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アニメ版デスノート25話、竜崎の奇行を解説してみる。

作者: 火雛じぇすとーな

<WARNING!!>

 このページは、漫画版およびアニメ版『デスノート』のシナリオに言及しています。

どの主要人物が死んでしまうのか? というネタバレが普通に出て来ます。

ご注意下さい。


目次です。興味のある場所だけ、つまみ読みしてOKです。

 ↓

◆アニメ版の名エピソードをご存じですか?

◆原作=漫画版ストーリーのおさらい。

◆追加シーン1「竜崎とワタリ」

◆追加シーン2「竜崎とライト」

◆詳述を後回し。一問一答で、私の考えをば。

◆「もうすぐお別れです」――竜崎は何を予期していたのか?

◆聖書との符号説、腐女子向けサービス説は本題ではない。

◆「ライト君は私の初めての友達ですから」という嘘。

◆ライトが竜崎の友達だった「ヨツバ編」

◆竜崎はライトの友達だったか?

◆アニメ版竜崎は、白ライト→真ライトの変化を重視した。

◆「私の言うことはみな出鱈目ですので、一言も信じないでください」

◆「そう言うと思ってました」

◆失われた友達に対して、せめて自分からは。

◆竜崎は真ライトを赦したかもしれない。

◆本当の夜神(ライト)

  ◆アニメ版の名エピソードをご存じですか?


