旅立ち
「う、嘘……。何これ? 血? 父さん? 父さん、父さん! ねえ、返事してよ、ねえ、父さん」
「おーーい、ゆうしゃーーーーーー」
「……え、直?」
「あ、やっと起きた、もー今何時だと思ってるの?」
「……何時でもいいよ」
「またすぐへこむ、私がいるからって言ってるのに。まあいいわ、そんなことより出かけるわよ」
「え?」
時は30世紀初め。世界は深刻な資源不足に陥っており、もともと資源の少ない日本も無論その波に巻き込まれ、人々の生活から徐々に物が無くなっていった。
そんな頃、ごく一部の人間に魔法が使えることが判明。内閣はこの魔法が将来を担うとし、全国に魔法学校を設立。これにより魔法を使えるいわゆる魔導士が増えた。
しかし、優秀な魔導士が急速に力を付け始め、各地で対立。内閣は機能停止し魔導士による時代が始まった。
その結果、日本は3か国に分断され、東北・関東周辺の玄武の国。中部・近畿を中心とした黄龍の国。四国・中国・九州を中心とした白虎の国が互いに戦い始める。
これにより「第一次魔法戦争」の幕が開けた。初めこそ三つ巴の戦いだったが位置的に両国に挟まれている黄龍の国は両側からの圧力に押し負け徐々に衰退していく。そしてついに最後の砦であった大阪もあえなく陥落。これにより黄龍の国はあえなく滅亡した。更に、黄龍の人々は逃げ惑う中、たくさんの人々が殺された。いや、むしろ殺されなかった方が奇跡だと言えるくらいだった。
それは、日本三大魔法学校の一つとしても有名だった大阪の聖魔道学園も例外ではなかった。校舎は全焼、中から出てきた生徒や関係者は外で待ち伏せていた敵にあえなくやられた。
「もう、いい加減どこに行くか教えてよ……」
彼は遊佐 誠。その聖魔道学園の元生徒。
「冒険よ、ぼ・う・け・ん。ゆうしゃもついてくるのよ!」
遊佐 誠ことゆうしゃを引っ張っているのは武隈 直。彼と同じく聖魔道学園の元生徒であり、子供のころからの幼馴染でもある。
「でも、冒険なんて……。また危険な目に遭うかもしれないんだよ」
「大丈夫よ、ゆうしゃのことは私が守るか……」
「ち、違うよ!……僕のせいで、僕がダメなせいで大切な人を危険な目に遭わせたくないんだ、もう」
そんなゆうしゃの真剣な言葉に直は笑顔で振り返る。
「ありがとう、ゆうしゃ。……でも、いつまでもここにはいられないの。私たちの家族、友人、先生みんな殺された。そして、私たちの住んでいた国は滅んだ。いつまでもここにいても見つかって殺されるだけよ、みんなみたいに、……なら見つかる前に動かなきゃね」
「た、確かにそうだけど……。二人なんて危険すぎるよ」
「大丈夫よ。多分、二人じゃないわ」
「え?どういうこと?」
二人が到着したのは聖魔道学園跡地。といっても瓦礫が散乱しており一面に血痕がついている状況だ。あの日から一週間後のことだから当然と言えば当然かもしれないが……。
「ごめんなさい、遅れちゃって。みんな掲示板の張り紙を見てくれたってことで良いのよね?」
その場にすでにいた三人がうなづく。
「え?掲示板?張り紙?」
「そう、瓦礫の中から少しだけ学校で使われていた掲示板がはみ出てたから張り紙を張っておいたのよ。冒険に出たい人は今日この時間にここに来てって」
「そ、そうなんだ」
「というわけで、みんなを誘ったのは私。名前は武隈 直よ。よろしくね」
「ぼ、僕は遊佐 誠です。……迷惑にならないようにが、頑張ります……」
「ゆうしゃはいい子だから仲良くしてあげて、お願いね」
「え、勇者?あ、あなたどんな魔法が使えるっていうのよ!言っとくけど私は相当強いわよ」
聞いていた細身の少女が驚きのあまり問いかける。
「ち、ちが……あの、も、もう直。ちゃんと説明しないと誤解されちゃうよー」
「クスクス、ええ、そうね。一年前くらいかな?先生が遊佐君を噛んでゆうしゃ君って言っちゃったの。それ以来、ゆうしゃって呼んでるのよ」
