姪と offline
時刻は朝7時。それよりも15分ほど早い時間。
時代錯誤の携帯電話からピピピッという目覚まし音が鳴って目を覚ます。
そして二度寝へ。
「おじさん、朝だよー」
僅か15分だけの二度寝なんだが、最近はそれすらも姪達によって叶わない。
「朝御飯つくってー」
「お腹……空きました」
「マリリンもセンねぇちゃんも、朝から元気だな。今日もラジオ体操に行ってきたのか?」
「もう、おじさんったら。名前間違えちゃだめだよー。こっちは現実なんだからね」
「朝の体操は……とても、気持ちいいです」
「ああ、すまんすまん。リンちゃんにチーちゃんだったな。今の今まで俺はあっちにいたからなー」
残念ながら夢は見れなかった。ログアウトしたら現実にいた、って感じに近い。ただ頭が少し寝惚けているな。
二人を部屋から追い出して着替える。布団を整え居間に向かうとテレビにはアニメが映し出されており、家主なのにチャンネル権は貰えなかった。朝はニュースって決めてたのに。
テレビの中では可愛い少女がプリティーに変身。マスコットを連れて日夜悪と戦い続けていますといった内容のものだった。
CMを挟んでまた違うアニメが始まる。
それを横目でチラ見しながら、油をサッとひいたフライパンに卵を落とす。塩をぱぱっとふって完成。あとは昨日の夜にタイマーセットしていたほっかほっかの御飯の上にそれを乗せて、テーブルにドンっと丼を置く。
「わ。目玉焼き丼だ」
「お好みで醤油をどうぞ。手軽に作れて美味しいぞ」
「おじさん……いつも、こんなの食べてるんですか?」
「いや、2年ぶりぐらいだな。普段は火を使わず、電子レンジでチンだ」
「卵がボンっ!」
「しねぇよ」
目玉焼きは半熟にしてあるので、御飯をかき混ぜれば卵かけ御飯っぽくもなる。
これが意外と子供にはうける。卵様々だ。
案の定、二人も文句一つなく綺麗に平らげてくれた。
「ほら、御飯粒がまだ残ってる。最後の一粒までちゃんと食べろよ」
「「はーい」」
まったく、子供だな。いや、子供だからか。微笑ましい光景といえよう。
その後はテーブルを片付けて、掃除に洗濯と続く。一人暮らしの時には一週間に一度でもよかったのに、二人が来てからは毎日になった。面倒臭がり屋の俺としては、随分と頑張ってるよなぁ。
その血を親から受け継いでいるのか、二人も意外と面倒臭がりです。あれ、女の子なのに全然手伝ってくれないよ?
「昼は外に食べに行くか?」
「くるくる寿司がいい!」
「ハンバーグが……食べたい、です……」
これまた見事に意見が分かれてくれる。
「チーちゃん、ごめん。ハンバーグは夜にしような?」
「はい……」
悩ましい夜の献立が早速決まった事にはちょっと喜んでおく。ああでも、料理本を買ってこないと作り方が分からないな。帰りに買ってくるか。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
お寿司を食べて、本屋に寄った後に帰宅。益々ハイテンションになった上の姪が落ち着くのを待って、お茶を入れて和み始める。
「で、おじさん。昨日はあれからどうしたの?」
「折角落ち着いたのに、ここでその話題を持ってくるか……」
いきなりのテンションチェンジ。怖いよ、リンちゃん。
「私達は、新しいお友達も出来て……今日も、一緒に遊ぶ約束を、しました」
「おう、良かったなチーちゃん。新学期が始まったらまた更にお友達が出来るから、待ち遠しいだろ? もしかしたら、同じゲームで遊んでる子も見つかるかもな」
「はい。嬉しい、です」
転校か……俺にはついぞそういう機会はなかったな。友達と別れて新しい土地に行くって、どういう気持ちなんだろうな? やっぱり寂しいんだろうな。
もしかしたら、二人とも前の学校で友達に別れを告げていないのかもしれない。そのうち少し調べてみるか。遅めのお別れ会でも、やっておいた方がいいだろう。
「それにしても、リンちゃんが魔法使いか……さっきのアニメの主人公みたいにでもなるつもりなのか?」
「ちちち違うよ! 私が目指してるのは、聡明なる賢者さんっぽい色気のあるお姉さんだよ!?」
聡明と色気って両立するのか? 眼鏡と際どい服確定路線かな?