 アニメ版『デスノート』は、映画版やTVドラマ版のようなオリジナルストーリー展開とは違って、原作こと漫画版『デスノート』を忠実に再現した作品でした。

ただし、大きく改変された例外が存在します。


 アニメ第25話『沈黙』。

Lが死ぬエピソードです。

私はこのエピソードが大好きでしてね。今も定期的に見ずにはいられない。


 でも、ネットでこのエピソードの話題といえば、聖書だとか腐女子狙いだとかいう断片的な事実にほぼ限られているようなので、ずっと気になっていました。


 はっきり文章に書いたことも無いので――

「私がこのエピソードをきちんと説明できるかどうか」確認する目的で、僭越ながらこのエピソードの解説文なんぞを書いてみようと思います。

大丈夫か、私。



  ◆原作=漫画版ストーリーのおさらい。


 原作やアニメを視聴したけれど、詳しく憶えてない――という人のために、まずは状況を整理しましょう。

不要の方は、もっと後の「◆」まで飛ばして結構です。


 まずは登場人物の再確認。七人だけ押さえておけば大丈夫でしょう。


・夜神(ライト)……言わずと知れた「キラ」。

・竜崎(仮名)……世界的な探偵「L」。

・ワタリ(仮名)……竜崎の部下。

(あまね)海砂(ミサ)……「第二のキラ」。「死神の目」所有者。月に心酔し、利用される。

・夜神総一郎……月の実父。息子の潔白を信じ続ける。

・リューク……ライトのデスノートを見届ける死神。月を傍観する。

・レム……ミサのデスノートを見届ける死神。ミサの味方をする。


 そして簡単な時系列の再確認。


①竜崎が、ミサを「第二のキラ」容疑で拘束した。

②容疑を逃れるべく、ライトとミサはデスノートを放棄して自らの記憶を部分消去した。

③ライトの作戦通り、死神が適当な人間(つまり火口(ひぐち))にデスノートを渡して、犯罪者殺しをやらせた。

④ライトと竜崎が結束して火口を見つけ出し、デスノートを入手した。

⑤表向き、デスノート一冊がライト・竜崎ら共同捜査チームの保管物になった。だがその裏で、デスノートに触れたライトとミサは元の記憶を取り戻していた。火口も抹殺済み。


 そしてアニメ第25話は、以下のように推移します。


⑥別のデスノートをミサが回収し、「死神の目」の取引(二度目)を行ってから犯罪者殺しを再開する。

⑦竜崎が、デスノート表面に追記された嘘ルール「このノートに一度名前を書き込んだ者は、十三日以内に次の名前を書き込まないと死ぬ」の検証を試みる。

⑧レムが、デスノートに竜崎とワタリの名前を書く。竜崎、ワタリ、レムが死亡する。


 上記の大筋は、原作漫画版でもアニメ版でも変わりません。

ですがアニメ版の場合、⑥~⑦の辺りで独特の改変が行われたのです。

竜崎とライト、竜崎とワタリのシーンが追加されました(ミサの歌とかもあるけど)。



  ◆追加シーン1「竜崎とワタリ」


 アニメ冒頭。

物語中いちども登場していない場所がまず描かれる。


 曇天のもと、雪が降り、鐘が鳴っている。

孤児院か、保育園か、教会か。

子供たちが大勢いて、遊んだり笑ったり泣いたりしている。

平和な街の一角のようだが大人が見当たらない。


 そんな場所を、身なりの良い一人の大人が訪れる。幼子(おさなご)を一人連れている。

二人は言葉を交わさないし、独り言も言わないが――

それがワタリと、幼少期の竜崎であることが視聴者には見て取れる。

竜崎はワタリと手を繋いでいた。

これ見よがしに甘えたりはしないが、逆らう様子もなく、ここは何処かと問いもしない。

握る手に力がこもった。

ワタリが幼子から視線を外した後、幼子が僅かな間だけワタリを見上げた。


 ――そんな夢から、竜崎は目を覚ました。

白く静かな屋内。

視界正面の机には、デスクトップPCとコーヒーとドーナツが有る。

「キラ」を追う捜査本部の中だろう。


 場面が移動する。

白い部屋から、監視モニタだらけの暗い部屋へ。

ワタリが座って監視システムを見ていたが、竜崎の入室に気付いて振り返る。


L「ワタリ」

ワタリ「どうしました、竜崎」


 いつも通り、まずワタリは部下として応じた。

しかし竜崎が沈黙していると、ワタリは語気と口調を変えた。


ワタリ「――どうしたんだ」


 暗転。第25話「沈黙」というサブタイトルが画面に映る。



  ◆追加シーン2「竜崎とライト」


 捜査本部の屋上。

豪雨にもかかわらず、竜崎が手ぶらで佇んで雨を浴びている。

それを発見するライト。

竜崎もライトに気付くが、雨中から動かない。


夜神(ライト)「そんなところで何をしてるんだ? 竜崎」


 言葉を聞き取れない、という反応をする竜崎。


夜神月「そんなところで何をしてるんだー? 竜崎いー?」


 雨を浴びない位置から声を大にするライト。

竜崎は友好的な表情のまま、あくまでも聞こえませんよという態度。動かない。

ライトは立ち去らず、渋々と竜崎の所まで歩く。

二人、雨に打たれながら会話をする。


夜神月「何してるんだ竜崎」

L「いえ、何ってほどのことじゃないんですが。……鐘の音が」

夜神月「……鐘?」

L「ええ。鐘の音が今日凄くうるさいんですよねえ」

夜神月「……? ……何も聞こえない」

L「そうですか? 今日はもうひっきりなしで。

  気になって仕方がないんですよ。

  教会ですかねえ。結婚式? それとも――」

夜神月「何を言ってるんだ竜崎。くだらないこと言ってないで、戻るぞ」


L「……すみません。

  私の言うことはみな出鱈目ですので、一言も信じないでください」

夜神(ライト)「……?」


 訝しみつつ、ここでライトの態度が軟化した。

屋内を目指すのをやめる。

落ち込んでいるような竜崎とは裏腹に、友好的な口調になるライト。


夜神月「そうだな竜崎。お前の言うことは大概出鱈目だ。

  いちいち真面目に取り合っていたらきりが無い。

  それは僕が一番よく知っている」

L「ええ、その通りです、ライト君。

  ……しかし、そればお互い様でしょう」

夜神月「? どういう意味だ?」


L「生まれてから一度でも本当のことを言ったことがあるんですか?」


 雨の音が一瞬だけ消える。無音。ライトの視線が今や厳しい。

すぐ雨の音が戻ってくる。誠実げな口調でライトは答える。


夜神月「何を言ってるんだ? 竜崎。

  確かに僕もたまには嘘をつく。

  しかし真実のみを口にして一生を終える人間もまた、居ないんじゃないか?

