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季節外れな彼女

作者: 灯宮義流


 彼女が転校してきたのは、夏休みが始まろうかという、テストも終わった夏の始まり頃だ。

 小学校の頃、夏休みが終わりを告げた後に転校生が来たことがあったけれど、こんな中途半端な時期にくる人間は珍しかった。

 それだけなら、ただの珍しげな転校生で済んだ。



 その子と僕は、たまたま班が一緒になったことで仲良くなり、夏休みなんかは彼女の家に友達数人で行ったりすることがあるぐらい、親しくなった。

 友人数人の中には、彼女を口説こうとする奴もいたけれど、みんな彼女には近づけなかった。

 確かに、彼女はとても魅力のある女の子だった。でも彼女には、どこか人を寄せ付けないところがあったからだ。

 僕も少し彼女のことは 気になっていたけど、結局それを言える日はこなかった。彼女は、明るいけどとてもズレていたからだ。


「暑いねー」


 そんなことを、僕が何気なくつぶやいたときだ。


「冬になったらすごく寒くなるんだろうね」

「はは。当たり前だよ」

「楽しみだなあ、冬」


 彼女はそんなことをふいに口走った。その時、僕は何ら疑問を持つことはなかった。

 おかしいと思ったのは、夏休みが終わってから秋になって、たまたま帰り道が一緒になった日のこと。

 イチョウが舞う公園の道を、二人で季節情緒を感じながら「綺麗だね」なんて話していたのに、彼女はそれを遮って言う。


「春になったら、学校とかから流れてきた桜の花びらで、一杯になるんだろうね」

「そ、それはそうだよ。この公園は学校から近いしね」

「楽しみだなあ、春」


 なんて、とても季節外れなことを、意地悪でもなんでもなく、当たり前のように話すのが、彼女だった。

 それからさらに季節が過ぎて冬になって、彼女が夏を楽しみにし始めた時、それは本格的に確信へと変わった。

 雪が降った時、何を思ったかビーチバレーをしようなんて彼女は言い始めたのだ。流石にそれは僕が止めに入った。

 彼女はやっぱりおかしかった。それでも彼女がクラスから除け者にされなかったのは、そういうことを脈絡もなく言う以外は、何ら代わりない性格だったからだ。




 そしてまた季節は流れて春になり、一緒のクラスになった彼女が、予想通り桜吹雪を見て、「イチョウの葉っぱは臭いね」なんて話をし始めた頃。


「家族の都合により、転校することになった」


 新しい担任からそう告げられた。始業式が始まって、二週間ぐらい経った、とても中途半端な時期だった。

 転校は、それからさらに一週間過ぎた、五月の始まり頃だということが明かされ、みんなはしんみりとした。




 お別れ会も終わり、いよいよ明日転校だという日の帰り道、また彼女と偶然帰りが一緒になった。

 そんな時、突然彼女は、僕に真剣な顔と声で「人のいないところに行こう」と、僕に言ってきた。

 まさか告白じゃないか、なんて変な期待を持ちつつ、二人は屋上で待ち合わせることになった。

 屋上に行ってみると、彼女はフェンスに手をかけながら、僕を待っていた。単刀直入に、僕は何の用かと聞いた。


「私のことを話そうと思って」

「うん。何?」

「私はこの世界の人間じゃないの」


 僕の思考は、一瞬で凍りついた。季節外れな彼女の言動を聞いて以来だった。


「こことは反対の世界からきたんだ。言ってみれば鏡みたいな世界かなって、信じられないよね」

「……何故かわからないけど、僕は君を信じる」


 別に彼女の気を引くためじゃなかった。僕は彼女の言うことを、心から信じていた。


「一番明確に反対だったのが、季節。日本なのに、八月なのに寒いし吹雪になるし、12月でクリスマスなのにみんなサーフィンしてた」

「オーストラリアにでも行けば、その感覚が、わかるのかな」

「そうかもしれないね」


 彼女は、フェンスにかけていた手を離して、僕に向き直った。


「私、元の世界に帰ることになったの」

「そうか、だから……」

「息抜きのつもりでここに来てたんだけど、何時の間にか約束していた期限を過ぎてた」

「もう、いられない、か」

「本当は、もっともっと居たい。みんな大好き、でもやっぱり私は、こっちの世界の人じゃないから」

「だけど僕等は友達だよ。僕も君の事が好きになったし……」


 思わず僕は告白してしまった。顔を赤らめる僕の手を、彼女は、暖かく包んでくれた。


「ありがとう」


 そういって彼女は、僕の頬にキスをした。呆然とする僕に、彼女はにっこり微笑んだ。


「また会いたい。私も好きだから」


 彼女の姿は、屋上にまで飛んできた桜吹雪にまぎれて、消えてしまった。




 そこで僕の目は覚めた。今までのことは夢だった?

 がっくりしつつ、ふいに頬を触ってみると、とても暖かい人の温もりを感じた。

 僕は勢い良く自室の窓を開け放った。桜吹雪がとても綺麗に舞っていた。


 イチョウがすごく恋しくなった。

電撃リトルリーグに送った作品。2000字制限のため描写をいくつか端折ってしまい、さらに締め切り前だと焦って書いたこともあって、見事に落選。せっかく書いたし勿体無いので掲載。ジャンルはこれでよいのかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなりバランスがよく、楽しめました。
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