Excitement Music --興響曲--
逆手に短剣を持ち替え、地面を這うような姿勢で突き向かう。BGMはパーカッションに切り替え、高速ドラムを鳴らす。
バスドラム、フロアタム、スネア、トム、ハイハット、クラッシュシンバル、ライドシンバルを基本とし、物理的な問題が存在しないため他の楽器も混ぜ合わせて打ち鳴らす。チャイナシンバル、カウベル、タンブリン、ウッドブロック、ロートタム。スティック同士を打つ音も合わせる。たった1音しか鳴らす事が出来なくとも、同時に慣らす必要がなければ問題ない。目まぐるしく音源を変えながら派手な戦闘BGMを演出する。先程までとは異なる演出を行う。
足首を斬り払いつつ駆け抜け、鋭角に反転し脹ら脛を斬り裂く。斬撃を繰り出した瞬間に斬撃音を鳴らすのも忘れない。意識を俺へと向けたためだろう、死神の剛腕が顔面目掛けて振り上げられる。
上半身を後ろに反らしつつその腕をキラーナイフで上に撃ち弾く。刃を水平に構え、鋭く突く。瞬時に真っ直ぐ引き戻し、少しずらしてまた突く。引き戻し、位置を変えまた突く。三段突き。効果音を鳴らすタイミングにも意識を向けないといけないため、瞬足三段突きとはいかない。
時計回りに身体を捻ると同時に敵の腕を躱し、回転力を利用してキラーナイフを振り降ろす。ギャリギャリという不快な音を綺麗な斬撃音で掻き消し、跳躍音と共に横へと振るわれた腕が空のみを斬る音を演出する。後転倒立と当時に爪先で顎を蹴り上げ、浮き上がった身体が落ちてくる前にその胴を撃ち抜く。フルブレイクショット。刺突の瞬間にシュゥンという音を鳴らし、吹き飛んだ後にバリケードへと衝突した瞬間に爆砕の音を鳴らす。
超光速へと至る加速音と共に疾走し、崩壊したバリケードへと突っ込む。崩れ落ちてくる家具は鋭い音と共に斬り飛ばし、抜けた先でまだ尻餅をついていた狂人鬼の眉間に膝蹴りが入る。ドラゴンニー。咄嗟の事だったので効果音なし。
足を掴まれる前に空中で前転し、そのまま地面を転がり一回転。試し斬りの短剣を地面へと突き立て、キラーナイフの先端を地面すれすれに払う。発火を確認。そのまま目の前の何もない空間へと振るい、炎を纏う斬閃を生み出す。否。炎を纏っただけで風刃は生まれない。実験失敗。炎を失った刃を狂人鬼の首元へと振り降ろす。今度は風刃を纏った刃が生み出された。組み合わせは無理という事か。
狂人鬼が五指を開き前へと向ける。親指と人差し指と中指の間から虚ろな瞳が見える。一瞬、エネルギー破でも放つのかという妙な思考が過ぎるが、五指は何も発生させずそのまま俺を掴まんと迫り来る。左に側転し回避。
今度は試し斬りの短剣の先端を地面すれすれに払う。刃が発熱し赤く彩る。発火はしない。そのまま斬り上げ、風刃が発生するか確認する。何も発生せず、赤く染まった刃が空のみを切る。斬り返し、振り降ろす。やはり風刃は発生しない。
短剣を持ち替え、今度は右手で試し斬りの短剣を振るう。前腕、肘、上腕の順に斬り裂くが、追加効果の風刃は発生しない。その事から、斬撃を放った際に特殊な効果が発生するのは武器の差によるものだと推測。試し斬りの短剣が灼熱した事と、少し前はキラーナイフも灼熱しかしなかった事から、スキル熟練度も関係していると思われる。ならば関係するのは斬属性+値あたりか。
詳細の確認はとりあえず置いておき、今は目の前に集中する。
右に左にと振るわれる狂人鬼の腕を躱しつつ、タイミングを見計らいその身へと斬撃を叩き込む。だが単時間辺りの攻撃回数は激減。高速ビートで巧みに鳴らし続けるパーカッションドラムに、斬撃を放つ度にそれを演出する効果音を鳴らす。その手間の掛かる行為の影響で目に見えて戦闘速度が落ちてしまう。
「……なんか、さっきまでとは違って少し燃えてくるな」
「まぁ、さっきまでのに比べれば見やすくなったよな。なんか音もハッキリ聞こえるようになったし」
「早送り再生マジ勘弁」
しかし確実にその効果は出ている。BGMスキル熟練度がうなぎ登りになっているのがその証拠か。代わりに短剣術スキル熟練度は伸び悩んでいるが。だが狂人鬼の注意がそれてNPCが虐殺されるよりかは遙かにいい。
