今どきの無限回廊周辺事情!【わしの愚弟が心配な日々】
わしは、ご主人様とその家族と海に来ていた。
ご主人様はハルカと言う。その番がタケシで後から生まれたのがハルト。わしの弟分になる。
わしの名は最初マッシュルームだった。と言うのも初めに家に来た日に名付けられたようだが長い名前のため誰も、その名で呼ばず。今ではマッシュ~と呼ばれている。つまり、わしの名は多分マッシュだ。
白い毛並みがマッシュルームという食べ物に似ているらしい。
話は戻るが弟分のハルトは小さい頃から、わしが面倒を見て子守りをしてやった。お腹がすいて泣けばハルカを呼び。オシッコをして臭ければ、わしがタケシに知らせた。
とにかく、わしは毎日、目を離さずにハルトの世話をしていた。それから、わしら4人家族は仲良しでよく近くの浜辺に皆で遊びに行った。そんな日をいっぱい繰り返しているうちに、したっぱのハルトも大きくなり小学生なるものになった。
昼は前ほど家にはいない。
夕方には近くの公園に一緒に散歩に行く。
わしもハルトが大きくなる頃には年をとり昔ほど浜辺ではしゃげなくなってしまった。
そんな中、久しぶりの晴天。
ハルカもタケシも長期の休みが取れたのか?家族4人で近くの海に来ていた。海は人でいっぱいで、わしは、いつも通りにハルトから目を離さず、けして迷子にならぬよう。いつも通り注意をしていた。
海に来た時は毎回、ハルトと一緒にいるようにハルカに言われていたしな。だが今日はいつもと何かが少し違っていた。
風が強く波がやや荒い。
弟分は水泳教室なるものに通い泳ぐのが大好きだった。わしも、よく海で泳いだ。勿論犬かきだ。
海なので浮き輪を使いプカプカ浮いているハルトを陸から遠目に眺め、何故か何時もより距離がある気がし胸の奥深くで本能が危険を知らせるように、わしを追いたてた。
何か不味い気がする。
思ったとおりハルトが波に流され岸からどんどん離されていく。
ハルカもタケシもレジャーシートでリュックから飲み物を出していて気がついていない。
わしは考える前に海に飛び込んでいた。
あれは駄目だ。
あのままでは大変な事になる。
己の判断にしたがい力の限りハルトのいる所まで泳いだ。久しぶりの全力の運動。少し不安もあったが無事にたどり着いた。
良かった。たどり着いた。
わしは浮き輪についている紐をくわえ波に逆らわぬように陸めがけて泳いだ。ハルトも、わしが来た事で落ちついたのかパニックにならず手や足で水をかき二人で協力して人がいる場所。浅瀬まで近づくことに成功した。
もう大丈夫だ。そう思ったのが駄目だったのか? わしは力尽き浮き輪と繋がっていた紐を離してしまった。
気がついたらハルトの必死な叫び声が耳にのこるのみで波にのまれた体は暗い海の底に沈みはじめていた。
ああ、わしがいなくとも弟分は大丈夫だろうか…心配だ!
わしが最後に思った事はそんなことだった。
そして、わしが次に気がついたのは浜辺でもなく日本でもなく地球でもない。
ああ、また来てしまった。ここは無限回廊につながる壱の門の前。鬼人が門を守る場所にして、あの世の入口。
無限回廊とは、あらゆる死を迎えた魂が集う場所。植物、虫、獣、人の魂は新しく生をうけるために無限回廊の数多ある転生の扉を目指す。そして、ここがスタート地点の門の前。
マッシュは門の前で、まず自分の体を確認する。犬だった時の体ではない。それより、はるかに大きく力強い体躯で毛の色も白ではなく白銀でキラキラしている。その毛先の隙間から鋭い爪がシャキーンと生えていた。
「わし、狼型の魔獣やってた時の姿になってる? ふむ…確か、ここでは魂のランクに応じた姿で、それでいて魂にもっとも馴染んだ姿になるんだったか。獣型ということは魂のランクは魂獣だな」
わしには魂の記憶というスキルがある。このスキルは取得後に、あの世での記憶や生前の記憶などを魂に刻むことができるもの、つまり生きてる時は忘れているが死ねば前世など、まるっと思い出す便利スキルだ。
稀に生きてる時、大きなケガや高熱を出した衝撃で前世の記憶がよみがえる者がいる。それは、このスキルの誤作動によるものらしい。なので、その者は魂の記憶スキル保持者となる。
ここ無限回廊では所持している魂のポイントにより、5つのランクにわかれた姿が維持される。
0 P 魂石※見た目は石。
↓
1P~魂草※見た目は草や花や木。
↓
11P~ 魂虫※見た目は虫類。
↓
51P~魂獣※見た目は毛や角、鱗の生えた、なんとなく獣全般。主に四足歩行。例外もあり。
↓
101P~魂人※ほぼ常時二足歩行で泣き声以外の言語で会話ができる。サインができる手などの機能必須。例外もあり。
