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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第二節 一章 『BALANCE BREAKER』
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冥土 no Warp

「……カズミ氏。これはいくらなんでもやりすぎかと」

 真っ先に我へと返りそんな事を言ってきたのは、やはりというかシン君でした。

「死ぬかと思いました」

 これはユリアちゃんの、本心からのお言葉です。ちょっと心にザクッと。

「目がチカチカ……ちょっと、痛いです……」

 微妙にリアルモードになってるセンねぇちゃん。刺激が強すぎましたからね~。あんまり明滅しすぎるとそれだけで痙攣を起こしちゃいますから、実はそういう意味でもやばかったのかもしれません。

「私も大概だとは思ってたけど、カズねぇに比べたらまだまだなんだね。もっと精進しないと」

 などと素っ頓狂な事を言ってきたのは、まぁ分かりますよね。マリリンです。というか、ちゃんと自覚してたんだ……。

「まさか俺達も攻撃を受けるとは思わなかったっす……。やっぱマリリンとセンの姉妹なんすね」

 暗黒ボス的な鎧を着て仁王立ちしていたレイ君が、納得した様にそう呟いてくれました。他の皆よりも少し硬直状態が長かったのは、たぶんその鎧のせいでしょう。防御力が大きく上がる代わりに、ちょっと耐性が弱くなっているのかもしれません。仲間のサポートがあればそこまで問題にはなりませんけど、誰も回復してくれないとハッキリその差が出ちゃうようです。

「すまん。俺もちょっとやり過ぎたと思っている」

「……ちょっとですか?」

「かなりやり過ぎた。ごめんなさい」

 シン君の鋭いツッコミに、俺は猛反省致しました。

 その俺の横では、身体のあちこちからぶすぶすと黒い煙をあげているゾンフラちゃんの姿。既に事切れていて、動く兆しなんて全く以てありません。だって明らかにオーバーキルでしたから。

 さてさて。いったい何が起こったかと言いますと。

 簡単に言えば部屋全体を覆い尽くすほどのカミナリが大発生致しました。それにより、ゾンフラちゃんは身体の内部に至るまでその大電流によって焼き尽くされたという訳です。当然、同じ部屋の中にいたマリリン達もそのカミナリ攻撃を受けて、あわや大惨事となる所でした。

 幸いにして、そのカミナリは俺ちゃんが発生させたものなのでダメージは発生せず、強烈なスタン効果を発生させただけに終わります。スタンというか、麻痺というか。兎に角そんな状態異常が、俺が何気なく繰り出した適当必殺技によって発生してしまった様でした。

 じゃあ、いったい何でそんな事になってしまったのかと問われれば、俺ちゃんが色々と忘れていたのが原因です。そう、色々です。一つや二つじゃありません。色々です。

 一つは、当然の事ながらオーバースペックとなっている短剣術のスキルレベルに関係しているものです。スキルレベルで付加されている効果の中に、属性攻撃強化+17というのが入ってるんですよね。ただこれだけじゃこんな事にはなりません。そもそも、属性攻撃がされなければ意味のない数値ですし。

 そして次の一つです。モンスター襲撃事件で狂人鬼さんと戦った際に気が付いた事です。突属性ステータスが高い状態で連続突き攻撃を繰り出すと、パチパチと紫電が発生するんですよね。そういう仕様がある事をすっかり忘れていました。

 更にもう一つ。ササメさんが丹精込めて作ってくれた短剣、白羽懐剣『細桃花・一美』の性能がヤバイという事です。この短剣、攻撃力は全然大した事ないんですけど、その分付加されている性能がやたら凄いんですよね。斬るも良し、突くも良し、属性攻撃しても良しの三拍子。キラーナイフ+13の性能すら越えちゃってます。更に加えて必殺率も結構高いですし、何より軽いんです。何か俺の戦闘スタイルに合わせているようなそんな感じです。一撃のダメージより、手数や属性、必殺率重視の随分と偏った一品です。

 そして余計な追加が一つ。マリリンが使用した加速アイテムの効能も加わってました。最初の突き攻撃を行うまで効果は持続していた様です。しかもその一撃目が右手に持っていた白羽懐剣『細桃花・一美』によるものだったので、そのあまりの鋭い一撃のせいで部屋全体が一瞬凍ってしまうほどの氷属性攻撃が発生してしまった様なのです。つまりその後に連続突きを行って紫電が発生すれば、ダイヤモンドダスト状態になった部屋中の霜を通じて、あっちゃこっちゃにカミナリ様が飛び散りやすくなったと。