試し斬りの短剣を鞘へと戻し、大上段からキラーナイフを斬り降ろす。刀どころか並の剣の長さすらない短剣の刃を届かせるために間合い深く踏み込んでの一撃。更に踏み込み、攻撃を躱すと同時に背後へと斬り抜ける。振り返りつつまたキラーナイフを振り降ろす。しかし既にその場に狂人鬼の姿はなく、気配を察して左に跳躍。一瞬後を人体すら易々と斬るという巫山戯た手套が通り過ぎる。
バックステップで距離を取り、目測でその離れた距離を測る。少し遠い。斜め左に駆け距離を最適長へと縮める。左足を前に伸ばして滑らせ、上半身を後ろに引く。キラーナイフの刃は空へと向ける。先端に左手をそえ、加速。渾身の力で突き技を放つ。ストライクストリーク。
「何やら面白い事になっているようね」
技を放った後の大きな隙を更なる踏み込みで相殺し、右へと抜ける。振り向き、右に斬り薙ぐ。ステップを踏みつつ敵の腕を撃ち払い、そのまま踊るように斬撃を撃ち込んだ後、再び鋭い突きをその胴へと叩き込む。オーバーラジェーション。
BGMスキル熟練度が50を越え、追加補正が発生。遂に待ち望んだ補正が現れる。音源が一つ増える。だが一つだけでは足りない。もっとだ。もっと必要だ。
この敵を殺すには殺意や憎悪だけでは足りない。殺す事を楽しむ事が出来ない俺には、殺意や憎悪はまるで力にはならない。
俺の可愛い姪の心を傷つけたこの愚かなる敵の命を奪うには、殺意や憎悪はまるで役に立たない。必要な力は集まらない。
敵を斬る刃、短剣術。いくら育てようとも未だその域に到達する兆しは見えず。
敵を引き付ける力、BGM。更なる被害を抑えるためには、より成長させる必要がある。
未だ不明な点が多い錬金術。熟練度補正『集中』は選択したスキルの成長効率を上げる特殊効果がある事は判明している。反面、選択していないスキルの成長効率は落ちた。
ただその3つのスキルで事を成すには、まだ見ぬ力を解放する以外には手立てはない。そしてその要は短剣術にはない。ただ力を欲しただけでは何も成す事は出来ない。NPCは救えない。
要はBGM。その先にある錬金術。
力には溺れず。技に溺れず。その両方を得るため、心を鬼にして憎悪を消す。
2音同時に鳴らし静かな旋律を奏でる。こちらを睨む狂人鬼と一定の距離を保ったままゆっくりと円上を歩む。それまでの戦闘音を過去へと置き去りにし、その新たなる旋律を以て次なる戦闘を予感させる。
時折に、鈴の音。2音の旋律と鈴の音で狂人鬼の注意が俺へと引き付けられる。ゆっくりと周囲を旋回する俺へと引き付けられる。しかし音はまだ弱いため引き付けすぎはしない。プレイヤーを攻撃しようか、NPCを攻撃しようか。それとも目の前の俺を攻撃しようか迷わせるギリギリのライン。
徐々に歩みに緩急を付けて身体を揺らす。歩む速度も徐々に速くする。流れる旋律も徐々に速くする。
野次馬プレイヤーの増加、2音旋律、錬金術補正の効果によってBGMスキル熟練度の上昇速度が更に上がる。だがまだ遅い。まだ足りない。
「おや、これはこれは。珍しい御方がおられる。貴女も来たのですね」
「そりゃ来るわよ。私の子飼いを呼んだのはあなたでしょう? 見逃すと後悔すると言われれば当然親である私にまで話が伝わってくるでしょうに」
鞘に収めていた試し斬りの短剣を引き抜く。音が反響し、この場にいる者全員にそれを知らせる。キラーナイフを持つ右手を横に伸ばし、攻撃の動作に入る。
徐々に円を縮めていく。歩みは既に疾走と化し、残像を生む。狂人鬼がその俺へと向けて適当に腕を振るうが、既にその時には俺はそこにいない。
縮まった距離に比例させて円を縮める。狂人鬼の背に右手のキラーナイフの斬撃を叩き込む。疾走は続け、狂人鬼の前から左手の試し斬りの短剣を斬り上げる。身体を旋回させ右腕にキラーナイフを走らせ、次の瞬間には背後から試し斬りの短剣を斬り入れる。そしてまた右の一撃。左で払い、右で斬り裂き、左で薙ぎ、右で突き、左で斬る。狂人鬼の周囲を疾走し、残像を生み出しながら縦横無尽に斬り刻んでいく。肢曲・無月散水。