  人間はそんなに完璧にできあがってはいない。

  誰しも嘘はつく。それでも――

  僕は故意に人を傷つける嘘だけは言わないよう、心がけてきた。

  それが答えだ」

L「……そう言うと思ってました」


 非難げではないが、肯定的でもない口調の竜崎。


L「戻りましょう。ずぶ濡れです」

夜神月「……ああ」


 広い屋内へと場面が移る。

ライトと竜崎以外には誰も居ない。雨音すら届かない。

下り階段に腰掛けて、ライトが濡れた髪などを拭いている。

靴も脱いである。


L「いや、酷い目に遭いましたね」

夜神月「お前が悪いんだろ、あんな雨の中を」

L「そうですね。すみません」


 階段の半ばでしゃがみ、ライトの足を拭こうとする竜崎。


夜神月「!? 何をする竜崎!?」

L「お手伝いをしようかと。熱心に拭いていらっしゃるので」

夜神月「いいよ、そんなことはしなくても」

L「マッサージも付けますよ? せめてもの罪滅ぼしです。

  私、結構うまいですよ」

夜神月「……好きにしろよ」

L「はい」


 ひざまずいて、ライトの足に触れ続ける竜崎。


夜神月「おい……」

L「すぐ慣れます」


 渋々、しばらく好きにさせるライト。

だが、竜崎の髪から水が滴ってくることに気付き、竜崎の髪先へタオルを運んだ。


夜神月「まだ濡れてる」

L「すみません」


 ピアノのBGM。

屋内構造、白光と影。配置が十字架を暗示する。


L「寂しいですね」

夜神月「え?」


 マッサージに専念していた竜崎が、顔を上げてライトと視線を交わす。


L「もうすぐお別れです」


 声から一切の白々しさが消えている。

 電話着信。竜崎が応答した。


L「はい。――わかった、すぐ行く。

  行きましょうか、ライト君。

  どうやらうまくいったようです」


 この後、竜崎は死刑囚を使って、ライトが捏造したデスノートの嘘ルール「このノートに一度名前を書き込んだ者は、十三日以内に次の名前を書き込まないと死ぬ」を検証すると宣言する。

 そしてライトの筋書き通り、レムがデスノートで竜崎とワタリを殺す。


 死の寸前に竜崎は、悪意に満ちたライトの笑みを見る。

漫画版の場合、ここでライト=「キラ」説の正しかったことを竜崎が独白するのだが、アニメ版の竜崎は目を見開くだけで、静かに息を引き取る。



  ◆詳述を後回し。一問一答で、私の考えをば。


Q1.竜崎は「鐘の音がうるさい」と言っていたが、本当に聞こえていたのか?

A1.NO。仮に幻聴があったとしても、幻聴という自覚が有ったはず。

 ライトに聞こえるはずがないのは百も承知。

 馬鹿馬鹿しいことを喋っている自覚が竜崎には有った。


Q2.竜崎は、ライトの「キラ」としての策略を推測するために、

 心理戦・情報戦・カマかけの一環として「鐘の音」話を始めたのか?

A2.NO。あれは捜査ではなかった。

 友達だったかもしれない男への、必死の対話だった。


Q3.雨の中での意味不明話には、暗号めいた別の合理的意味が有ったのか?

A3.NO。竜崎はわざと非合理的な言動を繰り返していた。

 ただし意図は有った。

 ライトが乗ってこなかったので、哀しい結果に終わった。


Q4.竜崎の聖書的な行動には、ライトをキリストになぞらえる意図が有ったか?

A4.NO。あれはアニメ制作陣の意図であって、竜崎の意図ではない。

 ……と書くつもりだったが、前言撤回。

「友達」としてのライトを赦す意図が有ったかもしれない。


Q5.竜崎は、ライト=「第一のキラ」という確信を持っていたか?

A5.敢えて言うならYES。

 原作では「確信しつつ、いまだ確認を求めている状態」だった。

 アニメ版では「確信しつつ、もはや確認を求めていない状態」だった。


Q6.「もうすぐお別れ」とは、もうすぐ誰がどうなるという意味なのか?

A6.ライトの秘策次第では、竜崎が敗北して、高確率で死ぬ。

 竜崎が対応できる程度の策であれば、ライトとミサが逮捕されて死刑になる。

 どちらになるかは竜崎にも不明だった。


Q7.原作版ライトと、アニメ版ライトの違いは?

A7.無い。全く同じ。


Q8.原作版竜崎と、アニメ版竜崎の違いは?

A8.「ライト君は私の初めての友達ですから」

 という自身の言葉を、アニメ版竜崎は重く引きずった。



  ◆「もうすぐお別れです」――竜崎は何を予期していたのか?