 そんな訳で、俺がゾンフラちゃんに対して行った連続突きは、物凄くやばい攻撃となってしまいました。

 一撃目で部屋全体に霜が降りて帯電流電しやすい状況を作り出し、その後の連続突き攻撃で大電流を発生させてしまい部屋中をバリバリと。突属性+と属性攻撃強化+の影響と、たぶんついでにクリティカル扱いで増電しちゃって、部屋中がサンダーボルト状態となってしまいました。

 まるでカミナリ雲の中で盛大な電撃ショーを見ている様な攻撃が繰り広げられた訳です。そんな場所にいて、マリリン達が感電しない訳がありません。

 大電流によって発生した高熱による電撃傷によって、ゾンフラちゃんも体内に大火傷を負って大ダメージを受けたとは思います。そんな事にならなくても、既にゾンフラちゃんはマリリン達の攻撃によって瀕死状態でしたから、軽く一撫でしただけでも死んじゃってた可能性は十分に高いですけど。

 それにしてもオーバーキルしすぎちゃいました。たぶんそんな事は無かったと思いますけど、もしかしたら全快状態のゾンフラちゃんでも一撃死させる事が出来たかも知れません。それぐらい今のゾンフラちゃんは酷い状態でしたし。いはやは、見た目だけでまさに必殺みたいな技でした。

「カズねぇ、ちなみに技の名前は?」

 んなものある訳がないでしょうに。

「え~と……イナズマ、突き?」

「絶対に今考えついた名前っすね。しかも適当っす」

「カズミ氏、もう少し御自身の実力を認識した方が良いのではないでしょうか? 持ち合わせている力とカズミ氏の認識との間に大きなズレが生じている様な気が致します」

 ごもっともです。もっとも、吟遊詩人がレベルアップすること自体、想定出来てませんでしたからね。その辺の仕様をマリリンとセンねぇちゃんがもっと良く教えていてくれれば回避出来たかも知れません。

 ただ、二人も全部を知っている訳じゃありませんからねぇ。あらゆる情報と可能性をすべて俺に話すのはかなり大変だと思いますし。それに知ってはいても忘れちゃっていたら意味がありません。

「ま、まぁこれも俺のロールプレイって事で納得してくれ。サプライズとしては結構良い線をいってただろ?」

「サプライズの枠に全然収まっている様には思いませんけど……」

「とりあえず、ボスさんは倒した事ですし皆さん先に進みませんか? このまま時間が来てログアウトさせられちゃうのはちょっと……」

「あ、そうっすね。ちょっと急ぐっす」

 また保留になりました。なんか保留案件がどんどん溜まっていきます。ツケが溜まっていきます。一括払いにするとしても分割払いにするにしても、結構大変そうだなぁ。

「あっ! 宝箱発見っ!」

 そんな俺のちょっとした悩みを吹き飛ばすかの様なマリリンの一声。その声のした方へと視線を向けると、奥の部屋の方に台座にのった宝箱さんが見えました。うぁ……なんかすんごく罠っぽい様に思ったのは俺だけでしょうか。

 その部屋は、どうやらゾンフラちゃんの蔓によって隠されていた模様です。上から降りてきたマリリン達が入ってきた入口と、下から登ってきた俺達が入ってきた入口とは違う、第三の口。部屋を二分するように作られていた蔓の壁の先に、焼け焦げてボロボロと落ちた蔓山の先にありました。

 もしかしたらただゾンフラちゃんを倒しただけではその部屋は発見できなかったかも知れません。そんな隠し部屋です。

「マリリン、罠があるかもしれません。慎重にいきましょう」

 でもちょっと見た目の怪しさ抜群だったので、ボス部屋の隣にあったからといって流石に突撃するような事だけはありませんでした。

「少し調べてみますね」

「お願いっす、ユリちゃん」

 まずは器用貧乏なユリアちゃんが先行して、その奥の部屋への通路を調べていく。前後衛兼任職なだけでなく、シーフやスカウトが持つような罠発見スキルまでユリアちゃんは持ち合わせています。なんか一度スキル構成を聞いてみたいぐらいユリアちゃんって色々出来るんですよねぇ。

「通路は大丈夫そうですね」

 そう言われて、ゾロゾロと残り5人が通路へと移動する。あまり離れすぎると、もしユリアちゃんの身に何か会った時に助けが間に合いませんですからね。先頭はシン君で、殿はレイ君です。いや、あの……これ、退路断たれてません? トゲトゲしたレイ君の存在が激しく邪魔です。まぁ、前に立たれるよりは良いけど。

