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第10話 開戦

 声が聞こえる。

 声の主は誰だか分からない、でもどこかで聞いたことのあるような

 これは…遥か昔の記憶?少なくとも私が生きている間に聞いたことのある声ではない。けれど、どうしてそんな記憶が私にあるのは分からない。


「…主ね。私、誰かの主であった記憶はないんだけど」


 月光が差し込むベッドの上で上体を起こした悠里は視線を外に向ける。


「私が私でないようなこの感覚はなんなのかしらね…」


 続く言葉は声にならなかった、だがその唇は確かに「アーサー」と動いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アルトリウスとの激戦から丸2日、未だ意識が戻らない海斗は集中治療室に入ったままだ。


「…海斗」


「あんまり塞ぎ込むなよ、曲がりなりにも自分の見習いだろ?」


 顔を臥せる桜の頬に、悠は冷たい缶コーヒーを当てる。


「つめたっ…なによ」


「隊長から、ずっとここで動かないから誰かが寄り添ってやれって」


 そう言って悠は桜の横に腰かける。こうして二人で話をするのは由乃を助けにナハトに乗り込んだ時以来かもしれない。


「…私は、何もできなかった。傷ついていく海斗をただ見てるだけしか…」


「そうだとしても、あの場で海斗を支えていたのは桜だ。桜の援護がなければ翼による強化が出来ずに海斗は負けてただろう」


「それでもっ…!それでも海斗がああなるまで前に出れなかった!海斗がまだ起きないのは、私のせい…!」


「それは違う」


「…っ!あんたに、何も見てないあんたに一体何が分かるのよ!!命懸けで戦う後ろ姿しか見れなくて!辛い思いだけさせて!理解も出来ないのに分かったような口を聞かないでよ!!」


 息を荒げ、桜は悠を睨み付ける。「何もできなかった」という悔しさと空しさが、海斗が未だに起きないという事実が桜を責め続けていた。

 桜の頬を涙が伝う。悠はその涙を見て、過去の自分を思い出した。

 力があったのに連れ去られた少女、塞ぎ込んでいた自分に声をかけてくれたのは、目の前で涙を浮かべる幼馴染であったことを。


「前にもこんなことがあったよな」


「前…?」


「あの時は逆だった、自分の無力さにうちひしがれていた僕の背中を叩いて押したのは桜だ」


「何を言って…あ」


 そんなことないと言おうとして、桜は思い出した。目の前で恋人を連れ去られた悠を。必死に追いすがり、それでも手が届かなかったことを

 桜はそれを一番近くで見ていた、だからこそ由乃救出作戦に悠と共に行くことを志願した。

 かああっと顔を赤らめ、桜は顔をそらすしかなかった。


「…あんたはあの時泣かなかったわ」


「一人の時は悔しくて泣いてたよ。それでも前を向いてやれることをやるしかないからさ」


「前を、向いて…」


 前を向いて立ち向かったからこそ、悠は由乃を取り戻すことが出来た。悠の言葉は少しずつ桜の心を暖めていく。


「まだ海斗は戦ってるよ、生きようと。そばにいる桜がそれでいいのか?」


 生きようとしている。そう、海斗は桜の腕の中で鼓動を止めることはなかった、それは病院へ搬送されてからもだった。


「海斗の戦いはまだ終わってない、それなら私がすることは一つね」


 涙を拭いた桜の顔からはもう無力さはなくなっていた。


「これからあんたはどうするの?」


「海斗の敵討ち…ではないけど、終わらせてくるよ」


「終わらせるって、従者の居場所が分かったの?」


「ああ、これから出撃さ。今回も間違いなく強い、なんてったって敵は"ランスロット"と"アーサー"だからな」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 川名湖畔のバーベキュー場に従者の存在が確認されたのはほんの3時間前の事だった。