「なんで動揺するんだよ。それだと、はいそうですって言ってるようなものじゃないか」
「だから違うって! 私は燃える妹魔法使いなんだから! 彼女は光魔法使い!」
必死に否定する所が怪しい。案外、燃えるじゃなくて萌えてるのかもな。
「まぁ、そういう事にしておくとしよう。チーちゃんは何かベースとなっているキャラでもいるのか?」
「はい……フロアディーテ様を、少し……」
そんなピンポイント攻撃されても分かりません。おじさん、アニメ好き好き人間じゃないんですよ? でも近い名前で、確か魚座ピスケスの人がいたような。何だったっけ?
「薔薇?」
「っ!?」
あ、なんか当たったっぽい。まさか俺が知ってるとは思っていなかったのか、チーちゃんが動揺した。たぶん違うアニメだと思うけど、似たような特徴を持った奴なのか。
「なれるといいな」
おーおー。顔がちょっと赤くなって、チーちゃんちょっと可愛い。良いもの見れたし、今日の夜は少し頑張っちゃうか。何にって? 勿論ハンバーグですよ。子供の大好物です。
「……おじさんも、吟遊詩人を選んだのは何か思う所があったからなの?」
また話題戻しやがった。折角、脱線させたのに。脱線してたよね?
「ない……訳でもないな。学生時代に遊んでたゲームでは、吟遊詩人を少ししてたからな。キャラ名もそういう雰囲気のあるものにしてたし。本職は違ったけど」
懐かしい思い出だ。何度か引退と復活を繰り返して、結局5年以上も遊んでいた記憶がある。あの頃は若かった……いや、今も十分若いと思うけど。姪とオンラインゲームするって、十分若いよなぁ。そう思うだろ?
「だが、ありゃ確かに不遇ジョブだな。あの後ちょっと狩りをしてみたが、まぁ随分と苦労した」
「チートプレイの反対だからねー。マゾプレイだよー」
「私は、サゾ……ふふふ」
ちょっと強めにチーちゃんの頭を撫で撫で(ガサガサ?)してお仕置きしてたら、リンちゃんに盛大な溜息を吐かれた。いや、それ俺がするものじゃないんですかー?
「なんか、ごめんね。おじさん」
「別に謝る必要ないだろ。あれはあれで面白そうだ。BGMとか笑えたぞ?」
「あ、使ったんだ。って、何で面白いの? 笑えるの?」
いや、変な目で俺を見ないでください。俺、ただ音を鳴らしただけでゲラゲラ笑うような壊れた人間じゃありませんよ!?
