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信頼

「あった、みんな来てくれ!」

弘子がみんなを呼ぶ。その声にみんなが近寄る。

乃々が森で襲われて以来、彼女のけがもあったがそれでも少しずつ歩を進めていた。

そんな中、彼女を襲った獣についてみんな各自で調べることになっていた。ただ、最終的にはみんな飽きて調べていたのはもとから本とかの類いが好きな弘子だけだったのだが……。

「これなんだけど……」

弘子は一枚の画像を提示する。

「一応、対峙してた乃々とゆうしゃに聞くけどこいつらだよな?」

弘子は目線を画像から二人に移す。

「これよ、私を襲ったの」

「うん、凄く似てるよね」

それを聞き直が口を挟む。

「で、それは何なの?犬……にしては凶暴そうだったし……」

「じゃあ、言うぞ」

その弘子の言葉に皆、固唾を飲む。

火吹犬かすいけん、玄武の国が科学技術を駆使して作り出した兵器。名前の通り火を吹く。しかし、野生として出回りつつあるのはほぼ火を吹かない失敗作である。だって」

「なるほどー。雪さんたちが見たことなかったのも納得ですねー」

関心して頷く。

「でも、それって何の本なの?」

乃々の質問に全員ハッとする。

それがどこまで信用度が高い物なのかが分からないからだ。

「これは俺たちの国のお偉いさんが機密事項として保持していたらしい。しかし、国が滅びる直前に流出した。ほぼ何かしらに削除されてたけど何とか残っていたものを見つけたよ」

……

「つまり?」

ゆうしゃは首を傾けながら弘子に尋ねた。

「そうだなあ、信頼度はかなり高い……はず。何かしらにより削除されてるのがその証拠だろう」

「なるほどね」

乃々が大きく頷く。

「え、な、何が?」

ゆうしゃはいまだに理解できていないようだった。

「俺たちは全世界共通の機関WIS(世界情報保管庫)を通して、本を読んだりしてるんだが……、そんな日本だけじゃなく世界の組織を相手に圧力をかけられる団体、組織、……もしくは国、それはそうとして世界的に見ると日本は優秀な魔導士がたくさんいる。そんな日本をほぼ牛耳っている玄武の国からの圧力なら……なくもない話だ」