 管理人経由で避難を指示し、すでに現地に人はいない。

 梓が万全の態勢を整えて従者との戦いを迎えるのは、人命を尊重するだけではない。

 森林地帯で黄金の刀身を持つ剣を構える騎士の姿とそれに随伴するように湖畔で構える騎士、黄金の剣を「エクスカリバー」だと断定した梓は二騎士を特定してみせた。

 今回の敵は"円卓の騎士 ランスロット"と"騎士王 アーサー"なのだ。


「いいか、ランスロットとアーサーのポイントは離れている。合流されてはこちらの勝機もなくなる可能性がある、よってチームを維持したままの各個撃破が絶対だ」


「担当はどうするんですか?」


「史実を鑑みるなら、どちらも侮れない敵に変わりない。地形的に空中待避がしやすいのは湖畔側だ。戦いに馴れていない彩のことを考えると…」


「私と隊長がランスロット。パパとママがアーサーってことですか?」


「うむ、いくら従者と言えども空を飛ぶ能力を持っている訳ではあるまい。空中に逃れやすい湖畔を我々が担当するのが妥当だろう。それでいいか」


「異論はありません。隊長、すみませんが彩を頼みます」


「うむ、私の命に代えても彼女のことは守ってみせよう」


「彩、隊長の言うことを聞いて。一人で戦っちゃだめよ」


「分かってるよママ、頑張ってね」


「それでは出撃するとしよう」


 一瞬の静寂、次の瞬間には全員が息を合わせたように魔法陣を展開し翼を広げていた。

 二方向に伸びていく軌跡、その先に待っている未来など4人には知る由もなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 普段は家族連れで賑わう川名湖の湖畔、そこには白銀の甲冑に身を包み白銀の刀身を持つ剣を持つ騎士が一人いるだけだった。


「この気配…王より先にこちらに向かってくるか」


 白銀の騎士は遠くから漂ってくる魔力の気配を感じ取り、その手に持つ剣の柄に力を込める。

 持ち主の覇気を感じ取った剣はその刀身から冷気を吐き出す。

 その刹那、騎士のほんの少しの前の空間に幾条もの斬撃が叩き込まれる。


「持ち主の姿が見えぬ剣など私には通用せん」


「これくらいは避けてもらわないと困るな、ユーリの従者」


 白い冷気を切り裂くようにして梓が騎士に肉薄する。その手に持つ紫陽剣には剣技(スキル)発動の光が宿っていた。

 繰り出されたのは紫陽・連斬(しよう・れんざん)、シンプルな二連撃だが紫陽剣の切れ味に梓の魔力が上乗せされ、上級の使徒でさえも斬り伏せる技。

 しかし、騎士はその太刀筋を見切っていた。

 上・下、順に襲い来る刃を的確に剣で対処し、梓の剣技(スキル)を無力化する。


「悪くない技だ、だがそれしきの実力で私のみならず王に挑むなど…」


「舞え、翼よ!!」


 騎士の言葉を遮るように、今度は羽根状に姿を変えた刃が騎士を襲う。


「無数の刃による全周囲攻撃…なるほどこれでは対処が難しい。1本ではな」


 騎士は刃を巧みに避けながら剣の切っ先を湖に沈める。


「凍れ、我が剣の元に。映せ、我が剣の筋を。我は円卓の騎士が一人、サー・ランスロットである!!」


 騎士の放った言葉を起句に、湖の表面が一気に凍り付く。それと同時に白銀の騎士が4体に増える。


「ぞ、増殖!?」


「単なる数増やしではないぞ。それぞれが湖の加護を得た私自身、つまり各々が私と同等の力を持っている。さあ、来るがいい翼を持つ者よ、我が王と、王が使えしユーリに刃を向けるものよ!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 湖畔より少し離れた森林地帯、アスレチックが並ぶそこには3人の影があった。


「来たか『蒼天の翼(スターダスト)』と『紅蓮の翼(インフェルノ)』の持ち主よ」


「へえ、そっちには知れ渡っているのか"騎士王 アーサー"」


「話は随分前にゼロから聞いているのでな。そういうそちらこそ私の事を知っているとはな」


「黄金に光る剣を持っていれば、誰にだって分かるさ」


 悠は背中の鞘から黒焔(ブラックフレア)を抜き、構えを取る。その横では由乃が大和の砲身をアーサーへと向けている。


「ゼロを倒した人間の英雄が相手となれば、我が騎士道に余りある誉れだ。だがな…加減は出来ぬぞ、人間」


「元より加減なんてしてもらうつもりはないからな。こっちはいつも全力だ」


「覚悟しなさい、騎士王アーサー。あなたは私たちが倒す!!」


「私もユーリのために負けるわけにはいかないのでね!騎士王アーサー、エクスカリバーを以ってここに勝利を導かん!!」

およそ3か月ぶりの更新です。途中で投げ出すわけにはいきませんので、こうしてまた更新を再開いたしました。


さて、今回のお話は対従者戦の佳境の始まりです。ランスロットとアーサーという、今の私には余程扱えないような英霊を題材にさせていただきました。とはいえ、アーサー王伝説に深く踏み込むつもりはありません。ただ知りえるだけの剣の使い手を思い浮かべた時に浮かんだのが彼らだったんです。


続きを早くお届けできるようにしたいと思います

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