姪 no Compact Pussycat
のんびりペースで更新です。
ここからは気長にお待ち下さい。
メイドオンラインというVRMMORPGが始まって今日で9日目(俺的には8日目なんだけど、どうやら初日は姪に謀られたようです。
上の姪であるリンちゃんこと鈴音ちゃんと、下の姪であるチーちゃんこと千鶴ちゃんの二人が俺の家に突然に転がり込んできてから11日目となる今日。
3月の終わり。春麗ら真っ盛り。桜が舞い散りそうでまだ舞い散ってくれない今日この頃。
さて、どうやってウナギを手に入れれば良いのかと頭を悩ませながら、二人には内緒でコッソリと秋葉原へと向かう。移動手段はバイクではなく、ちんたらした電車さん。片道だけでも結構な時間が掛かるのだが、リンちゃんとチーちゃんがやって来たあの日から徐々に俺の心を蝕んでいたあの病を治すためには、これは必要な事だった。
これまで出来る限り一人暮らしを貫いていたのに、有無を言わさず同居人が二人も増えたのだ。しかも可愛い姪が二人も。これはもう、昔からずっと俺を悩ませていたあの思いを叶える時が遂にやって来たのだと思うしかないだろう。
本当は、あんな事――リンちゃんのアバターであるマリリンがメイドオンラインの世界で出会った狂人鬼に何度も惨殺され、それを見たチーちゃんの半身であるセンねぇちゃんが泣き崩れた後、大きな悔しさを胸に抱いたままログアウトしていった――があったばかりなので、リンちゃんとチーちゃんを置いて出かける事はとても憚られた。今日は一日ずっと二人の側から離れまいと心に決めたというのに……。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
ちょっと記憶を巻き戻し。
事前に予約をして綿密なプランまで考えていた今日という大切な日を、俺は十時のオヤツをひたすらに強請ってくるチーちゃんという可愛い動物の喉をゴロゴロするまですっかり忘れていた。猫みたいに「うにゃー」って鳴いてまでオヤツを求めてきたチーちゃんを見て、ようやく思い出した。
というかね、チーちゃん。とっても可愛いんだけど、人としての尊厳は忘れちゃダメだよ? それにその猫耳と尻尾はどこで手に入れたんですか……え? 去年の誕生日プレゼントでお母さんから貰った? 姉ちゃん……貴女は娘をいったいどんな道に向かわせようとしているのですか……。
兎も角として、どんなに可愛く振る舞ったとしても、チーちゃんの今日のオヤツはありません。約束通り、お預けです。男に二言はありません。
うにゃうにゃ媚びてきてもダメなものはダメです。肩たたきしてもダーメ。足裏マッサージをしてもダーメ……とっても痛いんですけどっ!? それ逆効果ですよっ!?
「うう……おじさん、なかなか籠絡……出来ない、です……」
「おじさんも頑固だけど、チーちゃんも結構強情だよねー。そんなにオヤツ欲しいなら、お隣のお姉さんとこにいけば良いのに」
「あ……それがあった、です……。すっかり、忘れて……ました……」
――なに? お隣のお姉さん?
「お隣さんって、確か右も左もお婆さんしか住んでなかっと思うんだが」
「そうなの? この前、引っ越しの挨拶に行ったら、左隣の家でお姉さんが出てきたよー? お婆ちゃんと二人暮らしって言ってたんだけど」
おぉっと。俺ですら挨拶してないのに、意外にも律儀な姪っ子ちゃんだ。
「この春から……お仕事の、関係で……越してきた、みたいなの……です……」
「あ、そうなんだ」
「大好きなお婆ちゃんの、面倒も見たくて……前からずっと、卒業後の進路を……こちらに決めていた、みたいなのです……」
「へー」
ほうほう、随分とお婆ちゃん思いの良い子なんですね。リンちゃんもチーちゃんも、そんな風な良い子に育って下さいね。お爺ちゃんお婆ちゃんと言わず、おじさんの事も思ってくれて良いんでゲソよ? ゲソゲソ。
だからね……そろそろ足裏マッサージならぬ拷問マッサージから解放してチーちゃん!! 顔から汗まで噴きだしてきてますよっ!? いーたーいーぞーーーっっ!
