登校中の珍道中と都会からの転校生
目が覚めると目の前に冬華ちゃんのドアップの顔があった。
驚いている間に相手も目を覚まし、ニッコリと微笑んで。
「おはようございます、猛さん。昨日はお疲れの様でしたね。勉強をみて貰っている時に寝てしまわれるのは久しぶりですから、大丈夫かな、と心配しましたよ?」
そんなことを聞きながらこちらの顔を覗き込んでくる。
どうやら、相当心配したようだ。
それに、二人とも同じベッドに入っていることから、彼女がベッドまで運んでくれて、そのまま一緒に寝たのだろう。・・・これがまたよくあることなのだ。
「ごめんね、心配かけて。グッスリ寝たからもう大丈夫だよ。さ、朝食を摂って学校に行こうか。今日は桜花さんの事もあるから、もしかしたら忙しくなるよ?タップリ栄養を摂らないとね?」
(まー、実際はその後の方が忙しそうだけどね。)
僕の言葉にニッコリと微笑みながら頷き
「そうですね。あれだけの身体能力ですから、味方になって訓練すれば相当な戦力アップに繋がるでしょう。・・・初めは事務員としてでしょうが。」
「だね。でも、今の時期は結構暗くなる時間が遅いから、それだけ訓練が多くできるし、皆との連携も確認できるから都合のいい時期ではあるよ。これが冬場なら、皆それぞれの受け持ち地区に行くのが早くて顔見せも出来ない所だから、運は良いんじゃないかな?」
「それも相手の返事次第ですがね。さ、話も良いですが学校の始まりの時間は変わりませんから、早く行きましょう。」
「うん。そうだね。あ、一応イヤホンと手袋は鞄に入れといてね。念のため。」
「?はい、分かりました。」
そして、朝食も終わり学校へと向かう途中の神社の階段で
「おっはよー、猛君。今日も冬華ちゃんと仲イイね。学校でも同じようにしてれば変な虫が寄り付かないのに。」
と、元気のいい挨拶を同じ学校に通っている退神士、瀬能巴がしてくる。一応猛と同い年で、冬華より一つ下に成るが退神士歴は8歳からと実に8年という猛にこそ及ばないものの、冬華よりは圧倒的に長く、猛の信頼も厚い人物の一人だ。背丈も猛と同じくらいでショートカットにしていて、集団の元気印の様な存在だ。・・・実に幼くて可愛い、小動物的ではあるが。
「それは、何度も言うけど仕方ないことだから。感情というのは簡単には制御の効かない物だからね。」
「そうですよ?巴ちゃん。聞き分けのない子じゃないんですから、分かってください。私も、学校でイチャイチャ出来ないのが辛いんですから。」
「・・・いつも思うけどさー。そこまで仲が良くて、学校では顔見知り程度って関係、よく通ってるよね。不思議で仕方ないよ。」
「それは、お互いの努力の賜物だよ。それに、学校が終われば仕事でイチャイチャ出来るからね。」
「はいはい・・。ご馳走様です。じゃー、行こうか。」
「はい。」
「うん。」
と言いながら、人数の多くなった集団で共に登校する。
しばらく道を歩くと、今度は「おーい、たけるー」と後ろから声がしてくるので振り返ると
ブンッ!
とラリアットが飛んできたので
「うわ!っと。・・・危ないなっと!」
躱しざまに
ドカッ!
とドロップキックをかまして、倒れ込んだ相手を蹴りながら
ゲシゲシ!
「全く!何でいつもいつも!」
げしげし!
「いきなりラリアットを!」
ゲシゲシ!
「かましてくるの!」
ゲシ!ドカ!ドン!
「当たったら怪我するでしょうが!」
「猛君・・・。逆に孝太が怪我してるよ・・・。」
「猛さん。少し落ち着いてください。そろそろ人も通る時間ですし。」
そんな感じで二人が猛を宥めていると。
巴に孝太と呼ばれた大柄の少年大黒孝太(180センチほどで、体脂肪が殆どない隠れマッチョ。髪は伸ばしていて、イケメン度がさらに増している)がムクリと起き上がり
「いやー、あいっ変わらず男には容赦ねえなー、顔は女見てえなか・・・」
ドン!