 追加シーンは、竜崎の死の直前ですね。


 このタイミングで、アニメ版竜崎は奇妙な言動をとりました。

まるで己の死を予期していたかのような――でも、仮に予期していたとしても、それはそれで一見筋が通らないような。

不可解な奇行でした。


 ――実際、予期していたのでしょう。死別というよりは、なんらかの決着をね。

そしてライトが「第一のキラ」だとすれば、ライトの勝利は竜崎の死を意味するだろうし、逆もまた然りでした。


 問題はライトが、せっかく鎖手錠から解放されたのに全く動かないこと。


 竜崎はデスノートと死神の存在を知ったし、デスノートの一部ページが破れていることにも気付いた。

なのにライトはコソコソ何かやる訳でもなく、竜崎の監視下に留まった。

むしろ竜崎を監視していた。


 竜崎には「デスノートに追記された嘘ルールを検証する」とか、新たに犯罪者殺しが始まったということで「無防備のミサを再び監視する」とか色々と選択肢が有る。

ライトが「第一のキラ」、ミサが「第二のキラ」なら、あとは竜崎が順当に包囲網を狭めていくだけで勝てそうな状況でした。


 なのにライトは棒立ちの傍観者モード。

これはライト=「キラ」という説が根本的に間違っているか、あるいはライトが策を秘しているかのどちらかだと、そりゃあ竜崎なら危ぶみますよ。


 だから――竜崎は奇行に走ったんでしょうか?

ライトの真意を探ろうとして変な言動をとったんでしょうか?

「もうすぐお別れです」

なんてライトに言ったのも、カマかけだったのでしょうか?


 一問一答に書いた通り、私は違うと思います。

竜崎の奇行は奇策ではなく、それどころか作中で最も「竜崎が必死でライトに挑んだ」生身の体当たりだったと思います。


 ただし「キラ」容疑者としてのライトに、ではない。


 竜崎の「友達」――あるいは「友達になれるかもしれない人間」――としてのライトに、竜崎は生身の対話を挑んだのです。


 そしておそらく、「自分と彼は友達になれない」という事実を確認した。



  ◆聖書との符号説、腐女子向けサービス説は本題ではない。


 上記の改変要素について、ネットで既に周知されているのが、聖書との符合説です。

確かにそうだと思いますが、ぶっちゃけこれの解説はネットに幾らでも有るので、ここではサッと済ませますね。


 聖書と符合しているのは、事実です。

誰が誰の足を洗った寓話に対応しているのか?

誰から誰に対する赦しなのか?

そもそも赦罪という解釈で正しいのか?

解釈は視聴者に委ねられていると思います。


 腐女子サービスという指摘も、市場において事実そのように機能したから間違ってはいないと思います。


 ただどっちにしろ、第25話の核心ではないと思います。

大事なのは「竜崎は何を考えて、なんのつもりで変な行動をしたのか」です。

「あの奇行は“竜崎にとって”なんだったのか」です。


 サービスと聖書符号を両立させるために、竜崎は鐘の音の話をしたのか?

その場合、竜崎の思考はなんなんだ?

竜崎は何を狙っていたことになるんだ??


 竜崎はあの時、聖書めいた行動を“偶然”とっただけなのか――

あるいは、「友達としての」ライトを赦す意図だったと思います。



  ◆「ライト君は私の初めての友達ですから」という嘘。


L「そうですね…(ライト)くんは

  キラじゃない…

  いやライト君がキラでは困ります

  月くんは――私の初めての友達ですから」


 漫画版・アニメ版どちらにも有った台詞です。

時期的に、ライトがデスノートの記憶を部分放棄する以前のことです。


 この時期のライトと竜崎に、友情が有ったとは――私は思いません。

そういう可能性がチラつくのは、もっと後でしょう。

ライトが真に受ける訳が無いという確信のもとで、竜崎は言ったと思います。


 じゃあなんで言ったんですかね?

