第11話 それぞれの戦い
剣と剣がぶつかる音が響き渡る。湖畔での梓・彩によるランスロットとの戦いは数で勝るランスロットに手数で勝る梓・彩が引かず、お互いに拮抗していた。
「その剣技…さすがは名に聞きし紫の翼だ!」
「人数には手数で対応するしかないのでね!!」
ブランクがあるとはいえ、元一航戦隊長だった梓の戦い方はランスロットに驚愕を与えた。
(やはりこの女、強い。18年前とはいえ、隊長を務めていただけのことはある。それに…もう一人の少女…)
梓に分身の2人を当て、彩に分身1人とランスロット自身が向かっているのだが、彩の戦い方にもランスロットは驚きを隠せなかった。
(見た目的にはまだ中学生、間違いなく18年前の戦いにはいないはず。それなのにこのセンス…あまつさえ虹色の翼など聞いたことがない…)
「やるな少女よ!その虹色の翼、伊達ではないということか!」
「私だってパパやママみたいに戦えるんだから!武蔵!!」
彩が武蔵の砲身を開き、ランスロットに向けて砲撃を放つ。
分身が庇うようにして砲撃を受け、後方に吹き飛んでいく。すかさず彩はランスロットに斬り込む。
「てぇぇぇぇぇぇい!」
「ぬうっ!?」
振り下ろされた白雪はランスロットの脚の鎧を割った。
そこに、翼からの斬撃が休みなく叩き込まれる。
「あなたが本体ね、割れた鎧が元に戻らない!」
「なにっ!?」
ランスロットの持つ剣、アロンダイトは湖でのみ使用できる特別な能力があった。それは自らと全く同じ力を持つ分身を最大3体まで生み出すものであり、故にランスロットはアーサーと離れ、一人湖畔で待ち構えていた。
分身にはアロンダイトから常に魔力が供給されているのである程度の損傷であれば傷はつかない。だがランスロット自身には傷を癒す能力は適用されないのだ。
彩はそこに気づき、自分が戦っているどちらかが本物のランスロットだと見極めていた。
「本物が分かれば迷うこともない、あなただけを狙って戦えばいい」
「だがそれが分かったところで2対1なのに変わりはない、経験も浅い少女一人で、我が剣を折れると――」
「私は一人じゃないよ。パパから貰った剣と、ママから貰った盾、そして後ろには隊長さんがいるから!!」
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一方、森林地帯で睨み合っていた悠・由乃とアーサーとの間にも戦いの火蓋が切って落とされていた。
悠の持つ黒焔とアーサーのエクスカリバーがぶつかり衝撃波を起こす。
「その剣…ゼロの置き土産ということか、でも!」
鍔迫り合いから弾けるように逃れたアーサーはそのまま地を蹴って悠に肉薄する。
「確か君は二刀流の使い手だったはず、それを秘めたまま勝てるほど――私は甘くない」
エクスカリバーから迸る魔力は悠の体をかすめ、そこからは血が垂れる。
騎士王の聖剣はそれが一つの魔力炉のような物で、持ち主の魔力を増大させるだけでなく、掛け合わせることで絶大な攻撃力を発揮する、まさに勝利を呼ぶ剣。
だが悠にも由乃という、背中を預けられる仲間がいる。
「折れた剣に代わって、僕には彼女がいる。行くぞ由乃!」
「まかせて先輩!」
大和から放たれる砲撃、それをアーサーは魔方陣で防ぎ、防いだまま―――飛んだ。
「その状態で飛べるか普通!?」
「飛べるさ、エクスカリバーがある限り私に『敗北』という言葉はない」
「かっこいいこと言ってくれてるけど…負けてくれないと困るんだよね!」
無理な姿勢での防御でさすがに体勢が崩れたアーサーに、悠は即座にソニックエッジを叩き込む。
「まだまだぁ!」
そこから怒濤の3連続斬り、蒼天の翼の機動力を活かした攻撃には、さしものアーサーも対応しきれない。
背中から斬り抜けたあと、悠は左拳に魔力を込め、アーサーの胸のプレートめがけ振り下ろす。
