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私的執筆考  作者: 花街ナズナ
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執筆考という名の独り言(13)

八月も下旬に差し掛かり、今年もまた私は無為な時を過ごしてしまったなと反省しております。


実生活も悪い方向に充実し、ただでさえ人様の半分程度しか動けない私はまさしく忙殺され、あっという間にこのザマです。


放置プレイもいい加減にして何とか活動を再開したい。

そんなふうに思いつつ、肉体的にも精神的にもフラフラで久しく会っていなかった知人と顔を合わせる機会があり、いつもながらに弱い自分をつらつらとさらけ出してしまいました。


(こういう点、ともすれば家族にすら打ち明けられないことを話せる関係を思うと、少なくとも私は彼を親友だと認識しているのだと思います。ただし、彼もまた私をそう思ってくれているかは分かりませんので、失礼の無いよう私からは彼のことを知人としか呼びません)


そうして、ひとしきり私が手前勝手な愚痴をこぼし終えると、彼はやおら口を開き、ぽつぽつと意見をしてくれました。


「○○(私の実名)さ。前から思ってることだけど、お前『身のほど』って言葉の意味、分かってんの?」

「……え?」


彼は良く言えば「歯に衣着せぬ」、悪く言えば「辛辣」な話し方が特徴ですが、さしもの私もその時は好き勝手に愚痴を垂れ流していた自分を棚に上げ、彼の言い様に小さくショックを感じて声を漏らしてしまいました。


が、それもまた、やはり私の勝手な受け止め方だったことをこの後、思い知らされましたが。


「お前って何かと大言壮語を吐いて、自分をそれに副わせようとするだろ? ほんとに馬鹿じゃねえの? お前、自分のこと何様だと思ってるわけ?」

「……」

「はっきり言うけど、お前は俺の目から見ても明らかな凡才だよ。いや、ただの凡才よりタチが悪い。(器用貧乏)ってやつだ。何をさせても55点。平均点のちょい下くらいしかできない。というより、できちまう。だからめんどくせえんだよ。何でも形程度はできるから、下手になんとかなるんじゃないかと希望を持っちまう分、普通の凡才よりも確実に劣る。その辺、理解してねえだろ」

「それは……『才能も無いのに無駄な努力をするな』ってこと……?」

「ちげーよ馬鹿」


言って彼は私の頭を軽くひっぱたき、また話を続けました。


「いいか? 俺が言ってんのは努力の方向だよ。ただでさえ人並み以下の才能しかない奴が、間違った方向に全力で努力してたら、出せる結果も出せないだろって言ってんだよ」

「……どういう意味?」

「馬鹿のお前でも分かるように説明してやる。あのな、なんだっけ……お前が小説とか書いてるなんとかってサイト……まず、そこに割いてる努力を十分の一にしろ」

「はっ?」

「は? じゃねえよ。ゼロにしないだけ優しいと思いやがれ。で、残りの十分の九、これを使っていっぺん、狭くなった視野を広げるように努力しろ」

「で、でも、それじゃ新作を待ってくれてるかもしれない人たちが……」

「だからそこが間違ってんだよ馬鹿っ!」


私の察しの悪さがよほど気に障ったのでしょう。彼は口こそ悪いものの、そうそう怒鳴ることの無い人なのに……この時は本当に尻が浮くほどびっくりしました。


そんな彼が怒鳴ったわけですから、相当に私の態度は腹立たしかったんでしょうね。


「俺はお前が凡才だってことをよく知ってる。努力してどうにかなる伸び代も分かってるつもりだ。所詮、天才が凡才には勝てない。どんなに努力しようがな」

「……」

「けど、まずそこの考えはどうでもいい。別に天才に勝つ必要も無ければ、天才に近づく必要も無いんだからな。例えば天才がライオンだとして、凡才が猫なら、猫がライオンになれないのは当然だよな? だったら猫のするべきことはなんだ?」


すでに答える言葉が頭に浮かばなくなっている私を尻目に、彼は言葉を継いでゆきました。


「簡単なこった。一番の猫になりゃあいい。ただそれだけだ。『弱いライオン』になるより、『すごい猫』になるほうが現実的だし、なにより面白い。そして、お前にはもうひとつやるべきことがある。もっと自己中になれ」

「あ、え? でも……それだと目指しているエンターテイメント……大衆娯楽から外れて単なる自己満足に……」

「だったら、自己中で人を楽しませればいいだろ。どうせお前の性格からして、自己中になれる程度なんて知れてんよ。なら自己中になって人を楽しませろ。器用貧乏なんだからそのくらいの矛盾、やろうと思えばやれんだろ?」

「……」

「だから、そのために今使ってる努力を九割回して自分を作り直せ。少なくとも今のままのお前じゃ、誰かを満足させるなんざ無理も無理、大無理だ。ほんとに人を裏切りたくないとか、希望に適うようにしたいと思うんだったら、まず『身のほど』を知って、そしてそれを鍛え直せ。俺が言えんのはそのぐらいだ」


呆然と聞きっぱなしで、気が付けば夜もうっすら開け始めていました。


彼の言う通り、私は凡才です。そして馬鹿であることも承知しています。


ですので、少し彼の言ったことに従ってみようかと思います。


猫はライオンになれませんが、すごい猫にはなれるかもしれない。

そんな、なんとも馬鹿な私に合わせて分かりやすく言ってくれた彼の助言に従って。


私もいまだ人生半ば。老け込み、しおれるには早すぎます。


まだまだ、


足掻き足りません。

もがき足りません。

ジタバタし足りません。


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