メイド regret
真っ先に殺されたレイ君は、まるで問題なかった。
「訳が分からないっす……」
その後に殺されたマリリンとセンねぇちゃんも、ちょっと苦笑いを浮かべているだけでそこまで心配するような状況には見えなかった。
「大丈夫か、マリリン」
「うん……」
マリリンは俺の声にしっかり反応し、しかも攻撃の意志を示したぐらいなので、これがゲーム上で起こった出来事だという事をちゃんと認識しているように思える。
「センねぇちゃんも、無理せず俺に身体を預けてくれていい。ほら、お茶だ」
「ありがとう、カズミちゃん」
センねぇちゃんも、巻き添えの一撃でサクッと殺された事で心の傷を負うような事はなかった。だが精神が少し摩耗しているのは一見するだけで分かった。今はベンチの上に座り、俺に身体を預けさせている。恐らくここにいる者達の中でセンねぇちゃんが一番年齢が低い。細心の注意を払いながら、人肌に触れさせる事で安心させる。
だがその次に殺されたユリアちゃんはかなり心配だ。
「ユリさん、もう一杯いりますか?」
「いえ、大丈夫です。もう落ち着きました。ありがとう、シン」
と思っていたのだが、以前に本気モードのケルベロン君に丸かじりされて捕食されるという経験があったためか、時間が経つにつれてユリアちゃんも次第に落ち着いていった。意外と芯が強い娘なのかもしれない。
いや、その考えは早計か。暫くは注意して見ておこう。
「シン君も疲れただろう? 俺の隣が空いてるから座ると良い」
「えっと……僕の事は気にしないで下さい」
「そういう訳にはいかない」
「あ……し、失礼します」
腕を軽く引っ張りベンチへと引きずり込む。俺の横に座らせる。逃げないようにその手は握ったままにしておく。男の子にしてはちょっと柔らかい手だな。こんな事を言ったら怒られるかな?
俺と一緒に串刺しにされたシン君は、先に俺がPT念話チャットで死に戻り宣告をしていた事と、最後のその瞬間に俺が軽い声音で言葉を掛けた事が功を奏したのか、表面上は全く問題は見受けられなかった。
いや、違うか。彼は男の子だ。あの理不尽な状況下で怒りを覚えない訳がない。しかし周りに弱った女の子達がいるのだ。彼は今、頑張っている。その怒りを表面に出さず、内へと抑えている。その熱のせいで少なからず顔を赤く染めている。
――そう思っておく事にする。そう思っておかなければならない問題が今、俺達の前にあるのだから。
「ユダちゃんは、本当に強制ログアウトしたのか?」
この場にいる全員が落ち着いてきたのを見計らって、俺はその問題を切り出す。
あの後、一人残されたユダちゃんは、当然の事ながらあの狂人鬼に襲われた。
「……はい。あまりにも強い精神的ショックを受けた場合、機械が強制的にこの世界との接続を切断し、自動的にメンタルケアモードへと入ります」
だが、それはただ殺されるというものではなく、あまりにも酷い仕打ちを一方的に受け続けた結果、死亡判定が下される前に機械によって強制ログアウトさせられるというものだった。
何故、彼女だけがまるで実験動物を扱うかのような仕打ちを受けたのか。
俺が死亡判定を受け、復活地点に飛ばされてすぐにユダちゃんの悲痛な叫びがPT念話チャットを通して全員に伝えられた。その悲鳴は途切れることなく数分に渡って続く。
彼女の身にいったい何が起こっていたのかは先に死に戻りした俺達には分からない。ただ尋常ではない悲鳴だった。
思えば、あの狂人鬼の行動は途中からどこか不自然であったように俺は思い始めていた。最初に突然の急襲でレイ君を屠り、その後マリリンとセンねぇちゃんを殺した時まではまだ普通だった。
しかしユリアちゃんに攻撃を加えた時からは少し違っていたように思える。あの一撃目。例えユリアちゃんがそのタイミングで運良く腰を抜かして後ろに倒れたとしても、それまでの攻撃を思い返せば、そんな事で致命傷が避けられるような生易しい攻撃速度ではなかった筈だ。振るわれた腕の速度は居合い斬りの如く一瞬。
まるでそれは予めどの程度のダメージを与えればユリアちゃんが死ぬのかを試していたように思えてならない。