「雪さんは少し飛躍しすぎだと思いますが……」

「んん……確かにな。でも、そんな情報を消すメリットを考えるとある程度絞れるだろ」

全員頷くなりなんなり肯定の反応を見せる。

その中で直が口を開く。

「つまり、こんな敵が普通にその辺にいるかもしれないから注意して進みましょう」

「僕も直の意見に賛成。みんなで立ち向かえば勝てると思うし。じゃあ、もう少し休憩したらまた進もう」

リーダーが今後の指針を決めた。

「了解。一仕事終わった後は気持ちが良いぜ」

「お疲れ様でした、弘子さん。雪さんは尊敬しますよ」

「そりゃどうも」

乃々はそわそわしながらチラチラゆうしゃを見ていた。

「ね、ねえゆうしゃ?」

ついに決心したのか乃々が話し掛けながら木陰で休もうとしていたゆうしゃに近付く。

「あ、乃々、どうしたの?」

「あ、あの、ね、この前のこと覚えてる?」

「え、この前?」

「あ、ほら、あの、ゆうしゃが、そのわ、私のこと、守ってくれたじゃない?」

「ああ、あの時ね」

「ゆうしゃ、言ってたよね。もう僕の大切な人が死ぬのは嫌だって」

「う、うん」

「もしかしてむか……」

「はい、休憩終わり。出発するわよ」

乃々が話しかけている中、直は二人の間に手を軽く叩きながら入り込む。

「ちょ、ちょっと何なのよ、いきなり」

「時間厳守よ」

「じ、時間なんて決めてなかったでしょう」

「ちょうど十五分たったわ」

「……わざとよね」

「何のことだかね」

「はあ、まあ、またの機会でいいわ」

乃々は雪さんと弘子の方へ歩いていく。

「ゆうしゃも行くわよ」

「ね、ねえ直。あの事だったら僕もう大丈夫だよ。だからそんなに気にしなくても……」

直は乃々が歩いていくのを確認した後、反転してゆうしゃの眉間をつついた。

「嘘つき」

「え?」

「何年一緒にいると思っているのよ。ゆうしゃのことは何でもお見通しなんだから」

「ゴメン……」

ゆうしゃは胸にある物を掴む。

「じゃ、私は先に戻ってるわ」

「ゴメン……直……………………父さん、母さん」

直に聞こえないようにゆうしゃは呟いた。

----------

乃々が歩いてくる直を睨んでいる。

「さあ、どういうつもりか説明してもらおうかしら?」

「何の話?」

一方の直は堅苦しい微笑を乃々に向ける。

「何故、私の話を遮ったのかしら?」

その言葉に直の微笑から堅苦しさが一掃される。

「のんのんは本当に優しいわね」

斜め上の直の言葉に油断していた乃々の顔がみるみるうちに赤くなる。

「いいいいいきなり、何なのよ?わた、私が優しいなんて」

「だって、あの場は察してくれたんでしょ。例え、察しても優しくないと立ち去らないわよ」

「じ、じゃあ、教えてよ、その事」

「ええ、でもまた今度ね」

再び乃々の顔が険しくなる。

「どうして?」

「もうすぐゆうしゃが戻ってくるからよ。あの子にこの話はまだ早すぎるわ」

乃々は少し疑問を抱いたが今その事について言及することは止めた。

「絶対よ。私は忘れないから」

「言う気がなければ、こんな話しないわよ。私は人間が嫌いだから」

「ぇ……」

「正確には信頼に値しない人間には心を開かないってことかしらね。だから、皆のことはかなり信頼してるのよ」

「……そう、分かったわ。今度、ちゃんと話してよね」

「ええ」

「その直の人間嫌いもゆうしゃの話に関係あったりしてな」

二人の会話を座って雪さんと聞いていた弘子が問う。

「はあ全く、油断できないわね。そうと言えばそうかしらね」

「とにかく、その時は雪さんと弘子さんも忘れちゃダメですよ」

雪さんもついでとばかりに口を挟む。

「ええ、分かっているわ。二人にも言うつもりよ」

…………………………………………………。

「…………………………うん」

心を整理し終えたゆうしゃも皆の元へ歩き出した。

「あ、遅いわよ。ゆうしゃ」

「ゴメン、乃々」

「じゃあ行くわよ、しゅっぱ」

「キャーーーーーーーーー」

何処からともなく女性の叫び声が聞こえた。

「こっち」

直は一目散に駆け出す。

「え、今ので場所が分かるの?」

目を丸くしている乃々にゆうしゃが答える。

「大丈夫だよ、勘が良いのか耳が良いのか分からないけど昔からピンチの時にはすぐに駆けつけてくれたから」

到着してみると女性が襲われていた……のだが。

「何……あれ?」

ゆうしゃが見たのはまさに竜だった。実際問題、見たことはないがあれは竜だと断言できる。

「ゆうしゃ」

直の言葉に自分の仕事を思い出す。

「直と乃々は竜の周りを旋回しながら攻撃をかわして。それで僕が機を見て相手を引き付ける。そのうちに直と乃々は攻撃。弘子は雪さんの護衛」

その言葉に皆頷く。

しかし……

「何なのよ、こいつ」

乃々がでたらめに叫ぶ。

通常魔法も、ましてや必殺魔法も効かなかった。

(乃々も直も魔力では全然負けてないはずなのになんで……)

ゆうしゃが考え込んでいる中、竜は新たな動きを見せた。急に体を後ろに反らし、口を大きく開け始めた。

(嫌な予感がする)

そんな言葉がゆうしゃの心中をよぎった。

ゆうしゃはあまり優秀ではない頭で思考する。

(乃々と直の攻撃は何故か効かない。そして、今の行動。攻撃しようとしている?あ、)

気付いた瞬間、ゆうしゃは叫んだ。

「二人とも一旦そいつから離れろ」

「えっ」

「ゆうしゃ?」

「早く!」

ゆうしゃのあまりの迫力に二人とも竜から少し距離を取った瞬間だった。

けたたましい竜の鳴き声と共に口から辺り一面に炎を撒き散らした。

直と乃々も驚いている。

「あの、ゆうしゃさん」

ふいに、雪さんが声をかけてくる。

「唐辛子を生成していただけませんか?」

「は?」

あまりに唐突で場違いな頼みにゆうしゃは驚いた。

しかし……

「大丈夫です、雪さんを信じてください」

その言葉は妙な力強さがあった。

「分かった」

すぐにゆうしゃは生成を始める。

しかし、運の悪い事に竜がこちらに近づいてくる。

「乃々」

「分かってるわよ」

直と乃々は竜に絶え間なく通常魔法を放つ。

竜の攻撃目標を自分達にするために。

ここにいる全員がある程度は理解していただろう。竜が火属性だったから地属性と火属性の乃々と直の魔法があまり効いていなかったこと。そして、何かを生成しているゆうしゃには打開策があること。

「できた、雪さん」

ゆうしゃはすぐに雪さんに手渡す。

「ありがとうございます、ゆうしゃさん。それでは頂きます」

その唐辛子を雪さんは口に含む。というより、正真正銘生のまま食べていた。

「ごちそうさまでした。では……直さん、乃々さん時間稼ぎありがとうございました。その竜から少し離れてください」

二人が少し距離をおいた瞬間だった。

「必殺魔法{雪砲射出せつほうしゃしゅつ}」

小、中学生に見えても可笑しくはない華奢すぎる雪さんの体から大砲並みの大きさの雪球が放たれ、ものすごいスピードを維持しながら竜に当たった。

今まで、無傷だった竜もこれには一瞬のうちに倒れる。

「すごいよ、雪さん」

振り返ったゆうしゃの目には顔をゆがめた雪さんの姿があった。

「だ、大丈夫?」

ゆうしゃはすぐに雪さんのもとに駆け寄る。

「ハァ……だい、じょうぶ……ですよ」

「で、でも」

「いつも、の……こと……です。だいぶましに……なってきましたし」

「そう……じゃあ良かった」

「あ……あの」

後ろから声をかけられる。

「あ、君はさっきの……大丈夫だった?」

「はい、おかげで助かりました」

「あ、いや、当然のことだから」

「もしよければお礼がしたいのでついてきてください」


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