と言えば――

この言葉はライトにとっては「白々しい嘘」であり、

第三者にとっては「竜崎が珍しく語った本音……なのか?」て感じです。

友情ごっこの一環だったのでしょう。

竜崎が上の台詞を言った直後、ライトも白々しい買い言葉を返していますが、

それもまた夜神総一郎には真実めいて聞こえたでしょう。


夜神(ライト)「ああ…

  僕にとっても竜崎は

  気が合う友達だ

  …………」

L「どうも」

夜神月「大学 休学されて

  寂しいよ

  また

  テニスしたいね」

L「はい

  是非…」


 この友情ごっこを他の捜査メンバーの前で「一緒にやれ」と――「捜査メンバーに見せろ」とライトに強いるべく、竜崎は「初めての友達ですから」なんて言ったのかも知れません。



  ◆ライトが竜崎の友達だった「ヨツバ編」


夜神月「友達? …

  話を合わせただけだ

  最初から「友情を求めてくるなら

  受け入れてやろう」と言っていた

  はずだ」

夜神月「竜河は夜神月の

  うわべの友達

  Lはキラの敵だよ」


 原作より抜粋したせいでカギ括弧が変になってますが――

とにかく、前述の友達宣言の直後に、ライトはリュークへこう語りました。

竜崎ではなく、竜河と呼んでいる辺りが流石の徹底ぶりですね。


 しかし、二人が本当に友達だった時期があります。

ライトとミサがデスノートについての記憶を喪失して、

ライトと竜崎が一緒に火口(ひぐち)を捜査していた頃です。

この頃のライトは、竜崎から「思います。見えます」と言われてマジギレしてる。


 この時期は、竜崎がライトを友達(?)視する以上に、ライトが竜崎を強く友達視していたと思います。

竜崎はまるで友達のようにライトと喧嘩をしつつ、「Lを継ぐ」なる餌をちらつかせてライトの反応を見たりしてましたからね。


 この時期、ライトにとって竜崎は敵ではなかった。怒る理由は有っても、敵対する理由が無かった。

でも竜崎はライトに対して、常に腹に一物を持っていた訳です。


 ――さて、そんな竜崎は実のところ、ライトをどう思っていたのか?



  ◆竜崎はライトの友達だったか?


 竜崎が、ライトに対してどれだけ友情や共感を抱いていたかはわかりません。

どうせ本人にもわからなかったでしょう。

皆無ではなかった、とさえ果たして認めるかどうか?


 竜崎は嘘つきですからね。

ただし竜崎が嘘つきになったのは、不可抗力だと思うんですよ。

なにせ

「全力で知性と感情をぶつけ合える相手」

「対等な人間」が居なかったんですから。


 竜崎だって、本心を語ったシーンは有ったでしょう。

例えば夜神総一郎への敬意を表明したシーン。あれは本心だったと信じます。


 でも竜崎は思考が深遠すぎて、本心だろう嘘だろうが、周りには判別不能です。

対等な人間同士なら、騙そうとしても通じるか見抜かれるか微妙なところだったりしますが――ライトや竜崎の場合、相手が信じるかどうかさえ結構コントロールできてしまう。

警察が「キラ」に屈して、

捜査メンバーが警察やめるか竜崎と離反するか選ばされた時も、


相沢「竜崎、俺が警察を辞めて一緒にやるかどうか、見てたのか」

夜神総一郎「ち、違うぞ相沢。

  竜崎はそういうことを自分で言うのが嫌いなだけだ」

L「いいえ、試してました。

  どっちをとるか、見てました」


 ――という具合に、竜崎が偽悪者に徹すれば一般人は信じてしまう。

知性や心理戦スキルの差が大きすぎる。

竜崎が本心を本気で隠せば一般人にはわからないんです。

もはや対等な人間関係など成立し得ない。


 ライトは割り切って、ミサを人形扱いしました。

それを表わしているのが、もう一つの追加シーン「ミサの歌」だと思います。

竜崎・ライトの関係は、ミサ・ライトの関係と対照的です(まあミサに対しては、竜崎も結構アレな接し方をしてましたけどね)。


 ミサは極端な例ですが、ライトと竜崎の半生は大抵そうだったと思われます。

対等な人間が周囲に居ない。

自分の本性を見抜いて理解できる人が周囲に居ない。


 そこに例外が現れた。

デスノートの記憶を失っているライトは何を言ったか?


夜神月「この僕が

  今存在するキラを捕まえた

  その後で…キラに…

  殺人犯になると思うか?

  そんな人間に見えるのか?」

L「思います。見えます」Fight!


 いかに綺麗な頃とはいえ、あのプライドの高いライトが――

自分の本心を理解してくれよと、竜崎に期待した。

一蹴されて怒った。

なんということでしょう。


 白ライトにとって竜崎は、知性や感情を全力でぶつけ合える「対等な人間」でした。


 なら竜崎にとってもそうじゃないか?