キラーナイフを地面に擦れさせ発火させる。跳躍する力を乗せた試し斬りの短剣を下から顎に向けて斬り上げ狂人鬼の上半身を浮かす。その胴へと燃えるキラーナイフの刃を横薙ぎに斬り払う。追撃で心臓の位置にキラーナイフを突き入れる。瞬間、爆音を演出。ライジングノヴァ。
反動で離れた距離を縮め、逆手に持った短剣を逆袈裟に斬り入れる。旋回し2連撃。マスカレイド・エッジエンド。砕けた爪が少し残る五指が振るわれるが受けずに躱す。右に回り込み鋭く斬り込む。斬り上げ、斬り降ろす。斬り薙ぎ、斬り払う。流刀の舞・二閃。短剣を重ね合わせ深く踏み込み突く。双突き・断罪。
屋上にプレイヤーが溢れ始める。バリケードの向こう側にもNPCに混じってプレイヤーの姿が現れ始める。BGMスキル熟練度の上がりは上場。だがそれではまだ全然足りない。
2音旋律と効果音による敵の引き付けも、いつかはその効果が薄れる可能性が高い。その時までに次の段階まで熟練度をあげなければならない。次は75か、それとも100か。そして更にその次も必要になる。だが、それをするにはこの大通りの舞台は狭すぎる。この熟練度上昇速度では遅すぎる。
キラーナイフを鼻筋に叩き入れる。狂人鬼の頭部が若干揺れる。斬り返し、その揺れる後頭部を柄頭で殴打。手が痺れる程の堅い手応えを感じるが、狂人鬼は何事もなかったかのようにこちらへと振り返る。斜め上から狂爪が大きく振り降ろされる。すぐさま地面を蹴りバックステップで躱す。地面を狂人鬼の腕が突き抜く。引き抜かれると同時に大通りに敷き詰められていた岩タイルの一つが持ち上がり、小さな歓声があがる。ボコっという音を鳴らしてまで演出する必要はなかったか。
まだ死体の残る壊れたバリケードへと向けて疾走する。その俺の背に投げ飛ばされた岩タイルが迫るが、間一髪で横に跳んで躱す。遅れてバリケードの残骸に岩タイルが衝突。派手に家具を壊し、顔を覗かせていた野次馬プレイヤー達を驚かせる。
「やべ、こっち来る!?」
狂人鬼がまた腕を地面に突き立てる。しかしその場に俺はいない。まさか、と思っているとそのまさかが起こった。突き立てた腕をゆっくりと持ち上げたると、そこにはまた地面から剥ぎ取られた岩タイルの姿。
その攻撃方法を学習しやがった狂人鬼が、再び岩タイルを俺へと向けて投擲する。恐ろしい速度で向かってくる岩弾を俺は当然躱す。岩タイルは再び崩れたバリケードの一端へとぶつかり、盛大に家具の花火をあげた。
「逃げるぞ! やっぱ下は危ねぇ!」
飛び散る家具の成れの果て。木片の中でやばそうな大きさのものだけを選んで短剣で斬って捨てる。その俺の眼前に狂人鬼の姿が映し出される。咄嗟に身体を捻り攻撃を躱す。続けて繰り出された攻撃を撃ち弾き、返す刃で邪魔な家具を斬り飛ばす。それでも対処しきれなかった家具の破片は左右にステップして躱す。
瞳の中でまた狂人鬼の腕が地面を貫き岩タイルを持ち上げる。その岩タイルの上を死したNPCがズルリと滑り落ちる。しかし右手の袖が岩タイルの端に引っかかり、胸から下を失い軽くなっている身体が半分浮く。そしてそのまま、至近距離からの投擲攻撃が放たれた。
跳躍し、躱す。岩タイルが眼前を通り過ぎ、背後の壁へとぶちあたる。遅れて肉がぶつかる音。その鈍い音は流石に増幅反響させず、岩タイルの衝突音のみ演出する。
「きゃっ!? 押さないでよ! 危ないでしょ!?」
着地し、疾走し、斬り裂き、駆け抜ける。半転し、バリケードの残骸が散乱する左へと移動。再び狂人鬼へと向けて加速。7つの斬撃を加えた後にバックステップで下がる。
その俺を追って狂人鬼が前へと出てくる。薙ぎ払われた即死攻撃を、右に小さく後ろに下がる事で回避する。続く攻撃は短剣で撃ち払い、その隙にまた一歩下がる。俺を追ってまた狂人鬼が一歩前へと進む。無造作に出された足が鏡の欠片を踏み割る。当然、その音も演出しておいた。
曲調は緊張を思わせる音色。変わらずに高速度で打ち鳴らし続けるパーカッションの音色にもう1音ほど旋律を加えて、俺が劣勢にある事をしらしめる。
