幼女 no tear
ご免なさい。無理でした。
――なんて事は言いません。無事、完勝。一度の攻撃も受ける事なく、蟻くんABCを倒す事に俺は成功致しました。素材を剥ぎ取る時間が貰えたのは、最後に倒した蟻くんCだけだったけど。俺としては満足なので、無問題!
「えっと……どうやら、カズミさんの評価を改めなければならないみたいですね……」
素の言葉遣いが出てるよ、ササメさん。俺の事は、カズミ殿じゃなかったんですか? 声色も普通に女性っぽいです。でも、その和装姿でそういう普通の女の子っぽい話し方をしてくれるササメさんカッコ美人カッコとじもいいなー。また惚れ直しちゃう。あっと、自重自重。オンライン世界に恋愛感情を持ち込んではいけない。それは一種のタブーだ。
「カズミお姉さん……何から何まで規格外だったんだね……」
失礼な。俺は普通に普通で普通な存在なんだけどな。ザ・ベスト普通マンってぐらいに普通な筈なんだけど? ……今まで誰も同意してくれた事はないけど。
「一つ、聞いても宜しいでしょうか?」
言葉が戻ってしまいました、ササメさん。ちょっと残念。……でも、そっちの方が俺としては嬉しいけど。こっちの方が俺好みのササメさんです。
「うむ、構わぬよ。何でも聞いてくれたまえ」
「なんでエッヘン口調!?」
こういう時、リンネちゃんの存在は有難い。
突っ込みって大切だよね。人生の潤いだよね。ね? ね?
「カズミ殿のあの攻撃回数と回避能力を見る限り、カズミ殿はオートバトルアシスト機能を使用していないのですね。グランドアントのような強敵を相手にする場合は、やはりカズミ殿のようにアシスト機能なしでの戦闘技術を身につけておいた方が良いのでしょうか?」
「ん? なんだ、そのオートバトルアシスト機能って」
あれ……なんだか二人の視線がまた驚いて固まってる。俺、何かまた変な事を言っちゃったのかな?
「初期装備のままグランドアントに向かっていく姿を見た時から、もしやとは思っていましたが……」
「私、カズミお姉さんが規格外な理由、何か分かった気がする……。カズミお姉さん、説明書みないでゲーム始めちゃうタイプの人でしょ?」
いえいえ、俺はちゃんと先に説明書を読んでからゲームで遊ぶタイプですよ。たぶん。
「……何となく、俺の方も理解した。実は、これには訳があってな……」
「縛りプレイ? マゾプレイ?」
「違うわ! あー、その……なんだ。一緒にプレイしている姉?と妹?にな。一切の情報を遮断された状態でこの世界に放り込まれてだな。んで、色々あって、そのまま放置された」
「あ、サゾプレイされてたんだ」
いや、だから違うって。……いや、あれ。違わなくない? うーん、どっちだろ。
「なるほど……御姉妹の方から酷い扱いを受けてるのですね、カズミ殿は。すると、その男口調プレイも御姉妹が原因で?」
「だから俺は男だって……」
て言っても、信じてくれないんだろうなぁ。俺もちょっと忘れかけてたし。いっそササメさんを見習って、俺も女性口調縛りプレイをしてみる? う……過去のトラウマが!?
「カズミ殿の根が深い事は分かりました。もしお悩みであれば、不肖、若輩ではありますが私で良ければカズミ殿の悩み相談におのり致しますが?」
「うーん……目下、そんな事よりも俺の今の悩みは、どうすればササメさんに俺が男だって信じてもらえるかって事なんだがな」
「私の悩みは、どうやったらお母さんがその口調を止めてくれるかって事なだけでどねー。というか、縛り全部やめない?」
「……」
あ、ササメさんが心の中でちょっと泣いてるっぽい。あーあー、男キャラになれさえすれば、って言ってぼやいてるよ。というかササメさん、ネナベキャラしたかったんだ?
その気持ち、凄く分かります。あ、分かっちゃダメ?
「話が脱線しましたが」あ、立ち直った「カズミ殿は」でも殿付けはやめないんだ。リンネちゃん意見オール却下なんだ「オートバトルアシスト機能を知らないのですね」
「うん、知らない」
「では、そのメリットも当然知らないのでしょうが、カズミ殿の場合に限ってはそれほどメリットはありませんので、別にそのまま知らなくても大丈夫なのでしょう」
え? 教えてくれないの!?