「ぐっ…」
翼のないアーサーが空中で効果のある防御を展開出来るわけもなく、無防備な体を大和からの砲撃が包み込んだ
か、に思えた。
エクスカリバーを両手で握り直したアーサーは上体を反らし、そこから思いっきり剣を振るう。
剣の先からは黄金に輝く魔力が解き放たれ、由乃が放った砲撃に真っ向からぶつかる。
ぶつかった魔力同士が小爆発を起こし、その爆風を利用したアーサーは体勢を整えて着地する。
「なんてやつ…あたしの砲撃を相殺するなんて」
「次はこちらから行かせてもらう、さあ構えろ紅蓮の翼!!」
アーサーはエクスカリバーを胸の前で垂直に構える。その刀身には黄金の魔力の粒と、赤い魔力の粒が集まっていく。
「あの刀身、周囲の魔力を集めるってのか!?」
「先輩、下がってて下さい。あたしの本気で迎え撃ちます」
由乃はすうっと息を吸って、ポケットから3発のカートリッジを取り出して大和に装填する。
ガシャンという重い音と共に大和のバレルが開き、魔力のチャージが始まる。
「輝ける聖なる剣よ、我と我が主に勝利をもたらせ!!」
「みんなを、先輩を守る力を!」
「エクス――――カリバーーーー!!!」
「最大出力、てぇーーーーーーーーっ!!!」
由乃とアーサーが同時に砲撃を放つ。凝縮された魔力同士のぶつかりは、周囲の空気をビリビリと震わせ、余波は木々を薙ぎ倒していく。
「我が主のためにも、私が負けるわけには行かないのだ!」
アーサーの気迫が砲撃の威力を上げる。
だがそれを見過ごす由乃ではなかった。
「カートリッジリロード、ファースト!」
カートリッジから魔力が大和に送り込まれる。だがそれでもアーサーの砲撃に押されてしまう。
「セカンド、サード!!」
さらに2つのカートリッジを消費して由乃は大和の砲撃の威力を更に上げる。
セカンドリロードで拮抗した砲撃はサードリロードでアーサーを勝り、アーサーの右半身を巻き込んで徐々に消えていく。
大和後部の排熱口から大量の熱気が放出され、辺り一面が真っ白になる。
「やったのか…?|
「少なくとも半分は掠めてます。けどエクスカリバーを折った感じはしません」
悠は神経を張り詰めて黒焔を構える。魔力の過剰投入で由乃も大和も砲撃が撃てる状況ではない。今ここでアーサーが全力で斬り込んでくれば、戦えるのは悠しかいない。
「せめてこいつが折れてなければな…」
悠は背中の鞘に残る剣を抜く。18年前、ゼロとの戦いで半分に折れた水星はどんな技術をもってしてもその刀身を戻すことはなかった。
「折れた剣で…二刀流の真似事かい…?」
「アーサー…」
砲撃によるダメージが大きいのか、動きは鈍いがエクスカリバーも、アーサー自身の闘志も健在だった。
「私は倒れない、この剣と共にある限り――騎士の誇りが潰えぬ限り!」
どこにそんな力が残っているのか、というくらいの動きでアーサーは悠へ斬りかかる。悠は水星でエクスカリバーを凌ぎ、黒焔で反撃する。
「はああああああっ!!!」
それでもアーサーは止まらない、むしろエクスカリバーの速度は更に上がっていく。
「言ったはずだ、二刀流の真髄を持ってしなければ私は倒せないと!だがその折れた剣ではそれも叶うまい、私の勝利は揺るがない!」
「確かに剣は折れてるさ…だけど…」
悠は剣をクロスに構え、エクスカリバーを受け止めながら目をつぶる。
(18年前、同じように二刀流を封じられた時も、僕の勝利を信じて、戦い続ける仲間がいてくれたから、僕は最後まで戦う事が出来た。今だってそうだ、僕の心は折れてない、そう――)
「心の剣が折れない限り、僕はずっと戦える!この世界を、大切な人達を守るためなら!!」
その時だった、蒼天の翼が一際大きく輝き出し、それに呼応するように水星も光に包まれる。
「そうだ、そうだよ。お前はこの翼と共にあった。心が折れず、翼が折れない限り、お前だって折れるわけないよな」