と、孝太が言い終わらない内に今度はボディーブローで再び沈める猛。
「・・グハ・・」
ドサッ!
「・・ったく、学習能力が無いの?男である限り、学校でない限り、僕の顔の事で君が何かを言う権利は無いんだよ。普通の学校生活においては君の方が身体能力は高いのは認めるけど、私生活においては、魔気の運用段階で僕に一日の長がある以上、同じ後方支援タイプの君では、僕に勝とうと思わないことだ。いや、僕だけでなく、冬華ちゃんや巴の様な前衛タイプに気配を出しながら近づくのは馬鹿のやることだよ。」
そこまで言い終わると、再度倒れていた孝太が漸く再び立ち上がり。
「あーあ、お前ってさ、小学生の頃からその事で突っ込んできたけど、そろそろ諦めろよ。教室じゃー、誰に言われようが「もうー、またその話ー?いい加減やめてよー。」って笑いながら返してるのに。」
そう苦笑いしながら言って来た。
が、それに対して猛は何故か孝太の後ろを見て、ニヤッと笑い
「孝太は良いよね、そんないかにもなイケメンでさ?僕なんか・・・うう・・よよよ・・」
と、いかにもな解かり易い嘘泣きをするのだが、偶然?に近づいてきた人影がそれを本気で受け止めた。
「こらー!孝太ー!まーたお前は猛君を泣かしてんのか。クラスのまとめ役のお前がそんなんじゃ、猛君が孤立するだろうが。・・・あ、冬華先輩、おはようございます。先輩ってこの辺りが通学路だったんですか?」
と、孝太に説教をしていた、猛と孝太のクラスの委員長園田真由子(伊達眼鏡を掛けた、優等生の雰囲気を自然と放つ)が、三人の人の中に、剣術クラブ二年女子のエースである先輩、近衛冬華の姿を捉えると、そう聞いてきた。
猛たちが通う学校は部活もやっているが、授業にも選択クラブという枠で部活と同じ内容のスポーツを主にする教育を扱っている。田舎の方では、そうしないと都会の様な実力者が育成できないという悪環境が出来ているのだ。なので、冬華の様な流派を始めて5年で免許皆伝を貰えるような才能の持ち主は極めてまれだ。
だが、その冬華も学校では柊流は使わず、学校の基準の剣の稽古をしている。理由は、指導者と生徒の実力が見た目にも真逆な為、先生方の生徒に対する威厳が損なわれるのを防ぐためだ。
巴の場合は獲物が薙刀の為、畑違いから実力はバレていない。・・・わざと冬華と同じクラブに入るのは、女子同士の会話をするためだ。(猛は魔気を纏ってなければ一般生徒と同じなので、家の道場で稽古する延長程度の認識だ。)
「ええ、通学途中にこの三人に偶然会いましたので。皆、顔見知り程度には知ってる顔なので、巴ちゃんが折角だからと一緒に登校してきたのです。・・・貴女は確か・・孝太君たちのクラスの剣術クラブで見かける子でしたね。貴女もこの道ですか?」
「はい!園田真由子といます。そこのイケメンバカと巴さん、猛君のクラスの委員長をしてます。丁度さっきの曲がり角の先の家です。・・・あの!」
「?なんですか?」
「これから、時間が合えば一諸に登校してもいいですか?」
と少女、園田真由子が瞳を輝かせながら尋ねてきた。
「ええ、いいですよ?大勢の方が楽しいですし。校門までは一緒に行きましょうか。」
そう冬華が答えると、満面の笑みを浮かべ
「ありがとうございます。私、先輩の剣筋に憧れてるんです。今度、授業でご指導ください。」
「ええ、時間があれば、何時でも手合せしますよ。教えるのも勉強になりますから。・・・もう校門ですね。話してると時間の経つのも早いものです。それでは・・・私は少し職員室に呼ばれてますので、この辺で。」
「解りました。ではまた、授業の時に、時間があれば。」
「ええ。楽しみにしてます。」
そういって、冬華は職員室の方に向かった。
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「それにしても、巴は剣術クラブでも結構話してるのを見るが、孝太と猛が冬華先輩と知り合いとはな、クラブでも殆ど男女別だからなかなか接点無いと思うが何かあったのか。」