「部屋の中は……何か魔方陣が描かれてますね。中央には立たない方が良いかもしれません」

「宝箱は開けても大丈夫そう?」

「罠のキーになっている可能性があるかもしれませんが……残念ながら私には分かりません。宝箱の罠の有無はユダちゃんの役割でしたので」

「どうしましょう? 思い切って開けてみますか?」

「……そうですね。折角ここまで来たのですし、この宝箱を開けて今日の冒険は〆としましょうか」

「ガチャリ♪」

「わーっ!」

「ま、マリリン……いきなり開けないで下さい。心臓に悪いですから」

 いや、本当に。そのタイミングで開けるのはちょっと吃驚です。ほら、レイ君も思わず叫んじゃいましたし。

「敵襲敵襲っす! キングゾンビーが復活したっす!」

 って、叫びの意味が違う!? というかキングゾンビ―って、それ違う奴の名前ですよレイ君。

「このタイミングで復活ですか!? マリリン、宝箱の中身は……」

「すっからかーん」

「思い切り罠だったみたいですね……」

「いえ、もしかしたらキングゾンビフラワーは一定時間で復活するのかもしれません。もしくは根を切り離さなかったので、死亡した事で中毒症状が消え、死亡判定時間後になったので大地から栄養分を補給して復活したのかもしれません」

「その場合、丁度良いタイミングでマリリンが宝箱を開けちゃっただけなんですね」

 いや、どうでも良いけど誰かレイ君を助けに行こうよ。そりゃ狭い入口にレイ君がいるから、ゾンフラちゃんの蔓はこの部屋にはなかなか入ってこれませんし、俺達もどうやって攻撃すれば良いのか分からない状況ですけどね。

「とりあえず、どうする? もうこの部屋には用はなくなったんだろ? 中毒症状の出るプチポはもう全部使ってしまったから、まともに戦うしか突破口はないと思ってくれ」

「どうしましょう? さっきはあの魔プチポがあったからこその勝利でしたから、今の火力ではあれを押し返して入口方へと逃げるというのは結構難しそうですね」

 魔プチポって言われた!? 俺の汗と涙の結晶であるプチポちゃんがっ!?

「ねぇねぇ、この魔方陣ってもしかしたら帰還ワープじゃない? 使ってみようよ」

「そんな都合の良い物とは到底思えないんですけど……」

「時間も時間ですし、私はこの装置を使ってみたいですね」

「カズミ氏、どうします? この中で唯一カズミ氏だけがログアウト時間が異なっていますので、僕達のログアウト時間が来るまでここで粘ったとしたら、カズミ氏だけで最悪あれを相手にしなければならなくなるのですが」

 何で俺に選択肢を委ねてくるんですか、シン君。そりゃこれまでの動向を見る限り、どう考えてもこの中では俺が一番年上っぽいけどさぁ。精神年齢は兎も角としてね。

「死ぬ事には慣れている。だから俺はマリリンとセンねぇちゃんの選択肢に従う」

「飛ぶ!」

「飛びたいです」

「私の意思は先程言いましたね。つまり3分の2以上の同意をえられましたので、この案は可決されました」

「……みたいなのですが、レイさん、どうしましょう?」

「何でも良いから早くするっすーーー! もう持ちこたえられそうにないっすーー!」

 ほんと、誰もレイ君を助けません。特にユリアちゃん、回復はどうしたんですか……。

「あ、言い忘れましたけど、MPもSPも回復アイテムも尽きてますので、もし戦うとなれば私はこのレイピアを振るう事しか出来なくなると思います」

 だそうです。まぁたぶん、マリリンやシン君のアイテム袋をゴソゴソと漁れば、少しぐらいは回復アイテム出てくると思いますけどね。どちらかというと、今のは拒否の姿勢だと思っておきます。

「選択肢はないようですね。では、飛びましょうか」

「じゅう、きゅう、はち……」

「マリリン。カウントを開始するのが早いです。もう少しレイさんの様子を見てからでも……」

「なーな、ろーく、ごーお♪」

 センねぇちゃんもカウントに加わりました。まぁこういう場合、逆にシン君は悠長すぎると思いますけどね。レイ君が死んじゃったら元も子もありませんし。

「よん! さん! に!」

「レイさん。すみませんが合わせて下さい」

「ひーーっ!」

「いち! ぜろーーーっ!!」

 そして俺達の新しい冒険は、全く誰も予期していなかった次のトラブルへと続くのであった。

 ――的なフラグですよね、これ。

 さて、この光の先にはいったい何があるんでしょうね。

 きっと新しい世界が俺達を待っている!


 FIN(勿論、嘘ですよ? ちゃんと続きます)

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