「カナメノカナメ」執筆考 (3)
話も大詰めが近づき、もはや何を書いてもネタバレになってしまう状態ではありますが、さすがに前書き・後書き替わりとして書いている体のこの執筆考。
ここまで来て何も書かないのも、それはそれでどうかと思い、ひとまず作中に仕込んだキャラクターの意図についてひとつ、解説を書き添えようかと存じます。
巳咲の姉である巳月ですが、初登場時に死返玉を首には掛けず、何故か両手の薬指に糸で巻きつけるという奇妙な姿で登場しますが、これにも実は理由があります。
本来、神秘的なアイテムの装着場所はほぼふたつ。
首から下げるか、指にはめるか。
首飾りの場合は前者ですし、指輪などの場合は後者になります。
さて、
では何故にそうした品物は首か指に着けるのか。
これには諸説ありますので、それをいくつかまず取り上げてみましょう。
ひとつ、行動の妨げにならないように。
これは完全な実用面での話ですね。
首に掛けたり、指にはめていれば大抵の行動には支障をきたしません。極めて現実的な処置と言えます。
ただ、もうひとつ、
こちらの理由はもっと神秘的です。
体の各器官の中でも重要な場所であるという理由。
首の場合は急所であるというのに加え、多くの血液が循環しているまさに生命線。
そして首から下げた場合、アイテムの位置はほぼ心臓の位置に当たります。
肉体的に重要な場所へ置くことにより、精神的にもそのアイテムに対する重要度を再認知し、効果を高めようと考えての配置とも考えられます。
指についても似たことが言えますね。
血液の循環は首に比べれば単なる末端器官のため、大した量ではありませんが、何をするにつけ、指が持つ重要度は極めて高いのは確かであり、ここにアイテムを着けるのも一種の精神的な支柱の強化につながる部分と言えるでしょう。
ただし、古いヨーロッパ圏で唱えられていた「薬指から心臓に太い血管が通っており、それを抑えることで魔力と心を繋ぎ止める」という思想はこの作品では当然、反映されていません。
何せ題材はすべて古代日本ですので(重ねて言えば、薬指に心臓への太い血管が通っているというのは完全な迷信です)。
古く、日本では薬指を名無し指と呼んでいました。
五本の指の中で最も扱いづらく、あっても大して役に立たない意からついた名だと思われます。
そして、これが巳月が死返玉を薬指に巻いていた理由です。
彼女は元から死返玉など無くても自分と敵対できる相手などいないのを承知していたため、いたずらに使いはしたものの、死返玉を本気で使おうなどとは思ってもいなかったのです。
本気で使うつもりなら首から掛けるか、悪くしても薬指以外の場所へ着けたでしょう。
なのに、巳月は最もどうでもよい指に、それも両手にと、邪魔なことこの上無い身に付け方を、あえてしていました。
言ってしまえば、手加減。もしくは完全なる手抜き。
巳咲は感情に流されて巳月に特攻を仕掛けましたが、栖のほうはまったく手を出さなかったのは、そこのところをよく見ていたがゆえ、如実な実力差を感じて、あえて手を出さなかった……いえ、出せなかったというのが真相です。
本来は作中で語るべきところであったりもしたのですが、これ以上面倒な説明を作中で書き加えるときりが無いと感じ、放置した次第です。
何にしても、知っていようが知っていまいが、さほどに意味の無い裏話。
どうぞ読み流してお忘れくださいませ。