冥土 no High Power Mode
ゾンフラちゃんが泡を吹きながらちょっと死にかけている中――元々ゾンビだから死んでるんだけどね――さて、これからどうしようかな~と思い始めた頃。
「クククククッ……」
あ、誰か笑ってる。そんな笑い方する人っていたかな? カッコ、俺以外に、カッコとじ。
「あ、レイさん」
「……きちゃいましたか。ハイパーモード」
「フハハハハハハハハッ!」
うぉう!? レイ君が悪役みたいに笑ってますよ。もしかして、あまりの恐怖で壊れちゃったのかな? ユリアちゃんも、なんかハイパーモードって言ってたし。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
あ、チェンジまでした。例のモンスター襲撃事件でササメさんから譲り受けた呪われた鎧に着替えちゃいました。久しぶりに見ますけど、ほんと超がつくぐらい禍々しいデザインです。
ササメさん、なんでこんなデザインの鎧を作ったんだろ。何か溜まってたのかな?
「えっと……レイレイどうしちゃったの?」
「あまりの恐怖で理性が吹っ飛んでしまっただけです。ユダちゃんとの馴れ初め話パート2、聞きます?」
パート2あるんだ。理性が吹っ飛んでるって事は、あっち方面にいっちゃうのかなー。
「ん~、今はやめとく」
「ユリリン。と~っても興味があるので、その話は後でじっくり聞かせて下さいね」
「はい。長編ドラマになるので、その時はお茶でもしながらゆっくりお話致しますね」
「恋ばな恋ばな♪」
やっぱみんな女の子ですねー。あのマリリンですら、恋ばなは大好きな模様です。
それはそれとして、この後の展開はどうなっちゃうんでしょうね。レイ君が暴走したのは良いんですけど「喝!」あ、ゾンフラちゃんに挑発した。
でも範囲攻撃が得意なゾンフラちゃんには挑発スキルを使ってもあんまり意味がないって言ってた様な。ゾンフラちゃんは地面に根付いてて攻撃範囲がほぼ固定されちゃっているので、対策としては、その有効範囲外に後衛を配置しておくでしたよね?
って、あれあれ? ゾンフラちゃんの蔓攻撃が全部レイ君へと襲いかかっちゃってます。攻撃範囲内で暢気に会話していた俺達――今気が付きましたよ。なんて無防備だったんだろう――の方には蔓は向かってきません。うーむ、どういう事でしょう。
「どうやら盲目解除の効果で、閉じられていた眼が開いてしまったようですね。本当は後半になって、時々集中攻撃を仕掛ける時に使われる器官なのですが」
目が見える様になった事で、挑発も効くようになったと。その御陰で、ハイパーモードと化したレイ君の本領が発揮されちゃってます。トゲトゲした鎧のせいで、バシバシと叩くゾンフラちゃんの蔓が反撃ダメージを受けて勝手にボロボロになっています。
「今ならプチプチメテオもゆっくり詠唱出来そうだね。いっくよー」
「放っておいてもレイさん一人で倒してしまいそうですが、時間もおしている事ですし、一気に片を付けてしまいましょうか」
「マリリン。メテオを放った後は、あれの用意をお願いしますね。それにユリリン、速度バフ最優先で私とマリリンに補助お願いします」
「はい。分かりました」
マリリンはただいま絶賛詠唱中なので、センねぇちゃんにはオッケーのサインだけ返します。またなんか格好良い必殺技でも考えついたのかな~。ちょっと楽しみです。
「ヒーリング効果時間が終わって中毒症状時間に入った様ですね。大地からの永久バフも、プチポ効果による防御/全耐性アップも消えた筈ですから、攻撃を仕掛けるなら今です」
「では、僕からいきますね」
そう言ったシン君が、ゾンフラちゃんに向けて大きく飛び跳ねて、空中でくるっと一回転。
「やぁぁぁぁぁ!」
そのまま遠心力を利用した一撃を――あ、違う。左右の得物を微妙にタイミングをずらして叩き込んでいるので、二撃です――をゾンフラちゃんの根本に叩き付けました。瞬間、ズズンっという衝撃が伝わってきます。あれ、技名は?