「リンねぇも一緒に……このお話を、聞いてた筈……なのですが……」
「んー、覚えてない! で、チーちゃん行く?」
「行く、です! 意地悪な、おじさんは……ぽいぽい、なのです!」
あーーーー、ようやく解放されたーーーー。ぽいぽい捨てられました。
――って、のんびりしてる場合じゃないか。二人がお世話になってるなら、俺もついでに挨拶しとくかな。是が非にでもね!
リンちゃんとチーちゃんの後を追って、トコトコとお隣さんへ。
「ピンポンピンポンピンポンピンポンピーンポーンピーンポーン」
そしたら、チーちゃんが盛大にドアベルを鳴らしていました。え、チーちゃんが!?
ちなみに、実行犯がチーちゃん、ピンポンピンポンと言ってるのはリンちゃんです。
「おい! 何やってる!?」
「ダッシュ!」
「なのです」
「あっ! ちょ……」
ガチャ。
ドアが……空いて……しまいましたよ……。
「ちょっと! いったい何ですか!?」
そして、家の中からとってもお冠なお嬢さんが出てきましたよ。リンちゃんチーちゃんから見たらお姉さんだけど、俺から見たらお嬢さん。これが一応は顔見知りなお婆ちゃんの方ならまだ良かったのに……最悪っぽい第一印象を初めて会うお隣の年頃お嬢さんに与えてしまいましたよ。
「してやったり……なのです」
「むっふっふっ」
ちょっとオヤツを抜きにしただけなのに……盛大なお返しをチーちゃんにされてしまいました。しかも確信犯ですね。このいけない悪戯に、俺はどう対処すれば良いんでしょう。
単純にただ怒るのは御法度なのは分かります。一方的に怒るだけなのは論外。ダメな事をただダメと言うのもいけません。チーちゃんやリンちゃんより俺の方が当然体格が大きく力もあり、なおかつ俺の方は男性なので、本人がそう思っていなくても軽く叱っただけでかなりの重圧抑圧が発生してしまいます。悪い事は悪い事なんだけどねぇ……対処方法を間違うと、最悪嫌われるだけで何の効果も発生しないという事にもなりかねない。それどころか、盛大にすねられた結果、悪の道に進んでしまう可能性すら!?
オヤツが原因で、うちの娘はヤンちゃんになった挙げ句、家出してしまいました……というのだけは勘弁ね! ああ、どうしようねぇ……。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
その後の記憶はちょっと苦いものとなっていますので、記憶を早送り。
弁解も弁明も上手くいかず、それどころかお隣のお嬢さんには小さな子供に罪をなすりつけようとしているダメダメな大人として見られ始める始末。途中からまだまだ元気なお婆ちゃんまで話に加わり説教タイム。おぅ……俺、この年になってなんで怒られてるんだろ。とちょっと困り果ててる所で、ようやくリンちゃんとチーちゃんが何食わぬ顔でこんにちは。
そのままちょこっと一緒にお隣さん宅にお邪魔しまして。どうしてそうなったのか別室にてお婆ちゃんに熟熟と説明し続けて小一時間。勿論、二人きりで。お嬢さんとが良かったなー。あ、顔に出ちゃったみたいです。追加の叱責が!
ようやくお婆ちゃんも俺がお隣さんである事に気がついたらしく、まぁそういう事があったのですかと納得してくれました。っていうか、俺の事は忘れていたのですか、お婆ちゃん。
そのままお昼御飯を御馳走になりかけた所で、忘れかけていた今日のお出かけの用事を俺は思い出してしまい。
お婆ちゃんにその大切な用事の内容と理由をお話ししまして、夕方まで姪の二人を預かって頂けませんか、と。恥ずかしながら、お隣さんに甘える事に致しました。
お隣さん宅を出る際にリンちゃんとチーちゃんに声を掛けると、予定通りにオヤツをゲットしたチーちゃんが幸せそうにパクパク食べながら俺の事を無視!? この家に住んでるお嬢さんのお膝元でとてもリラックスしてるリンちゃんに「いってらっしゃーい」と見送られるまま、俺はお嬢さんの手料理(お昼ごっはーん)に未練を残しつつ単身でお出かけ致しました。なんかとっても敗北感が。
秋葉原に到着して早々にメイドさん達からの歓迎の挨拶を貰った後、目的地へと直行する。年々様変わりしていくこの街は、ちょっと数年顔を見せないだけで迷路の形がガラッと変わってしまいます。いやね、別に道や建物の場所は変わらないんですけどね、店の種類や見た目が激変するから初めて来る街みたいに思えちゃうんですよ。
闇市みたいだったのが電気街になり、電気街がメイド街になり。メイドにメイドガイが混じり始めたり、乙女ロードに対抗して漢ロードが出来てみたりと、方向性を間違ってしまった時期もちらほらと。
せめて間違えるならバニー街とかになってくれないかなーっ、と思いながら心惹かれる数多のお店を横目に、とある喫茶店に入る。中に入ってすぐに猫耳尻尾の店員さんがまず俺を出迎えてくれて、ほんわり心が癒されました。やっぱ本物に限るよね。ニャーゴ。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「1名だ。この店で人と待ち合わせしてるんだが、それまで寛がせてくれ」
「ご予約のカズミ様ですね。どうぞこちらに」
偽物の店員さんに案内されて、ほっと一息。その店員さん――メイド姿に猫耳尻尾です――に、本物の店員さんへの貢ぎ物をたまに頼みながら至福の時を過ごす。やっぱ猫ちゃんは本物に限りますね。
あ、この店は超癒し系の猫カフェです。店員である猫さん達とニャーニャーお喋りしあったり、すりすりとスキンシップ出来ちゃう神空間です。猫耳尻尾姿のフリフリメイドさん達はオマケね。他のお客さん達はそちらがメインのようですけど。ラブケチャップ? そんなのいらねぇからもっとマタタビよこしな!