「わし、ボスのハルカの群れに戻らねば…戻るには他者から魂ポイント、魂pをを速やかに集めて。今現在、魂獣だから魂人のランクになって無限回廊の地球の扉を目指す!」
「よし頭の中も整理がついた。門の中へ移動するか」
大きな門の両側にいた二人の鬼人が門の前の獣達を誘導し門を開ける。
角が生えた兎や鳥、不気味な色の大蛇、鱗におおわれた人や毛むくじゃらの人。妖精の羽を持った丸っぽい何か。たわしに無数の足の生えた生き物。各々の生き物がぞろぞろと門の中に入っていく。
銀の毛並みで額に長い角の魔獣も、のっそりとそれに続く。
ここ無限回廊は大まかに2つのゾーンに分かれている。
1つは門を入り左右に分かれる回廊部、円を描くように無限に続いていて、そこには様々な色の扉が存在している。その一つ一つが別の世界へと通じる扉となり、ここでは魂達は戦闘が出来ない。一種のセーフティゾーンとなる。相手の魂のポイントを奪うダメージをけして与えることができないからだ。
もう1つは、ドーナツ状の回廊部に包まれた場所で穴の部分に位置する。中庭と呼ばれる巨大な森、そう樹海だ。ここでは無数の魂達が魂のポイントの奪い合いをしている。いわば戦場になる。
人型の魂人たちは直ぐに生まれ変われる資格があるため、左右の好きな方の回廊部に足を運ぶ。
それを知らずに一緒について行った不気味な色の大蛇は見えない壁に弾かれ、森の方に弾き飛ばされていた。
「あの蛇、魂の記憶スキルを持ってないな。雑魚か…」
わしは素早く狙いを定め大蛇が消えた木の影めがけて走り出した。間抜けな蛇も流石に、わしの殺気に気がつき身構える。
シャーッ!
蛇は口を開け毒々しい牙で臨戦態勢をとる。
わしは近くの木に跳び移り足で幹を蹴って素早く、それの後ろにまわる。蛇は一瞬わしの姿を見失い、その隙に首もとを太い足で押さえる。
ダン!!!
わしは間をおかずに不味そうな蛇の体に噛みついた。蛇は叫びながら鈍い光に包まれる。
わしの体も光り、蛇の魂ポイントが流れ込み蛇の体からはポイントが抜けでる。瞬く間に蛇は小さくなり魂虫ランクにランクダウン。
ぶ~んっと小さな虫になり何処かに飛んで逃げていく。
「あっ!しまった。逃げられた。ポイントを搾り取れなかった」
わしが見上げた時には小さな虫は空高く、手の届かない場所へ消えていた。
「はぁ、久しぶりの狩りだからか腕がにぶったようだ。これではポイントが足りない。早くランクアップして人型の魂人にならないと、のんびりしていたら地球に戻っても知っている群れが寿命でいない、なんて事になる。時間との勝負か!!」
わしは心の中でステータスを呼び出す。
名前 マッシュ
種族 白銀魔狼
魂pt 99pt
レベル ※※※(レベル制の世界でのみ解放)
職種 ※(無限回廊で仕事をしていると記載される)
スキル ステータス 俊敏 地獄耳 魂の記憶
双剣
称号 護る者(仲間を護る時に力が2倍になる)
「あと少しか…」
わしは次の獲物探しの為に森に紛れ込んだ。
森の中でわしは虫や獣を狩りまくった。その途中で体が光りランクアップが始まる。
大きな体はみるみるとコンパクトな体に変化し、身体中の毛は森で動きやすそうな保護色の服へと変化した。
そこには140cmの大人の男がいた。
「ああ、懐かしい小人族だったかな。あの時、かなり長生きしたから魂に定着したのか。おお、わしの双剣も腰にぶらさがってる」
短剣を構え素振りをし感覚を確かめる。
「これなら、もう少し多くポイントを狩れる。時間もないし回廊入口に向かいながら狩ろう」
そして、わしは走り出した。
ここは無限回廊の回廊入口、わしは迷わす足を運ぶ。魂人ランクなので当然、壁にぶつかることもなく通りすぎる。
入口を少し入るとメイド姿の何かが立っていた。
黒いワンピースに白いエプロンで金の刺繍が袖や裾に施されていて、綺麗めの装いの無表情の人形。
「わし、急いでいる! 地球という海の多い世界に行きたい。扉の場所を教えてくれ!」
すると、それは無表情で口を開く。
「迷える魂よ!ようこそ!無限回廊へ。何処までも広がる回廊とあらゆる世界につながる扉。赤みが強い扉は火山が多く、青みが多い扉は海が広がる。黄みがかった扉は砂漠を含み。さあ、心の赴くままに扉を開けて生まれ変わりましょう!」
「わしは急いでいるっ! 必要な情報をくれ」
わしはムッとし、もう一度言う。
それは無表情で機械のように同じセリフを繰り返した。
「迷える魂よ!ようこそ!無限回廊へ。何処までも広がる回廊とあらゆる世界につな……が」
シュッ!ダン!!!