だからこそ竜崎は「思います。見えます」と言ったんじゃないか?

相手を怒らせないように否定する方法なんて幾らでも思い付くでしょうよ。

「見えませんが、私はあなたをこれぐらいしつこく疑うべきです」

と言われれば、ライトも「ぐぬぬ……(残当)」となるでしょう。


 でも、竜崎は「見えます」と言っちゃったんですよね。

嘘をつかなかった。

白々しい嘘なんて、今まで幾らでも言ってきた癖に。

「またテニスしたいね」に対して「はい。是非」と言えた癖に。

「そんな人間に見えるのか?」に対して

「そうですね、見えません」とは言えなかった。

仮に言ったとしても、あながち嘘とも限らないでしょうに。

これは非合理的じゃないか?

やはり竜崎にとってもライトは特別だったんでしょ?

感情をぶつける相手だったんでしょ?

本当は「思いません、見えません」が正直な意見だったのに、

認めたくないから「思います、見えます」と嘘をついたのでは?


 他にも状況証拠は有る。

「一回は一回です」

「ライト君がキラであって欲しかった。今気付きました」等。


 これらの竜崎の発言例と、

豪雨の中での「鐘の音が凄くうるさいんですよねえ」は、

同じ理由から生まれた非合理だと思います。



  ◆アニメ版竜崎は、白ライト→真ライトの変化を重視した。


「つい感情的に張り合ってしまいそうになる対等な敵」同士だったはずのライトと竜崎は、ライトの部分的記憶喪失という異常事態のせいで関係を変調させた。

ライトが竜崎を、いきなり一方的に

「つい感情的に張り合ってしまいそうになる対等な味方」と認識するようになった。

竜崎はその変化に(……何が何だかわからない……)と混乱した。

相変わらずライトを警戒したが、結果的にはパートナーシップを構築した。


 そうやって芽生え始めた友情の可能性は――

ライトが記憶を取り戻したことで失われた。

ライトの人格が元に戻ったから。


 原作=漫画版の竜崎は、真ライトの復活にすぐ順応しました。

あるいは気付かなかったとか、気にしなかったとか。


 どっちにしろ、竜崎は「ライトとミサの部分記憶喪失」と「殺しの能力の移動」をセットで考えていて、やがてライトが「キラ」として復活する可能性まで想定済みでした。

だから白ライト→真ライトという変化に気付こうが気付くまいが、

竜崎のやることは「ライトの策略を推理する」の一択です。

極論を言えば、ライトの人格なんざ、ひたすら「キラ」を捜査するだけの竜崎にとっては一つの指標程度の価値しか無い訳です。


 でももし竜崎がライトと自分の関係性を、もっと重く考えていたら?

生まれて初めて現れた「対等の人間」という事実を、もっと重視していたら?

ライトの人格変化が、竜崎にとって別の意味を持ったんじゃないか?


 その可能性を追究したのが、アニメ第25話だと思います。



  ◆「私の言うことはみな出鱈目ですので、一言も信じないでください」


 豪雨の中、竜崎が「鐘の音が凄くうるさいんですよねえ」と言った時。

ライトは「くだらないこと言ってないで、戻るぞ」と軽く流しましたね。

(真面目な用事が有って、その繋ぎとして変なこと言ってるのかもしれないが、なんで雨の中で聞かなきゃいけないんだ……)って感じでしょうか。


 この辺は、白ライトだろうと真ライトだろうと同じことを言ったと思います。

「私の言うことはみな出鱈目ですので、一言も信じないでください」

への対応もそんなに変わらないでしょう。


「私の言うこと」。

これをライトは「竜崎の今までの発言」という意味で解釈しました。

特に捜査上の、ライトを容疑者扱いした件を暗示して友好的になじりました。


 その解釈、正しいのか? それが全てか?

他にも解釈があり得ないか?

「私は今ここで出鱈目なことを言います」という宣言にも、

「私は生まれてから出鱈目ばかり言ってきた嘘つきです」という自白にも、

「私の言葉を真に受けず、勘繰って下さい」という要請にも、

解釈できませんか?

またそれを敢えて言った以上、

「私は今ここで本当のことを話します」という宣言にもなり得ませんか?


 少なくとも、続いた言葉は出鱈目どころの話じゃない。

ライトと竜崎の生き方の図星を突く、真正の指摘でしょう。


L「しかし、そればお互い様でしょう」

夜神月「どういう意味だ?」

L「生まれてから一度でも本当のことを言ったことがあるんですか?」


 これが出鱈目だとでも??


