第一話【最初の出会い】
【2026年2月19日(木)07:00】
「ふわぁぁ…もうしちじかぁ…」
俺の名前は康ヶ谷 健。ボカロ、VTuber、仮面ライダーやラノベが好きな、どこにでもいる普通の14歳だ。
「あれ、今日何曜だっけ」
ふと、そんなことが気になり、カレンダーを見る。
「2月の19だから…木曜か」
そのままカレンダーを目で追う。
「……ん?」
カレンダーの右上が視界に入った瞬間、思わず動かしていた目を止める。そこには、見慣れない文字列が印刷されていた。
「『A.C.56』?」
「なんだこりゃ、和暦じゃないし…西暦ですら無いってどゆこと?ヘンなカレンダーだな。ま、いいか」
(そんなことよか腹へったな、パンでも焼くか)
ということで、朝ごはんを食べるため、部屋を出る。そして、目をこすりながら階段を登り、二階のキッチンへと上がりきった。
「母さんおはよ〜」
「ん、おはy…」
母がそこまで言って俺と目が合うと、目を高速で瞬かせ、口を閉じた。
すると母は…オーバー過ぎるほどに驚き、またまたオーバーに喜んだかと思えば大激怒し、最後は大号泣し始めた。
……感情が大渋滞してるって
「な、何事!?」
俺が引き気味に訊くと、母は抱きついてきた。さながら、感動の再会といったところだろう。……だからって俺の服で涙を拭かないで欲しい
「ちょ、母さん、俺起きてきただけだよ!?」
「よがっだ…いぎでで…ずっど、どごいっでだど?」
「ま、待って一旦落ち着いて」
母は俺から体を剥がし一呼吸置くと、再び怒り始めた。
「この一年間、一体何処に行ってたのよ!!ずっと心配してたんだから!!」
「いや、何処って、何処も何も変なとこ行ってないし、普通に家から学校行ってたけれど…」
俺がそう言うと、母は困惑したように声を出す。
「え?…は?…え??どゆこと??」
「それはこっちのセリフなんだけれども…」
お互い混乱状態で会話にならなそうだから切り上げようと思う、うん。
てなわけで、俺は会話を切り上げた。
「んまぁそう言うことだから。夢でも見てたんじゃない?」
✕ ✕ ✕
「!?!?」
先程のいざこざから数分後。一階へ降りた俺は、親父に頼まれたゴミ出しのために玄関ドアを開け、その先にある門を開く。すると、いつも見えていたはずのバス通りが無くなっていた。代わりに、狭い生活道路がしかれている。
「はい!?」
俺は勢いよく門を閉めて一呼吸置き、見間違いじゃないかともう一度外を確認する。
「クソ変わってるじゃねぇかよ」
(どうりで朝からバスのエンジン音やらバイクのでけぇ音やらが聞こえないわけだ。)
我が家は変わらないのに、周囲の景色だけがすっかり変わっているという〝明確な違い〟に、俺は違和感を禁じ得ない。それと同時に、どこか懐かしく、ずっと前からここに暮らしていたような気さえもしていた。
どうやらこの30分で、色々起き過ぎたので逆に冷静になってしまったようだ。
なんかピンチの時は冷静になる、なんて言うっけ。確かに、ある意味これはピンチかもしれない。
「はぁ…やだよもう…」
そう思いながらも、何が原因か好奇心が湧いてきてしまったので探検に出ることにした。流石に迷子にはならんだろ!
(……というか家の位置変わってんのか…こりゃ今後苦労しそうだな)
✕ ✕ ✕
ある程度の準備(ゴミ袋も忘れずに)を終わらせ、満を持して探検開始!!という所で、隣の玄関から出たばかりであろう、超絶美少女と目が合う。
透き通るような銀髪を、後ろ髪を残してツインテールに束ね、吸い込まれそうな青い瞳をした少し小柄で儚げなその姿に、俺は思わず目を奪われた。
少しの間が空き、先に口を開いたのはその少女だ。
「え…健…なんで…」
なにかを呟いた彼女は少し俯くと、そのまま歩き出す。
俯いているせいかその前髪で目元が隠れ、こちらからでは表情を読み取ることができなかった。
少女はやがて、俺の前に立つ。
少し顔を上げると、その大きな瞳に涙を溜めながら右手をあげる。
そして次の瞬間…
俺はビンタを食らった。
(……知らん女子に、会った瞬間ビンタ食らう人いるかなぁ…というかゴミ袋もって頬叩かれてる絵面カッコ悪すぎる)
「っった!?な、なにするんすか?」
そう訊いたものの、すぐに返事はない。
その間、こころなしか、彼女の肩が震えているように思えた。
「ずっと…ずっとどこ行ってたの…?なんで連絡くれなかったの…?心配したんだから…」
少女はそう言いながら、上目遣いでこちらを見ている。
(二回目だ。俺は失踪してたのか?いやでもそんな記憶は…)
などと、思考を巡らせていると、再び声をかけられた。
「ねぇ!!固まってないで答えてよ!!」
その声には、明らかな悲壮感が混じっている。
「……ご、ごめんなさい…心当たりがなくて…その、こんなことを訊くのはあれですが…どこかで会いましたっ…け?」
「!?」「……バカ。」
それだけ言い、走り去っていく少女。その目には、微かにも涙が浮かんでいる。
(……あの子、どこかで…)
それを呆然と見つめる俺の心は、叩かれた左頬よりも痛く感じた。
✕ ✕ ✕
「……迷子だ…」
盛大にフラグを回収してしまった。
正直、ちょっと位置が変わっただけかと舐めてたら、まさか区すら変わってるとは…
歩き回ったせいで体力も無いし、ずっと地図見て
(スマホゲーもちょっとね)たせいで、唯一の連絡ツールであるスマホの電池も切れちまった…
(これじゃ連絡できんな…)
って所で、天才的なひらめきが!!交番行けばいいじゃん(当たり前)
「はぁ…交番見つかるかな…」
✕ ✕ ✕
「んもう、なんで近所で迷子になるのよ…」
「すんません…」
交番にたどり着いた俺は、電話を借り、母に車で迎えに来てもらった。
なにせ、着いたときにゃ夕方だったからね!!
今日はいろんな事が起きすぎた。もうヘトヘトだよ…
(……そうだ、明日こそは学校に行かないとだな…学校どこだろ)
そんな、普通じゃ浮かばないような疑問を持ったまま、今日という一日が終わろうとしていた。
(あ。明日あの娘に謝りに行こう。多分、泣いてたの俺のせいだよな…)
「フハハ、フハハハハハハハァ!!!!君は面白いことをしてくれるなぁ…」「さぁ、これからどうする?康ヶ谷」
——この時、俺はまだ知らなかった。国家を揺るがす重大な事件に、既に巻き込まれていた事を。
第一話:end.