「ま、それはまだ企業秘密だ。そのうちリンちゃんとチーちゃんにもあの恐怖を味わって貰うからな。クククっ……」
「おじさんが……悪者に、なった……。いやっ……犯される!?」
はーい、そんな卑猥な言葉を出す口にはお仕置きしましょうねー。ちょっと辛めのお菓子をお口に突っ込んじゃいます。
「辛い……です……」
「でも、惜しいなー。ほんとなら、三姉妹でこの世に君臨する筈だったのに。長女、青龍の聖剣士セントアンヌ! 次女、黒百合の腐女子カズミ! 三女、雷炎の大賢者マリーベル! って感じに」
「百合じゃねぇし、俺は男だ。しかも腐女子って、それ職業じゃねぇだろ!」
「イメージだよ、イメージ」
なお悪いだろ……。そんなイメージキャラになりたくない。
「まあ兎に角、その辺は勘弁してくれ。戦闘じゃ役に立たんが、当初の予定通り影ながら何かでサポートするから。目下、ちょっと難しいが、まだ誰も目を向けていなさそうな錬金術あたりが狙い目か」
「最初の、一ヶ月ぐらいが……たぶん、勝負です……」
「生産職メインの奴等が、そんなに悠長に待っててくれればいいけどな。一ヶ月もあれば、所持金1億に辿り着く奴も軽く何人か現れてくるだろう」
「一日15時間分だからね。しかも廃人さんだけじゃなくて、みんな同じ時間条件で競い合う事になるから、結構あっという間かも?」
「その辺はあのゲームの仕様がどれだけマゾかによるよな。俺の知ってるゲームだと、高レベル域のレベル上げが効率良く狩っても最低10時間以上ってのがあったし。勿論、改善されたけど。……かなり後になってからだが」
それでも、それが普通のマゾ世界だったからなぁ。いや、マジで。当時はもう感覚が麻痺していたので、そんなに苦じゃなかったけどね。
「あ、たぶんそれ。メイドオンラインならそれ以上になるかもしれないよ?」
「ほう?」
「もともとメイドシリーズって女性キャラ優遇だからね。ちなみにおじさんの大好きなメイドさんになると、超優遇になるんだよ。メイドだけに」
「さいですか」
だから俺の嗜好とは違うんだってば。ゲームの中にバニーちゃん、いるのかなー?
「それ以前にゲーム全体的にベリーハードモードだから、メイドになってようやく普通って感じなんだけど。男性キャラの不遇っぷりが泣けちゃうぐらいにね。吟遊詩人が不遇なのも、女性キャラしかなれないメイド職に対抗して、吟遊詩人は男性にしかなれない職だったからだし」
性別専用職なのに、逆により不遇扱いされるって……。
「うん? ならなんで女性キャラ扱いの俺が吟遊詩人になれたんだ?」
「さぁ? バグなんじゃないかな?」
「もしかすると……男性でも、メイドさんになれる……かも?」
それは嫌な仕様だな。フリフリのエプロンドレスを着たマッチョなビルダーが街を闊歩していたら、間違いなく衛士が飛んでくるだろ。それ以前に、プレイヤー総出でPKされそうだ。たぶん、そこに俺も絶対加わる。
「ショタメイドさんは兎も角」兎も角するんじゃねぇ「レベル上げて転職出来ない吟遊詩人は、初めてのログイン時にネタとしてなる以外は、たぶん絶対に誰もならないんじゃないかなー。普通のIDだとキャラ消去出来るけど、基本的に一人1キャラ1IDしか持てないようになってるし。複数キャラ作成は不可能。おじさんみたいに本格的に吟遊詩人で遊ぶ人、絶対に誰もいないと思うよ?」
「レアキャラ……」
「でもあの金額だからなー。捨てるには勿体なさすぎる。捨てたら絶対に勿体ないお化けがでちゃうぞー」
「あはは! なにそれー」
ああ、メリーさんの電話ほどには地名度なかったか。しかもこれ、相当古いし。少なくとも、近代化して電話が普及してから出来た?メリーさんよりは確実に昔の階段話だよな。八百万の神々だったかな?
「それ……CMの宣伝で作られた、架空の……お化け」
む? 違ったのか。でもメリーさんよりは確実に古いよな?