俺とシン君を同時に刺し貫いた攻撃にしても不自然な点がある。それは、貫いた場所が決して致命傷にはならない場所だった事だ。心臓のある胸でもなく、その近くの重要な臓器がある場所でもなく。腰骨のある中央付近でもなく。しかし攻撃力と防御力に絶対的な差があったと思われる俺とシン君は、その一撃を受けてHPを全て失い死亡判定を受けた。
そう考えると、レイ君が首をはねられても死亡判定を受けるまで多少の時間を要した理由も少なからず推測できる。要はゲームだ。数値上の問題だ。HPと防御力に絶対の性能を持たせている盾役のレイ君だからこそ、確実な死亡判定を受けるまでに若干のタイムラグが生じたという事になる。
だがそれが却って狂人鬼の興味を引いた可能性も否定できない。
実験。生と死の境を探る狂喜じみた遊び。
若干の抵抗を見せた俺という邪魔者もいなくなり、最後に一人残されたユダちゃんがその被検体に選ばれてしまったという一つの仮定が、俺の中に生まれた。
俺が抵抗を見せなければ……。
「フレンドリストにも未接続の表記がされてるから間違いないよ、カズねぇ」
マリリンの声が俺を現実に引き戻す。
うん、少しナーバスになりすぎたね。思考を切り替えないと。
「それは俺も確認している。しかし、大丈夫なのか?」
ユダちゃんの事は当然心配だけど、今はまず目の前にいるこの子達を心配してあげないとね。特に、俺にとっては一緒に暮らしている姪の二人、幼いと分かっているマリリンとセンねぇちゃんを特に気遣ってあげなければならない。俺の最優先事項だ。
「一応、夢の中での事という認識に近い形に処理する事で、ゲーム内で起きた恐怖体験は朧気にさせる事が出来るみたいです。ほら、よくみんな怖い夢を見たといっても、その事は別に誰もトラウマになったりしませんよね? そういうのと同じ感じにぼやかせてしまう事が出来るみたいです。あまり多用する訳にはいかないみたいですけどね」
そう言うシン君だが、あまり大丈夫だとは思っていないようだった。
あくまでそれは事前にネットに飛び交っている情報であり、それが本当だと証明した者はいない。いくら現実に近い認識を持てるVR世界とはいえ、どのゲームでもどの仮想空間でも出来る限りユーザーがそういう状況に陥らないように各社共に努力しているからだ。トラウマになるほどの恐怖状況を作ってしまっては、最悪会社が潰されかねない程のリスクを負う事になる。害あるものとして認定され、国によって排除される。
故に、シン君もその情報には半信半疑なためまるで安心していない。
至極当然の考えだ。少なくとも年齢が分かっている姪二人よりも人生経験値が圧倒的に多い俺自身も、そういう予備知識は持ち合わせてはいても、実際にそれを経験した訳でもなく、そういう事態が実際にどこかで起こったがメンタルケアモードが発動したため救われたという情報を聞いた事もないため、俺もその情報を完全には信用していなかった。
ただ、既にそういう事態がユダちゃんの身に起こってしまった今となっては、それが事実であって欲しいと俺達は信じるしかない。
俺の腕に体重を預けているセンねぇちゃんの手が俺の手をギュッと握ってくる。小さな手が、少し力強く俺の手を握る。俺も握り返す。レベル差による筋力差であっさり負けました。痛いよセンねぇちゃん。
「あ、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ」
「うー……おねぇちゃんばっかりずるい! 私もカズねぇに甘えるー!」
「おいおい」
「おっぱいふかふか~」
「んっ……って、顔を埋めるな!」
うわ、感じちゃったよ!? 現実には存在しない筈のふくよかな胸で感じるって、快感というか怖気が走るぐらい気持ち悪ぃ! なにこれ、やべぇ。鳥肌が。
「あ、私もカズミちゃんのお胸、触りたいですー」
「ちょっ!?」
マリリンを引きはがして必死に胸をガード。女性の気持ちがなんとなく理解出来てしまった瞬間でした。理解したくないよ。
しかし二人とは圧倒的なレベル差があるため、抵抗虚しく俺の身体は二人の玩具になりました。うん、少し元気が戻ってきたみたいだな。俺の犠牲で二人が元気になってくれるなら安い代償だ。……心の中では滝のように涙を流していたけど。俺、おとこ――。
「うん、リベンジしよう」