さっきの少女が安堵の表情を見せる。
「なーんだ、そうだったの。私は是綱 乃々(これつな のの)。聖魔道学園一の地面使いって呼ばれているわ。せいぜい足を引っ張らないでよね」
「まあ、のんのんったら心強いわ」
「のののののんのん?な、何なのよ、えーっと、直さん、その呼び方は!」
「あらあら、かわいい」
「かかかかかかかかかかかかかかかかかかか!」
乃々は顔を真っ赤にして気絶していた。
「じゃあ、雪さんが自己紹介しますね」
そう言ったのはひときわ小さい小学生くらいの身長の女性だった。
「雪さんは密戸 雪です。こう見えても皆さんと同じ魔法学校三年生だったんですよ。体が弱いところがあるのですがよろしくお願いしますね」
魔法学校は制服で見分けがつくように、毎年違うデザインが施されているのだ。
「体が弱いのは大丈夫なんですか?」
「ええ、重い病気というわけではなく、スタミナがないだけですから、雪さんは。だからゆうしゃさん心配はいりませんよ」
「それは良かったです」
雪の笑顔にゆうしゃは胸をなでおろす。
「じゃあ、最後は俺か。俺は素場 弘子。女みたいな名前だが男だ、本が好きでよく生成して読んでるんだ、よろしくな」
日本だけでなくこの世界にある生活必需品は資源が枯渇しているため、ほぼ大半が魔導士が生成したもので、魔法の中でも生成魔法は基礎中の基礎にあたる。
「ところで、これからどうする気?」
気絶から復活した乃々が尋ねる。
「実はまだ決めきれてないのよ。ここにいても危ないから誘ったんだけど……」
直が悩ましげな顔をしながら言った。
「雪さんは誰かリーダーを決めてその人が決めればいいと思いますよ」
「ああ、俺もその意見に賛成だぜ」
「じゃあ、ゆうしゃに決定ね」
「えええええええええええええええええええ!」
ゆうしゃは直の発言に目を丸くしていた。
「し、仕方ないわね。その大役あなたに譲ってあげるわ。感謝しなさいよ」
「よし、きまりだな」
ゆうしゃはうなだれていた。
「ダ、ダメだよ。僕なんか……」
「大丈夫よ、ゆうしゃ。私たちがサポートするから」
「そうですよ。雪さんはゆうしゃさんが適任だと思いますよ」
「……わかった、……やってみるよ」
「あの、一つ言いかしら」
乃々が真っすぐに手をあげる。そこからはとてつもない意志が感じられた。
「あたしの意見としては玄武の国に進みたいの!」
「のんのん、それはどうして?」
「のんのんじゃないわよ。……まあいいわ。だって私たちの家族を友人を殺した、この国を滅ぼしたのはほとんど玄武の国よ。確かに、白虎の国も責めていたけど互角だったもの。実際、黄龍の国の九十パーセントが玄武の国になっている。つまり、敵を討ちたいの」
「ゆうしゃ、どうするの?」
「え、えとその、あ、あまり戦うのは嫌だ……でも、乃々の気持ちもわかるからとりあえず玄武の国の中心部に向かおう……と思う、いいかな?」
「ええ、雪さんはいいと思います」
「俺もだ、良い判断だと思う」
「ゆうしゃ、良く決めたわね。私はゆうしゃに従うわ」
「じゃあ、玄武の国に向かおう」
そう言ったゆうしゃの横顔はほんの少し成長して見えた。
「みんな、本当に僕で良かったの?魔法を使えないのに……」
「ええええええええええええええええええええええええええ?」
直以外の三人が絶望と不安の入り混じる声をあげた。
「あ、あれ?あの、えと、もしかして僕、言ってなかった?」
「こんなゆうしゃだけど皆さんよろしくお願いしますね」
最後まで読んで頂きありがとうございました。初のSF系だったのでどう書くべきなのかとても悩みました。更に、地の文もどのくらいにすべきなのか分かりませんでした。自分の考えた結論としては登場人物の話し言葉を全員別々にして極力避けようとしました。分かりづらかったりしたら是非言ってください。また、感想や評価を頂ければ幸いです。この先も物語は続きますのでもしよければ見てください。