 私には、嘘も本音も自在に使い分けて人を操ってきた男が――

何が嘘で何が本音か自分にもわからなくなった男が――

たとえ本心を語っても誰にも理解されない(ことに慣れた)男が――

同類に対して、告解の共有を求めているように聞こえましたよ。



  ◆「そう言うと思ってました」


「生まれてから一度でも本当のことを言ったことがあるんですか?」

と竜崎が言ったことで、

ライトの目は真面目に対論する者のそれになりました。

もう「竜崎がまた訳のわからん奇言を言っている」という解釈ではない。

「真剣な心理戦が始まった」と解釈しているかな。

だからライトの返答は、

本性を隠す「キラ」としてのセオリー通りな綺麗事。


夜神月「何を言ってるんだ? 竜崎。

  確かに僕もたまには嘘をつく。

  しかし真実のみを口にして一生を終える人間もまた、居ないんじゃないか?

  人間はそんなに完璧にできあがってはいない。

  誰しも嘘はつく。それでも――

  僕は故意に人を傷つける嘘だけは言わないよう、心がけてきた。

  それが答えだ」


 これ、白ライトの発言だとすれば、あながち嘘でもないよなぁ。

白ライトはミサの心を操ることを拒否しましたからね(それで竜崎が相当驚いたものです。ミサのような人種に対しては、“自分同様に”夜神月も割り切った対応をするだろう……と予想してたんでしょう)。


 ライトの父:夜神総一郎あたりが本気で語りそうな言葉。

「新世界の神」を志した真ライトにとっては嘘でしかない。


 白ライトなら、なんと返事していたでしょうね?

全く同じ言葉を(本心から)返したかも知れませんし、竜崎の真意をもっと考えたかも知れません。

いくら誠実であろうとしても他人と対等ではいられなかった孤独な天才。

自分のそういう側面を自覚していれば、ここで竜崎へ本心を表明したかもしれない。

例えば「確かに僕は嘘をついて生きてきた。でも今は違う」とかね。

でも、そうはならなかった。


L「……そう言うと思ってました」


 予想通りの結果に対する竜崎の失意。

ライトの言葉から嘘を感じたのか。

あるいはライトの人格が変わった(戻った)という確信ゆえか。

竜崎は、自分の本心が全くライトに届かないことを、ここで確認した。


 生まれて初めて遭遇した、対等にぶつかり合える人間を相手に。

もうその余地が失われたことを確認した。

既に察していたことをハッキリ確認した。


L「戻りましょう。ずぶ濡れです」



  ◆失われた友達に対して、せめて自分からは。


 この後、竜崎はライトの足を拭くという一層の奇行に走る。

腐女子サービスとか聖書だとか言われてますが、

竜崎の意図はネットではなかなか論じられません。

私は竜崎の目的を、以下のように推測します。

「友達として、ライトと嘘の無い時間を過ごすこと」だったと。


 そのためには、無意味な時間を過ごすぐらいしか無かった。


 だって目の前の真ライトは、もう友達であって友達ではないし。

互いに第一級の嘘つきですから、意味の有ることを話そうとすれば表と裏が生じて、嘘が混ざってしまう。

真ライトは竜崎を、心理戦と策謀の対敵としか見てないし。


 竜崎は別れを惜しみたかったのです。

友達になれたかもしれない人との別れを。

今も(一方的には)友達かもしれない人との別れを。

ライトと死別すれば、竜崎が友達を得る機会はおそらくもう無い。

友達と過ごせる最後の時間。

それを無為に過ごしたかった。

そも友達とは、

非合理なことをして、無意味な時間を共有するものではないか?

意味の無い嘘をついたり、馬鹿で出鱈目なことを言ったり。

雨中で鐘の音の話をした時から、この試みは始まっていたのでしょう。


L「寂しいですね」

夜神月「え?」

L「もうすぐお別れです」


 真ライトは、寂しいなんてこれっぽっちも思わないんですが。

それでも共有を求めて「寂しいです“ね”」と竜崎は言いました。



  ◆竜崎は真ライトを赦したかもしれない。


 私はここまで「竜崎の友達」イコール「白ライト」みたいに限定してきましたが、

じゃあ真ライトが復活した今、

竜崎の友情の相手は消滅したのか?