……あと、この辺でウナギって手に入りません? え、ウナギパイなら向かいのお店で売ってますって? いえいえ、私が欲しいのは本物なんですけど……ああ、やっぱり知りませんか。
うーむ、どうするかなー。用事を済ませて家に帰ると晩ご飯まで時間ないのにー。家の近くにウナギ料理出してくれるお店ってあったかなー。検索検索っと。あ、めっちゃ物珍しそうに皆さんが見てらっしゃる。未だに携帯使ってるの、やっぱ超時代遅れなんだねー。
「えっと……どうも、お待たせしてしまって申し訳ありません。カズミさん、で宜しいでしょうか?」
マタタビ効果ですっかり骨抜きにした猫ちゃん達を侍らす事、約1時間。予定の時刻よりも20分ほど遅れて先方がご到着。その手には目的の物が。よしよし、ちゃんと持ってきてくれたようだな。
その後は色々な書類にサインしたり、注意事項等の説明を受けたり、そして最後には代金をキャッシュ(札束!)で払い、目的のものを俺は手に入れる。うーむ、今月の出費が恐ろしい事になってますね。下手したら1Mこえてるかも。まぁそのうち半分以上は新型VR機器スリフィディア3台の立て替え費用だけどね。
でも……姉ちゃんとまだ連絡つかないんだよなー。あの人、今どこで何してるんだろぅ。
さて、目的のものも手に入った事だし、家に帰るかな。
何だかズシッと重たい身体を引きずりながら、これまたズシッと重たいお荷物を手に店を出ようとすると、偽物店員さん達に止められました。ん、何だ? ……って、本物店員さん達が俺の身体と荷物の上にしがみついていらっしゃる!? マタタビあげすぎたか。
あれ、そもそもマタタビなんてこの店では扱っていないって? ならなんで……。どうやら偽物店員さんの一人が、お小遣い稼ぎでコッソリ持ち込んで売りさばいていたようです。そういやマタタビだけ即金扱いだったね。知る人ぞ知る極秘メニューだったんだ。
とりあえず本物の店員さんである猫さん達を猫メイドさん達が引っぺがしていきます。何だかとっても他のお客さん達から羨ましそうな妬まし気な視線が向けられてますけど、気にしちゃいけません。え、役得? とってもラブリーな猫さん達と引き離されているというのに、なんで役得なのですか。
さーて、今度こそ本当に帰ると致しましょうか。その前に寄る所はあるけど、この街を比べれば家から近い場所だし、駅からの帰り道にあるから手間なんてほとんど掛かりません。
コッソリ聞き出していたお隣さん宅の電話番号を携帯電話に入力して発信。トゥルルルルル。お嬢さんは兎も角、お婆ちゃんは前々時代の人なので、家電が鳴っている筈です。ガチャ。あ、出た出た。っと、お嬢さんの方だ。
おおよその帰宅時刻を告げて、ガチャッと電話をきられる。少し世間話をしようと思ったのにー。あちらさんにはそんな意思はないようです。ちぇ。
え~っと……駅はどっちの方角だったかな。やば、道を覚えていない。とりあえず、人の流れにそって向か……両方向共に流れが凄いです。そりゃそうか。
すみませーん、駅ってどっちですか? もう一度お店に入って道を尋ねました。
ちなみに、このお店を指定してきたのは取引を行った先方のご趣味です。俺が指定した訳じゃありませんよ?