じーーーーー。期待の眼差しでササメさんを見ちゃいます。教えて教えて。
あ、顔を背けた。ちょっと頬が赤くなってるから、勘違いされちゃった。
「カズミお姉さん、オートバトルアシスト機能をオンにするとね、全ての攻撃がほぼ最大威力になるんだよ? それにいくら重たい武器を持っても、ちゃんと刃筋を通して攻撃してくれたり、変な形で攻撃しちゃって逆にダメージを受けるような事もないの。命中率や回避率も自動計算されて、ちゃんとその確率通りに攻撃が当たってくれるし。武器の扱いどころか身体さばきすらまともに出来ない人でも、ちゃんと身体が動いてくれるんだから。例えモンスターさんの外見に恐怖しちゃってもね」
おおう、そうなのか。ていうか、VR以前のゲームって、基本的にプレイヤーのリアル能力なんて反映される訳ないから、それが当たり前の光景なんだよな。それがVRゲームになって、思いっきりプレイヤーのリアル能力(主に精神面だけど)が関わってくる事になっちゃったから……そのままの仕様だと、そりゃぁほとんど誰もまともにバトル出来なくなるわな。
思いっきりその辺の事までシステムに組み込んでおかないと、みんな立ちゆかなくなってしまう。それがこのメイドオンラインでは、オートバトルアシスト機能として盛り込まれているという訳か。うむ、理解出来ました。
「その分だと、重たい鎧を着ても普通に動けるようになるアシスト機能とかもありそうだな」
「うん……あれ、私もちょっとオフにして試してみたけど、洒落にならなかったよ。たぶん私の筋力値が足りなかったからだと思うけど、全然動けなかった。まるで鎧の形をした牢獄に閉じ込められた気分だったよ?」
たぶん、リンネちゃんが言ってるのは、買ってから着てみたんじゃなくて、お店で試着してみた際の事なのだろう。
「あれはリンちゃんが悪いのですよ? 勝手に私の作った装備を着てしまうから」
「うん……重量軽減アシストがあって良かったって、本気であの時は思ったよ。修理する時に毎回あの重さに悩まされ続けないといけないのかなって。本気で転職を考えちゃった」
試着は試着でも、ササメさんメイキングでしたか。
それは兎も角、俺も今のうちにその機能を知る事が出来て良かった。いくら永遠のレベル1でも、たまには全身鎧で身を包んで街中を闊歩したい時もある。(あるのか!?)
「それにしても、リンネちゃんの『よく分かるオートバトルアシスト機能のメリット話』を聞く分だと、逆にデメリットも結構ありそうだよな。例えば、敵の攻撃命中率が高い場合はまったく回避出来ないって事だろ? なら敵の必殺技もくらい放題じゃないか」
「その辺りは、条件さえ整えばいつでも発動できる各種必殺技やスキルを駆使して何とかするしかないでしょうね」
「ああっと。そういえば、それがあったな。二人の戦闘を見ていた時も、たまにエフェクト付きの攻撃が攻撃リズム無視して飛び交ってた。あれはやっぱり任意だったのか」
「最初の頃は勝手に動いちゃう身体に慣れなくて、ほとんどうまくいかなかったよね。心と身体を一時的に切り離して技の発動とタイミングの見極めの方に意識向けないといけないから、今でもたまに頭がゴッチャになっちゃう」
「元々リンネちゃんの頭の中はゴッチャだからな。整理が大変そうだ」
「ゴッチャじゃないよ! 私の頭の中はいつも綺麗サッパリだよ!?」
うん、それだと頭の中からっぽって事になっちゃうけどね。リンネちゃん気がついてますかー?
「他にも、武器ごとに設定されている攻撃間隔でしか攻撃出来ないというデメリットもあります。勿論、スキル補正で間隔を短くする事は可能ですが……いくら攻撃間隔の短い短剣系の武器や軽量級の武器でも、カズミ殿のような攻撃回数は論外ですね。たまに二十連撃とか軽く超えていませんでしたか?」
めっちゃ超えてます。平均連続攻撃回数十五回以上になるように意識してたりもします。手数が多いのって、とっても好きだし♪ 威力は無視無視。デメリットめっちゃ大きそうだけど。
「まぁ、それでもあのグランドアントを倒すのに随分と時間が掛かってしまうのは、オートバトルアシスト機能ありでは当たり前の一撃一撃が最大ダメージになるメリット性がなく、一撃ごとの威力が非常に軽くなってしまうのが原因なのでしょうね」
「やっぱり、全段1ダメージなのかな? でも頻繁にクリティカルヒットのエフェクトが出てたような~?」
そこは追求しないで! 俺は1ダメージじゃないと思っていたいんだから!
