立てて背中の翼を広げ、ふわりと浮き上がる。


「だけどボクだってただ寝ていただけではないんだよ?」


ゼロの漆黒の翼に薄く青い羽根が混じる。悠が何かを察して水星(アクアスター)を構えた時には、ゼロは床を蹴って悠の目前に接近していた。


「はやっ……!?」


飛び抜きざまの一閃が悠の左腕を掠める。明らかに速度が上がったゼロの動きに悠は驚きを隠せない表情を浮かべ、傷を押さえる。


「一つの色の特徴を最大限に引き出す…掛け合わせも確かに強いけれど翼はその一つ一つの能力が特化されるから、こっちの方が強いんだよね…行くよ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ひたすらに階段を駆け上がる。階下で戦う一航戦の面々の事が気になるけど、私は止まるわけにはいかない。

 そう、やっと見えてきた光の先に…きっと……


「ここが、屋上……」


 浜ノ宮ツインタワーが姿を変えたものなだけあって、屋上からは浜ノ宮市全体が見渡せる。だがその空は緑がかった雲に覆われて、下にいる人々の恐怖がここまで届いてくるように不気味な雰囲気だ。

 私はここで待ち受けているはずの人の姿を探して屋上を見渡す。けれどどこにもその姿を見つけられない。


「やっぱり来たのね、彩」


 誰もいないはずの空間に声が響く。いないのはこの平面上だ、つまり今の声は…


「悠里ちゃん…」


 怖いくらいに大きい満月を背に、悠里ちゃんは宙に浮いていた。手にはあの時のレイピアが握られている。


「それぞれの階層にそれなりの配置をしたつもりなのに、こんなにも無傷で来るなんて…」


「一航戦のみんなが私を送ってくれたから。パパもママも、みんな必死に戦ってるよ」


「まあいいわ、全力で向かってくるあなたを倒しさえすればいいだけだもの」


 悠里ちゃんは静かに屋上に降り立つと、レイピアを腰に掛けて私に近づいてくる。


「ねえ彩、あなたは私が悠里と知ってもなお戦えると言うの?世界の命運をその背に全てを背負って、友達と戦うことが出来るの?」


「戦うよ」


私の即答に、悠里ちゃんは少し驚いたような表情を浮かべる。


「私は悠里ちゃんを助けるために、ユーリと戦う。この手で悠里ちゃんも世界も救ってみせる」


「不可能ね。世界は救えても、悠里は救えないわ」


「やってみなきゃ分からない!!」


 これ以上の問答は不要と判断したのか、私もユーリも同時に翼を広げる。


『彩は手に持つ剣に集中して、翼の制御は私がやるわ』


「うん、任せたよティア!」


 先に動いたのは悠里ちゃんだった。レイピアの切っ先が光ったと思うと目にも止まらぬ速さで3連突きが襲いかかる。

 それをティアが翼で防ぎ、私は翼の陰からエクスカリバーを振るう。

 だけどそれは虚しく宙を斬っただけだった。

 空中戦では重さのある剣を当てるにはかなり接近しなければならず、コンパクトな立ち回りで速さもあるレイピアを相手にするのは今の私には難しい。


「だったら…」


 私は屋上に降り立って上からの攻撃に備える。それでも、悠里ちゃんの強さの前に私は手が出ない。


「防御力だけはあるようだけど…下手ね」


「下手…?」


「一航戦で長く戦ってきたあなたのお父さんならともかく、力に目覚めてからそんなに時間も経たず、戦い慣れしていないあなたに二刀流は使いこなせないわ。いくらあなたが英雄の娘でも…あなたは英雄でないのだから」


 冷たい悠里ちゃんの一言。私はパパみたいになれない…

 私は何になりたかったんだろう、世界を救う英雄になりたかった?

 いや、違う。

 頭上から繰り出される必殺の突き、私はそれを剣ではなく何層もまとめた魔法陣で防いだ。


「何…っ」


「そうだ、そうだよ…私は英雄になりたいわけじゃない」


 英雄の真似事は、もう終わり。これにはきっと使いどころがある。


「私は、あなたを救いたいだけ!!」


 白雪(スノーホワイト)を両手で握り、私は悠里ちゃんを見据える。


「仕切り直しだよ、悠里ちゃん。私はまだ…戦える!!」

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