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場エクセレンツ!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「やっほー。おっひさー。リンちゃんだよー」
チー「チーちゃんなのです。覚えていてくれましたかー?」
リン「いや、チーちゃん。覚えてるって。前回と日付的には同じなんだから」
チー「あ、そうでしたね。今話も4月1日のままでしたね」
リン「むしろ、前回の第49話最後より時間は巻き戻っちゃってるし」
チー「そうなると、ここにいる私達はいつの私達なのでしょうか?」
リン「さぁ、いつなんだろうね~。少なくとも今日なのは確かだよね」
チー「不思議不思議の吃驚トリックなのです」
リン「ま、そんな事はおいといて。それより、おじさんがなんか怪しい店に……」
チー「怪しいというか、大人な香りがするお店に入ってますね」
リン「外からだと普通の喫茶店に見えるんだけどなー」
チー「中に入っても、一応は普通の喫茶店ですよ?」
リン「なのに店員さんがコスプレしてたり、メニューがなんかおかしかったり」
チー「食べ物を扱っているのに、動物さんも何故かいらっしゃってるのです」
リン「チーちゃん、こんな店見た事ある?」
チー「見た事ないのです。お母さんに連れてって貰った事もないのです」
リン「だよねー。なんなんだろ、このお店」
チー「とりあえず、私達も入ってみます?」
リン「お小遣い持ってないよ、チーちゃん」
チー「そういえば私も金穴だったのです。おじさんがお小遣いくれないから」
リン「チーちゃんのお小遣いは全部オヤツに消えちゃうんだよねー」
チー「そう言うリンねぇのお小遣いは何に使ってるんですか?」
リン「ん~、なんだろ。私、普段何にお小遣い使ってたっけ?」
チー「私に聞かれても……」
リン「あ、思い出した! 普段全然使わないから、貯金してたんだ!」
チー「え! リンねぇが、貯金!?」
リン「む……チーちゃん、なんでそんなに驚いてるの?」
チー「だって、ゲームの中だとリンねぇのお金使いは凄く荒いですし……」
リン「なんかしんないけど、お金持ってると使いたくなるんだよねー」
チー「なのに、現実ではチマチマと貯金にせいをだしてるのです? 本当に?」
リン「本当だよー。お小遣いは貰う前に全部お母さん貯金して貰ってるし」
チー「……」
リン「あれ? どしたの、チーちゃん」
チー「お母さんに……お願いしてるのですか?」
リン「うん、そうだよ?」
チー「あのお母さんに、お金の管理を全て委ねているのですか?」
リン「うん、そうだけど?」
チー「リンねぇ、自分の貯金通帳を見たことあります?」
リン「ううん、ないよ」
チー「……」
リン「?」
チー「ご愁傷様なのです、リンねぇ」
リン「なんだろ……なんか凄く不安になってきたんだけど……」
チー「問題のお母さんは行方不明中なのです。なので確認も出来ないのです」
リン「ま、別に良いかな。減るもんじゃないし」
チー「減っちゃいますよ!? しかもベリベリ減りまくりですよ!?」
リン「チーちゃん。お母さんを信じようよ」
チー「無理なのです」
リン「あ、即答……」
チー「おじさんからは、ちゃんとお小遣い貰いましょうね、リンねぇ」
リン「うん。でも、おじさんお小遣いくれるのかな?」
チー「私達が色仕掛けして迫れば、きっと一発なのです」
リン「無理だと思うけど……いや、なんかちょっと否定出来ないかも?」
チー「おじさんは誰でもイチコロなのです」
リン「真偽は兎も角として、そろそろ今日も終わりだね」
チー「あ、もうそんな時間なのですか。時間が経つのは早いのです」
リン「でも今までに比べたら、かなりゆっくりとしたペースだけどねー」
チー「次に会えるのはいつになるんでしょうか」
リン「それが楽しみなんじゃん。いつ出会えるかもしれない私達、ああ!」
チー「それでは皆様、またお会い致しましょうなのです」
リン「スルーされた。それじゃ、ばいばーい!」
チー「うにゃー」
リン「あ、また猫化した……」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




