ヴァルキュリア執筆考
当初、この小説を書くにあたって一番に考えたことは「さらっと読める短編を書こう」というものでした。
設定はオーソドックスなファンタジー。流れはこれまたオーソドックスな復讐もの。ここまで決まれば、あとはこの素っ気無い骨組みに肉付けをしていくだけです。
とはいえ、さすがにただ単純なだけのお話では書く側としても面白くありません。
そこで、敵役を少々ひねってみようと考えました。
およそ敵役に似つかわしくないもの。まずはそれをよくよく思い浮かべてみました。
神と戦うなんていうのはいかにもありきたりで陳腐ですし、かといって、天使と戦うなんていったら、それこそ残酷な天使のテーゼでも聞こえてきそうです。
ありがたいことに、世に神話は星の数ほどあります。
この中から敵役候補を選抜しようと取捨選択を行った際、もっとも世間的なイメージの中で、敵役が似つかわしくないと感じたのがヴァルキュリアでした。
さて、一般的なヴァルキュリアの印象とはどんなものでしょう?
私見ですが、恐らく才色兼備の神秘的な女戦士といった感じではないかと思います。
しかし、神話にも描かれている通り、彼女たちには戦場におけるある種の死神としての側面があります。
これはさらに死後、ヴァルホルに向かえ、永遠の命を与えるというおいしい餌によって美化されてこそいますが、所詮彼女たちが不吉な存在であることに変わりはありません。
古今東西、ヴァルキュリアを美化し、正義の側として描いた作品は数知れませんが、私の知る限りでは彼女たちを敵役にして書いた酔狂な作家は思いつきません。
ここに私も満足のいく敵役が誕生しました。
手前味噌ではありますが、私にとってこの小説におけるスカルモールドはとても魅力的な敵役です。
無論、主人公たちの人物像や背景も重要でしたが、私の中ではスカルモールドという敵役を創造できた時点で、この小説はほぼ完成していたといえます。
そしてそれを皆さんにご覧になっていただけることが、なによりも幸せと感じています。