カルニヴァル
カルニヴァル
「ねえ、私のこと、好き?」
「好きだよ」
それが何回目の同じ問いか、私にも分からない。何回目かなんて、関係なんてないって思ってるから、気にもしない。
そして、彼が返す言葉も何回目か分からない答え。
「どれくらい?」
「計りきれないくらい」
「例えるなら?」
「宇宙、とか。どんどんと膨らんでいく気持ちっていうのは、それと一緒かもね」
誰がそんな上手いことを言えと、って心の中で突っ込んだ。口には出さない。彼が傷ついちゃうから。こんなことを言って、内心良いこと言った、ってガッツポーズしているような人だから。あ、けど、だったら褒め言葉になっちゃうのかな。
「私もだよ」
「それはよかった」
よしよし、とでもいう風に頭を撫でてくる。
彼の手は大きくて、指は細く長い。私の大好きな、彼の手。
私と彼が居るのは、彼の家の彼の部屋、そのベッドの上。
裸のうえに毛布をかけて、二人で抱き寄せ合っていた。
私を撫でる手を両手で掴んで、口元に引き寄せた。
「……何してるの?」
私は彼の指を口に含み、舐め回したり、吸ったり、舌で転がしたりしている。自分でも、何でそうしようと思ったのかは分からない。
そして、齧った。
「痛っ」
彼は小さく悲鳴を漏らしたが、私は気にもしなかった。一心不乱に舐めたり、齧りついたり。さっきより力を込めて、顎を動かす。
「痛いって!」
流石にそれには彼も驚いたのか、指を引っこ抜いた。私の唾液で濡れた彼の細く長い指は、ライトに照らされて少し光っていた。
「わー……血出てる。どうしたの? 美味しそうに見えたの?」
「そう……かも」
私ははにかみながら返した。
そうだ。
そのとおりだ。
私は美味しそうだと思った。
だから食らいつこうとした。
自分の考えていたことに、愕然となる。自分のことなのに。一方で、自分を冷静に見る自分も居た。私は私のしたいことをしただけだ、と。
自分が怖い。私は、こんなに狂っていたっけ。
ああ、けど、抑えられないかもしれない。
「でも、あなたは私のことが好きなんでしょ?」
「そうだけど、痛いのは嫌かな」
この、衝動を。
「好きなんだったら、私のしたいこともさせてよ」
「えっ……」
そう言って、私は彼を押し倒した。
私と彼の視線が合う。会う。
「私、あなたを食べたくなっちゃった」
「な――に、言ってるんだよ」
躊躇せず。
戸惑いもせず。
私は自分の衝動に突き動かされる。
彼の唇を奪った。
「んっ……」
いつもしているより熱い、情熱的な口づけ。
そして、言葉のとおり、彼の唇を奪おうとする。
「う――ああぁぁっ!」
柔らかい肉質の唇は、少し力を入れるとすぐにもげた。
彼の唇は、今、私の口の中だ。味わいながら、舌で弄ぶ。血の味。濃厚な血、だけどそれは、どんな高級レストランの料理よりも、家事が得意な彼の料理よりも美味しい。
けど、やっぱり食べ辛くはある。少しずつ咀嚼して、ゆっくりと平らげた。
私に跨られ、苦悶に呻いている彼を見た。憎しみのこもった瞳。――ぞくぞくする。
「ごめんなさい――頂きます」
彼とは、今日がお別れになっちゃうかもしれない。
でも、それから先はずっと一緒だから。もう少しの間、我慢してて。
こんなこと、大好きな大好きなあなたにしか、やらないんだから。
私は、大口を開けて、彼に食らいついた。
深夜のテンションでやってしまった。
タイトルはカルニヴァル → カーニバル → カニバリズム、ということで。
以前知り合いと話しをしていたときに出たカニバリズム。ふと思い出して、書いてみた。
短い。もうちょっと話し広げれたかも……。
たまには短編も投稿します。
天風御伽でした。では。