「スターリッシュフローズン!」
そう思っている間に、今度はユリアちゃんの番の様です。
前後衛兼任職であるユリアちゃんの、滅多に見られない必殺技です。その場で描いた五芒星がゆっくりとゾンフラちゃんの方へと向かっていきます。遅れて、その中心へと向けてレイピアの先端を突き入れながらユリアちゃんが加速。
「フロストピアー!」
あ、二段階の技だ。最初のは補助だったんですね。
五芒星を突き抜けたユリアがちゃん、雪化粧をした針の様に細くて鋭いレイピアと共にゾンフラちゃんをザシュッと。ゾンフラちゃんはあの大きさですから鍼を刺されたのとほとんど変わらない気がしましたが、違ったのはその後でした。
ユリアちゃんがレイピアを刺した場所からパキパキパキッと霜が降り、ゾンフラちゃんが凍てついていきます。ほんの1m程度でしたけど、冷たそうな光景が広がりました。植物系は寒さに弱い種類も多くありますけど、ゾンフラちゃんはさてどっちなのでしょうね。
『……全てに等しく滅びを与えんことを』
さてさて、ようやく真打ち登場です。
「いっけぇぇぇぇぇ! プチプチメテオ、流星バージョン!」
我等がマリリンが最後の1フレーズを詠唱し終え、格好良く杖を掲げます。
あれ? そういえばここ地下ですよね? 地下ダンジョンですよね? メテオって空から降ってくるものだから、この場合どうなるんだろう?
それに、メテオって流星って意味だから、流星バージョンだと名前被っちゃってますけど~?
あ、良かった。天井に次元の穴が空いて、そこからヒュンヒュンと流れ星さん達が落ちて来ましたよ。上にあるマイホームが壊れる様な事がなくて良かったです。ところで、あまり派手に地下ダンジョン内を揺らしたら、崩落して生き埋めにされちゃったりしませんか? このゲーム、微妙な所でリアルだからちょっと怖いです。
「うきゃーーっ!」
あ、勇猛果敢にゾンフラちゃんとタイマンしてたレイ君も一緒にマリリンの放ったプチプチメテオの餌食になってます。味方相手にはノーダメージですけど、ノックバックは普通に発生するのでバシバシと吹き飛ばされています。まるでピンポン球みたいでした。
「次は私の番ですね。マリリン!」
ダンジョン内にまさかの流星群が降り終わりすっかりズタボロになったゾンフラちゃんとレイ君達。
「オッケー。たっきゅうどう。キーーーーーーン♪」
自身のしでかした事にすっかり満足していたマリリンが、どこかの誰かさんが使ってた台詞を口にしながら何やらアイテムを取り出して地面に叩き付けました。瞬間、急にPT全員の動きが速くなる。おや、これは以前にリンネちゃんが使っていた移動速度が飛躍的向上するアイテムですね。
そのままマリリンは部屋の端っこまで物凄い速度で走り向かい、そのまま更に壁走りを始めちゃいました。なんか凄い光景です。
「瞬歩」
っと。センねぇちゃんも何やら仕込みをした模様です。名前からして、移動速度アップ系のスキルかな? でも走り始める様な事はなく、センねぇちゃんはその場でポンポンと小刻みに飛んでいるだけでした。
そのセンねぇちゃんの目線が、壁走りを続けてどんどんと速度をあげているマリリンの目線と合わさります。その二人がコクリと頷きあう。
センねぇちゃんがちょっと大きめにジャンプ。ゾンフラちゃんを挟んで、壁走りから天井走りになったマリリン。膝のバネを大きく使って着地したセンねぇちゃん。
若干前のめりになり、そして力強く跳躍しようとした瞬間。
「「チェンジ!」」
予想していた言葉を二人が同時に発生した。
しかしその後に起こった出来事は、全くもって予想していなかった物凄い光景でした。
「秘奥義! 超・瞬天裂破!!」
瞬間的に二人の位置が入れ替わった瞬間。センねぇちゃんが超速度で部屋中を飛び跳ねてゾンフラちゃんを斬り刻んでいきました。先程見たレイ君のピンポン玉なんて目じゃありません。秘奥義という名に相応しいものすんごい攻撃方法でした。
恐らく、マリリンが作り出した高速度に、センねぇちゃんが瞬歩スキルを使用した高速跳躍を組み合わせたのだと思います。以前に見た瞬天絶華という裏奥義もそうですが、チェンジスキルを使用する事により入れ替わった二人の速度を片方に壌土し、爆発的な速度を得る裏技なのでしょう。それを今回は、走力ではなく跳躍力に上乗せしたと。
というか、あの速度で飛び跳ねるのはいったいどうやって……普通は跳んだ先にある床や壁にぶつかってバタンきゅうなんですけど。レイ君みたいに流星群によって弾き飛ばされるなら兎も角として、あの速度でうまく飛び跳ねるのって至難の業だと思うんですけどね~。
そこはゲームの世界だからなのかな? 納得がいきませんけど。
「センねぇ、かっくいー♪」
「ふふふふっ。お姉ちゃんはスペシャルなのです♪」
無事に技を出し終え、ハイタッチを交わすお二人さん。可愛らしい光景ですけど、さっきのあれを見た後だと、素直にそう思う事が出来ませんよ。
あーあー、シン君とユリアちゃんも唖然としています。あ、レイ君がなんか正気に戻ってるっぽい。メテオピンポンの御陰かな?
