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第9話 男の意地

 私の悪い予感はよく当たる。特にあの子に関することは。

 だからお父さんと一緒に戦うと言った時、私は正直反対だった。

 近い内に大きい戦いがある、それだけは強く感じ取っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 従者…ユーリの四柱の一柱であるクー・フーリンを倒したあと、残る三柱の早期撃破を狙った隊長は継続して探索を続けていた。


「それでは四柱は全てそれなりに名の通った人物の名を冠していると?」


「ええ、僕たちが戦ったクー・フーリンはケルト神話に出てくる人物であり、死棘の槍(ゲイ・ボルグ)も彼が使っていたとされる槍です。今後現れるであろう残り三柱も神話か伝説に残るような者が現れる可能性はあります。」


「ふむ、警戒するに越したことはないが…範囲が広すぎるな。」


「今日は桜ちゃんと海斗君が外回りをしています、一応情報は回しておきます。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「二人っきりで任務なんて、現役の頃でもなかったわね。」


「そうっすね…あの頃は龍一さんと組んでたようなもんですから。」


「もうちょっと一緒に組みたかったんだけどね~?」


「し、しょうがないじゃないっすか、先陣切るの以外に大変なんですよ?」


 浜ノ宮を中心としたエリアの探索、仕事が休みの日は交代制で各ペアが回ることになっている。


「それにしても、神話か伝説に残るような敵と言われても…そんなのいっばいいるじゃないっすか。誰が来るかなんて予想出来ないっすよ。」


「そうねえ、ただ人と武器の両方がそうなら少し絞れるわ。例えばアーサー王とエクスカリバーとか。」


「そこまで分かりやすいの来ますかね?」


「さぁね、でも…っ!海斗、真っ正面に何か不審な者はいる?」


 桜の持つ翡翠の翼(オーロラ)が何かの反応を捉える。反応のある方を海斗が目視で確認をする。


「特に何も…普通の人通りですけど…?」


「この先に何かいるわ。しかも強大な何かよ。」


「この先は…浜ノ宮公園っすね。待ち伏せにしては分かりやすいっすけど。」


「行ってみる価値はあるわ。」


 桜が使徒の反応を掴んでから5分、浜ノ宮公園に二人は到着した。


「日曜のこの時間で誰もいない…?」


「おかしいっす、普段なら家族連れで賑わってるのに。」


「ご退室いただきましたよ、全力で戦うにはいささか数が多いので。」


「どこ、誰!?」


「師匠、あそこ!」


 海斗が指差したのは入口付近の時計塔、その上に白いローブを纏った人型の何かがいた。


「あなたが…従者…?」


「いかにも。私はユーリの四柱が一人、槍使いアルトリウス。もっとも今の世界では「アーサー」と呼んだ方が馴染みがありますかな。」


「騎士王アーサー、聖剣使いが相手とは…。」


「確かにエクスカリバーを持つ私もいる。だが今の私は槍使い、ロンゴミニアドを持ってあなた達と戦わせていただく。」


 アルトリウスはそう言うと、左手に持つ槍ーロンゴミニアドーを構える。


「来るわよ海斗!」


「分かってます師匠!18年越しのタッグマッチです、やってやりますよ!」


 桜と海斗が同時に翼を広げる。鮮やかな緑と橙の翼はACFの頃と全く変わりなかった。


「なるほど、セイバー・アーチャーの混合種とアーチャー単体ですか…名に聞く翼とやらの実力、見せてもらいますよ!!」


 アルトリウスの槍と海斗の流星が正面からぶつかる。


「槍の切っ先を剣で防ぐとは、かなりの実力者であるのは間違いないようですね」


「おまえこそ、今の一撃で急所を狙っただろ?だが師匠の前でそう簡単にやられるわけにはいかないんでね!」


 海斗は彗星を腰のホルスターから抜くとアルトリウスに向けて数発魔力弾を放つ。


「おっと」


 すかさず距離を置いたアルトリウスにビットからの射撃が追い撃ちをかける。


「海斗、援護と守りなら任せなさい。あなたはあなたのスタイルを貫いて!」


「了解です、師匠!!」


 そこから繰り広げられる戦いはどちらも決め手に欠くものだった。

 間合いに入りきれない海斗、彗星からの射撃とビットに阻まれ必殺の距離を保てないアルトリウス。

 どちらの精神力が先に尽きるかが勝負の分かれ目になると思われた、その矢先だった。


「ふむ、粘りますが…すでにあなたは私の槍により20ヵ所傷ついている」


「それがどうした、どれもかすり傷だぜ?」


「かすり傷で十分なのですよ、このロンゴミニアドに秘められし能力ではね」


「へえ、いったいどんなもんか見せてもらおうじゃねえか!」


 口上を述べるアルトリウスに隙をみた海斗は一気に間合いを詰め、翼の能力で強化された腕力に任せて流星を振るう。


「…はぜなさい!」


 流星の刃がアルトリウスを捉えたか、という所で海斗が動きを止める、いや止めさせられた。


「海斗!!」


 状況を見た桜がシールドビットを展開しようとするが、すでに遅かった。

 海斗の身体は表面から爆発するようにして弾け飛ぶ。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 飛翔力を失った海斗はそのまま地面に落ちる。爆発したヵ所は切り傷のように切れ、血が垂れる。