「まあな、別とはいっても同じ体育館の中だし、特に猛は女子に人気だから、冬華先輩も覚えてたよ。・・・顔合わせは巴が強引にしたがな。朝の登校の時を使って。」
と、孝太が先ほどの冬華の言葉の穴埋めをした。
その話を聞いた真由子は
「なんだよ、それ!それなら私にも紹介してくれてもいいんじゃないか?アンタたちは私の家・・・えーと・・知らなかったんだっけ?」
怒鳴りながら聞いてきたのだが、尻つぼみに下がっていく音量で説明のし忘れに気付いたのか、孝太たちに確認してきた。
それに顔を見合わせながら、二人で苦笑すると
「「さっき初めて聞いた!」」
と、二人で声を合わせて返した。
そんなこんなで三人で教室へと入って行った。
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皆と別れた後、私は昨日先生に呼ばれていたので職員室へと来ていた。
コンコン・・・ 「はーい、開いてるよー?」
声が聞こえたので私は挨拶しながら
「失礼します。」
といい、中へ入った。
「おう、近衛か。丁度良かった、こっちの待ち人も今着た所だ。・・・藤沢君、彼女が君の入るクラスのクラス委員長、近衛冬華君だ。・・・近衛、彼女は東京から親の転勤の都合で転校してきた藤沢茜君だ。転校と転居の事情で君たちの所に厄介になるそうなので、君の方から色々と教えてあげてくれ。学校以外の事もな?」
そういいながら三沢先生は周りを見ながら私に目配せしてきた。
(なるほど、だから私のクラスか。それにしても綺麗な子だな。ライバルになりそうだが仕方ないか。戦力は多ければ多いほどいいからな。)
私がそんなことを考えていると、不意に転校生と目が合って微笑んできた。
それにしても、髪の色が変わっている。
見た所、日本人で間違い無さそうなのだが若干青味がかっており、染めているようにも見える。背も冬華と変わらない位の長身で、手足を見る限りはやや細めである物の、胸はそこそこある。(Cカップ位)切れ長の目は勝気にあふれていそうだ。髪は真ん中で分け、眼に届くか届かないかの所で揃えられている。後ろはストレートに背中まで流し、横髪を髪の後ろで縛っている。
(感じの良さそうな子ではあるが・・・。私や猛の例があるから、腹では何を考えているかは分からんな。猛の様に感情を色で見られればいいんだが・・・。あれは特異体質だから仕方ないか…。)
「解りました。ですが、どうしましょう?今日は放課後に少し予定があるのですが・・・。どうしましょう?」
「なんだ、告白タイムか?じゃー、内のクラスに他に事情を知ってる奴はいるか?」
「相手は女性です。副会長の立花桜花さんですよ。・・・志保ちゃんと夜市君がいますね。」
「アイツらなら大丈夫か。・・・では、君からあの二人に言って三人で帰らせてくれ。・・・くれぐれも変なことは教えるなと念を押しといてくれ。二人だけの場合はいいが、年下の二人が加わると、途端に下品になる奴らだからな。」
「6人なら楽しいのですけどね。特に猛さんが加われば、皆弾けますから。普段もそうできればいいんですが・・・。」
「それは言っても仕方ないだろう。今の状態でも、彼は女子にある意味人気なんだから・・玩具としてというのはあるが・・・。まあ、そういう事だから。藤沢君も、分からないことが有ればこの近衛君と後でホームルームで自己紹介させる二人に聞いてくれ。色々と教えてくれるはずだ。・・・じゃ、近衛君はまた後でな。教室には俺が連れて行くから、皆には転校生が来るとだけ言っててくれ。」
「解りました。では、失礼しました。」
そういって、私はドアを開け、職員室を出た。
「さて、どうなりますかね。楽しみです。」
私はそう呟くと、教室へ向かった。