メイド人形が最後まで言い終える前に、わしの短剣がそれの側の壁にささる。勿論それに傷はついていない、ここ回廊部では相手に傷を負わせる行為ができない魂の安全地帯だから。
それでも、わしはそれを睨み威嚇する。
「わし、お前が人形でないことを知っている。他の魂達に戻って教えてやっても良いのだぞ」
「ちっ!」
今まで無表情で口しか動かさなかったメイドが舌打ちをした。
「何よ、あなた古株ね。他の魂に言わないでよ! 営業妨害なんだからね。これだから魂の記憶スキル保持者は嫌いよ」
仕方なくメイドはエプロンのポケットから小さな手帳を取り出して、わしに扉の場所を教えてくれた。
「入口から数えて29294番目の青い扉だな。間違いないだろうな」
「私、仕事の手は抜くけど嘘は言ったことないのが自慢よ。さっさと行きなさい、他の魂に喋っている所を見られたら商売あがったりだわ」
メイドは不満げに、わしを追い払う。
わしは、その行動に呆れながらも目的の場所はわかったので、その場を後にし走り始めた。
今は人型、走る速度は獣型より遅い。もどかしい気持ちをおさえて、ただ前に走る。
回廊を進めば歩行中の魂にも出会う。しかし、それらを全て無視して目的地に遂にたどり着く。
青い扉が並んでいる。どっちの扉だ? とりあえず、手前の扉を叩く。
コンコンコン。
(はい、どーぞ)
扉を開けると部屋から念話が飛んで来る。わしは入口から入らずに単刀直入に聞く。
「ここは地球という海の多い世界の扉か?」
(いいえ違います。ここは南国リゾート風の世界につながる空色の扉の部屋で…)
バタン!
「ちがったか」
わしは直ぐに扉を閉めて隣の扉をノックする。すると中から、今度はきちんと口を使った返事があった。
「はい、次の方とうぞ!」
わしは先程と同じく入口を開けて言った。
「ここは地球という海の多い世界の扉か?」
「はい、ここは地球という海の多い魔法のない世界でコバルトブルーの扉の部屋ですわ」
間違いないここだ。わしは直ぐに部屋に入り転生の相談を始める。
ここの管理人は黒髪の長い女で良く見ると、長いスカートの中から尾びれが見える。人魚の管理人のようだ。
ソファをすすめられ腰を下ろすも小人なので足がブラブラする。
「わし、地球の日本の◯◯◯県の◯◯町に生まれ変わりたい」
必死に要望を話す。管理人は渋い顔をした。
「困ったわ、地球は人間の魂があふれていて、新しい転生は予約制になってまして順番待ちなのですわ」
「わしは人間希望じゃない。犬に生まれ変わりたい。だが地域は限定して欲しい」
必死に管理人の勘違いを正す。
「あらあら、地球を希望する魂は人間希望が定番だから…ごめんなさい。それでも地域を限定すると魂ポイントがかなり高いわよ。払えるかしら?」
わしの今の手持ちでは、とても払えない。それでもポイントを貯めて出直すと言って、その部屋をあとにした。
扉からトボトボと下をうつむいて歩く。また樹海に戻り今度は、もっと沢山狩らないと。
回廊の扉がない方には壁がない。だから目の前には直ぐ森が広がっている。
樹海に足を運ぶのは簡単だ。外に降りればいい。けれど、わしはフラフラと歩きながら考え事をしていた。
あの世と現世の時間の流れは複雑だと聞いたことがある。ハルカの群れと弟分は健在だろうか。
はぁ。
ドン!