一通り弄くって満足したのか、マリリンが拳をぐっと握って宣言する。
「ユダちゃんの弔い合戦しよう」
「いや、死んでないっす。ユダちゃんはただ落ちただけっすよ。自分でログアウトした筈っす」
ああ、そういう可能性もそういえばあったか。別にこの世界ではログアウトするのは難しくない。望めばすぐにログアウト出来る。但し、勿論その代償としてキャラは一時的にこの世界に残るし、すぐには絶対に復帰できないという制限もつく。
ログアウトすると自動的に現実世界で約1時間の睡眠モードへと移行する。この世界では3倍の3時間。しかも再度ログインするためには一度起床する必要があり、その後再び最低1時間の睡眠モードを経由した上でログインする事になる。
つまり、一度ログアウトすると現実世界で約2時間、この世界の時間軸で言うと最低約6時間後でないと復帰する事が出来ない。故に、ログアウトを使用した逃走テクニックはこの世界ではあまり現実的な手段ではない。
「すみません。私はユダちゃんが心配なので一足先にログアウトしますね。同じタイミングで目を覚ます事が出来るかどうかは分かりませんが、可能性はありますので」
「あ、そうだね。ならユリさん、僕も一緒に落ちるよ」
「いえ、シンはこのまま残って下さい。いくらシンが早く目を覚ましても、そもそも住んでる家が違いますから真夜中に家を抜け出して私の家に来られても応対出来るとは限りませんし。それならば普通に残りの時間はこの世界で過ごして、改めて朝になったら電話を下さい。それで大丈夫です」
「そっか……そうだよね。ああ、何で昨日帰っちゃったんだろ。こんな事ならもう2、3日ユリさんちに泊まっておけば良かったな」
色々個人情報が出てきます。勿論、俺は出来る限り聞き流してますけどね。ユリちゃんユダちゃんは同じ家に住んでる姉妹である可能性が高い。ユダちゃんはたぶん年下。シン君は従兄弟って所かな? メモメモ……あ、聞き流せなかった。ごめんなさい。
「ユリちゃん、ユダちゃんを宜しく頼むっす」
「はい、頼まれました。でもレイもちゃんと明日、ユダちゃんに顔を見せてあげて下さいね」
「分かってるっす。菓子折持って駆けつけるっす」
いや、ご両親に挨拶する訳じゃないんだから、そういうのはいらないような。君達のような年齢ではまだ早いんじゃないんですかー? そういう年齢ですよね? って、マリリンを基準に考えたらいけないか。ならいっそこのまま一気に結婚まで……。
「カズミ氏、何を考えてるんですか?」
「いや、何も?」
やば。ちょっと声が上擦っちゃった。バレバレっす。穴があったら入りたいっす。レイ君の語尾が移っちゃったっす。修正するっす。修正するにゃ。修正しすぎちゃったにゃー。
「あえて言えば、猫が飼いたいなーっと」
「猫が好きなんですか? 僕の家にも猫が三匹いますけど」
「是非、俺の友達になってください!」
「僕じゃなくて猫が目当て!? カズミ氏の中では目の前にいる僕よりもまだ会った事のない猫の方が良いんですか!?」
「当たり前だ」
「サラッと即答で肯定された!?」
早速フレンド登録願いを送信。あ、即行拒否された。
「僕の中で急上昇中だったカズミ氏の株が一気に暴落してしまいました」
「まぁ、猫じゃないシン君に価値なんてないからな。別に悲しくもない」
「僕は凄く悲しいんですけどっ!」
人生、猫さえいれば幸せだ。でも一人暮らしだった俺は猫を幸せにする自信が持てなかったので猫を飼っていません。つまり不幸せでした。
でもマリリンとセンねぇちゃんが俺の家に来てくれたから、これから俺は幸せになれる。猫を飼うぞー。エイプリルフールにでも飼ってきて、嘘とか吐いて二人を驚かせるにゃー。そして幸せになるにゃー。
……おじさんのにゃー語尾うざいな。自分で言っててちょっと幻滅。こういう語尾はマリリンかセンねぇちゃんにリアルで言って貰おう。そうだ、我が家の家訓として設定しちゃおう。そうしよう。
「……なんだろ? なんか寒気がする」
「マリリンも? 私もなんだかちょっと寒気が……」
「大丈夫っすか? 風邪でも引いたんじゃないっすか?」
「レイさん、ここはゲームの世界ですから風邪なんて引きませんよ」