岩タイルの投擲攻撃は流石にやばい。俺自身に向けられるのも怖いが、それ以上に被害が大きすぎる。NPC達がいる反対側のバリケードへと向けて投げられると、洒落にならない被害が出るだろう。BGMスキルの集敵効果が薄まると更にやばい。
折角、注意を引き付ける事が出来たというのに。
被害無視、弾数ほぼ無限の遠距離攻撃なんて反則だろ。
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リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場スペシャル!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「どこまで続くんだろ、この戦闘。第41話でーす」
チー「今回は必殺技、少し少なめですね」
リン「うん。それでも10個だけどねー」
チー「ここまでの合計だと、90個になります」
リン「あれ? そういえば前回、必殺技数って言ったっけ?」
チー「あ、そういえばそうですね。前回は16回なのです。蹴り技ばかりですけど」
リン「その蹴り技にも効果音が欲しかったよねー」
チー「です。効果音が付いた事で、戦闘がなんか凄く派手になってますね」
リン「BGMは高速ビートのパーカッション!」
チー「パーカッションだけ、というのはちょっと寂しいですけど……」
リン「でもだんだんと燃えてくるよ♪」
チー「手に汗握る攻防という奴ですね♪」
リン「あー、なんであの場に私がいないんだろー。いたらもっと燃やすのにー」
チー「えと……リンねぇ。本当に燃やしちゃだめです」
リン「プチプチメテオ!」
チー「そんな事したら、辺り一帯が灰燼と帰しちゃいます!」
リン「そういえばこの魔法、プチプチなのに大きなクレーターが出来る程なんだよね」
チー「隕石魔法スキルの一つでしたよね?」
リン「うん。チュークエで選べるスキルの中にあったから、取っちゃった♪」
チー「まだ低レベルなのに、凄い威力の魔法なのです」
リン「きっと隠しスキルだよ♪ しかも後半で手に入るやつ♪」
チー「カズミちゃんの吟遊詩人もそうですが、特典版には危ないのが入ってますよね」
リン「まー、あれだけの職業とスキルがズラッと並べられてるからねー」
チー「こっそり入ってても、なかなか見つけられるものではありませんね」
リン「私は直感で選んだんだけど、カズねぇはどうだったのかな?」
チー「リンねぇは当たりを引きましたが、カズミちゃんは……」
リン「ハズレくじだよね。私がカズねぇの運使っちゃったかな?」
チー「それ、私達にとっては不幸にもなってるんですけど……」
リン「あー、そか。そのせいでカズねぇと一緒に遊べなくなったんだよね」
チー「遊ぼうと思えば遊べるんですけどね」
リン「やっぱこれからはずっとカズねぇと一緒に遊ぼっか」
チー「ですです。カズミちゃんが嫌といっても決して離さないです♪」
リン「む……チーちゃん、ベッタリ宣言?」
チー「今回の一件で、カズミちゃんと何だか凄く近づけた気がしますです♪」
リン「あー、いいな~。私ももっとカズねぇとお近づきになりたい!」
チー「まずはその辺りの計画から練ります?」
リン「うん! 練る練る! コネコネ練っちゃう!」
チー「了解なのです♪ 三姉妹の頭脳担当にお任せあれなのです♪」
リン「あ、チーちゃんはそれ取るんだ。なら、カズねぇが知識担当?」
チー「どう考えても知識じゃないですよね……リアルだと圧倒的年上ですけど」
リン「あ、チーちゃんそれ禁句」
チー「あ! ……ごめんなさいです」
リン「ま、私達にとったら圧倒的にって事で。みんなそれで宜しく!」
チー「これ以上ボロを出さないように、今日はこれでお終いにしましょうです」
リン「うん、そうだね。じゃ、そういう事だから、みんなバイバーイ」
チー「このあとがき劇場はノンリアルであり、実際のリアルとは関係がありません」
リン「さっきの言葉、信じちゃダメだよー」
チー「それではさよならなのです。またの御来読をお願いします♪」
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