「あっ」
「すまない、わし、良く見てなくて」
わしはどうやらフード付きポンチョをかぶった人とぶつかってしまったようだ。
「ああ、大丈夫だよ」
謝ると明るい声がする。前髪が長く顔があまり見えない。中性的な服装の為、性別は分からないが悪い人ではないだろう。そのまま、立ち去ろうとするわしにフードの人は声をかける。
「君、さっき物凄く早く走っていた魂だよね。何か元気がないけど、希望の世界の扉が見つからないの?」
わしは、しょげていた気持ちを整える為に今までの経緯をフードの人に話した。
「わし、地球の群れに早く帰りたい」
目からボタボタと涙があふれる。それを自分の腕でぬぐう。
「ふーん。海の素敵な世界なんだね。その地球って泣くほど帰りたい世界なんだね。うらやましいな~私はね、この無限回廊で生まれ変わりたい世界が見つからないんだよ。残念な事にね」
フードの人が少し悲しそうに言った。その前髪の隙間から多色性の瞳がキラキラと輝き整った顔がチラリと見えた。
きっと、種族は精霊か何かだろう。
「よーし、言い話を聞かせてもらったから、ちょっと手を貸して」
そう言うと フードの人が、わしの両手をつかみ皿のような形にさせる。
「いい? そのまま動かないでね?」
ジャラジャラジャラ。
わしの手のひらに魂のポイントで出来た金貨があふれ出す。
「えっ、これは凄い量の…」
「早く魂に取り込んで落とさないように。あれだよ、あれ、行きたい世界があるんなら、行けば良いんだよ! 帰りたい世界があるなら帰れば良い」
わしはフードの人の善意に甘えた。これでポイントがたりる。 地球に生まれ変われる。
フードの人はニコニコしながら手をあげて、もうその場を去ろうとする。今度は、わしから声をかけて相手を止める。
「ありがとう助かった。これで地球に帰れる。わしマッシュっていう、あなたの名前は?」
恩人の名前を心に刻もうと声をかけたが帰ってきた言葉は。
「ごめんね、ずっーと無限回廊にいたから、忘れちゃった。自分の名前!」
フードの人はその場を立ち去り、もう小さくなってしまった。しかし遠くで何か囁いたのが聞こえた。
「地球か…」
わしはコバルトブルーの扉に直ぐに戻り、転生の契約書に目を通す。
「私、小人さんが直ぐに戻ってきたから驚いたわ。あんな短時間でポイントを用意するなんて…凄いわね」
「たまたま、親切な魂に借りたんだ。今度、死んだ時に会えたら必ず返す。でも、名前が分からないらしい。もう一度出会えるか、どうか…」
わしは観音開きの地球へつながる世界の扉。その前でペンを持つ。
「どんな方なの? 見た目とか種族とか」
「フード付きポンチョで短めのズボンにロングブーツ。顔はフードで良く見えないが中性的で瞳は光の加減で色が変わるようだ。精霊族かと思ったが」
「ふーん。もしかしたら無限回廊の住人って呼ばれてる魂かも何百年も転生しないで、さ迷っているという話を聞いたことあるのよ。魂の放浪者だとか、放浪とか呼ばれてた気かまするわ」
「放浪…、それって名前じゃないような」
「大丈夫よ。魂の放浪者は有名人だし無限回廊にだいたいいるから…とにかく話を戻すわね。転生契約書の内容は理解したかしら。確認だけど犬種は選べないわよ」
「わかった」
わしは書類にサインをし、すると観音開きの扉が静かに開く。光りにつつまれ意識が遠のく。これで、わしは群れにかえれる。
きっと。
ここは地球の日本、◯◯◯県◯◯町のある家庭の様子。
休日に仲の良い家族が庭でバーベキューをしている。そこには老夫婦と若夫婦、幼児と犬。
肉と野菜の香ばしい香りが漂う。子供の側を小さな犬がはしゃいで走り回るので誤って犬の尻尾を子供が踏む。
キャイン、キャイン!!!
可愛い子犬は尻尾を踏まれうずくまる。
「ハルキ!トリフがそばにいる時は気をつけてって言ったじゃないか」
子供は父親に怒られ反省する。子犬は黒いトイプードルでとても小さいから幼児に踏まれても大怪我をする。父親は子犬を優しく抱き上げて心配そうに覗き込む。
「トリフ? 痛かったか、大丈夫か?」
子犬はクューンと小さくなきすり寄る。
ここは?
わし何処にいる?
わしを抱っこしている人間の雄を見ると、何だか見たことがあるような…タケシに似ているが匂いがハルト? ハルトなのか? 大きくなってる。という事は、ここはハルカの群れ?!!
何故か尻尾は物凄く痛いが嬉しい。わし海でハルトを助けて溺れて死んで…そう、わしの前世はマッシュルームのマッシュ! 白い犬だ。
よく分からんが生まれ変わったのか?!
白かった毛がすっかり黒くなっている。まるで炭みたいに。しかも、この体とても小さくて若い。
「トリフ? 平気か?」
大人になった弟分のハルトがわしを心配している。そうか、今世はトリフという名前なのか…。
「わんっ」
わしは可愛く返事をした。
まさか、こんなに小さい犬に生まれ変わるとは、これでは、もう海で溺れているハルトを助けたりできない。ハルカの群れも少し大きくなったようだし。
わしは決意する。
力で護れないなら心を護る。
この小さな愛らしい身体でストレス社会からハルカの群れを癒しで護ろう…わしは、そう魂に誓った。
今どきの無限回廊周辺事情!【管理人のありがちな日々】と同じ世界線です。