「いえ、引くっすよ? メイドシリーズにはバッドステータスの一つに完全ランダムで一週間ぐらい続く風邪という嫌がらせのような状態異常があるっす。あれはちょっと泣けるっす」
「そんなのあったんだ……知らなかった」
そうかそうか。マリリンとセンねぇちゃんは風邪という状態異常にかかってしまったのか。このタイミングでそんな不幸に見舞われるなんて可哀想に。
え? 俺が原因? ごめんなさい。可愛い姪に妄想しすぎました。俺ちゃん反省。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場スーパー!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「あ~今日も~第23話が来た~♪ あ~今日も~第23話がきたよ~♪」
チー「リンねぇ、何か良い事でもありました♪?」
リン「そういうチーちゃんこそ、何か良い事でもあったの~♪?」
チー「ふかふかでした♪」
リン「うん♪ フカフカだったよね~、カズねぇ♪」
チー「でもちょっとプラチナむかつく♪」
リン「うん♪ 私もかなりむかつく♪ 私達のよりおっきすぎ♪」
チー「私もいつかあんな風になりたいな~」
リン「だよねー。でもなんか現状から察するに、その未来が想像出来ない……」
チー「そんな事ないです! まだまだリンねぇは発育途中です!」
リン「うん、そうだよねー。背がちょっと?小さいのも早生まれだからだよねー」
チー「ですです。私の背がちょっと?小さいのも、早生まれだからです!」
リン「私達は!」
チー「まだ発育途中!」
リン「絶対に気にしてないんだからね!」
チー「ですです! 気にしてなんていないです!」
リン「……」
チー「……」
リン「うん、ちょっとスッキリ♪」
チー「たまにはこうして叫ばないと、内にため込んでしまいますからね」
リン「というかさ。なんでカズねぇってあんなに大きいの?」
チー「おかしいですよねー。初めの設定では小さくした筈なのに」
リン「だよねー。三姉妹設定にするために、私達と同じ大きさにしたのにー」
チー「やっぱり不正はダメだったとみるべきですね」
リン「でも女の子には出来たよね」
チー「ですね。女の子にだけには出来ちゃいましたね」
リン「顔もかなり綺麗になったよねー。髪も伸びちゃったし」
チー「出る所は出ちゃいましたし、引っ込む所は引っ込んじゃいましたし」
リン「チーちゃん、その辺り弄ってないよね?」
チー「はい。そういう所はまったく弄っていないです。素のままです」
リン「もしかしてカズねぇが自分で調整したのかな?」
チー「そういう事は言ってませんでしたけど……」
リン「寝付いたらいきなり世界に放り出されたって言ってたよねー」
チー「私達がログイン手続きとかキャラ作成とかしちゃったせいでしょうか?」
リン「でも女の子になった以外、他は全部有効になってないんだよね」
チー「どうしてでしょう?」
リン「どうしてなんだろ?」
チー「もしかして、カズミちゃんが私達に隠し事してるのでしょうか?」
リン「うーん、どうだろ。確かにカズねぇは私達に色々隠してそうだけど」
チー「カズミちゃんは大人ですから、隠し事の十や二十は普通ありますし」
リン「え~と……それ、ちょっと多くない?」
チー「そうですか? 普通だと思いますけど……」
リン「一つずつ暴いていっちゃえ♪」
チー「……ジョーカーだけは引かないようにお願いしますね、リンねぇ」
リン「ジョーカー? 例えば?」
チー「ほにゃらら趣味とか……ほにゃらら奪われちゃうとか……」
リン「ほにゃららって何だろ」
チー「リンねぇにはまだ早いです」
リン「私に早ければ、チーちゃんの方がもっと早くない!?」
チー「……あ、リンねぇ。そろそろ終わりが近いみたいですよ。早く締めないと」
リン「露骨に話をそらそうとしてる……。チーちゃんが悪の道に走り始めた……」
チー「そういう訳なので、本日もそろそろお開きなのです。では、御機嫌ようです」
リン「なんか釈然としないけど、時間なら仕方ないかな。みんなバイバーイ」
チー「さよならなのですー」
リン「また来てねー♪」
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