無機質な悲劇
手のひらに走る静脈の川
遡ればどこに辿り着く
見えている世界の全ては
広がっていくのに
知覚できる範囲は狭まっているよう
微細に詳細に意識は向けられて
ヒトゲノムに答えは見つかったのか
自律するいのちは意志を持たないはずなのに
構成体であるわたしたちは我儘だ
ヒールの爪先が痛いだとか
ネクタイの首元が暑いとか
ラッシュの朝が息苦しいとか
ネオンの夜が眩しすぎるとか
それらは切実でありながら
魂の摩耗を繰り返し
われわれは
いつしか摂理から遠く離れてしまう
月の光になにやら足元が騒いで落ち着かず
陽の光に晒されて茫然と無力感に襲われて
気が付けば
取り囲まれてしまっている
無機質と勘違いした悲劇に
形を持たないこころが裂けていく
形のないわたしのコアが抗っている
まだ人を信じていいのかと
まだわたしを信じていいのかと
お読み頂いてありがとうございます。