「その辺りに関してもカズミ殿には色々と聞きたい事はあるのですが……今はこれ以上聞くと、今後のメイドライフに影響が出てきそうですね」
「そうだねー。今でも私のメイドライフ価値観が暫くめちゃくちゃになっちゃう気がしてるのに、これ以上の事を聞くのはもうちょっと頭の整理が出来てからの方が良いかな? カズミお姉さん、つつくとまだまだ規格外情報が出てきそうだし。しかも尽きなさそう」
メイドライフ……なんだか良い響き♪
んで、二人とも正解! 俺の職業レベルがまだ1だとか、職業があの吟遊詩人だとかばらしたら、それこそ再起不能になっちゃうかもしれないな。
しかし……あの蟻くんって、実はそれなりに強いレベルの敵さんだったのか。なのに吟遊詩人レベル1の俺が倒せたのは、オートバトルアシスト機能を使っていなかったからなのかもしれないな。それに蟻くんは完全物理型だから、よくよく見れば蟻くんの攻撃を回避するのは結構難しくない。他の敵さん達だと、俺には倒すの絶対に無理だし……。
薄々感づいてはいたけど、蟻くんと俺の相性は恐ろしく良かったんだな。うん、納得。
「今後の参考になりました。私達も暇を見つけてはオートバトルアシスト機能を使用しない戦闘技術を身につけようと思います」
「え!? 私も!?」
「一蓮托生です」
「奴隷に拒否する権利などない」
「私はお母さんの奴隷じゃないよ!?」
「それは知ってる。俺の奴隷なんだろ?」
「それも違うよ! 絶対に絶対に違うよ! 間違っても私、奴隷なんて職業にはならないよ!?」
あ、このゲームには奴隷っていう職業もあるんだ。メイドクオリティ、どこまで俺を驚かしてくれるんだ。雌奴隷って買えちゃいますか?
「……ところで、二人とも」
「……」
「……はい。何でしょうか?」
……うん。これは不可抗力だよな。でも、絶対に俺が悪い。心の声をPT念話チャットで垂れ流しちゃった俺が120%の確率で悪い。リンネちゃんのスーパーな突っ込みもきませんでしたよ、しくしく。
――という方の理由ではなくて。これはやっぱり不可抗力だよなー、うん。
「ごめんなさい」
「え?」
「はい?」
気がつくのが遅れました。もう手遅れです。
「え……? ええっ!?」
「!?」
はい。蟻くんの団体さん、ごあんなーい。
BGMスキル、暴発してました。しかも二人には聞こえない俺だけ聞こえるモードで。これ、二人が受けてる状態異常、衰弱レベル3の特殊効果で暴発させられてた訳じゃないよね?
と言ってる間に、蟻くん包囲網が完成。もう逃げられません。
「カズミお姉さんの……バカーーーーー!!」
二人の運の悪さに、合掌。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場スーパー!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「うーん、スッキリ! 第17話だよーん♪」
チー「リンねぇ、そのスッキリはリベンジ出来たからです?」
リン「勿論それもあるけどね。名前被りのあの子が衰弱しまくってるのが本命♪」
チー「性格が悪いです……」
リン「というのはウソウソ。他人が苦しんでるのを見て私が喜ぶ訳ないじゃん」
チー「ほ……それを聞いて安心しました」
リン「逆に私はなんだかモヤッと。チーちゃん、私の事そういう目で見てるんだ……」
チー「心当たりがないとは言わせませんよ?」
リン「む……今日のチーちゃんは何だかちょっと強気だ」
チー「私も日々成長してるのです」
リン「でもレベルはまた1に逆戻りだけどね。それ、何度目の転職?」
チー「7度目ですね。下位上級職になるのはこれで3度目です」
リン「チーちゃんの目指してる所、ほんと遠いよねー。面倒じゃない?」
チー「後で泣きを見るよりは、こうして今の内に苦労する方が楽ですから」
リン「まー、そうだね。上位職になった後で下位職に戻るの苦痛だよね」
チー「ステータスの底上げも早い段階で出来ますし」
リン「私みたいに、とりあえずレベルばっかり上げてると先がないからねぇ」
チー「ただ、スタートダッシュにはリンねぇスタイルの方が正解です」
リン「うん。とりあえず強くないと先に進めないし」
チー「御陰でリンねぇには色々とお世話になっています」
リン「徐々にチーちゃんのレベルアップ速度も速くなってるよね」
チー「この分だと、当初の予定よりもかなり早く中位職になれそうです♪」
リン「その時には、今度は私がチーちゃんのお世話になるね♪」
チー「はい♪」
リン「さーて、今日は何を狩ろうかなー」
チー「あ、リンねぇ。まだ狩り場所決めてないなら、蟻さん狩りません?」
リン「ん? それって街の北にいるグランドアントの事?」
チー「いえ。その先の森にいる、もうワンランク強い蟻さんです」
リン「へー。森の中にも蟻さんいるんだ。強いの?」
チー「PT狩り推奨ですね」
リン「あ、なら一昨日知り合ったの仲良し4人組でも呼んでみるー?」
チー「そうですね。私は今レベル1なので、バランスの良いPTで狩りたいです」
リン「おっけー。じゃちょっと電話してみるー」
チー「お願いします♪」
リン「もしもし? 私マリリン。今、あなたの事を呪っているの」
チー「リンねぇ、怖い!」
リン「……じゃ、そういう事で。先行って待ってるねー」
チー「あ、OKが出たんですね」
リン「うん。という訳で、行こうか」
チー「はい。今日は袖を引っ張らないで下さいね」
リン「そんな訳だから、今日はこれでお終いだよー」
チー「いつも見てくれて有り難う御座いますです」
リン「それじゃ、まったねー。ばいばーい。いってきまーす」
チー「また来て下さいね♪」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




