青と白
とても短いです。
また、主人公と青年の関係を読者の方に想像してほしかったので、あえて途中で終わっています。ご注意ください。
ひとりでここに来ることはよくあった。
制服を脱ぎ捨て、白いTシャツに短いジーンズ地のズボン。蛍光ピンクのサンダルをつっかけて。何も持たずに、扉の閉まる大きな音を背に、のんびりと歩いていく。
夕方の空に広がる青空と入道雲を見上げながら、海に向かって坂を下っていくこと約15分。何にもない、誰もいない港の外れの岩場。自分だけの特別な場所。
特に何があるわけでもない、誰も来ないようなただの岩場。特別なのは、自分がここを特別だと思うからだ。私が、特別だと決めたからだ。
ただ海を眺めて、日暮れまでの時をつぶす。海も空も雲も、ここにいれば独り占めできる。無料で。
「いつもここにいるよね」
綺麗な声が、唐突に私の場所に踏み入った。
不快感を伴って振り向いた先には、一人の青年が微笑んでいた。薄い白シャツを着た若い男。キレイな顔をした、その男。
なぜか、逃げたくなった。怖くなった。だから、逃げた。
もう、あの場所へ行くことはなくなった。
あれから、10年ほど経った。久しぶりに見たこの町はあの頃と全く変わっていない。ふと、あの場所のことを思い出した。急に懐かしくなって、心が躍る。いや、きっとずっと気になっていたんだろう。
白いワンピースに紫外線除けの麦わら帽子。踵の低いサンダルを履いて。鍵以外には何も持たずに、ゆっくりと扉を閉めて、のんびりと歩いていく。
強い日差しの中、遠くから船の汽笛が聞こえる。途中で自転車に乗った汗だくの女の子とすれ違った。そういえば、港近くの高校は廃校になったと聞いた。
岩場のある手前の塀がだんだん近くなってくる。人はいない。軽トラックが一台、魚市場の方へ走って行った。蝉の声が遠ざかった気がした。もう目の前だ。
変わらない、私の特別な場所。海と空と雲と、昔より少しだけ太陽が輝いて見えた。
少し眺めていると、昔座っていた岩の近くから発光した。思わず手を顔にかざす。
何かが、光っている。いや、太陽の光を反射している何かがあるのか。足元を見て、その何かを取りに行こうか悩んでいた。その時。
「見つけたのか」
尋ねる声がした。
振り返ると、白いワイシャツ姿の男がこちらを見ていた。表情はない。ただ、静かに問うてきた。
「見つけたのに、取りに行かないのか」
距離を詰めてくる。もう、目の前だ。水分が喉から消えて、張り付くように乾いていた。少し引っかかったように、声を絞り出す。
「あなたは、取りにきたの」
男は少しだけ目を見開いて、それから笑った。昔と同じ、綺麗な微笑みだった。
この続きは、ラブでもホラーでもミステリーでもいけると思うのですがいかがでしたでしょうか^^
夏っぽさとほんの少しのノスタルジーを感じていただけたらうれしく思います。