しかし……チーちゃん、どっからそんな情報を引っ張ってくるのやら。少なくとも二人がまだこの世に生を受けてない時からあるお化けなんだけどねー。
その後も楽しく二人と漫談した後、さっき買ったばかりの料理本を眺めてから買い出しに出掛ける。
夕食は勿論チーちゃん御所望のハンバーグだ。初めて作ったが、二人とも美味しそうに食べてくれた。うん、またちょっとだけ料理するのが好きになった気がする。
二人一緒にお風呂に入れて、その間に俺は食器を片付けた後、寝所の準備をする。
ある程度大きくなったとはいえ、まだ二人は子供なのでおねしょの危険性を訴えた後――訴えたらモンスターばりに襲い掛かってきました――寝る前にしっかりお手洗いに行かせてから寝付かせた。
俺も風呂に入り、一日の疲れを癒す。
ああでも、向こうにいる時の方が遙かに重労働になるか。
――あれ、何か忘れているような。さて、何だったかな。
そんな小さな疑問に悩まされること、約2時間。
就寝後、俺はまたメイドオンラインにログインした。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場スーパー!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「第11話だよ♪ しかも今日からスーパーだよ♪」
チー「スーパーです♪ よく分かりませんけど」
リン「春まっしぐらだね~~。ぽかぽか」
チー「です。気持ち良い春です。桜の花びらひ~らひらです」
リン「こんな日には日向ぼっこしながらメイドライフトークだよねー」
チー「です。メイドタイムまでまだまだ時間があるから暇々です」
リン「宿題ももう終わらせちゃったしね」
チー「です……。おじさんの目がなんかきつかったです……」
リン「というより、なんかつきっきりでベタベタしてたよね」
チー「おじさんなりのスキンシップの取り方なのではないでしょうか?」
リン「宿題手伝ってくれるのは嬉しいんだけどねー」
チー「なんにしても、小動物の類のように触れてくるのは困りものです」
リン「チーちゃん、今日は何回頭を撫でられたー?」
チー「今日はまだ5回です。リンねぇは何回です?」
リン「私は3回。この分だと、今日もチーちゃんの方がなでなで多そうだねー」
チー「なでなでマシーンです、おじさん」
リン「なでなでマシーンというより、なでなで魔人?」
チー「時々ガサガサ魔人です。あれされると髪が乱れて嫌です」
リン「乱れ髪のチーちゃんも可愛いよ♪」
チー「乱れ髪のリンねぇは可愛くないです」
リン「ま、私はおじさんにガサガサされる事はないからねー」
チー「代わりにゴリゴリ?」
リン「うん。勿論、私がする方だけどね!」
チー「私もいつかしたいです……」
リン「リアルの夢より、そろそろメイドライフの夢でも語りあおっか、チーちゃん」
チー「はい♪」
リン「メイドオンラインの世界だと、チーちゃんは剣士なんだよね」
チー「です。私は剣士です。今は水精の片手剣士です」
リン「二刀流にはならないの?」
チー「出来ますよ」
リン「あ、出来るんだ」
チー「はい♪ でも、まだ色々と不都合がありますので」
リン「なれるけどなりたくないって訳ね」
チー「です。片手剣士専用の特殊な二刀流スキル取得クエもあるみたいですしね」
リン「そのスキル取った場合、職業名ってやっぱ変わるの?」
チー「いえ。片手剣を使うから片手剣士なので」
リン「片手剣を2本装備して二刀流になっても別に良いんだねー」
チー「その片手剣にも色々種類がありますが、そちらはスキル依存になってます」
リン「例えば?」
チー「簡単なカテゴリで言えば、細剣、長剣、突剣とかですね」
リン「簡単なって事は、実際にはもっとカテゴリ多いの?」
チー「頭がこんがらがってくるぐらい……」
リン「うわぁ……。って言っても、私の職も同じなんだけどね」
チー「あ、その辺の事、私もちょっと詳しく聞いてみたいです♪」
リン「うん。でもまた今度ね」
チー「え? 何でです? まだ夜にはたっぷり時間がありますけど……」
リン「だってそろそろここを締めないといけないから」
チー「あうー……」
リン「また次回お話しよ♪」
チー「はいです♪」
リン「それじゃ、まったねー」
チー「また見に来て下さいね♪ お待ちしています♪」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