「くそっ…まさか傷の内側から爆発させるとは…」


「ふふふ、それだけの聖痕をつけられながら未だ立ち上がれる、その生命力には感嘆するしかありませんね、ですが」


 アルトリウスは再びロンゴミニアドの切っ先を海斗に向ける。


「次は立ち上がれなくなるまで聖痕を刻み付けるだけです、どちらにせよ、あなたに戦い抜くだけの力は残されていないでしょう?」


 冷酷な笑み、それを見た桜は海斗を抱き抱えシールドビットを展開する。


「一時撤退するしかない、私たち2人で勝てる相手じゃないわ」


「し…しょう…逃げるなら師匠だけ逃げてください…」


 血だらけになりながら、それでも海斗は立ち上がった。

 額から垂れた血が左目に入り、すでに右目しか視界はない。

 流星を持つ手も、彗星を構える手も、力なく震えるだけだ。

 しかし、その目に宿る光だけは輝きを失っていなかった。


「俺は奴を倒して…みんなの元に戻ります。必ず帰りますから」


 ゆらりと立ち上がった海斗の手は、もう震えていない。


「全く、あなたって人は…あの頃みたいに聞き分けがないのね」


 桜は海斗を支える腕を外し、揃ってアルトリウスを睨む。


「私は何をすればいいの?」


「師匠は…師匠は俺の翼に向かってビットから射撃をしてください。"奥の手"を使うには、師匠の魔力が必要なんです」


「いいわ、ありったけ込めて撃ってあげる」


 桜はそう言うと一歩下がって射撃態勢に入る。

 海斗は流星と彗星を握り直し、アルトリウスと正面立って構える。


「万策尽きた…ようではなさそうですね?」


「当たり前だ、俺の背中には師匠がいる」


「ふむ、それではあなたと共にあの女性も聖痕によって倒れるがいい!」


 ジャキッ!とアルトリウスがロンゴミニアドを構える、その切っ先は海斗に狙いを定めている。


「……頼むぞ、流星・彗星」


 海斗が翼を広げて、一歩踏み込んだ。それを合図としたように、桜のビットから翼に向けて射撃が加えられる。


「同士討ちですか!アーチャーもなんと情けない!!」


「違う、これは…最高の援護さ!」


 射撃を受けた橙の翼はその輝きを増し、海斗のスピードが上がる。


「何っ!?」


「ぜりゃあああああ!!」


 ロンゴミニアドを突き出す隙を与えずに、海斗は流星でアルトリウスの横っ腹を切り抜く。


「このっ…!」


 海斗はすかさずターンをし、次は上段からの振り下ろし。またも刃はアルトリウスを捉える。


「ですがその距離では避けられない!」


 海斗を必中の距離に捉えたアルトリウスは気合いと共にロンゴミニアドを突き出す。絶対に避けられない距離、それを海斗は猛烈なターンでひらりとかわす。


「ば、バカな!今のは完全に捉えたはず!」


「よそ見してる場合じゃねぇぞ!!」


 更に速度を増した海斗は目にも止まらぬ早さで攻撃を続ける。その間にも、桜のビットは的確に海斗の翼を撃ち抜いていく。

 身体強化を能力とする橙の翼、それは所有者の魔力だけではなく、翼に受けた魔力をも自らの力に変えられる。

 ゆえに桜のビット攻撃を浴び続ける海斗は時が経つ度にその強化が止まらない。

 いつしかロンゴミニアドを抱えるようにして攻撃を防ぐしかなくなったアルトリウスは、しかし反撃のチャンスを伺っていた。

 そう、いくら強化されたとしても使い手は生身の人間であり、海斗はすでに聖痕によってかなりのダメージを受けている。削りきるが先か、耐え抜くが先か、戦いは双方の気力次第になっていた。


「さすがにしぶといな、四柱ってのはみんなこんなんなのか!」