真ライトは、竜崎にとって友情やシンパシーの対象外なのか?


 そう考えた時に思い出したのが、足を拭くシーンの「聖書との符号」です。


 私はこれを当初、アニメ制作陣の意図であって竜崎の意図ではないと考えていました。でもひょっとすると、竜崎にも聖書的な意図が有ったかもしれません。


 聖書には、キリストがひざまずき、ユダの足を洗って拭く記述が有るそうで。

ユダの裏切りを(ゆる)したというより、裏切りも含めてユダを肯定したのか?

原典の解釈はここでは避けるとして――

あくまでも本題は竜崎の意図です。

竜崎なら聖書ぐらい知ってて当然ですね。

聖書と符合する行為をしている、って自覚が有っても不思議じゃない。


 でも竜崎が、「キラ」を赦罪するはずが無いですよね。

ライトへの感情はどうあれ、

「キラ」の裁きを一貫して悪と断定していたのが竜崎です。

だからキリストがユダの足を洗った件じゃなくて、「罪人の女がキリストの足を涙で濡らした」とかの別の寓話になぞらえたのかな? という線も考えましたが。


 有りましたよ。竜崎がライトを「赦す」可能性。

友達としてのライトを赦したんじゃないか?

「友達ではなくなった真ライト」を赦したんじゃないか?


 真ライトは、竜崎との関係性を袖にした男ですが、

じゃあ「ライトは竜崎の友情を裏切ったか?」というと、そうではない。

竜崎とライトは、最初から「欺き暴き合う者」同士だったんですから。

合意の上で友情ごっこをしてたんですから。

たまたま芽生えた共感を一方的に捨てたからといって、ライトは裏切り者ではない。


 しかも竜崎は、「ライトが部分記憶喪失になって、そのせいで人格が変わった」という推理をちゃんとやってました。

白ライトは竜崎の友達になれた。

真ライトは竜崎の敵として、一貫して全力だった。

裏切ってはいない。不誠実でもない。

むしろ結果論とはいえフラフラしたのは竜崎の方です。


 だから竜崎の足拭きには、以下のような意味が有ったかも知れません。

「あなたと私は友達ではいられませんでしたが、

 あなたのせいではないので、気に病まないで下さい。

 殺人ノートを忘れている最中に

 あなたがどんな人だったかを、私は憶えています。

 本当のあなたは私の友達でした。

 終わってしまいましたが、それはあなたが悪い訳ではない。

 だから、今でも私はあなたを友達だと思っています。

 あなたがそう思わなくとも」

――と。



  ◆本当の夜神(ライト)


 皆さんは、夜神総一郎の以下の発言を憶えておいででしょうか。


夜神総一郎「キラは悪だ… それは事実だ……

  しかし 最近私は こう思う様にもなっている…

  悪いのは 人を殺せる能力だ。

  そんな能力を持ってしまった人間は不幸だ。

  どんな使い方をしても

  人を殺した上での幸せなど 真の幸せであるはずがない」


 夜神(ライト)は、竜崎とわかり合えるはずの人間だった。

デスノートさえ無ければ。

それはヨツバ編における白ライトが証明しています。

そしてデスノートのせいで、不可能になってしまった。

両者を分けたのは、人を殺せる能力だ。

竜崎はある意味、夜神総一郎と同じ結論に達したと言えます。


 竜崎を殺したことで、ライトは一人になりました。

ライトを信じようとする人は居ましたが、対等ではありませんでした。

ライトを善良と信じる人は居ても、

それは見抜いた訳ではなく、虚像を信じていただけ。


 やがて対等たりえる者としてニアが現れ、メロが現れましたが、

彼らは「キラ」のみを認識しました。

竜崎の生きていた頃は、

彼が「デスノートを知らなかった場合の」本当の夜神月を知る者でした。

竜崎亡き後、

もはやライトは「キラ」でしかあり得なくなってしまいました。

「キラ」こそが本当の夜神月になっていました。


 デスノートの有無以上に、

対等な人の在不在が、その人を定義する。


 デスノートを手にすることと、

対等な隣人を失うことは、同義だから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすく、あらすじも書いてあって丁寧!とか褒めるところは色々ありますが、そんな事よりも考察自体について言いたいと思います。 まず一番心を打たれたのは、 "作中で最も「竜崎が必死でライトに…
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