悠は水星を握る手に力を込める。蒼天の翼の魔力と悠の気持ちを受け取ったように、水星はその刀身を取り戻した。
「折れた剣を…再生させた!?」
焦りを露にして、アーサーはエクスカリバーを構える。が、その手に向かって超精密な射撃が繰り出される。
「何っ!」
魔方陣による防御が遅れ、アーサーの手からエクスカリバーが弾け飛ぶ。
「決めて、先輩!」
「行くぞアーサー!!」
情けはかけない、相手が騎士王であるならば、情けをかけられる方がよっぽど屈辱的だろう。
スターダスト・エクリプス、悠の最強技がアーサーを襲い、騎士の誇りと共に、アーサーは散っていった。
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ランスロットの本体を見抜いたあとの彩の戦いは、父親に引けを取らないものだった。
虹の翼の翼による攻撃と防御の能力、いくら分身がいたとて、彩本人に攻撃が当たらなければ数の優位はない。
だが、それももうじき終わるとランスロットは読んでいた。
すでに彩が装備する武蔵はボロボロで、翼には武蔵ほどの防御力は備わっていない。
多少の傷を受けても、盾を破壊する。そう考えたランスロットは向かってくる彩の右腕だけに狙いを定める。
「とったぞ!!」
縦一閃、武蔵に深々と刃を食い込ませたアロンダイトをそのまま振り下ろす。
腕までは斬れなかったものの、武蔵は爆発を起こし彩の右腕に相当のダメージを与える。
「そんな…武蔵が…!」
「腕まで斬り落とせるかと思ったが、そう容易くはないか。だが…最大の防御を失ったな少女よ」
多少息を上げながらも、ランスロットは少しだけ余裕を見せた。
だから気づけなかった、彼が仕える王が負けた感覚を、空を舞う1本の剣を。
「――っ!!」
彩は空に光る一筋の光を見た、それはくるくると回転しながら飛んでくる1本の剣だった。
(確かあっちの方向はパパとママが戦っていた…てことはあれはアーサーの剣?)
武蔵を失った今、彩に出来ることはひたすら剣を振るってランスロットに追いすがること。そうすれば梓がきっとなんとかしてくれる。
「負けないために今出来ること」のためにあの剣は必要だ、と考えた彩はランスロットの頭上に飛び上がり、騎士王の聖剣を掴み取った。
「上空から光に紛れての攻撃か…だが…なっ!」
空を仰ぎ見たランスロットの眼に見えたのは、煌々と輝く黄金の剣と、それを振りかぶる一人の少女の姿だった。
すでに十分なほど空間に放出された魔力を吸い込み、エクスカリバーはその輝きを増していく。
「馬鹿な!あの剣は、あの輝きは、紛れもなく―――っ!!!」
「やあああああああっ!!」
腕に走る痛みで十分に剣を振るえなかったが、それでも聖剣はその威力を発揮し、ランスロットは光の中に消えていった。
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「終わったか」
「ええ、かなり手こずりましたけどね。そちらは?」
「…強いな、彼女は。私が手を出す暇さえなかったほどだ」
悠の視線の先には、湖畔を見つめる愛娘の姿があった。
背中には虹の翼を広げ、その手には白雪とエクスカリバーが握られている。
「どうしてこうも似るんですかね、親子っていうのは」
「子は親の背中を見て育つものさ。さてと、皆に勝利の報告をしに戻るとするか。」
「はい、隊長」
いつもより多少長くなってしまいましたが、対アーサー・ランスロット戦はこれにて終了です。
二刀流を取り戻した悠、二刀流を得た彩、時を越えて繋がる「二刀流」という戦い方はどんな未来につながるのでしょうか。
さて、これにて従者編は完結です。4人の従者を倒したことで滅びの運命はどうなるのか。
そして気になる「あの子」の様子は、続きはまたしばらくおまちください。