「あなたを見くびっていたようです、聖痕であれだけのダメージを受けながらなおもここまで戦えるとは…ですが!!」


 袈裟斬りを辛うじて防いだアルトリウスは、そこから追撃に来る海斗の動きが鈍ったほんの一瞬を狙ってロンゴミニアドを突き出す。


「っしゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 しかし、その動きは海斗の予想の範疇だった。いや、むしろそう仕向けたのだから。

 先ほどと変わらぬ速さで槍を避けた海斗はその側面に彗星を突き付け、トリガーを引く。

 魔力を貯めに貯めた銃口からはまばゆい光と共に砲撃が放たれ、ロンゴミニアドを半ばから砕いた。


「なっ…ロンゴミニアドが…」


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 気合いと共に振り下ろされた流星はアルトリウスの身体を深々と斬り裂いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 戦いの行方を離れた場所から見ていた桜は、アルトリウスから舞う血飛沫を見て海斗の勝利を確信した。

 地上に横たわるアルトリウスと、そばに佇む海斗。桜が海斗の元へと一歩踏み込んだ瞬間、その体は音もなく崩れ落ちた。

 聖痕によって傷付いた身体に無理な強化を与え続けたせいで海斗の身体はもうボロボロだった。


「海斗!!」


 翼を広げて桜は一気に加速する。着いた先には全身から血を流しながら、それでも荒い息を繰り返す海斗がいた。


「はぁっ……はぁっ……や、やりましたよ師匠…」


「うん、うん!よくやったわ海斗、待ってて、治癒魔術を…」


「俺は…師匠の弟子でよかったと思ってます。師匠みたいに、誰かのために強くなったわけじゃありませんけどっ…それでも、俺は…」


「もういいわ、喋らないで」


「ありがとう…ございました……」


 治癒魔術をかけようと伸ばした手に、そっと手を重ねて海斗は力を失う。


「…バカねえ、あなたはホントにバカ。あれだけ突っ込むなって言ったじゃない…。それに、最後まで弱いままよ…こんなところでみんなを置いて、逝くなんて、私は許さないわよ!!」


 最低限の治癒魔術によって出血を抑えた桜は海斗を抱えて翼をはためかせる。

 行き先は元ACF本部。今は治療施設を大型の病院として活用しているだけに、このエリアでの急患は大半がそこに収容される。

 気を失っているだけで、海斗はまだ死んでいない。桜の腕の中で、ゆっくりゆっくり鼓動を刻んでいる。


「死なせてたまるもんですか」

読んでいただきましてありがとうございます。こちらではお久しぶりになります。

エンカウント・マリッジ編も終了し、本格的に託された希望編の更新に移ります


さて、今回の話は海斗・桜コンビが従者の一人、アルトリウスと戦う場面でしたが

正直、本編で海斗の戦いをあまり描いていなかったので試行錯誤でした。

翼の能力は決まっているけれど、それをどう発展させるかが一つのポイントになり、結果的に翼から得た魔力で自身を強化出来るというある意味チート能力になってしまいました。


ただ、海斗も満身創痍で戦ったので、ラストの状況から今後の活躍は…というのはこの先のお楽しみということで


さて、次回も対従者編が続きます。残る従者は2人、残るペアは悠・由乃と彩・梓、どちらが先に戦い、またどんな従者が現れるのか


次回の更新も早めに出来るようがんばります

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