「じゃ、最後はカズねぇだね。どんな技を見せてくれるのかな~?」
「この際、私達三姉妹の間には隠し事は無しにしましょうね?」
う……なんか二人も色々気が付いているっぽいです。今までは見て見ぬ振りをしてくれてたのかな? どうしましょう……。ここでまた素知らぬ顔をしたら、なんか後が凄く怖い気がします。リアルで暫く無視とかされちゃうかも? そんなのイヤです!
「きょ、拒否権は?」
「ある訳ないじゃん」
「強制執行です。黙秘権も認めません」
うわー。退路がありません。二人のログアウトタイムまでは……げ、まだ十分にある。とてもじゃないけど、そこまで引き延ばすのは無理気です。無理ゲーです。
「ぎ、技力スキルを持ってないから、必殺技は使えないんだが……」
ちなみに技力はTPというらしいです。
「おねぇちゃんの瞬天シリーズも、このゲームの必殺技じゃなくてオリジナル技です」
「私のヒートエンドもオリジナル技だよ~」
「え~っと……何があったか分かんないっすけど、秘密はダメっすよカズミ」
あ、レイ君がいつの間にか正気に戻ってる。ならレイ君が次いってくださいよ。センねぇちゃんのあの技を見た後だと、まるで無かったやる気がマイナス突破しちゃってやりたくない気になっちゃってます。
「カズミ氏、ここはもう諦めて素直に全て曝け出した方が身のためです」
「そうそう。もう何が起きても驚きませんから」
そう言うユリアちゃんとシン君は、むしろ期待するような目を向けてきています。困りましたね。俺ちゃん、そういう目には弱いんです。あ、マリリンとセンねぇちゃんも期待の眼差しで見ている。
「……仕方ない。一応やってみるけど、あんまり期待しないでくれよ?」
フフフン、なんか良い気分です。可愛い子供達からそんな瞳を向けられたら、ついつい応えたくなっちゃうのが俺ちゃんの心情です。ちょっとやる気が出てきちゃいました。
「やったー♪」
「カズミちゃんがいったいどういうオリ技を使ってくれるのか、おねぇちゃんとっても楽しみです♪」
とは言ってみたものの。えっと……どうしよ。必殺技なんてまともに考えたの、随分と昔の事だからな~。まだまだ若かった頃のお話です。どんな技使ってたんだっけ? うーむ、思い出せません。
それなら何か適当な技をでっちあげるか、それともどっかからパクってくるか。
「カズミ氏。早くしないとプチポの中毒効果が切れてしまいます」
急かされました。えーい、なら何でもいいや。とりあえず突きまくって突きまくって突きまくっちゃえ。そういう必殺技もあるしね!
てくてくとゾンフラちゃんの目の前まで歩いていって――まだ加速アイテムの効果続いてるのね。てくてくのつもりがサササッになってしまいました――武器を構えます。右手には白羽懐剣『細桃花・一美』、左手には使い捨ての短剣ちゃん。二刀流で行えば、更にそれらしく見えてくれる事でしょう。
「んじゃ、いっくぞー」
さて。ここでいくつか忘れていた事がありました。でも、もう後の祭りです。もはや手遅れです。しでかしてしまった事にはもう取り返しがつきません。
その必殺技を出し終わった後、全員が固まってしまいました。
俺ちゃんも固まってしまいました。
やばい……やりすぎちゃったよ。これ、どうやって言い訳したら良いんでしょうね。誰か解決策を教えて!




